米国議会図書館蔵『源氏物語』 野分 ---------------------------------------------------------------------------------- 記号の説明 1.くの字点は/\で表す。 2.和歌は「」で括る。 3.散らし書き和歌の末尾に#を付ける。 4.判読できない文字は■で表す。 本文の修正 1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。 ---------------------------------------------------------------------------------- 野わき (1オ) 中宮の御まへに秋の花をうへさせ給へる事つねの年よりも見とこ ろおほく色草をつくしてよしあるくろきあかきのませをゆひませ つゝおなしき花のえたさしすかたあさ夕露のひかりもよの つねならす玉かとかゝやきてつくりわたせる野への色を見るにはた 春の山もわすられてすこくおもしろく心もあくかるゝやうなり春 秋のあらそひにむかしより秋に心よする人は数まさりけるを名たゝる 春のおまへの花そのに心よせし人々又ひきかへしうつろふ気しき 世のありさまににたり是を御らんしつきてまとゐし給程御あそ ひなともあらまほしけれと八月はこせんはうの御忌月なれは心もと なくおほしつゝ明くるゝに此花の色まさる気しきともを御らんするに (1ウ) 野わきれいの年よりもおとろ/\しく空の色かはりて吹出る花ともの しほるゝをいとさしも思しまぬ人たにあなわりなと思さはかるゝまして 草むらの露の玉のをみたるゝまゝに御心まとひもしぬへくおほしたり おほふはかりの袖は秋の空にしもこそほしけなりけり暮ゆくまゝに物も 見えす吹まとはしていとむくつけゝれはみかうしなとまいりぬるにうしろ めたくいみしと花のうへをおほしなけくみなみのおとゝにもせんさいつく ろはせ給けりおりにしもかく吹出てもとあらのこ萩はしたなく待えたる 風の気しき也おれかへり露もとまるましく吹ちらすをすこしはし ちかくて見給おとゝはひめ君の御かたにおはします程に中将の君ま いりてひんかしのわた殿のこさうしのかみよりつま戸のあきたる (2オ) ひまをなに心もなく見入給へるに女房のあまた見ゆれは立とまりて 音もせて見る御屏風もかせのいたく吹けれはをしたゝみよせたる に見とをしあらはなるひさしのおましにゐ給へる人物にまきるゝ へくもあらす気たかくきよらにさとにほふこゝちして春のあけ ほのゝ霞のまよりおもしろきかは桜のさきみたれたるをみるこゝ地 するあちきなく見たてまつるわかかほにもうつりくるやうにあひ きやうはにほひちりてまたなくめつらしき人の御さま也みすの吹 あけらるゝを人々をさへていかにしたるにかあらん打わらひ給へる いといみしくみゆ花ともを心くるしかりてえ見すてゝいりたまはす 御まへなる人々もさま/\に物きよけなるすかたともは見わたさる (2ウ) れとめうつるへくもあらすおとゝのいと気とをくはるかにもてなし 給へるはかく見る人たゝにはえおもふましき御ありさまをいたりふかき 御心にてもしかゝる事もやとおほすなりけりと思ふにけはひおそろし うて立さるにそ西の御かたよりうちのみさうしひきあけてわ たり給いとうたてあはたゝしき風なめりみかうしおろしてよをのことも あるらんをあらはにもこそあれときこえ給を又よりて見れは物きこえて おとゝもほゝゑみて見たてまつり給おやともおほえすわかくきよけに なまめきていみしき御かたちのさかり也女もねひとゝのひあかぬことなき 御さまともなるを身にしむはかりおほゆれと此わた殿のかうしも吹はなちて たてるところのあらはになれはおそろしうて立のきぬいままいれるやう (3オ) に打こはつくりてすのこのかたにあよみ出給へれはされはよあらはなりつ らむとてかのつま戸のあきたりけるよといまそ見とかめ給年ころかゝる ことの露なかりつるを風こそけにいはほも吹あけつへき物なりけれさはかり の御心ともをさはかしてめつらしくうれしきめを見つるかなとおほゆ人々まいり ていといかめしうふきぬへき風に侍うしとらのかたより吹侍れは此御まへは のとけき也むまはのおとゝみなみの釣殿なとはあやうけになんとてとかく ことをこなひのゝしる中将はいつこより物しつるそ三条の宮に侍つるを 風いたくふきぬへしと人々の申つれはおほつかなさにまいり侍つるかしこ にはまして心ほそく風の音をもいまはかへりてわかきこのやうにおち給めれ は心くるしさにまかせて侍なんと申給へはけにはやまうてたまひね (3ウ) おひもていきて又わかうなる事世にあるましき事なれとけにさのみ こそあれなとあはれかりきこえ給てかくさはかしけに侍めるを此あそん さふらへはそと思給へゆつりてなんと御せうそこきこえ給みちすからいり もみする風なれとうるはしく物し給君にて三条の宮と六条院とにま いりて御らんせられたまはぬ日なし内の御物いみなとにえさらすこもり給ふ へき日よりほかはいそかしきおほやけことせちえなとのいとま 入へく事しけきにあはせてもまつ此院にまいり宮よりそ 出給けれはましてけふかゝる空のけしきにより風のさきにかくかれ ありき給もあはれに見ゆ宮いとうれしうたのもしと待うけたま はりてこゝらのよはひにまたかくさはかしき野わきにこそあは (4オ) さりつれとたゝわなゝきにわなゝき給おほきなる木のえた なとのおるゝ音もいとうたてありおとゝのかはらさへ残るましく 吹ちらすにかくて物し給へる事とかつはのたまふそこらところ せかりし御いきをひのしつまりて此君をたのもし人におほしたる つねなき世也いまも大かたのおほえのうすらき給事はなけれと 内のおほ殿の御けはひはなか/\すこしうとくそありける中将よも すからあらき風の音にもすゝろに物あはれ也心にかけて恋しと 思ふ人の御事はさしをかれてありつる御おもかけのわすられぬを こはいかにおほゆる心そあるましき思もこそゝへいとおそろしき事と みつから思まきらはしこと/\に思うつれとなをふとおほえつゝきしかたゆく (4ウ) すゑありかたくも物し給けるかなかゝる御なからひにいかてひんかしの御 かたさる物の数にて立ならひ給へらんたとしへなかりけりやあないと おしとおほゆおとゝの御心はへをありかたしと思しり給人からのいと まめやかなれはにけなさを思よらねとさやうならん人をおなしく は見てあかしくらさめかきりあらんいのちの程もいますこしはかならす のひなんかしと思つゝけらる暁かたに風すこししめりて村雨のやう にふりいつ六条院にははなれたるやともたふれたりなと人々 申風の吹まふ程ひろくそこらたかきこゝちする院に人々おはし ますおとゝのあまりにこそしけゝれひんかしのまちなとは人すくなに おほされつらんとおとろき給ふてまたほの/\とするにまいり給みちのほと (5オ) よこさまあめいとひやゝかに吹いる空のけしきもすこきにあやしく あくかれたるこゝちして何事や又我心より思くはゝれるよと思ひ出れ はいとにけなき事なりけりあな物くるをしととさまかうさまにおもひつゝ ひんかしの御かたにまつまうて給へれはおちこうしておはしけるにとかく きこえなくさめて人めしてところ/\つくろはすへきよしなといひ をきてみなみのおとゝにまいり給へれはまたみかうしもまいらすおはし ますまにあたれるかうらんにをしかゝりて見わたせは山の木ともに 吹なひかしてえたともおほくおれふしたり草むらはさらにも いはすひはたかはらところ/\のたてしとみすひかいなとやうの物 みたりかはし日のわつかにさし出たるにうれへかほなる庭の露 (5ウ) きら/\として空はいとすこく霧わたれるにそこはかとなく涙 のおつるををしのこひかくして打しはふき給へれは中将のこはつく るにそあなる夜はまたふかゝらむはとておき給也なに事にか あらんきこえ給こゑはせておとゝ打わらひ給ていにしへたにしらせたて まつらすなりにし暁のわかれよいまならひたまはんに心くるしからんとて とはかりかたらひきこえ給気はひともいとおかし女の御いらへはきこえねと ほの/\かやうにきこえたはふれ給ことの葉のおもむきもゆるひなき御 なからひかなときゝゐ給へりみかうしを御てつからひきあけ給へは気 ちかきかたはらいたさに立のきてさふらひ給いかによそへ宮は待 よろこひ給きやしかはかなき事につけても涙もろに物し給へはいと (6オ) ふひんにこそ侍れと申給へはわらひていまいくはくもおはせしまめやかに つかうまつり見えたてまつれ内のおとゝはこまかにしもあるましうこそ うれへ給しか人からあやしう花やかにをゝしきかたによりておやなとの 御けうをもいかめしきさまをはたてゝ人にも見おとろかさんの心あり まことにしみてふかきところはなき人になん物せられけるさるは心のくま いとかしこき人のすゑの世にあまるまてさえたくひなくうるさなから 人としてかくなんなき事はかたかりけるなとのたまういとおとろ/\しかり