米国議会図書館蔵『源氏物語』 東屋 ---------------------------------------------------------------------------------- 記号の説明 1.くの字点は/\で表す。 2.和歌は「」で括る。 3.散らし書き和歌の末尾に#を付ける。 4.判読できない文字は■で表す。 本文の修正 1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。 ---------------------------------------------------------------------------------- あつま屋 (1オ) つくは山をわけ見まほしき御心はありなから葉山のしけりまて あなかちに思いらむもいと人きゝかる/\しうかたはらいたかるへき程 なれはおほしはゝかりて御せうそこをたにえつたへさせたまはすかのあま 君のもとよりそはゝ北のかたにのたまひしさまなとたひ/\ほのめかしをこ せけれとまめやかに御心とまるへき事ともおもはねはたゝさまてもたつね しり給ふらん事とはかりおかしう思ひて人の御程たゝいま世にありかたけ なるをも数ならましかはなとそよろつに思けるかみのこともはゝは なくなりにけるなとあまたこのはらにもひめ君とつけてかしつくあり 又おさなきなとすき/\に五六人ありけれはさま/\に此あつかひをしつゝ こと人と思へたてたる心のありけれはつねにいとつらき物にかみを恨つゝいかて (1ウ) ひきすくれておもたゝしき程にしなしても見えましかなと明暮此 はゝ君思あつかひけるさまかたちのなのめにとりませてもありぬへくは いとかうしもなにかはくるしきまてももてなやまましおなし事おもはせて もありぬへき世を物にもましらすあはれにかたしけなくおひ出給へは あたらしく心くるしき物におもへりむすめおほかりときゝてなまきん たちめく人々もおとなひいふいとあまたありけりはしめのはらの 二三人はみなさま/\にくはりておとなひさせたりいまはわかひめ君 をおもふやうにて見たてまつらはやと明暮まもりてなてかしつく 事かきりなしかみもいやしき人にはあらさりけりかんたちめの すちにてなからひも物きたなき人ならすとくいかめしうなとあれは (2オ) 程々につけては思あかりては家のうちもきら/\しく物きよけにすみ なしことこのみしたるよりはあやしうあらゝかにゐなかひたる心そつき たりけるわかうよりさまあつまのかたのはるかなるせかいにむもれて年 へけれはにやこゑなと程々打ゆかみぬへし物打いふすこしたみたるやう にてかうけのあたるおそろしくわつらはしき物にはゝかりおりすへていと またくすきまなき心もありおかしきさまにことふえのみちはとをうゆ みをなんいとよくひきけるなを/\しきあたりともいはすいきをひにひか されてよきわか人ともつとひさうそくありさまはえならすとゝのへつゝ こしおれたるうたあはせ物語かうしんをしまはゆく見くるしくあそひ かちにこのめるを此けさうのきんたちらう/\しくこそあるへけれかたち (2ウ) なんいみしかなるおかしきかたにいひなして心をつくしあへる中に左近の 少将とてとし廿二三はかりの程にて心はせしめやかにさえありといふ かたは人にゆるされたれときら/\しういまめいてなとはえあらぬにや かよひしところなともたえていとねんころにいひわたりけり此はゝ君 あまたかゝる事いふ人々のなかに此君は人からもめやすかなりやこれより まさりてこと/\しききはの人はたかゝるあたりをさいへとたつねよらしと 思ひて比御かたにとりつきてさるへきおり/\はおかしきさまに返ことなとせさ せたてまつる心一に思まうけてかみこそをろかに思なすとも我はいのち をゆつりてかしつきてさまかたちのめてたきを見つきなはさりともをろかに なとはよも思ふ人あらしと思たち八月はかりと契りててうとをまうけはかな (3オ) きあそひ物をせさせてもさまことにやうおかしうまきゑらてん のこまやかなる心はへまさりて見ゆる物をは此御かたにととりかくして をとりのを是これなんよきとてみすれはかみはよくしも見しらすそこ はかない物ともの人のてうとゝいふかきりはたゝとりあつめてならへ すへつゝめをはつかにさし出るはかりにてことひわのしとてないけう はうのわたりよりむかへとりつゝならはす手一ひきとれはしちをたち ゐにおりみてよろつにろくをとらする事うつむはかりにてもてさはく はやりかなるこくの物なとをしへてしとおかしき夕暮なとにひきあ はせてあそふ時は涙もつゝますをこかましきまてさすかに物めてしたり かゝる事ともをはゝ君はすこし物のゆへしりていと見くるしとおもへはことにあへしら (3ウ) はぬをあこをは思をとし給へりとつねに恨けりかくて此少将契りし程を待 つけておなしくはとくとせめけれは我心一にかう思いそくともいとつゝましう 人の心のしりかたさを思てはしめよりつたへそめける人のきたるにちかふ よひよせてかたらふよろつおほく思はゝかる事のおほかるを月ころかうのた まひて程へぬるをなみ/\の人にも物したまはねはかたしけなう心くるしうてかう 思立にたるをおやなと物したまはぬ人なれは心一なるやうにてかたはらいたう打あ はぬさまに見えたてまつる事もやとかねてなん思ふわかき人々あまた侍れと思人 くしたるはをのつからと思ゆつられて此君の御ことをのみなんはかなき世中を見る にもうしろめたくいみしきを物おもひしりぬへき御心さまと聞てかうよろつの つゝましさをわすれぬへかめるもおしもえし思はすなる御心はへも見えは人わらへに (4オ) かなしうなんといひけるを少将の君にまうてゝしか/\なんと申けるにけしきあしく なりぬはしめよりさらにかみのみのむすめにあらすといふ事をなんきかさりつるおなし事 なれと人きゝも気をとりたるこゝ地して出入せんにもよからすなんあるへきようも あないせてうかひたることつたへけるとのたまふにいとおしくなりてくはしくもしり給へす 