米国議会図書館蔵『源氏物語』 夕顔 ---------------------------------------------------------------------------------- 記号の説明 1.くの字点は/\で表す。 2.和歌は「」で括る。 3.散らし書き和歌の末尾に#を付ける。 4.判読できない文字は■で表す。 本文の修正 1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。 ---------------------------------------------------------------------------------- ゆふかほ (1オ) 六条わたりの御しのひありきのころ内よりまかて給ふ中やとりに 大弐のめのとのいたくわつらひてあまになりにけるとふらはんとて五条 なる家たつねておはしたり御くるまいるへき門はさしたりけれは人して これみつめさせてまたせ給ける程むつかしけなるおほちのさまを見わたし 給へるに此家のかたはらにひかきといふ物あたらしうしてかみははしとみ四五 けんはかりあけわたしてすたれなともいとしろうすゝしけなるにおかしきひたひ つきのすきかけあまた見えてのそくたちさまようらむしたつかた思やるに あなかちにたけたかきこゝ地そするいかなる物のつとへるならんとやうかはりておほ さる御くるまもれいのいたくやつし給へりさきもおはせたまはすたれとか (1ウ) しらんに打とけ給てすこしさしのそき給へれは門はしとみのやうなるを をしあけたる見いれの程なく物はかなきすまひをあはれにいつこかさしてと おもほしなせは玉のうてなもおなし事也きりかけたつ物にいとあをやかなるかつら のこゝちよけにはひかゝれるにしろき花そをのれひとりゑみのまゆひらけたるを をちかた人に物申とひとりたち給ふを心ときみすいしんついてかのしろくさける をなん夕かほと申侍花の名は人めきてかうあやしきしつかかきねにのみなん さき侍けると申けにいとこ家かちにむつかしけなるわたりのこのもかのも あやしきうちよろほひてむね/\しからぬ軒のつまなとにはひまつはれたる をくちおしの花の契りや一ふさおりてまいれとのたまへは此をしあけたる門に (2オ) いりておるさすかにされたるやり戸くちにきなるすゝしのひとへはかまなかく きなしたるわらはのおかしけなる出きて打まねくしろきあふきのいたうこかし たるを是にをきてまいらせよえたもなさけなけなる花なめるをとてとらせ たれは門あけてこれみつのあそん出来たるしてまいらすかきほをきまと はし侍ていとふひむなるわさなりや物のあやめ見給へわくへき人も侍らぬわたり なれとらうかはしきおほちにたちおはしましてとかしこまり申すこしひきいれ ており給ふこれみつかあにの阿さりむこの三河のかみむすめともなとわたりつとひ たりける程にかくおはしましたるよろこひをまたなき事にかしこまりきこゆ あま君もおきあかりておしけなき身なれとすてかたく思ふ給へる事はたゝ (2ウ) かくおまへにさふらひ御らむせらるゝ事のかはり侍なんとくちおしく思ふ給へ たゆたひしかといむ事のしるしにやよみかへりてなんかくわたりおはしますを 見給へ侍ぬれはいまなん阿みた仏の御ひかりも心きよくまたれ侍へき なときこえてよはけになく日ころをこたりかたく物せらるゝをやすから すなけきわたりつるにかく世をはなるゝさまに物し給へはいとあはれに くちおしうなんいのちなかくてなをくらゐたかくなとも見なし給へ さてこそ九しなの数にもさはりなくむまれたまはめ此世にすこし うらみのこるはわろきわさとなんきくなと涙くみてのたまふ かたをなるをたにめのとなとやうの思ふへき人はあさましうまほに (3オ) 見なす物をましていとおもたゝしうなつさひつかうまつりけん身もいた はしうかたしけなくおほゆへかめれはすゝろに涙かち也こともはいと見 くるしと思てそむきぬる世のさりかたきやうに身つからひそみ御らん せられ給ふとつきしろひめくはす君はいとあはれとおもほしていはけなかり ける程に思ふへき人々の打すてゝ物し給にけるなこりはくゝむ へき人はあまたあるやうなりしかとしたしく思むつふるすちはまた なくなんおほえし人となりて後はかきりあれはあさ夕にしもえみ たてまつらす心のまゝにとふらひまうつる事はなけれとなをひさしう たひめんせぬ時は心ほそくおほゆるをさらぬわかれはなくもかなとなんなと (3ウ) こまやかにかたらひ給てをしのこひ給へる御袖のにほひもいとところ せきまてかほりみちたるにけにおもへはをしなへたらぬ人のすく世そかしと あま君をもとかしと見つる子ともみな打しほたれけりすほうなと又々はしむ へき事なとをきてのたまはせて出給ふとてこれみつにしそくめしてありつる あふき御らんすれはもてならしたるうつり香いとしみふかうなつかしうて おかしうすさひかきたり     「こゝろあてにそれかとそみるしら露のひかりそへたる 夕かほの花」とてそこはかとなくかきまきらはしたるもあてはかに ゆへつきたれはいと思のほかにおかしうおほえ給ふこれみつに此にしなる (4オ) 家はなに人のすむそとひきゝたりやとのたまへはれいのうるさき御心 とはおもへともさはえ申さて此五六日こゝに侍れとはうさの事を思 給へあつかひ侍ほとにとなりの事はえきゝ侍らすなとはしたなやかに 聞ゆれはにくしとこそ思たなれなされと此あふきのたつぬへきゆへあり てみゆるをなを此わたりの心しれらん物をめしてとへとのたまへはいりて 此宿もりなるをのこをよひてとひきくやうめいのすけなる人の家に なん侍けるおとこはゐ中にまかりて女なとわかく事このみてはらから なと宮つかへ人にてまうてきかよふと申くはしき事はしも人のみしり 侍らぬにやあらんと聞ゆさらはその宮つかへ人ななりしたりかほに物 (4ウ) なれてもいへるかなとめさましかるへききはにやあらんとおほせと さしてきこえかゝれる心のにくからすすくしかたきそれいのこのかたには をもからぬ御心なめりかし御たゝうかみにいたうあらぬさまにかきかへ給て     「おりてこそそれかとも見めたそかれにほの/\見つる 花のゆふかほ」ありつるみすいしんしてつかはすまた御さまなりけれと いとしるく思あてられ給へる御そはめを見すくされてさしお とろかしけるをいらへたまはて程へけれはなまはしたなきに かくわさとめかしけれはあまへていかにきこえんなといひ しろうへかめれとめさましと思てみすいしんまいりぬ (5オ) 御さきのこゑほのかにていとしのひて出給ふはしとみはおろして けりひま/\よりみゆる火のひかりそほたるよりけにほのかにあは れなり御こゝろさしのところにはこたちせんさいなとなへてのところに 似すいとのとかに心にくゝすみなし給へり打とけぬ御ありさまなとの気しき ことなるにありつるかきねおほし出らるへくもあらすかしつとめてすこしねす くし給て日さし出る程に出給ふあさけの御すかたはけに人のめてき