つる風に中宮にはか/\しき宮つかさなとさふらひつらんやとて此君して 御せうそこきこえ給よるの風の音はいかゝきこしめしつらん吹みたり侍し におこりあひ侍ていとたへかたきにためらひ侍程になんときこゑ給 (6ウ) 中将おりてなかのらうの戸よりとをりてまいり給朝ほらけのかたちいと めてたくおかしけ也ひんかしのたいのみなみのそはにたちて御まへのかたを 見やり給へはみかうし二まはかりあけてほのかなる朝ほらけの程にみすま きあけて人々ゐたりかうらんにをしかゝりつゝわかやかなるかきりあまた 見ゆ打とけたるはいかゝあらんさやかならぬ明くれの程色々なるすかたは いつれともなくおかしわらはへおろさせ給て虫のこともに露かはせ給なり けりしをんなてしここきうすきあこめともにをみなへしのかたみなと やうの時にあひたるさまにて四五人つれてこゝかしこの草むらによりて 色々のこともをもてさまよひなてしこなとのいとあはれけに吹ちらさるゝ えたともとりもてまいり霧のまよひはいとえんにそ見えける吹くる (7オ) をひ風はしほにこと/\ににほふ空もかうのかほりもふれはひ給へる御けはひ にやといと思やりめてたく心けさうせられて立出にくけれとしのひやかに 打をとなひてあゆみ出給へるに人々けさやかにおとろきかほにはあらねと みなすへりいりぬ御まいりの程なとわらはなりしに入立なれ給へる女房なと もいとけうとくはあらす御せうそこけひせさせ給て宰相の君ないし なとの気はひすれはわたくしこともしのひやかにかたらひ給是はたさいへと 気たかくすみたるけはひありさまを見るにもさま/\に物おもひ出らるゝ みなみのおとゝにはみかうしまいりわたしてよへ見すてかたかりし花ともの ゆくゑもしらぬやうにてしほれふしたるを見給けり中将みはしにゐ 給て御返きこえ給あらき風をもふせかせ給ふへくやとわか/\しく心ほそく (7ウ) おほえ侍をいまなんなくさみ侍りぬるときこえ給へれはあやしくあえかに おはする宮也女とちは物おそろしぬへかりつる夜のさまなれはけにをろか なりともおもひつらんとてやかてまいり給御なをしなとたてまつるとて みすひきあけていり給にみしかきみきちやうひきよせてはつかに 見ゆる御袖くちさにこそはあらめと思ふにむねつふ/\となるこゝちするも うたてあれはほかさまに見やりつとの御かた見なと見給てしのひて 中将の朝けのすかたはきよけなりやたゝいまはきひはなるへき程を かたくなしからす見ゆるも心のやみにやとてわか御心はふりかたくよしと 見給へるめりいといたう心けさうし給て宮に見えたてまつるははつかしう こそあれなにはかりあらはなるゆへ/\しさも見えたまはぬ人のおくゆかしく心 (8オ) つかひせられ給そかしいとおほとかにをんなしき物から気しき つきてそおはするやとて出給に中将なかめいりてとみにもおとろ くましきけしきにてゐ給へる心とき人の御めにはいかゝ見給けん 立かへり女君にきのふ風のまきれに中将見たてまつりやしけんかの とのあきたりしによとのたまひへはおもて打あかめていかてかさは あらんわた殿のかたに人のけもせさりし物をときこえ給 なをあやしとひとりこちてわたりたまひぬみすのうちに入給ぬれ は中将わた殿の戸くちに人々の気はひするによりて物なといひ たはふるれと思ふ事のすち/\なけかしくてれいよりもしめりてゐ 給へりこなたよりやかてきにとをりてあかしの御かたを見やり (8ウ) 給へははか/\しくけいしたつ人なとも見えすなれたるしもつかへ ともそ草の中にましりてありくわらはへなとおかしきあこめ すかた打とけて心とゝめとりわきうへ給りんたうあさかほの はひましれるませもみなちりみたれたるをとかくひき出たつ ぬるなるへし物のあはれにおほえけるまゝにさうのことをかき まさくりつゝはしちかうゐ給へるに御さきをふこゑのしけれは打とけなへ はめるすかたこうちきひきおとしてけちめ見せたるいと いたしはしのかたについゐ給て風のさはきはかりをとふらひ給 てつれなくたちかへりたまふこゝろやましけなり     「大かたに荻の葉すくる風の音もうき身一に (9オ) しむこゝ地して」とひとりこちけり西のたいにはおそろしと 思あかし給けるなこりにねすくしていまそかゝみなと見給 けること/\しくさきなをひそとのたまへはことに音せて入 給屏風なともみなたゝみよせ物しとけなくしなしたるに 日の花やかにさし出たる程けさ/\と物きよけなりける さましてゐ給へりちかくゐ給てれいの風につけてもおなし すちにむつかしうきこえたはふれ給へはたえすうたてと思て