女とものしるたよりにておほせことをつたへはしめ侍しになかにかしつくむすめとのみ聞侍れ はかみのとこそはそ思給へされこと人のこもたまへらむともとひ聞侍らさりつる也 かたち心もすくれて物し給事はゝうへのかなしうし給ておもたゝしう気たかき事を せんとあかめかしつかると聞侍しかはいかてかのへんのことつたへつへからん人もかなと のたまはせしかはさるたよりし給へりととり申になりさらにうかひたるつみ 侍ましき事なりとはらあしくこと葉おほかる物にて申に君いとあてやか (4ウ) ならぬさまにてかやうのあたりにいきかよはんは人のおさ/\ゆるさぬ事なれ といまやうの事にてとかあるましうもてあかめてうしろ見たつにかくして なんあるたくひもあかめるをおなし事と内々には思ふともよそのおほえ なんへつらひて人いひなすへき源少納言さぬきのかみなとのうけはりたる けしきにて出いらんにかみにもおさ/\うけられぬさまにてましらはんなんいと人 けなかるへきとのたまふ此人ついそうあるうたてある人の心にて是をいと くちおしうこなたかなたにいとおしと思けれはまことにかみのむすめとおほさはま たわかうなとおはすともしかつたへ侍らんかしなかにあたるなんひめ君とてかみは いとかなしうし給なりと聞ゆるいさやはしめよりしかいひよれる事ををきて 又いはんこそうたてあれされとわかほいはかのかみのぬしの人からも (5オ) 物々しくおとなしき人なれはうしろ見にもせまほしう見るところ ありて思はしめしこと也もはらかほかたちのすくれたらん女のねかひもなし しなあてにえんならむ女をねかはゝやすくえつへしされとさひしうことうち あはぬとやひこのめる人のはて/\は物きよくもなく人にもおほえたらぬを見 れはすこし人にそしらるゝともなたらかにて世中をすくさんことをねかふ也 かみなんとかたらひてさもとゆるすけしきあらはなにかはさもとのたまふ 此人はいもうとのこの西の御かたにあるたよりにかゝる御文なともとりつたへ はしめけれとかみはくはしくも見えしらぬ物なりけりたゝいきにかみの ゐたりけるまへにいきてとり申へき事ありなんといはすかみ此わたりに 時々出いりはすときけとまへにはよひいてぬ人の何事いふにかはあらんとなま (5ウ) あら/\しきけしきなれと左近の少将殿の御せうそこにてなんさふらふと いはせたれはあひたりかたらひかたけなるかほしてちかうゐよりて月ころうちの 御かたにせうそこきこえさせ給を御ゆるしありて此月の程にと契りきこえ させ給事侍を日をはからひていつしかとおもほす程にある人の申けるやう まことに北のかたの御はらに物し給へとかむの殿の御むすめにはおはせすきん たちのおはしかよはんに世のきこえなんへつらひたるやうならむすらうの 御むこになり給かやうの君たちはたゝわたくしの君のことく思かしつき たてまつり手にさゝけたる事かおもひあつかひうしろみたてまつるに かゝりてなんさるふるまひし給人々物し給めるをさすかにその御ね かひはあなかちなるやうにておさ/\うけられたまはてけをとりて (6オ) おはしかよはん事ひんなかりぬへきよしをなんせちにそしり申人々あま た侍なれはたゝいまおほしわつらひてなんはしめよりきら/\しう人のうし ろみとたのみきこえむにたへ給へる御おほえをえらひ申てきこえはしめ 申し也さらに人物し給ふらんといふことしらさりけれはもとの心さしのまゝに またおさなきもあまたおはすなるをゆるいたまはゝいとうれしくなん御け しき見てまうてことおほせらるれはといふにかみさらにかゝる御せうそこ 侍しくはしくうけたまはらすまことにおなしことに思ふ給ふへき人なれとよ からぬわらはへあまた侍てはか/\しからぬ身にさま/\思給へあつかふ程にはゝ なる物も是をこと人と思わけたる事とくねりいふ事侍てともかくもくち いれさせぬ人のことに侍れはほのかにしかなんおほせらるゝ事侍とはきゝ (6ウ) 侍しかとなにかしをとりところにおほしける御心はしり侍らさりけるさるはいと うれしく思給へらるゝ御ことにこそ侍なれいとらうたしと思ふめのわらははあまたの 中是をなんいのちにもかへんと思侍のたまふ人々あれといまの世の人のみ心さため なくきこえ侍に中々むねいたきめをやみんのはゝかりに思さたむる事もなくて なんいかてうしろやすくも見給へをかんと明暮かなしく思給ふるを少将殿にをき たてまつりてはこ大将殿にもわかくよりまいりつかうまつりき家のこにて見たてまつり しにいと/\きやうさくつかうまつらまほしと心つきて思きこえしかとはるかなる ところに打つゝきてすくし侍年ころの程にうゐ/\しくおほえ侍てなんまいりも つかまつらぬをかゝる御心さしの侍けるを返々おほせのことたてまつらんはやすき事 なれと月ころのたかへるやうに此人思給へんことをなん思ふ給へはゝかり侍といと こまやかにいふよろしけなめりとうれしくおもふなにかとおほしはゝかるへき事 (7オ) にも侍らすかの御心さしはたゝ一ところの御ゆるし侍らんをねかひおほしていはけ なく年たらぬ程におはすともしんしちのおやのやむことなく思をきて給へらむをこそ ほいかなふにはせめもはらさやうのほとりは見たらんふるまひすへきにもあら すとなんのたまひつる人からはいとやむことなくおほえ心にくゝおはする君なり けりわかき君たちとてすき/\しくあてひてもおはしまさす世のあたりさま もいとよくしり給へりりやうし給ところ/\もいとおほく侍り又年ころの御とく なきやうなれとをのつからやむことなき人の御気はひのありけなるやうなを人 のかきりなきとみといふめるいきをひにはまさり給へり来年四位になり給 なんこたみのかみはうたかひなくみかとの御くちつからこて給へる也よろつの事 たらひてめやすきあそんのめをなんさためさるとやさるへき人えりて うしろみをまうけよかんたちめにはわれしあれはけふあすといふはかりになし (7ウ) あけてむとこそおほせらるなれ何事もたゝ此君とみかとにもしたしく つかうまつり給なる御心はたいみしうかうさくにをも/\しくなんおはしますめる あたら人の御むこをかう聞給程におもほしたちなんこそよからめかの殿をは 