こえんもことはりなる御さまなりけりけふも此しとみのまへわたりしたまふ きしかたもすきたまひけんわたりなれとたゝはかなき一ふしに御心 とまりていかなる人のすみかならんとはゆきゝに御めとまりたまひけり (5ウ) これみつか日ころ心ありてまいれりわつらひ侍し人なをよはけに 侍れはとかく見給ふあつかひてなんなときこえてちかくまいり聞ゆ おほせられし後なんとなりの事しりて侍るものよひてとはせ侍し かとはか/\しくも申侍らすいとしのひて五月のころをひより物し給ふ 人なんあるへけれとその人とはさらに家のうちの人にたにしらせす となん申とき/\中かきのかひま見し侍るにけにわかき女ともの すきかけ見侍しかたひらたつ物かことはかりひきかけてなとしもてかし つく人侍なめりきのふ夕日のなこりなくさし入て侍しに御文かく とてゐて侍し人のかほこそいとよく侍しか物おもへる気はひして (6オ) ある人々もしのひて打なくさまなとなんしるく見え侍と聞ゆ君打ゑみ給 てしらはやとおもほしたりおほえこそをもかるへき程の御身の程なれと御よはひ の程人のなひきめてきこえたるさまなと思ふにはすきたまはすさらんもなさけ なくさう/\しかるへしかし人のうけひかぬ身の程にてたになをさりぬへき あたりの事はこのましうおほゆる物をと思をりもし見給へうる事もや侍ると はかなきついてつくり出てせうそこなとつかはしたりきかきなれたるてして くちとく返事なとし侍きをもいとくちおしうはあらぬわか人ともなん侍めりと 聞ゆれはなをいひよれたつねきかてはさう/\しかりなんとのたまふかのしもか しもと人の思すてしすまひなれとその中にも思のほかにくちおしからぬを見つけ (6ウ) たらはとめつらしくおもほすなりけりさてかのうつせみのあさましくつれなきを此世 の人にはたかひておもほすにおひらかならましかは心くるしきあやまちもやみぬ へきをいとねたくまけてやみなんを心にかゝらぬおりなしかやうのなみ/\とては おもほしかゝらさりつるをありし雨夜のしなさための後いふかしくおもほしなるしな/\ あるにいとゝくまなくなりぬる御心なめりかしうらもなくまちきこえかほなるかたつ かた人をあはれとおほさぬにしもあらねとつれなくてきゝゐたらん事のはつかし けれはまつこなたの心見はてゝとおほす程にいよのすけのほりぬまついそきま いれりふなみちのしわさとてすこしくろみやつれたるたひすかたいとふくらか に心つきなしされと人の程いやしからぬすちにてかたちなともねひたれときよ (7オ) けにてたゝならすけしきよしつきてなとそありけるくにの物かたりなと申に ゆけたはいくたつととはまほしくおほせとあひなくまはゆくて御心のうちにおほし 出る事もさま/\也物まめやかなるおとなをかく思ふもけにをこかましくうしろめた きわさなりやけに是そなのめならぬかたはなへかりけるとむまのかみのいさめお ほし出ていとおしきにつれなき心はねたけれと人のためはあはれとおほしなさるむすめ をはさるへき人につけてきたのかたをはいてくたりぬへしときゝ給ふに一かたならす 心あはたゝしくていま一たひのたいめんはえあるましき事にやと小君をかたらい 給へと人の心をあはせたらん事にてたにかろらかにえしもまきれ給ふましきをまして いとにけなき事に思ひていまさらに見くるしかるへしと思はなれたりさすかに (7ウ) たえておほしわすれなん事もいといふかひなくうかるへき事に思てさるへき おり/\の御いらへなとなつかしくきこえつゝなけの筆つかひにつけたることの葉 もあやしくらうたけに目とまるへきふしくはへなとしてあはれとおほしぬへき 人のけはひなれはつれなくねたき物のわすれかたきにおほすいま一たひは ぬしつよくなるともかならす打とけぬへく見えしさまなるをたのみにてとかく きゝ給へと御心もうこかすそありける秋にもなりぬ人やりならぬ心つくしにおほし みたるゝ事ともありて大殿にはたえまをきつゝうらめしくのみ思 きこえ給へり六条わたりもとけかたかりしに御気しきをしも ふけきこえ給て後ひきかへしたとへしならんはいとおしかるへし (8オ) されとよそなりし御心まとひのやうにあなかちなる事はなきもいか なる事にかと見えたり女はいとものをあまりなるまておほししめたる 御心さまにてよはひの程もにけなく人のもりきかんにいとゝかく つらき御夜かれのねさめ/\おほししらるゝ事いとさま/\也霧の いとふかきあしたにいたくそゝのかされ給てねふたけなるけしきに 打なけきつゝ出給ふを中将のおもとみかうしひとまあけて見たて まつりをくり給へとおほしくてみきちやうひきやりたれは御くし もたけて見いたし給へりせんさいの色々にみたれたるをすきかてに やすらひ給へるさまけにたくひなしらうのかたへおはするに中将の (8ウ) 君御もとにまいるしをん色のおりにあひたるうす物の裳あさ やかにひきゆひたるこしつきたをやかになまめきたり見かへり 給てすみのまのかうらんにしはしひきすへ給へり打とけたら ぬもてなしかみのさかりはめさましくもと見給ふ     「さく花にうつるてふ名はつゝめともおらてすきうき けさのあさかほ」いかゝすへきとて手をとらへ給へれはいとなれてとく     「あさ霧のはれまもまたぬ気しきにて花にこゝろを とめぬとそみる」とおほやけ事にそきこえなすすかたおかしけなる さふらへわらはのこのましうことさらめきたるさしぬきのすそ露 (9オ) けきに花の中にましりてあさかほおりてもてまいる程なとゑにかゝ まほしけ也大かたに打見たてまつる人たに心とめたてまつりたまはぬ はなし物のなさけもしらぬ山かつもなを花のかけにはやすらまほし きにや此ひかりを見たてまつりたるは程に/\つけてわかゝなしとおもふ むすめをつかうまつらせはやとねかひもしはくちおしからすとおもふ いもうとなともたる人はいやしきしなにてもなを此御あたりにさふら はせんと思よらぬはなかりけりましてさりぬへきついての御ことの葉もなつ かしき御気しきを見たてまつる人のすこしも物の心おもひしるはいかゝは をろかに思きこえむあけ暮打さけてしもおはせぬを心もとなき (9ウ) ことに思ふへかめりまことやかの此これみつかあつかりのかひま見はいとよく あなひ見とりて申その人とはさらにえ思え侍らす人にいみしくかくれ しのふる気しきになん見え侍をつれ/\なるまゝにみなみのはしとみある中 屋にわたりきつゝくるまのをとすれはわかき物ともののそきなとすへかめるに このしうとおほしきもそひわたる時侍かめるかたちなんほのかなれと いとらうたけに侍ひとひさきをひてわたるくるまの侍しをのそきて わらはへのなれたるいそきゝて右近の君こそまつ物見給へ中将殿こそ 是よりわたり給ぬれといへは又よろしきおとな出きてあなかま とてかく物からいかてさはしるそいてみんとてはひわたりうちはし (10オ) たつ物をみちにてかよひ侍いそきくる物はきぬのすそを物にひきかけて よろほひたはれてはしよりもおちぬへけれはいて此かつら木の神こそさかしう しをきたれとむつかりて物のそきの心もさめぬめり君は御なをしすかた にてみすいしんともゝありしなにかしめれかしとかすへしは頭中将のすいしん そのことねりわらはをなんしるしにいひ侍しなときこゆれはたしかにその くるまを見ましとのたまひてもしかのあはれにわすれさりし人にやとお ほしよりしにいとゝしうしらまほしけなる御気しきを見てわたくしのけさう もいとよくしをきて侍りあないもいとよくのこるところなく見たまひをき なからたゝ我とちとしらせて物なといふわかきおもとの侍をそらおほれ (10ウ) してなんかくれまかりありくいとよくかくしすへたりと思ひてちい さき子ともなとの侍かことあやまりしつへきもいひまきらはして又人 なきさまをしゐてつくり侍なとかたりてわらふあま君のとふらひ に物せんついてにかひま見せさせよとのたまひけりかりにてもやと れるすまひの思ふに是こそはかの人のさためあなつりししもの しなならめ世の中に思のほかにおかしき事もあらはなとおほすなり けりこれみついさゝかの事も御心にたかはしと思ふにをのれもくまなき すき心にていみしくたはかり給ありきつゝしのひておはしませはめて けりその程の事れいのくた/\しけれはれいのもらしつ女もさして (11オ) その人とたつね出たまはねは我もなのりをしたまはていとわりなくや つれ給つゝれいならすおりたちありき給へはをろかにおほされぬなるへしと 見れはこれみつ我むまをはたてまつりて御ともにはしりありくけさう人 のいと物けなきあしもとを見つけられて侍らん時からくもあるへきかな なとわふれと又人にしらせたまはぬまゝにかの夕かほのしるへせしすいしん はかりさてはかほむけに見しるましきわらはひとりはかりそひておはし ける思よる気しきもやとてとなりに中やとりをたにえしたまはす女も いとあやしく心えぬこゝちのみして御つかひに人をそへあかつきの みちをうかゝはせ御ありか見せんとたつぬれとそこはかとなくまとはし (11ウ) つゝさすかにいとあはれに見てはえあるましく此人の御心にかゝりたれはひん なくかろ/\しき事ともおもほしかへしわひつゝおはしますかゝるすちはとめ 人のみたるゝおりもあるをいとめやすくしつめ給て人のとかめ聞ゆへきふる まひはしたまはさりつるをあやしきまてけさの程ひるまのへたてもお ほつかなくなと思わつらはれ給へはかつはいと物くるほしくさまて心とゝむへきことの さまにもあらすといみしく思さまし給ふに人のけはひいとあさましくやはら かにおほときて物ふかくをもきかたはをくれてひたふるにわかひたるこゝ地し たる物から世をまたしらぬにもあらすいとやむことなきにはある ましいつこにいとかうしもとまる心そと返々もおほすいとこと (12オ) さらめきて御さうそくをもやつれたりかりの御そをたてまつり さまをかへかほをもほの見せたまはす夜ふかき程に人をしつめて 出入なとし給へはむかしありけん物のへんけめきてうたて思なけかる れと人の御ありさまけはひはた手さくりにもしるきわさなりけれは たれはかりにかはあらんなを此すき物のしいてわさなめりとたいふを うたかひなからせめてつれなくしらすかほにてかけて思よらぬさま にたゆますあされありけはいかなる事にかと心えかたく女かたもあや しうやうたかひたる物おもひをなんしける君もかくうらなくたゆま てはひかくれなはいつくをはかりとか我もたつねんかりそめのかくれかと (12ウ) はた見ゆそれはいつかたにも/\うつろひゆかん日をいつともしらしと おほすにほいまとはしてなのめに思なしつへくはたゝかはかりのすまひ にてもすきぬへき事をさらにさてすくしてんともおほされす人めを おほしてへたてをき給ふ夜な/\なとはいとしのひかたくくるしきまて おもほえ給へはなを誰となくて二条院にむかへてんもしきこえありて ひんなかるへきかたなりともさるへきにこそは我心なからいとかく人に しむ事はなきをいかなる契にかはありけんなとおもほしよるいさいと心やすき ところにてのとかにきこえむなとかたらひ給へはなをあやしうかくのたまへと につかぬ御もてなしにいと物おそろしくこそあれといとわかひていへはけにと (13オ) ほゝゑまれ給てけにいつれかきつねなるらんなたゝたはかられ給へかし となつかしけにのたまへはをんなもいみしうなひきてさもありぬへく思ひ たりよになくかたはなりともひたふるにしたかふ心はいとあはれけなる 人と見給ふになをかの頭中将のとこなつうたかはしくかたりし心さままつ 思出られ給へとしのふるやうこそはとおほせはあなかちにもとひ出たまはす 気しきはみてふとそむきかくるへき心さまなとはなけれは我かれ/\に とたえをかんおりこそはさやうに思かはる事もあらめ心なからもすこしうつ ろふ事のあらんこそあはれなるへけれとさへおほしけり八月十五夜ことにくま なき月かけひまおほかるいた屋のこりなくもりきて見ならひたまはぬ (13ウ) すまひさまもめつらしきにあか月ちかくなりにけるなるへしとなりの家々 あやしきしつのこゑ/\目さましてあはれいとさむしやことしこそなり はひにもたのむところすくなくゐ中のかよひも思かけねは心ほそけれ きた殿こそ聞給ふやなといひかはすも聞ゆいとあはれけなるをのか しゝのいとなみにおき出そゝめきさはくも程なきを女はいとはつかしく思たり えむたち気しきはまむ人はきえもいりぬへき御すまゐのさまめりかしされと のとかにつらきもうきもかたはらいたき事も思いれたるさまならてわかもてなし ありさまはいとあてはかにこめかしくてまたなくらかはしきとなりのようゐ なきをいかなる事とも聞しりたるさまならねは中々はちかゝやかんよりはつみゆる (14オ) されてそ見えけるこほ/\となる神よりもおとろ/\しくふみとゝろかすから うすのをともまくらかみとおほゆるあなみゝかしましと是にそむつかしうおほさ るゝなにのひゝきとも聞いれたまはすいとあやしう目さましきをとなひと のみ聞給ふくた/\しき事のみおほかりしろたへのころもうつきぬたのをとも さすかにこなたかなたに聞わたされ空とふ鴈のこゑなともとりあつめてし のひかたき事おほかりはしちかきおましところなりけれはやり戸をひきあけ てもろともに見いたし給ふ程なき庭にされたるくれ竹せんさいの露はなを かゝるところもおなし事にさゝめきわたりむしのこゑ/\みたりかはしくかへの中のきり/\す たにまとをに聞ならひ給へるを御みゝにさしあてたるやうになきみたるゝを中々 (14ウ) さまかへておかしとのみおほさるゝも御心さしひとつのあさからぬによろつのつみ ゆるさるゝなめりかししろきあはせにうす色のなよらかなるをかさねて花やか ならぬすかたいとらうたけにあへかるこゝちしてそことゝまりたてすくれたる事も なけれとほそやかにたを/\として物打いひたるけはひあな心くるしとたゝいと らうたくみゆ心はみたるかたをすこしそへたらはと見給なからなを打とけて 見まほしくおほさるれはいさたゝ此わたりちかきところに心やすくて夜を あかさんかくてのみはいとくるしかりけりとのたまへはいかてかにはかならんといと おひらかにいひてゐたり此世のみならぬ契なとまてたのめ給ふに打とくる 心はへなとあやしくやうかはりてよなれたる人ともおほえねは人のおもはむ (15オ) ところもえはゝかりたまはてうこんをめし出てすいしんをめさせ給て御くる まひき入させ給ふこのある人ともゝかゝる御心さしのをろかならぬをみしれは おほめかしなからたのみかけ/\きこえたり明かたもちかうなりにけり鳥のこゑ なときこえてみたけさうしにやあらんたゝおきなひたるこゑにぬかつくそ 聞ゆるたちゐのけはひたへかたけにをこなふいとあはれにあしたの露かこ とならぬ世をなにをむさふる身のいのりにかと聞給なんもたうらひ たうしこそおかむなるかのきゝ給へこの世とのみはおもはさりけりとあはれ かりたまひて     「うはそくかをこなふみちをしるへにてこむ世もふかき (15ウ) 契りたかふな」長生殿のふるきためしはゆゝしくてはねをかはさんとは ひきかへてみろくのよをかね給ふ行さきの御たのめいとこちたし     「さきの世の契りしらるゝ身のうさにゆくすゑかねて たのみかたさよ」かやうのすちなともさるは心もとなかめりいさよふ月にゆく りなくあくかれん事を女は思やすらひとかくのたまふ程ににはかに雲かくれ て明ゆく空いとおかしはしたなき程にならぬさきにとれいのいそきいて 給ていとかろらかに打のせ給へれは右近そのりぬるそのわたりちかきなに かしの院におはしましつきてあつかりめし出る程おほきにあれたる門に しのふ草しけりあひて見あけられたるたとしへなくこくらし霧もふ (16オ) かく露けきにすたれをさへあけ給へれは御袖もいたくぬれにけりまたかやう なる事をならはさりつるを心つくしなる事にもありけるかな     「いにしへもかくやは人のまとひけんわかまたしらぬ しのゝめのみち」ならひ給へるやとのたまふ女はちしらひて     「山のはのこゝろもしらてゆく月はうはの空にて かけやたえなん」女心ほそうして物おそろしうすこけに思たれ はかのさしつとへたるすまゐのならひならんとおかしくおほす御くる まいれさせてにしのたいにおましなとよそふ程かうらむに御くる まひきかけてたち給へりうこんえんなるこゝ地してきしかたの (16ウ) ことなとも人しれす思ひ出けりあつかりいみしくけいめひし ありく気しきにて此御ありさまはしりはてぬほの/\と物見ゆる さまにをりたまひぬめりかりそめなれときよけにしつらひたり御とも に人もさふらはさりけりいとふひんなるわさかなとてむつましきしも けいしにてとのにもつかまつる物也けれはまいりよりてさるへきことや なと申さすれはことさらに人くましきかくれかもとめたる也さらに 心よりほかにもらすなとくちかためさせ給ふ御かゆなといそきまいらせた れととりつく御まかなひ打あはすまたしらぬことなる御たひねにおき なかゝらはと契り給ふ事よりほかのことなし日たくる程におき給て (17オ) いといたくあひて人目もなくはる/\と見わたされてこたちいとう とましく物ふりたり気ちかき草木なとは見ところなくみな秋の 野にて池もみ草にうつもれたれはいと気うとけになりにけるところ かなへちなうのかたにそさうしなとして人すむへかめれとこなたははな れたりけうとくもなりにけるところかなさりともおになとも我をは 見ゆるしてんとのたまふかほはなをかくし給へれと女のいとつらしとおもへれは けにかはかりにてへたてあらんもことのさまにたかひたりとおほして     「夕露にひもとく花はたまほこのたよりに見えし えにこそありけれ」露のひかりやいかにとのたまへはしりめに見をこせて (17ウ)     「ひかりありと見し夕かほのうは露はたそかれときの そら目なりけり」とほのかにいふはおかしとおほしなすけに打とけ給へるさま よになくところからまひてゆゝしきまて見え給ふつきせすへたて 給へるつらさにあらはさしとおもへる物をいまたになのりし給へいつむく つけしとのたまへとあまの子なれはとてさすかに打とけぬさまいとあひ たれたりよし是も我からなりとうらみかつはかたらひくらし給ふ これみつたつねきこえて御くた物なとまいらす右近かいはんことのさす かにいとおしけれはちかくもえさふらひよらすかくまてたとりありき給ふ をおかしうさもありぬへきありさまにこそはとをしはからるゝにも我はと (18オ) よく思よりぬへかりし事をゆつりきこえて心ひろさよなと目さましう 思けるたとしへなくしつかなるゆふへの空をなかめ給ておくのかたは くらう物むつかしと女は思たれははしのすたれをあけてそひふし給へり 夕はへを見かはしてをんなもかゝるありさまを思のほかにあやしきこゝちは しなからよろつのなけきわすれてすこし打とけゆくけしき いとらうたしつと御かたはらにそひくらして物をいとおそろし と思たるさまわかう心くるし御かうしとくおろし給て御となふら まいらせてなこりなくなれわたる御ありさまにてなを心のうち のへたてのこし給へるなんつらきとうらみ給ふうちにいかに (18ウ) もとめさせ給ふらんをいつこにたつぬらんとかつはおほしやりてかつは あやしの心や六条わたりにもいかに思みたれ給ふ覧うらみられんに くるしうことはりなりといとおしきすちはまつ思きこえ給ふなに心も なきさしむかひをあはれとおほすまゝにあまり心ふかく見る人も心 くるしき御もてなしをすこしとりすてはやと思くらへられ給ける よゐすくる程にすこしね入給へるに御まくらかみのかたにいとおかしけなる 女いてをのかいとめてたしと見たてまつるをはたつねおもほさてかくことなる ことなき人をいておはしてときめかし給ふこそいとめさましくつらけれとて 此御かたはらの人をひきおこさんとすと見給て物にをそはるゝこゝ地 (19オ) しておとろき給へれは火もきえにけりうたておほさるれはたちをひきぬきて 打をき給ふ是もおそろしと思たるさまにてまいりよれりわた殿なるとのゐ 人おこしてしそくさしてまいれといへとのたまへはいかてかまからむ くらうてといへはあなわか/\しと打わらひ給て御手をたゝき給へは 山ひこのこたふるこゑいとうとまし人えきゝつけてまいらぬに此女君 いみしくわなゝき給ていかさまにせんとおもへりあせもしとゝになりてわれかの 気しき也物をちをなんわりなくせさせ本上にていかにおほせらるゝにかと右近 も聞ゆいとかよはくてひるも空をのみ見つる物をいとおしとおほしてわれ人 をおこさん手たゝけは山ひこのこたふるいとうるさしこゝにしはしちかくとて (19ウ) うこんをひきよせ給てにしのつま戸に出て戸ををしあけ給へれはわた殿の 火もきえにけり風すこし打吹たるに人はすくなくてさふらふかきりみなね たり此院のあつかりのこむつましうつかひ給ふわかきをのこのこまたうへわらは ひとりれいのすいしんはかりそありけるめせは御こたへしておきたれはしそく さしてまいれすいしんもつるうちしてたえすこはつくれとおほせよ人 はなれたるところに心とけていぬる物かなこれみつのあそんのきたりつらんはと とはせ給へはさふらひつれとおほせこともなしあか月に御むかへにまいるへきよし申て