かう心うけれはこそこよひの風にもあくかれなまほしく侍つれと むつかり給へはいとよく打わらひて風につきてあくかれたまはんや かろ/\しからんさりともとまるかたありなんかしやう/\かゝる御心の (9ウ) むけにこそそひにたれことはりやとのたまへはけに打思のまゝに きこえてけるかなとおほしてみつからも打ゑみ給へるいとおかしき色 あひつらつき也ほゝつきなといふかめるやうにふくらかにてかみのかゝ れるひま/\うつくしうおほゆまみのあまりはらゝかなるそいとしも しなたかく見えさりけるそのほかは露なんつくへくもあらす中将 いとこまやかにきこえ給をいかて此御かたち見てしかなと思わたる心 にてすみのまのみすのきちやうはそひなからしとけなきをやをら ひきあけて見るにまきるゝ物ともゝとりやられ給れはいとよく 見ゆかくたはふれ給けしきのしるきをあやしのわさやおやこと きこえなからかくふところはなれす物ちかゝるへき程かはとめ (10オ) とまりぬ見やつけたまはんとおそろしけれとあやしき心もおとろき てなを見れははしらかくれにすこしそはみ給へるをひきよせ給へ るに御くしのなみよりてはら/\とこほれかゝりたる程女もいとむつかしく くるしとおもふ給へるけしきなからさすかにいとなこやかなるさましてより かゝり給へるはこと/\なれ/\しきにこそあめれいてあなうたていかなる事 にかあらん思よらぬくまなくおはしける御心にてもとより見なれおほし たてたまはぬはかゝる御思そひ給へるなめりむへなりけりやあなうと ましとおもふ心もはつかし女の御さまけにはらからといふともすこし立のきて ことはらそかしなとおもはんはなとかあやまりもせさらんとおほゆ昨日見し御 けはひにはけをとりたれと見るにゑまるゝさまは立もならひぬへく見 (10ウ) ゆるやへ山ふきのさきみたれたるさかりに露のかゝれる夕はへそふと思ひ出 らるゝおりにあはぬよそへともなれとなを打おほゆるやうよ花はかきりこそ あれそゝけたるしつなともましるかし人の御かたちのよきはたとへんかた なき物也おまへに人も出こすいとこまやかに打さゝめきかたらひきこえ 給にいかゝあらんまめたちてそたち給ふ女君     「吹みたる風のけしきにをみなへししほれしぬへきこゝちこそすれ」# くはしくもきこえぬに打すんし給をほのきくにくき物のおかしけれは なを見はてまほしけれとちかゝりけりと見えたてまつらしと思ひてたち さりぬ御かへり     「下露になひかましかはをみなへしあらき風にはしほれさらまし」# (11オ) なよ竹を見給へかしなとひかみゝにやありけんきゝよくもあらすそ ひんかしの御かたへ是よりそわたり給今朝のあさゝむなる打とけわさ にや物たちなとするねひこたちおまへにあまたしてほそひつめく 物にわたひきかけてまさくるわか人ともありいときよらなるくちはの うす物いまやう色のさなくうちたるなとひきちらし給へり中将のした かさねか御まへのつほせんさいのえむもとまりぬらんかしかく吹ちらしてんに は何事かせられんすさましかるへき秋なめりなとのたまひてなにゝか あらんさま/\なる物の色とものいときよらなれはかやうなるかたはみなみ のうへにもをとらすかしとおほす御なをしを花文れうを此ころつみ いたしたる花してはかなくそめ出給へるいとあらまほしき色したり中将に (11ウ) こそかやうにてはきせたまはめわかき人のにてめやすかめりなと やうのことをきこえ給てわたりたまひぬむつかしきかた/\めくり給 御ともにありきて中将はなま心やましうかゝまほしき文なと日たけ ぬるを思つゝひめ君の御かたにまいり給へりまたあなたになんおはし ます風におちさせ給て今朝はえおきあかりたまはさりつると 御めのとそ聞ゆる物さはかしけなりしかはとのゐもつかうまつらんと思 給へしを宮のいとも心くるしうおほひたりしかはなんひいなのとのは いかゝおはすらんそとひ給へは人々わらひて扇の風たにまいれはいみし きことにおほいたるをほと/\しくこそ吹みたり侍しか此御殿あつかひに わひにて侍るなとかたること/\しからぬかみや侍る御つほねのすゝりと (12オ) こひ給へはみつしによりてかみ一まき御すゝりのふたにとり おろしてたてまつれはいな是はかたはらいたしとのたまへと 北のおとゝのおほえを思ふもすこしなのめなるこゝ地して文 かき給むらさきのうすやうなりけりすみ心とめてをしすりふ てのさき打見つゝこまやかにかきやすらひ給へるいとよし されとあやしくさたまりてにくきくちつきこそ物し給へ     