我も/\むこにとりたてまつらんとところ/\に侍なれはこゝにしふ/\なる御けはひ あらはほかさまにもおほしなりなん是たゝうしろやすき事をとり申なりといと おほくよけにいひつゝくるにいとあさましくひなひたるかみにて打ゑみつゝきゝゐ たり此ころの御とくなとの心もとなからん事はなのたまひそなにかしいのち侍らん 程はいたゝきにもさゝけたてまつりてん心もとなくなにをあかぬとかおほすへき たとひあへすしてつかうまつりさしつとも残りのたから物りやうし侍る ところ/\ひとつにても又とりあらそふへき人なし子ともおほく侍れと (8オ) 是はさまことに思そめたる物に侍りたゝま心におほしかへり見させたま はゝ大臣のくらゐをもとめんとおほしねかひて世になきたから物をもつく さむとしたまはんになき物侍るましたうしのみかとしかめくみ申給なれは 御うしろみは心もとなかるまし是かの御ためにもなにかしかめのわらはのためにも さいはひとあるへき事にやともしらすとよろしけにいふ時もいとうれしくなりて いもうとにもかゝることありともかたらすあなたにもよりつかてかみのいひつる事 をいとも/\よけにめてたしと思ひて聞ゆれは君すこしひなひてそあるとは聞 給へとにくからす打ゑみて聞ゐ給へり大臣にならんそくらうをとらせんなとそあま りおとろ/\しき事とみゝとゝまりけるさてかの北のかたにはかくと物しつやこゝろ さしことに思はしめ給ふらんにひきたかへたらむひか/\しくねちけたるやうに (8ウ) とりなす人もあらんいさやとおほしたゆむたるをなにか北のかたもかの ひめ君をはいとやむことなき物に思かしつきたてまつり給なりけりたゝ なかのこのかみにて年もおとなひ給を心くるしき事に思ひてそなたにも おもむけて申されけるなりけりと聞ゆ月ころはまたなくよのつね ならすかしつくといひつる物の打つけにかくいふもいかならんとおもへともなをひと わたりはつらしとおもはれ人にはすこしそしらるゝともなからへてたの もしきことをこそといとまたくかしこき君にて思とりてけれは日を たにとりかへす契し暮にそおはしはしめける北のかたは人しれすいそき たちて人々のさうそくせさせしつらひなとよし/\しうし給御かたをも かしらあらはせとりつくろひて見るに少将なといふ程の人に見せんもおかしく (9オ) あたらしきさまをあはれやおやにしられたてまつりておひたちたまはまし かはおはせすなりにたれとも大将殿ののたまふらんさまにおほけなくともなとは思ひ たらましされと内々にこそかくおもへほかのをときゝはかみのことも思わかすまた しちをたつねしらむ人も中々おとしめ思ぬへきこそかなしけれなと思つゝくいかゝ はせんさかりすきたまはんもあいなしいやしからすめやすき程の人のかくねん ころにのたまふめるをなと心一に思さたむるも中たちのかくことよくいみしきに 女はましてすかされたるにやあらんあすあさてとおもへは心あはたゝしくいそかしきに こなたにも心のとかにゐられたらすそゝめきありくにかみとよりいりきてなか/\と とゝこほるところもなくいひつゝけて我を思へたてゝあこの御けさう人を うははんとし給けるおほけなく心おさなき事めてたからむ御むすめをはせさせ給 (9ウ) 君たちあらしいやしくことやうならんなにかしらか女こをそいやしうもたつね のたまふめれかしこく思くはたてられけれともはらほいなしとてほかさまへ思なり 給へるなれはおなしくはと思ひてなんさらは心とゆるし申つるなとあやしくあふなく 人のおもはんところもしらぬ人にていひちらしゐたり北のかたあきれて物もいは れてとはかり思ふに心うさをかきつらね涙もおちぬはかり思つゝけられてやをら たちぬこなたにわたりて見るにいとらうたけにおかしけにてゐ給へるにさりとも 人にはをとりたまはしとは思なくさむめのとゝふたり心うき物は人の心なりけり をのれはおなし事思あつかふとも此君のゆかりとおもはん人のためにはいのちをも ゆつりつへくこそおもへとおやなしときゝあなつりて又おさなくなりあはぬ人をさしこえて かくはいひなるへしやうく心うくちかきあたりに見しきかしと思ぬれとかみのかく (10オ) おもたゝしき事に思ひてうけとりさはくめれはあひ/\にたか世のありさまをすへてかゝる ことにくちいれしとおもふいかてこゝならぬところにしはしありしかなと打なけきつゝいふめのと もいとはらたゝしくわか君をかくおとしむる事なにか是も御さひはいにてたかふ事とも しらすかく心くるおしくいましける君なれはあたら御さまをも見しらさらましわか君 をは心はせあり物おもひしりたらむ人にこそ見せたてまつらまほしけれ大将殿の御 さまかたちのほのかに見たてまつりしにさもいのちのふるこゝちのし侍しかなあはれにはた きこえ給也御すくせにまかせておほしよりねかしといへはあなおそろしや人のいふを きけは年ころおほろけならん人をは見しとのたまひて右のおほい殿あせちの大納言 式部卿の宮なとのいとねんころにほのめかし給けれと聞すくしてみかとの御かしつき むすめをえ給へる君はいかはかりの人かまめやかにはおほさむかのはゝ宮なとの御かたに (10ウ) あらせて時々も見むとはおほしもしなんそれはたけにめてたき御あたりなれ いとむねいたかるへき事也宮のうへのかくさいはひ人と申なれと物おもはしけにお ほしたるを見れはいかにも/\ふた心なからむ人のみこそめやすくたのもしき ことにはあらはわかみにてもしりにきこ宮の御ありさまはいとなさけ/\しくめてた くおかしくおはせしかと人数にもおほさゝりしかはいかはかりかは心うくつらかりし このいといふかひなくなさけなくさまあしき人なれとひたおもむきに二心なきを見 れは心やすくて年ころをもすくしつる也おりふしの心はへのかやうにあひきやうなく ようゐなき事こそにくけれなけかしくうらめしきこともなくかたみに打いさかひても心え あはぬ事をはあきらめつかんたちめみこたちにてみやひかに心はつかしき人の御あたりといふ とも我数ならてはかひあらしよろつのこと我身からなりけりとおもへはよろつにかなしくこそ (11オ) 見たてまつれといかにして人わらへならすしたてまつらんとかたらふかみはいそきたちて 女房なとこなたにめやすきあまたあなるを此程はあらせ給へやかてちやうなともあ たらしくしたてられためるかたをことにはかになりにためれはとりわたしとかくあらたむ ましとて西のかたにきてたちゐとかくしつらひさはくめやすきさまにさはらかにあたり/\ あるへきかきりしたるところをさかしらに屏風とももてきていふせきまてたて あつめてつしにかひなとあやしきまてしくはへて心をやりていそけは北のかた見 くるしく見れとくちいれしといひてしかはたゝに見きく御かたは北おもてにゐたり人の 御心は見しりはてぬたゝおなし子なれはさりともいとかくは思はなちたまはしとこそ思つれ されは世にはゝなき子はなくやはあるとてむすめをひるよりめのとゝふたりなてつくろひ たてたれはにくけにもあらす十五六の程にていとちいさやかにふくらかなる人のかみうつ (11ウ) くしけにてこうちきの程也すそいとふさやか也是をいとめてたしと思てつくろひな にか人のさまことに思かまへられける人をしもとおもへと人からのあたらしくかうさくに物し給 君なれは我も/\とむこにとらまほしくする人のおほかなるにとられなんもくちおし くてなんとかの中人にはかられていふもいとをこなりおとこ君も此程のいかめ しく思ふやうなる事とよろつのつみあるましう思ひてその夜もかへすきそめぬ はゝ君御かたのめのといとあさましく思ひひか/\しきやうなれはとかく見あつ かふも心つきなけれは宮の北のかたの御もとに御文たてまつるその事と侍らては なれ/\しくやとかしこまりてえ思給ふるまゝにもきこえさせぬをつゝしむへき こと侍てしはしところかへさせんと思ふ給へるにいとしのひてさふらひぬへきかくれの かたさふらはゝいとも/\うれしくなん数ならぬ身一のかけにはかくれもあへすあはれなる (12オ) ことのみおほく侍世なれはたのもしきかたにはまつなんと打なきつゝかきたる文を あはれとは見給けれとこ宮のさはかりゆるしたまはてやみにし人をわれひ とり残りてしりかたらはんもいとつゝましく又見くるしきさまにて世にあふれむ もしらすかほにてきかんこそ心くるしかるへけれことなることなくてかたみにちりほはん もなき人の御ために見くるしかるへきわさをおほしわつらふたいふかとしもいと心 くるしけにいひやりたりけれはさるやうこそ侍らめ人にくゝはしたなくもな のたまはせそかゝるをとりの物の人の御中にましり給もよのつねの事なりなとき こえてさらはかの西のかたにかくろへたるところし出ていとむつかしけなめれとさても すくい給つへくはしはしの程といひつかはしついとうれしとおもほして人しれす出たつ 御かたもかの御あたりをはむつひきこえまほしと思ふ心なれは中々かゝる事ともの出きたるを (12ウ) うれしと思ふかみ少将のつかひをいかはかりめてたきことをせむと思ふにそのきら/\ しかるへき事もしらぬ心にはたゝあらゝかなるあつまきぬともををしまろかして なけいてつくい物もところせきまてなんはこひ出てのゝしりけるけすともなと はそれをいとかしこきなさけに思けれは君もいとあらまほしく心かしこくとりより にけりと思けり北のかた此程を見すてゝしらさらむもひかみたらむと思ひ ねんしてたゝするまゝにまかせて見ゐたりまらうとの御ていさふらひとし つらひさはけは家はひろけれと源少納言ひんかしのたいにはすむをのこゝなとの おほかるにところもなし此御かたにまらうとすみつきぬれはらうなとほとりは みたらむにすませたてまつらんもあかすいとおかしくおほえてとかく思めくらす程 宮にとは思ふなりけり此御かたさまにかすまへ給人のなきをあなつるなめりとおもへは (13オ) ことにゆるいたまはさりしあたりをあなかちにまいらすめのとわかき人々二三人はかり して西のひさしの北によりて人気とをきかたにつほねしたり年ころかくはるか なりつれとうとくおほすましき人なれはまいる時ははちたまはすいとあらまほしく けはひことにてわか君の御あつかひをしておはする御ありさまうら山しくおほゆるもあ はれ也我もこきたのかたにははなれたてまつるへき人かはつかうまつるといひしはかりに かすまへられたてまつらすくちおしくてかく人にはあなつらるゝと思ふにはかく しゐてむつひ聞ゆるもあちきなしこゝには御物いみといひてけれは人もかよ はす二三日はかりはゝ君もゐたりこたみは心のとかに見る宮わたり給ゆかし くて物のはさまより見れはきよらに桜をおりたるさましてわかたのもし人に 思ひてつらううらめしけれと心にはたかはしと思ふひたちのかみよりさまかたち (13ウ) も人の程もこよなく見ゆる五位四位ともあひひさまつきさふらひてこの ことかの事とあたり/\の事ともけいしともなと申又わかやかなる五位ともかほも しらぬともゝおほかりわかまゝこのしきふのそうにてくら人なる内の御つかひにてまい れり御あたりにもえちかくまいらすこよなき人の御けはひをあはれこはなに人そ かゝる御あたりにおはするめてたさよ/\よそに思ふ時はめてたき人々と聞ゆとも つらきめ見せたまはゝと物うくをしはかりきこえさせつらんあさましさよ此御ありさま かたちを見れはたなはたはかりにてもかやうに見たてまつりかよはんはいといみし かるへきわさかな思ふもわか君いたきてうつくしみおはす女君みしかききちやう をへたてゝおはするををしやりて物なときこえ給御かたちともいときよらににあひ たりこ宮のさひしくおはせし御ありさまを思くらふるに宮たちと聞ゆれといとこよな (14オ) きわさとこそありけれとおほゆちやうのうちに入たまひぬれはわか君はわかき人 めのとなとにてあそひ聞ゆ人々まいりあつまれとなやましとておほとのこもり くらしつ御たいこなたにまいるよろつの事気たかく心ことに見ゆれはわかいみしき ことをつくすと見おもへはなを/\しき人のあたりはくちおしかりけりと思なりぬれは わかむすめもかやうにてさしならへたらむにはかたはならしかしいきをひをたのみ てちゝぬしのきさきにもなしてんと思たる人々おなしわかこなからけはひこよ なきを思ふもなをいまより後も心はたかくつかうへかりけりと夜一夜あら ましかたり思つゝけらる宮日たけておき給てきさいの宮れいのなやましくし 給へはまいるへしとて御さうそくなとし給ておはすゆかしうおほえてのそけはうるはしく ひきつくろひ給へるはたにる物なく気たかくあいきやうつききよらにてわか君を (14ウ) え見すてたまはてあそひおはす御かゆこはいゐなとまいりてそこなたより出給 けさよりまいりてさふらひのかたにやすらひける人々いまそまいりて物なと聞 ゆる中にきよけたちてなてうことなき人のすさましきかほしたるなをしきたち はきたるありおまへにてなにとも見えぬをかれそこのひたちのかみむこの少将なはしめは 御かたにとさためけるをかみのむすめをえてこそいたはらめなといひてかしけたるめの わらはをえたるななりいさこのあたりの人はかけてもいはすかの君のかたよりよくきく たよりのあるそをのかとちいふきくらむともしらて人のかくいふにつけてもむねつふれ て少将をめやすき程と思ける心もくちおしくけにことなることなかるへかりけりと 思ひていとゝしくあなつらはしく思なりぬわか君のはひ出てみすのつまよりのそき給へ るを打見給て立かへりよりおはしたり御こゝ地よろしく見えたまはゝやかてまかてなん (15オ) なをくるしくしたまはゝこよひはとのゐにそいまは一夜をへたつるもおほつかなき こそくるしけれとてしはしなくさめあそはして出ぬるさまの返々見るとも/\あく ましくにほひやかにおかしけれは出給ぬる名残さう/\しくそなかめらるゝ女君の おまへに出きていみしくめてたてまつれはゐ中ひたるとおほしてわらひ給こうへ のうせ給し程はいふかひなくおさなき御程にていかにならせたまはんと見たてまつる 人もこ宮もおほしなけきしをこよなき御すくせの程なりけれはさる山ふと ころのなかにもおひ出させ給しにこそありけれくちおしくこひめ君のおはしまさ すなりにたるこそあかぬ事なれなと打なきつゝ聞ゆ君も打なき給て世の中の うらめしく心ほそきおり/\も又かくなからふれはすこしも思なくさめつへきおりもあるを いにしへたのみきこえけるかけともにをくれたてまつりけるは中々によのつねにおもひ (15ウ) なされて見たてまつりしらすなりにけれはあるをなを此御ことはつきせすいみしく こそ大将のよろつの事に心のうつらぬよしをうれへつゝあさからぬ御心のさまを見るに つけてもいとこそくちおしけれとのたまへは大将殿はさはかり世にためしなきまて御 かとのかしつきおほしくなるに心おこりし給ふらんかしおはしまさましかはなを此こと せかれしもしたまはさらましやなと聞ゆいさややうの物と人わらはれなるこゝち せましも中々にやあらまし見はてぬにつけて心にくゝもある世にこそはとおもへと かの君はいかなるにかあらんあやしきまて物わすれせす此宮の御のちの世をさへ 思やりふかくうしろ見ありき給めるなと心うつくしうかたり給かのすきにし御かはりに たつねて見むと此数ならぬ人をさへなんかの弁のあま君にはのたまひける さもやと思ふ給へよるへき事には侍らねと一もとゆへにこそはとかたしけ (16オ) なけれとあはれになん思ふ給へらるゝ御心ふかさなるなといふついてに此君を もてわつらふことなく/\かたるこまかにはあらねと人も聞けりと思ふに少将の 思あなつりけるさまなとほのめかしていのち侍らんかきりはなにかあさ夕のなくさめに て見すくしつへし打すて侍なん後はおもはすなるさまにちりほひ侍らんかかな しさにあまになしてふかき山にやしすへてさるかたに世中思たえて侍らまし なとなんおもふ給わひては思より侍なといふけに心くるしき御ありさまにこそは あなれとなにか人にあなつらるゝ御ありさまはかやうになりぬる人のさかにこそさり とてもたえぬわさなりけれはむけにそのかたに思をきて給へりし身たにかく 心よりほかになからふれはまいていとあるましき御事なりやついたまはんもいとおし けなる御さまにこそなといとおとなひてのたまへははゝ君いとうれしと思たりねひに (16ウ) たるさまなれとよしなからぬさまゝてきよけなるいたくこえすきにたるなん ひたち殿とは見えけるこ宮のつらふなさけなくおほしはなちたりしにいとゝ人 けなく人にもあなつられ給と見給ふれとかうきこえさせ御らんせらるゝに つけてなんいにしへのうさもなくさみ侍なと年ころの物かたりうき嶋の あはれなりし事もきこえいつ我身一のとのみいひあはする人もなきつくは 山のありさまもかくあきらめきこえさせていつも/\いとかくてさふらはまほしく 思給へなり侍ぬれとかしこにはよからぬあやしの物ともいかに立さはきもとめ 侍らんさすかに心あはたゝしく思給へらるゝかゝる程のありさまに身をやつすは くちおしき物になん侍けると身にも思しらるゝを此君はたゝまかせきこえ させてしり侍らしなとか打きこえかくれはけに見くるしからてもあらなんと (17オ) 見給かたちも心さまもえにくむましうらうたけ也物はちもおとろ/\ しからすさまよふこめいたる物からかとなからすちかくさふらふ人々にもいと よくかくれてゐ給へり物なといひたるもむかしの人の御ありさまにあやし きまておほえたてまつりてそあるやかの人かたもとめ給人に見せたて まつらはやと打おもひ出給おりしも大将殿まいり給と人聞ゆれはれいの みきちやうひきつくろひて心つかひて此まらうとのはゝ君いて見た てまつらんほのかに見たてまつりける人のいみしき物に聞ゆめれと宮の御あり さまにはえならひたまはしといへは御まへにさふらふ人々いさやえこそきこえ さためねときこえ給へりむかひておはせしかは宮はいとなさけなけに人に くゝこそ見え給しかとりはなちてはいつれもともかくもわかれすかたちよき (17ウ) 人は人をけつこそにくけれとのたまへは人々わらひてされと御まへには をされたてまつりたまはさんめりいかはかりならん人か宮をはけちたてまつらん なといふ程にいまそくるまよりおり給なると聞程かしかましきまてをひのゝしり