なんまかて侍ぬると聞ゆこのかう申物はたきくちなりけれはゆつるいと つき/\しく打ならして火あやうしといふ/\あつかりかさうしのかたにいぬ也内をおほし (20オ) やりてなたいめんはすきぬらんたきくちのとのゐ申はいまこそとをしはかり 給ふはまたいたうふけぬにこそはかへりいり給てさくり給へは女君はさなから ふしてうこんはかたはらにうつふし/\たりこはなそあな物くるをしの物をちや あれたるところはきつねなとやうの物の人をひやかさんとて気おそろしう おもはするならんまろあれはさやうの物にはよもおとろかされしとてひき おこし給ふいとうたてみたりこゝ地のあしう侍れはうつふしふして侍やおまへ にこそわりなくおほさるらめといへはそよなとかうはとてかひさくり給ふに いきもせすひきうこかし給へとなよ/\として我にもあらぬさまなれは いといたくわかひたる人にて物に気とられぬるなめりとせんかたなきこゝ地 (20ウ) し給ふからうしてしそくもてまいれりうこんもうこくへきさまにも あらねはちかきみきちやうをひきよせてなをこゝにもてまいれとのたまふ れいならはぬ事にておまへちかくもえまいらぬつゝましさになけしにもえのほらす なをもてこやところにしたかひてこそとてめしよせて見給へはたゝ此まくら かみに夢に見えつるかたちしたる女おもかけに見えてふときえうせぬむかし 物かたりなとにこそかゝる事はきけはいとめつらかにむくつけけれとまつこの 人いかになりぬるそとおもほす心さはきに身のうへもしられたまはすそひ ふしてやゝとおとろかし給へとたゝひとへにひえいりていきはとくたえはてに けりいはんやかたなしたのもしくいかにといひふれ給ふへき人もなしほうしなとこそは (21オ) かゝるかたのたのもしき物にはおほすへけれとさこそ心つよかり給へとわかき御 心にていふかひなくなりぬるを見給ふにやるかたなくてつといき給てあか君いき 出給へいといみしきめな見せ給そとのたまへとひえ入にけるなれはけはひ物う とくなりゆく右近はたゝあなむつかしと思けるこゝ地みなさめてなきまとふさま いといみしなんてんのおにのなにかしのおとゝををひやかしけるたとひをおほし 出て心つよくさりともいたつらにはなりはてたまはしよるのこゑはいとおそろ/\し あなかまといさめ給ていとあはたゝしきにあきれたるこゝ地し給ふこのおとこを めしてこゝにいとあやしう物にをそはれたる人のなやましけなるをたゝいまこれ みつのあそんのやとるところにまかりていそきまいるへきよししのひていへ (21ウ) かのあま君なとのきかんにおとろ/\しくいふなかゝるありきゆるさぬ人なりなと 物のたまふやうなれとむねはつとふたかりて此人をむなしくなしてんことの いみしくおほさるゝにそへて大かたのけはひのむへ/\しさたとへんかたなし 夜中もすきにけんかし風のやゝあら/\しう吹たるまして松のひゝきも木 ふかくきこえて気しきある鳥のからこゑになきたるもふくろうはこれに やとおほゆうち思めくらすにこなたかなた気とをくうとましきに人こゑ はせすなとてかくはかなきやとりはとりつるそくやしさもやらんかたなし うこんは物もおほえす君につとそひたてまつりてわなゝきしぬへし 又是もいかならんと心空にてとらへ給へり我ひとりさかしき人にておほし (22オ) やるかたそなきや火はほのかにまたゝきてもやのきはにたてたる 屏風のかみこゝかしこのくらかりてくま/\しくおほえ給ふ又物のあしをと ひし/\とふみならしつゝうしろよりよりくるこゝちすこれみつたゝ とくまいらなんとおほすありかさためぬ物にてこゝかしこたつねける 程に夜のあくるほしのひさしさは千とせをすくさんこゝ地し給ふ からうして鳥のこゑはかり聞ゆるにいのちをかけてなにの契りにかゝる めを見るらんわか心なからかゝるすちにおほけなくあさましきこゝちの むくひにかくきしかた行さきのためしとなりぬへき事はあるなめりしのふ とも世にある事かくれなくて内にきこしめさんをはしめて人の思ひ (22ウ) いはん事よからぬわらはへのくちすさひになるへきなめりあり/\てをこ かましき名をとるへきかなとおほしめくらすからうしてこれみつのあ そんまいれり夜中あかつきといはす御心にしたかへる物のこよひしもさふら はてめしにさへをこたりたるをにくしとおほす物からめしいれてのた まひいてん事のあへなきにふと物もいはれたまはす右近此大夫の気は ひきくにはしめよりの事打おもひ出られてなくを君もえたへたまはて 我ひとりさかしかりいたきもち給へりけるよ此人にいきをのへ給てそ かなしき事もおほされけるとはかりいといたくえもとゝめすなきたまふ やゝためらひてこゝにいとあやしき事のあるをあさましといふにもあまりて (23オ) なんあるかゝるとみの事にはす性なとをこそすなれとてその事ともせさせん 願なともたてさせんとて阿さり物せよといひやりつるはとのたまふに きのふ山へまかりのほりにけりまついとめつらかなる事にも侍かなかねて れいならす御こゝち物せさせ給ふ事や侍つらんさる事もなかりつと なき給ふさまいとおかしけにらうたく見たてまつる人もいとかなし くてをのれもよゝとなきぬさはいへと年うちねひ世中のことある 事もしほしみぬる人こそ物のおりふしはたのもしかりけれいつ れも/\わかきうちにていはんかたもなけれと此院もりなとにも きかせん事はいとひんなかるへし此人ひとりこそむつましくもあらめ (23ウ) をのつから物いひもらしつへきくゑくもたちましりたらんまつ此 院を出おはしましねといふさて是より人すくなゝるところはいかてか あらんとのたまふけにさそ侍らんかのふる里は女房なとのかなしひに たへすなきまとひ侍らんにとなりしけくとかむる里人おほく侍らん にをのつからきこえ侍らん山てらこそなをかやうの事をのつからゆき ましり物まきるゝ事侍らめと思まはしてむかし見給ふへし女房のあま にて侍るひんかし山へんにうつしたてまつらんこれみつかちゝのあそんの めのとにて侍し物のみつわくみてすみ侍也あたりは人しけきやうに侍と きこえて明はなるゝ程のまきれに御くるまよす此人をえいたきたまふ (24オ) ましけれはうはむしろにをしくゝみてこれみつのせたてまつるいとさゝやか にてうとましけもなくらうたけ也したゝかにしもえせねはかみはこほれ出 たるもめくれ給てあさましうかなしとおほせはなりはてんさまを見むとおほ せとはや御むまにて二条院へおはしまさん人さはかしくなり侍らぬ程に とて右近をそへてくるまにのすれはかちより君にむまはたてまつりてくゝり ひきあけなとしてかつはいとあやしくおほえぬをくりなれと御気しきの いみしきを見たてまつれは身をすてゝゆくに君は物もおほえたまはす われかのさまにておはしつきたり人々いつこよりおはしますにかなやまし けに見えさせ給ふなといへと御ちやうのうちに入給て御心ををさへて (24ウ) 思ふにいといみしけれはなとてのりそひていかさりつらんいきかへりたらん 時いかなるこゝちせん見すてゝいきわかれにけりとつらくやおもはんと御 