「風さはきむら雲まよふ夕にもわするゝまなくわすられぬ君」# ふきみたりたるかるかやにつけ給へれは人々かた野の 少将はかみの色にこそとゝのへ侍けれときこゆさはかりの 色もおもひわかさりけりやいつこの野辺のほとりの花なと (12ウ) かやうの人々にも事すくなに見えてこゝろとくへく ももてなさすいとすく/\しう気たかしまたもかい 給ふてむまのすけにたまへれはおかしきわらはまた いとなれたる御すいしむなとに打さゝめきてとらするを わかき人々打そよめききちやうひきなをしなとす見 つる花のかほともゝ思くらへまほしうてれいは物ゆかし からぬこゝちにあなかちにつま戸のみすをひきゝてき ちやうのほころひより見れは物のそはよりたゝはひ わたり給程そふと見えたる人のしけくまかへはなにの あやめも見えぬ程にいと心もとなしうす色の御そに (13オ) かみのまたたけにははつれたるすゑのひきひろけ たるやうにていとほそくちいさきやうにたいらうたけ に心くるしをとゝしはかりは玉さかにほの見たてまつりしに 又こよなくおひまさり給なめりかしましてさかりいかならん とおもふかの見つるさき/\の桜やまふきといはゝこれは 藤の花とやいふへからん木たかき木よりさきかゝりて 風になひきたるにほひはかくそあるかしと思よそへらる かゝる人々を心にまかせて明暮見たてまつらはや さもありぬへき程なからへたて/\のけさやかなる こそつらけれなと思ふにまめ心もなまあくかるゝこゝ地すをは (13ウ) 宮の御もとにもまいり給へれはのとやかに御をこなひ し給よろしきわか人なとこゝにもさふらへともてなしけはひ さうそくともゝさかりなるあたりにはわくへくもあらすかたち よきあま君たちのすみそめにやつれたるなか/\かゝるところ につけてはさるかたにてあはれなりけり内のおとゝもまいり 給へるに御となあふらなとまいりてのとやかに御物かたり なときこえ給ひめきみをひさしく見たてまつらぬか あさましき事とてたゝなきになき給いまこの ほとにまいらせんこゝろつから物おもはしけにてくちおし うおとろへにてなん侍める女こそよくいはゝ侍ましき (14オ) 物なりけれとあるにつけてもこゝろのみなんつくされ 侍けるなとなをこゝろとけすおもひをきたる気しき してのたまへはこゝろうくてせちにもきこえたま はすそのついてにもいとふてうなるむすめまうけ はへりてもてわつらひはへりぬとうれへきこえ給ふて わらひたまふ宮いてあやしむすめといふなはして さかなかるやうやあるとのたまへはそれなん見く るしきことになんはへるいかて御らんせさせんとき こえたまふと ---------------------------------------------------------------------------------- 底本:Japanese Rare Book Collection (Library of Congress) LC Control No.2008427768 翻字担当者:豊島秀範、菅原郁子、矢澤由紀 更新履歴: 2011年3月24日公開 2012年7月11日更新 2013年11月19日更新 ---------------------------------------------------------------------------------- 修正箇所(2012年7月11日修正) 丁・行 誤 → 正 (12ウ)2 けたかし → 気たかし ---------------------------------------------------------------------------------- 修正箇所(2013年11月19日修正) 丁・行 誤 → 正 (1ウ)5 吹まとはして → 吹まよはして (5オ)2 我心より → 我心に (6オ)10 きこゑ給 → きこえ給 (7ウ)3 おもひつらん → おほひつらん (8オ)5 のたまひへは → のたまへは (8オ)6 人のけも → 人の音も (9ウ)1 そひにたれ → そひにけれ (9ウ)8 とりやられ給れは → とりやられたれは (10オ)9 なとかあやまりも → なとか心あやまりも (10ウ)3 しつなとも → しへなとも (11オ)5 さなく → まなく (11オ)8 色ともの → 色とも (11ウ)8 おはすらんそ → おはすらんと (13ウ)1 のとやかに → のとやかにて (14オ)9 たまふと → たまふとや