てとみにも見えたまはすまたれたる程にあゆみいり給さまを見れはけに あなめてたおかしけにも見えすなからそなまめかしうあてにきよけなるや すゝろに見えくるしうはつかしくてひたひかみなともひきつくろはれて心はつ かしけにようゐおほくきはもなきさまそし給へる内よりまいり給へるなるへし御せん とものけはひあまたしてよへきさいの宮のなやみ給よしうけたまはりてまいり たりしかは宮たちのさふらひたまはさりしかはいとおしく見たてまつりて宮の御 かはりにいまゝてさふらひ侍つるけさもいとけたいしてまいらせ給へるをあひなう (18オ) 御あやまちにをしはかりきこえさせてなんときこえ給へはけにをろかならすおもひ やりふかき御ようゐとなんとはかりいらへきこえ給宮は内にとまり給ぬるを見をき てたゝならすおはしたるなめりれいの物語いとなつかしけにきこえ給ことにふれて たゝいにしへのわすれかたく世中の物うくなりまさるよしをあらはにはいひなさてかすめ うれへ給さしもいかてか世をへて心にはなれすのみはあらむなをあさからすいひそめ てしことのすちなれは名残なよらしとにやなと見なし給へと人のけしきはしるき物 なれは見もてゆくまゝにあはれなる御心さまを岩木ならねはおもほししる恨きこえ 給事もおほかれはいとわりなく打なけきてかゝる御心をやむるみそきをせさせたて まつらまほしくおもほすにやあらむかの人かたのたまひ出ていとしのひて此わたりに なんとほのめかしきこえ給をかれもなへてのこゝ地はせすゆかしくなりにたれと打つけに (18ウ) ふとうつらむこゝちはたせすいてやそのほんそんねかひみて給ふへくはこそたうと からめ時々心やましくは中々山水もにこりぬへくとのたまへははて/\はうたての御ひしり 心やとほのかにわらひ給もおかしう聞ゆいてさらはつたへはてさせ給へかし此御のかれ こと葉こそ思ひ出れはゆゝしくとのたまひてもまたなみたくみぬ     「見し人のかたしろならは身にそへて恋しきせゝの なて物にせむ」とれいのたはふれにいひなしてまきらはしたまふ     「みそき川せゝにいたさんなて物を身にそふかけと たれかたのまむ」ひく手あまたにとかやいとおしくそ侍やとのたまへはつゐに よるせはさらなりやいとうれたきやうなる水のあわにもあらそひ侍はかなきなか さるゝなて物いてまことそかしいかてなくさむへき事そなといひつゝくらうなるも (19オ) うるさけれはかりそめに物したる人もあやしと思ふらんもつゝましきをこよひはなを とく返たまはねとこしらへやりたまはさらはそのまらうとにかゝる心のねかひ年 へぬるを打つけになとあさふ思なすましうのたまはせしらせ給てはしたなけなる ましうはこそいとうゐ/\しうならひにて侍身はなに事もをこかましきまてなんとかた らひきこえをきて出給ぬるに此はゝ君いとめてたく思ふやうなる御さまかなとめてゝ めのとゆくりかに思よりてたひ/\いひしことをあるましきことにいひしかと此御ありさまを 見るにはあまの川をへたてゝもかゝるひこほしのひかりをこそ待つけさせめ我むすめは なのめならむ人に見せんおしけなるさまをゑひすめきたる人をのみ見ならひて少将 をかしこき物に思けるをくやしきまて思なりにけりよりゐ給へりつるまきましら もしとねも名残にほへるうつり香いへはいとことさらめきたるまてありかたし時々見たて (19ウ) まつる人たにたひことに聞ゆ経なとをよみてくとくのすくれたる事あめるにもかの かうはしきをやむことなき事に仏のたまひをきけるもことはりなりややくわうほんなと にもとりわきてのたまへるこつせんたんとかやおとろ/\しき物の名なれとまつかの殿の ちかくふるまひ給へは仏はまことし給けりとこそおほゆれおさなくおはしけるよりをこなひ もいみしくし給けれはよなといふもあり又さきの世こそゆかしき御ありさまなれなとくち/\ めつる事ともをすゝろにゑみて聞ゐたり君はしのひてのたまへることをほのめかし のたまう思そめつる事しうねきまてかろ/\しからす物し給めるをけにたゝいまの ありさまなとをおもへはわつらはしきこゝ地すへけれとかのよをそむきてもなと思より給ふ らむもおなし事に思なして心み給へかしとのたまへはつらきめ見せす人にあなつられしの 心にてこそ鳥のねきこえさらむすまゐまて思給へをきつれけに人の御ありさま (20オ) けはひを見たてまつり思給ふるはゑもつかへの程なとにてもかゝる人の御あたりになれ きこえんはかひありぬへしまいてわかき人は心つけたてまつりぬへく侍めれと数ならぬ 身に物おもひのたねをやいとゝまかせて見侍らんたかきもみしかきも女といふ物は かゝるすちにてこそ此世のちのよまてくるしき身になり侍なれと思給へ侍れはなん いとおしく思給へ侍それもたゝ御心になんともかくもおほしすてす物せさせ給へときこ ゆれはいとわつらはしくなりていさやきしかたの心ふかさに打とけてゆくさきのありさま はしりかたきをと打なけきてことに物ものたまはすなりぬ明ぬれはくるまなとゐてき てかみのせうそこなといとはらたゝしけにをひやかしたれはかたしけなくよろつにたのみ きこえさせてなんなをしはしかくさせ給ていはほのなかともいかにとも思給へめくらし侍程 かすかに侍らすともおもほしはなたす何事をもをしへさせ給へなと打なけきつゝきこえをきて (20ウ) 女この御かたもいと心ほそくならはぬこゝ地に立はなれんおもへといまめかしくおかしくみゆる あたりにしはしも見なれたてらむとおもへはさすかにうれしくおもほえけりくるまひき出る 程のすこしあかうなりぬるに宮うちよりまかて給わか君おほつかなくおほえ給けれは しのひたるさまにてくるまなともれいならておはしますにさしあひてをしとゝめてたて たれはらうに御くるまよせており給なそのくるまそくらき程にいそき出るはと めとゝめさせ給かやうにてそしのひたるところには出るかしと御心ならひにおほしよるも むくつけしひたち殿のまかてさせ給と申わかやかなる御せんともとのこそあさやかなれと わらひあへるをきくもけにこよなの身の程やとかなしく思たゝ此御かたのことを思ふゆへに