心まとひの中にもおもほすに御むねせきあくるこゝ地し給ふ御くしもいたく身 あつきこゝちしていとくるしくまとはれ給へはかくはかなくて我もいたつらに なりぬるなめりとおほす日たかくなれとおきあかりたまはねは人々あやし かりて御かゆなとそゝのかし聞ゆれとくるしくていと心ほそくおほさるゝに 内よりも御つかひありきのふはえたつね出たてまつらさりしおほつかなからせ 給て大殿のきんたちなとまいり給へと頭中将はかりを立なからこなたに いり給へとのたまひてみすのうちなからのたまふめのとにて侍る物の此五月 (25オ) のころをひよりをもくわつらひ侍しかかしらそりいむ事うけなとしてその しるしにやよみかへりしを此ころよはくなんなりにたるいま一たひとふらい 見よと申たりしかはいそきなきよりなつさひし物のいまはのきさみに つらしとや思ふらんと思給へてまかれりしにその家なりける下すの やまひしけるかにはかに出あへてなくなりにけるををちはゝかりて日をくらし てなんとり出侍けるをきゝつけ侍しかは神事なるころはいとふひんなる事と 思ふ給へはかしこまりてえまいらぬ也此あかつきよりしはふきやみにや侍らん かしらいといたくてくるしく侍れはいとむらいにて聞ゆる事なと のたまふ頭中将さらはさるよしをこそそうし侍らめよへも御あそひ (25ウ) にかしこくもとめたてまつらせ給て御気しきあしく侍るときこえ 給て立かへりいかなる御いきふれにかゝらせ給ふそやのへやらせ給ふ 事こそまことゝ思ふ給へられねといふにまつむねつふれ給てかくこまかに はあらてたゝおほえぬけからひにふれたるよしをそうし給へいとこそ たひ/\しう侍とつれなくのたまへと心のうちにはいふかひなくかなしき 事をおほすに御こゝちもなやましけれは人にめも見あはせたまはす くら人の弁をめしよせてまめやかにかゝるよしをそうせさせ給ふ大殿 なとにしもかゝる事ありてえまいらぬ御せうそこなときこえ給ふ日暮 てこれみつまいれりかゝるけからひありとのたまひてまいる人々も (26オ) みな立なからまかつれは人目しけからぬにめしよせていかにそいまはと見は てつやとのたまふに袖を御かほにをしあてゝなき給ふこれみつもなをいま はかきりにこそは物し給けれなか/\とこもり侍らんもひんなきをあす なん日よろしく侍れはとかくの事いとたうとき老僧のあひしりて 侍にいひかたらひつけ侍ぬると聞ゆそひたりつる女はいかにととひ給へは それなん又え出ましく侍める我もをくれしとまとひ侍りてけさはたにゝ をちいぬとなん見給へるなかのふる里人につけやらんと申せとしはし 思しつめよことのさま思めくらしてとなんこしらへをき侍つるとかたり 聞ゆるまゝにいといみしとおほして我もいとこゝちなやましくいかなる (26ウ) へきにかとなんおほゆるとのたまふなにかさらにおもほし物せさせた まはさるへきにこそよろつの事は侍らめ人にももらさしと思ふ給へ れはこれみつおりたちてよろつは物し侍なと申さかしさみな思ひ なせとうかひたる心のすさひに人をいたつらになしつる事おひぬへき かいとからき也せうしやうのみやう婦なとにもきかすなあま君まし てかやうの事なといさめらるゝを心はつかしくなんおほゆへきとくちかた め給ふさらぬほうしはらなとにもみないひなすさまことに侍と聞ゆるにそ かゝり給へるほのきく女房なとあやしく何事ならんけからひのよしのたま ひてうちにもまいりたまはす又かくさゝめきなけき給ふとほの/\あやし (27オ) かるさらにことなくしなせとその程のさほうのたまへとなにか こと/\しくすへきにも侍らすとてたつかなをいとかなしくおほさる れはひんなしとおもへれといま一たひかのなきからをも見さらんか いといふせかるへきをむまにて物せんとのたまふをいとたひ/\しき 事とはおもへとさおほさんはいかゝせんはやおはしまして夜のふけぬさき にかへらせおはしませと申せは此ころの御やつれにまうけ給へるかりの御 さうそくきかへなとして出給ふ御こゝちかきくらしいみしくたへかたけれは かくあやしきみちに出たちてもあやうかりし物なこりにいかにせん とおほしわつらへとなをかなしさのやるかたなくたゝいまのからを (27ウ) 見ては又いつの世にかありしかたちをも見むとおほしねんしてれいのたいふ すいしんをくして出給ふみちやとをくおほす十七日の月やう/\さし出て かはらの程御さきの火もほのかなるに鳥へ野のかたなと見やりたる程いと 物むつかしきになにともおほえたまはすかきみたるこゝちし給ておはし つきぬあたりさへすこきにいた屋のかたはらにこたうたてゝをこなへる あまのすまゐさへいとあはれ也みあかしのかけほのかにすきてみゆその 屋には女ひとりなくこゑのみしてとのかたにほうしはらの二三人物かたり しつゝわさとのこゑたてぬ念仏をそするてらのそやもみなをこなひは てゝいとしめやか也きよみつのかたそひかりおほく見え人のけはひもしけ (28オ) かりける此あま君の子なるたいとこのこゑたうとくて経打よみたる に涙ののこりなくおほさるいり給ふつれはひとりそむけて右近は屏風 へたてゝふしたりいかにわひしからんと見給ふおそろしけさもおほえたまはす いとらうたけなるさましてまたいさゝかかはりたるところもなし手をとらへて 我にいま一たひこゑをたにきかせ給へいかなるむかしの契にかありけん しはしの程に心をつくしてあはれにおほえしを打すてゝかくまとはし給ふかいみしき 事とこゑもおしますなき給ふ事かきりなしたひとこたちも誰とはしらぬにあや しと思てみな涙おとしけりうこんをはいさや二条へとのたまへと年ころ おさなく侍しよりかた時も立はなれたてまつらすなれきこえつる人ににはかに (28ウ) わかれたてまつりていつこにかかへり侍らんいかになりたまひにきとか人にもいひ 侍らんかなしき事をはさる物にて人にいひさはかれ侍らんかいみしき事といひて なきまとひてけふりにたくひてしたひまいりなんといふことはりなれとさなん 世中はあるわかれといふ物かなしからぬはなしとあるもかゝるもおなしいのちのかきり ある物になん思なくさめて我をたのめとのたまひこしらへてもかくいふ我 身こそはいきとまるましきこゝ地すれとのたまふもたのもしけなしやこれみつ 夜は明かたになり侍ぬらんはやかへらせ給なんと聞ゆれはかへりみのみせられて むねもふとふたかりて出給ふみちいと露けきにいとゝしきあさ霧いつこ ともなくまとふこゝ地し給ふありしなから打ふしたりつるさま打かはし給へりし我御 (29オ) くれなゐの御そのきられたりつるなといかなりけん契にかとみちすからおもほさる 御むまにもえはか/\しうのり給ふましき御ありさまなれは又これみつそひたすけて おはしますにつゝみの程にてむまよりすへりおりていみしく御こゝちまとひけれは かゝるみちの空にてはふれぬへきにやあらんさらにえいきつくましきこゝちなん するとのたまふにこれみつこゝちまとひてわかはか/\しくはさのたまふともかゝるみち に出たてまつるへきかはと思ふにいと心あはたゝしけれは河の水に手をあらひて きよ水のくわんをんをねんしたてまつりてもすへなく思まとふ君もしゐて御心を おこして心のうちにほとけをねんし給て又とかくたすけられ給てなん二条院 へかへり給けるあやしう夜ふかき御ありきを人々見くるしきわさかなこのころ (29ウ) れいよりもしつ心なき御しのひありきのしきる中にもきのふけふの 御気しきのいとなやましうおほしたりしにいかてかくたとりありき給ふ 覧となけきあへりまことにふし給ぬるまゝにいといたくくるしかり給て 二三日になりぬるにむけによはるやうにし給ふうちにもきこしめし なけく事かきりなし御いのりかた/\にひまなくのゝしるまつりはらへすほう なといひもつくすへくあらす世にたくひなくゆゝしき御ありさまなれは 世になかくおはしますましきにやとあめのしたの人のさはき也くるしき御 こゝ地にもかの右近をめしよせてつほねなとちかく給てさふらはせ給ふ これみつこゝちもさはき給へと思のとめて此人のたつきなしと思たるを (30オ) もてなしたすけつゝさふらはす君はいさゝかひまありておほさるゝ時はめし 出つかひなとすれは程なくましらひつきたりふくいとくろうしてかたち なとよからねとかたはに見くるしからぬわかうと也あやしうみしかかり ける御契りにひかされて我も世にえあるましきなめり年ころの たのみうしなひて心ほそく思ふ覧なくさめにももしなからへはよろつに はくゝまむとこそ思しか程もなく又立そひぬへきかくちおしくもある へきかなとしのひやかにのたまひてよはけになき給へはいふかひなき 事をはをきていみしうおしとおもひ聞ゆ殿のうちの人々あしを空にて 思まとふうちより御つかひ雨のあしよりもけにしけしおほしなけき (30ウ) おはしますを聞給ふにいとかたしけなくてせめてつよくおほしなる 大殿もいみしうけいめひし給ておとゝ日々にわたり給つゝさま/\の ことをせさせ給ふしるしにや廿よひいとをもくわつらひ給へれとことなる なこりのこらすをこたるさまに見え給ふけからひ給しもひとつにみちぬる 夜なれはおほつかなからせ給ふ御心もわりなくて内の御とのゐところに まいり給なとす大殿わか御くるまにてむかへたてまつり給て御物いみなに やとむつかしうつゝしませたてまつり給ふ我にもあらぬ世によみかへれるやう にしはしはおほえ給ふ九月廿日の程こそをこたりはて給ていといたく おもやせ給へれと中々いみしくなまめかしくてなかめかちにねをのみなき給ふ (31オ) 見たてまつりとかむる人もありて御物のけなめりなといふもあり右近を めし出てのとやかなる夕暮に物かたりなとし給てなをいとなんあやしき なとてその人としられしとはかくひ給へりしそまことにあまの子なりとも さはかりに思ふをしらてへたて給しかはなんつらかりしとのたまへはなとて かふかくかくしきこえ給ふ事は侍らんいつの程にかはなにならぬ御 なのりをもきこえたまはんはしめよりあやしうおほえぬさまな りし御事なれはうつゝともおほえすなんあるとのたまひて御な かくしもさはかりにこそはときこえ給なからなをさりにこそまきら はし給ふらめとなんうき事におほしたりしと聞ゆれはあひなかり (31ウ) ける心くらへもかな我はしかへたつる心もなかりきたゝかやうに ゆるされぬふるまひをなんまたならはぬうちにいさめのたまはするをは しめてつゝむ事おほかる身にてはかなく人にたはふれことをいふもとこ ろせうとりなしうるさき身のありさまになんあるをはかなかりし ゆふへよりあやしう心にかゝりてあなかちに見たてまつりしもかゝるへき 契りにこそは物し給けめと思ふもあはれになん又打かへしつらうも おほゆるかうなかゝるましきにてはなとかさしも心にしみてあはれとおほ え給けんなをくはしくかたれいまは何事をかくすへきそ七日/\にほとけ かゝせてもたかためとか心のうちにもおもはんとのたまへはなにかへたて (32オ) きこえさせ侍らんたゝ身つからしのひすくし給し事をなき御うしろに くちさかなくやはと思ふ給はかりにてなんおやたちははやううせ給にき 三位中将となんきこえしいと世になきらうたき物にきこえ給し かと我身の心もとなさをおほすめかりしにいのちさへたへたまはす なりにし後はかなき物のたよりにてとうの中将なんまた少将に物し 給し時見そめたてまつらせ給て三年はかりはこゝろさしあるさまに かよひ給しをこその秋のころかの右大殿よりいと物おそろしき事の きこえまうてこしに物をちをわりなくし給し御心にせんかたなく おほしをちてにしの京に御めのとのすみ侍るところになんはひ (32ウ) かくれ給へりしそれもいと見くるしきにすみわひ給て山里にうつろひ なんとおほしたりしをことしよりはふたかりけるかたに侍けれはかたたかふ とてあやしきところに物し給しを見あらはされたてまつりぬる事と おほしなけくめりしによの人にもにす物つゝみをし給て人に物思ふけし きを見えむをはつかしき物にし給てつれなくのみもてなして御覧せら れたてまつり給ふめりしとかたり聞ゆるにされはよとおほしあはせていよ/\ あはれさまさりぬおさなき人をまとはしたりと中将のうれへしはさる 人やととひ給しかをとゝしの春そ物し給へりし女にていとらうたけに なとかたるさていつこその人はさともしらせて我にえさせよあと (33オ) はかなくは見しと思ふ御かた見にいとうれしかるへくなとのたまふかの中 しやうにもつたふへけれといふかひなきかことおひなんとさまかうさま につけてはくゝまんにとかあるましきをそのあらんめのとなとにも ことさまにいひなして物せよかしなとかたらひ給ふさらはいとうれしく なん侍へきかのにしの京にておひ出たまはんは心くるしくなんはか/\ しくあつかふ人なしとてかしこになと聞ゆ夕暮のしつかなるに空のけしき いとあはれにおまへのせんさいかれ/\にむしのこゑもなきかれて もみちのやう/\色つく程ゑにかきたるやうにておもしろきを見 わたして心よりほかにおかしきましらひかなとかの夕かほのやとりを (33ウ) おもひ出るもはつかし竹の中に家はとゝいふ鳥のふつゝかになくを聞給て かのありし院に此鳥のなきしをいとおそろしと思たりしさまのおもかけに らうたくおもほしいてらるれは年はいくつにか物し給しあやしくよの 人ににすあへかに見え給しもかくなかゝるましくてなりけりとのたまふ 十九にやなり給けんうこんはなくなりにける御めのとのすてをきて侍り けれは三位の君のらうたかり給てかの御あたりさらすおほしたて給しを 思給へいるれはいかてか世に侍らんとすらんいとしも人にとくやしくなん 物はかなけに物し給し人の御心をたのもしき人にそ年ころならひ侍 ける事と聞ゆしかならひたるこそ女はらうたけれあまりにこゝろ (34オ) かしこく人になひかぬいと心つきなきわさ也身つからはか/\しくすくよか ならぬ心ならひに女はたゝやはらかにてとりはつして人にあさむかれ ぬへきかさすかに物つゝみしえん人の心にはしたかはんなんあはれにてわか 心のまゝにとりなをして見むになつかしくおほゆへきかなとのたまへは このかたの御たのみにはもてはなれたまはさりけりと思給ふるにくちおしく