そをのれからも人々しくならまほしくおほえけるましてさうしみをなを/\しくやつして 見ん事はいみしくあたらしく思なりぬ宮いり給てひたち殿といふ人やこゝにかよはし (21オ) 給心あるあさほらけにいそき出つるくるまそひなとこそことさらめきて見えつれなと なをおほしうたかひてのたまう聞にくゝかたはらいたしとおほしてたいふなとか わかくてのころともたちにてありける人はことにいまめかしうも見えさめるをゆへ/\ しけにものたまひなすかな人の聞とかめつへき事をのみつねにとりない給こそなき 名はたてゝと打そむき給もらうたけにおかし明るもしらすおほとのこもりたるに 人々あまたまいり給へはしんてんにわたりたまひぬきさひの宮はこと/\しき御なやみ にもあらてをこたり給にけれはこゝ地よけにて右のおほい殿の君たちなとこうちゐん ふたきなとしつゝあそひ給夕つかた宮こなたにわたらせ給へれは女君は御ゆするの 程なりけり人々もをの/\打やすみなとして御まへには人もなしちいさきわらはのある しておりあしき御ゆするの程こそ見くるしかめれさう/\しくてやなかめんときこえ給へは (21ウ) けにおはしまさぬひま/\にこそれいはすさせあやしう日ころも物うから せ給てけふすきはこの月は日もなし九十月はいかてつかまつらせつるをとたいふ いとおしかるわか君もね給へりけれはそなたにこれかれある程に宮はたゝすみ ありき給て西のかたにれいならぬわらはの見えつるをいままいりたるかなとお ほしてさしのそき給なかの程なるさうしほそめにあきたるより見給へはさうし あなたに一尺はかりひきさけて屏風たてたりそのつまにきちやうすにそへて たてたりかたひらひとへを打かけてしをん色の花やかなるにをみなへしのをり 物と見ゆるかさなりて袖くちさしいてたり屏風の一ひらたゝまれたるより 心にもあらて見ゆるなめりいままいりのくちおしからぬなめりとおほして此ひさしに かよふさうしをいとみそかにをしあけ給てやをらあゆみより給も人しれす (22オ) こなたのらうのなかのつほせんさいのいとおかしう色々にさきみたれ たるにやり水のわたりの石たかき程いとおかしけれははしちかくそひふして なかむるなりけりあきたるさうしをいますこしをしあけて屏風のつまより のそき給に宮とは思もかけすれいこなたにきなれたるやうたいいと おかしう見ゆるにれいの御心は見すくしたまはてきぬのすそをとらへ給てこ なたのさうしはひきたて給て屏風のはさまにゐたまひぬあやしと思ひ て扇をさしかくして見かへりたるさまいとおかしあふきをもたせなからとらへ給て 誰そ名のりこそゆかしけれとのたまふにむくつけくなりぬさる物のつらにかほを ほかさまにたてかくしていといたうしのひ給へれは此たゝならすほのめかし給ふらん 大将にやかうはしき気はひなとも思わたさるゝにいとはつかしくせんかたなし (22ウ) めのと人けのれいならぬをあやしと思ひてあなたなる屏風ををしあけて きたり是はいかなることにか侍らんあやしきわさにも侍かなときこゆれと はゝかり給ふへき事にもあらすかく打つけなる御しわさなれとことの葉 おほかる御本上なれはなにやかやとのたまふに暮はてぬれと誰ときか さらむ程はゆるさしとてなれ/\しくふし給に宮なりけりと思侍にめのとい はんかたなくあきれてゐたりおほとなふらはとうろにてまいれりいまわ たらせ給なんと人々いふ也おまへならぬかたのみかうしともそおろすなるこ なたははなれたてたるかたにしなしてたかきたなつし一よろひたて 屏風のふくろにいれこめたるところ/\によせかけなにかのあらゝなる さまにはなちたりかく人の物し給へはとてかよふみちさうし一まはかりそ (23オ) あけたるを右近とてたいふかむすめのさふらふきてかうしおろしてこゝに よりてくなりあなくらやまたおほとなふらもまいらせさりけりみかうしを くるしきにいそきまいりてやみにまよふとてひきあくる宮もなまくるしと 聞給めのとはたいとくるしと思ひて物つゝみせすはやりかにをそき人にて物 きこえ侍らんこゝにいとあやしきことの侍に見給へこうしてなんえうこき 侍らてなん何事そとてさくりよるにうちきすかたなるおとこのいとかうはしく そひふし給へるをれいのけしからぬ御さまと思よりにけり女の心あはせ給まし き事とをしはからるれはけにいと見くるしきことにも侍かな右近はいか にかきこえさせむいままいりて御せんにこそはしのひてきこえさせめとてた つをあさましくかたはに誰も/\おもへと宮はおちたまはすあさましきまて (23ウ) あてにおかしき人かななをなに人ならむ右近かけしきもいとおしなへて のいまゝいりにはあらさめりと心えかたくおほされてといひかくいひ恨給 心つきなけに気しきはみてももてなさねとたゝいみしうしぬはかり おもへるかいとおしけれはなさけありてこしらへ給右近うへにしか/\こそお はしませいとおしくいかにもおもほらん聞ゆれはれいの心うき御さまかなかのはゝも いかにあは/\しくけしからぬさまに思たまはんとすらむうしろやすくと返々いひ をきつる物をといとおかしくおほせといかゝきこえんさふらふ人々もすこし わかやかによろしきは見すて給ことなくあやしき人の御くせなれはいかてかは 思より給けんとあさましきに物もいはれたまはすかんたちめあまたまいり 給ふ日にてあそひたはふれてはれいもかゝる時はをそくもわたり給へはみな打 (24オ) とけてやすみ給そかしさてもいかにすへきことそかのめのとこそおそましかりけれ つとそひてゐてまもりたてまつりひきもかなくりたてまつるへくこそ思たり つれと少将とふたりしていとおしかる程に内より人まいりて大宮この夕暮 より御むねなやませ給をたゝいまいみしくをもくなやませ給よし申さす右近心な きおりの御なやみかなきこえさせむとてたつ少将いてやいまはかひなくも あへいことををこかましくあまりなおひやかしきこえ給そといへはいなまたしかる へしとしのひてさゝめきかはすをうへはいとゝ聞にくき人の御本上にこそ あめれすこし心あらん人は我あたりをさへうとみぬへかめりとおほすまいりて 