も侍わさかなとてなく空の打くもりて風ひやゝかなるにいといたくなかめ給ふて     「見し人のけふりを雲となかむれはゆふへの空も なつかしきかな」とひとりこち給へとえさしいらへもきこえすかやうにておはせ ましゝかはと思ふにもむねふたかりておほゆみゝかしましかりしきぬたの (34ウ) をとをおほし出るさへ恋しくてまさになかき夜と打すしてふし給へりかの 伊与の家のこ君まいるおりあれとことにありしやうなる御ことつてもし たまはねはうしとおほしはてにけるをいとおしと思ふにかくわつらひ給ふを聞 てかの人さすかに打なけきけりとをくくたりなんとするを思ふもさすかに心ほそ けれはおほしわすれぬるかとこゝろみにうけたまはりなやむをことに出てはえこそ     「とはぬをもなとかととはてほとふるにいかはかりかは 思ひみたるゝ」ますたはまことになときこえたりめつらしきにこれもあはれに わすれたまはすいけるかひなきやたかいはましことにか     「うつせみの世はうき物としりにしをまたことの葉に (35オ) かゝるいのちよ」はかなしやと御手も打わなゝかるゝにみたれかき給へる いとゝうつくしけ也なをかのもぬけわすれたまはぬをいとおしうもおかしうも 思けりかやうににくからすはきこえかはせと気ちかくは思よらすさすかに いふかひなからすは見えたてまつりてやみなんと思ふなりけりかのかたつかたに はくら人の少将をなんかよはすと聞給ふあやしやいかに思ふらん少将の 心のうちもいとおかしくも又かの人の気しきもゆかしけれは此小君して しにかへり思ふ心はしり給へりやといひつかはす     「ほのかにものきはのおきをむすはすは露のかことを なにゝかけまし」たかやかなる荻につけてしのひてとのたまへれととり (35ウ) あやまちて少将も見つけて我なりけりと思あはせはさりともつみゆるし てんと思ふ御心おこりそあひなかりける少将のなきおりに見すれは心うしと おもへとかくおほし出たるもさすかにて御返くちときはかりおかしことにてとらす     「ほのめかす風につけてもした荻のなかはは霜に むすほゝれつゝ」手はあしけなるをまきらはしされはみかひたるさま しなゝしほかけに見しかほおほし出らる打とけてむかひゐたらん人は えうらみはつましきさまもしたりしかななにの心はせありけもなく さうときほこりたりしよとおほし出るににくからすなをこりすまに又も あた名たちぬへき御心のすさひなめりかの人の四十九日しのひてひえの (36オ) 法華堂にてことそかすさうそくよりはしめてさるへき物ともこまかに す経なとせさせ給ふ経仏の御かさりとてをろかならすこれみつかあにの阿 さりいとたうとき人にてになうしけり御文のしにてむつましくおほすもん さうはかせめして願文つくらせ給ふその人ことはなくてあはれと思し 人のはかなきさまになりにたるを阿みた仏にゆつり聞ゆるよしあはれ気に かき出給へれはたゝかくなからくはふへき事も侍らさめりと申しのひ給へと御涙も こほれていみしくおほしたれはなに人ならんその人ときこえもなくてかうお ほしなけかすはかりなりけんすく世のたかさといひけりしのひててうせさせ 給けるさうそくのはかまをとりよせさせ給て (36ウ)     「なく/\もけふはわかゆふしたひもをいつれの世にか さけて見るへき」この程まてはたゝよふなる物をいつれのみちにさたま りておもむくらんとおもほしやりつゝねんすをいとあはれにし給ふ頭中将を 見給ふにもあひなくむねさはきてかのなてしこのおひたつありさまもきか せまほしけれとかことにをちて打出たまはすかの夕かほのやとりにはいつかた にと思まとへとそのまゝにえたつねきこえす右近たにをとつれねは あやしと思なけきあへりたしかならねと気はひをさはかりにやとさゝめき しかはこれみつをかこちいひけれといとかけはなれ気しきなくいひなして なをおなし事にすきありきけれはいとゝ夢のこゝちしてもしすりやう (37オ) ことものすき/\しきか頭君にをちきこえてやかていてくたりたるにやこそ 思よりける此家あるしそにしの京のめのとのむすめなりけるはらからうち三 人その子ありて右近はこと人なりけれは思へたてゝ御ありさまをきかせぬなりけり となき恋けり右近はたかしかましくいひさはかれんを思て君もいまさらに此事 もらさしといみしくしのひ給へはわか君のうへをたにえきかすあさましくゆくゑ なくてすきゆく君は夢にたに見はやとおほしわたるにこの御ほうしし給て又の 夜ほのかにかのありし院なからそひたりし女のさまもおなしやうにて見えけれは あれたりしところにすみけん物の我に見いれけんたよりにかくなりぬる事とお ほし出るにもゆゝしくのみなんい与のすけ九月つこもり神な月のついたちころに (37ウ) くたる女房のくたらんにとてたむけ心ことにせさせ給ふ又内々にもわさとし 給ふこまやかにおかしきさまなるくしあふきおほくしてぬさなといとわさとかましく てかのうちきもつかはす     「あふまてのかたみはかりと見しかともひたすら袖の くちにけるかな」こまかなる事ともあれとうるさけれはかゝす御つかひはかへりにけれ は小君してこうちきの御かへり事はかりはきこえさせたり     「せみの羽もたちかへてけるたひころもかへすを見ても ねはなかれけり」おもへとあやしう人ににす心つよさにてもふりはなれぬるかなと思 つゝけ給ふけふそ冬たつ日なりけるもしるく打しくれて空のけしきいとあは (38オ) れなりなかめくらして     「すきにしもけふわかるゝふたみちにゆくかたしらぬ 秋のくれかな」なをかく人しれぬ事はくるしかりけりとおほししりぬらんかし かやうのくた/\しき事はあなかちにかくろへしのひ給しもいとおしくてみなも らしとゝめたるをなとかみかとの御こならんかうも見ん人さへをこかましく物ほめ かちなるとつくり事めきてとりなす人も物し給けれはなんあまり物いひ さかなきつみさりところなくことおほかりとそ ---------------------------------------------------------------------------------- 底本:Japanese Rare Book Collection (Library of Congress) LC Control No.2008427768 翻字担当者:阿部江美子、神田久義、銭谷真人 更新履歴: 2011年3月24日公開 2014年1月7日更新 ---------------------------------------------------------------------------------- 修正箇所(2014年1月7日修正) 丁・行 誤 → 正 (5オ)6 さしい出る → さし出る (7ウ)1 おもほし → おほし (9オ)4 このひかり → 此ひかり (10ウ)6 おかしき事とも → おかしき事も (15オ)2 みられは → みしれは (21オ)4 右近をは → 右近は (23オ)1 す経 → す性