御つかひの申よりもいますこしあはたゝしけに申なせはうこき給ふへきさまに もあらぬ御けしきにたれかまいりたるれいのおとろ/\しくおひやかすとのたまはす (24ウ) れは宮のさふらひにたいらのしけつねとなんなのり侍つると聞ゆ出たまはん ことのいとわりなくくちおしきに人めもおほされぬにうこん立出て此御つかひにし おもてにてとへは申つきつる人もよりきて中つかさの宮まいらせたまひぬたいふは たゝいまなんまいりつるみちに御くるまひき出る見侍つと申せはけににはかに 時々なやみ給おり/\もあるをとおほすに人のおほすらんこともはしたなくなりて いみしう恨契りをきて出たまひぬおそろしき夢のさめたるこゝ地してあせにをし ひたしてふし給へりめのと打あふきなとしてかゝる御すまゐはよろつにつけてつゝましう ひんなかりけりかくおはしましそめてはさらによきこと侍らしあなおそろしやかきりなき 人と聞ゆともやすからぬ御ありさまはいとあちきなかるへしよそのさしはなれ たらむ人にこそよしともあしともおほえられたまはめ人きゝもかたはらいたき事と (25オ) 思給てかまのさうをいたしてつと見たてまつりつれはいとむくつけくけす/\し き女とおほして手をいといたくつませ給へるこそなを人のけさうたちていとお かしくもおほし侍つれかの殿にはけふもいみしくいさかひ給けりたゝ一ところの 御うへを見あつかひ給とてわかこともをはおほしすてたりまらうとのおはする程の 御たひゐ見くるしとあら/\しきまてそきこえ給けるしも人さへきゝいと おしかりけりすへて此少将の君そいとあいきやうなくおほえ給此みこと侍ら さらましかはうち/\やすからすむつかしき事はおり/\侍れともなたらかに年ころの まゝにておはしますへき物をなと打なけきつゝいふ君はたゝいまともかくもおもひ めくらされすたゝいみしくはしたなく見しらぬを見つるにそへてもいかにおほす らむと思ふにわひしけれはうつふしてなき給いとくるしと見あつかひて (25ウ) なにゝかくおほすはゝおはせぬ人こそたつきなうかなしかるへきなれよそのおほ えはちゝなき人はいとくちおしけれとさかなきまゝはゝににくまれんよりは 是はいとやすしともかくもしたてまつり給てんなおほしくんせそさりともはつせ のくはんをんおはしませはあはれと思きこえ給ふらんならはぬ御身にたひ/\しきり てまて給事は人のかくあなつりさまにのみ思きこえたるをかくもありけりと 思ふはかりの御さいはひおはしませとねんし侍れあま君は人わらはれにては やみ給なんやと世をやすけにいひゐたり宮はいそきて出給也内ちかきかた にやあらむこなたのみかとより出給へは物のたまふ御こゑも聞ゆいとあてにかきり もなくきこえて心はへあるふる事なと打すし給てすき給程すゝろにわつら はしくおほゆうつしむまともひきいたしてとのゐにさふらふ人十人はかりして (26オ) まいり給うへいとおしくうたて思ふらんとてしらすかほにて大宮なやみ給とてま いり給ぬれはこよひは出たまはしゆするのなこりにやこゝ地もなやましくておき ゐ侍をわたり給へつれ/\にもおほさるらむときこえ給へりみたりこゝ地のいとくる しう侍をためらひてとめのとしてきこえ給いかなる御こゝちそと立かへりとふらひ きこえ給へはなにこゝちともおほえ侍らすたゝいとくるしく侍ときこえ給へは 少将右近めましろきをしてかたはらそいたくおほすらむといふもたゝなる よりはいとおしいとくちおしく心くるしきわさかな大将の心とゝめたるさまにのたまふ めりしをいかにあは/\しく思おとさんかくみたりかはしくおはする人はきゝにくゝ しちならぬ事をもくねりいふ又まことにすこしおもはすならむ事をもさすかに見ゆ るしつへうこそおはすめれ此君はいはてうしとおもはん事いとはつかしけに心ふかきを (26ウ) あいなく思ふことそひぬる人のうへなめり年ころ見すしらさりつる人のうへなれと 心はへかたちを見れはえ思はなつましうらうたく心くるしきに世中はありかたく むつかしけなる物かな我身のありさまはあかぬ事おほかるこゝちすれとかく物はかな きめも見つへかりける身のさはゝふれすなりにけるにこそけにめやすきなり けれいまはたゝ此にくき心そひ給へる人のなたらかにて思はなれなはさらに何 事も思いれすなりなんとおもはすいとおほかる御くしなれはとみにもえほしやら すおきゐ給へるもくるししろき御そ一かさねはかりにておはするほそやかにて おかしけ也此君はまことにこゝちもあしくなりにたれとめのといとかたはらいたし ことしもありかほにおほすらむをたゝおほとかにて見えたてまつり給へうこんの君 なとにはことのありさまはしめよりかたり侍らんとせめてそゝのかしたてゝこなたの (27オ) さうしのもとにてうこんの君に物きこえさせんといへはたちて出たれはいとあや しく侍つることのなこりに身もあつうなり給てまめやかにくるしけに見えさせ 給を御まへにてなくさめきこえさせ給へとてなんあやまちもおはせぬ身を いとつゝましけにおもほしわひためるもいさゝかにても世をしり給へる人こそ あれいかてかはとことはりにいとおしく見たてまつるとてひきおこして まいらせたてまつる我にもあらす人の思ふらむ事もはつかしけれといと やはらかにおほときすき給へる君にてをしいれられてゐ給へりひたひ かみなとのいたうぬれたるをもてかくしてひのかたにそむき給へるさま うへをたくひなく見たてまつるにをとると見えすあてにおかし是におほし つきなはめさましけなる事はありなんかしかゝらぬをたにめつらしき人おかしう (27ウ) し給御心をとふたりはかりそおまへにてえはちあへたまはねは見ゐたりける 物語いとなつかしくし給てれいならすつゝましきところとな思なし給そ こひめ君のおはせすなりにし後わするゝ世なくいみしく身もうらめしく たくひなきこゝ地してすくすにいとよく思よそへられ給御なさけを見 れはなくさむこゝちしていみしうあはれになん思ふ人なき身にむかし の御心さしのやうにおもほさはいとうれしくなんなとかたらへ給へといと物つゝま しくてまたひなひたる心にいらへきこえん事もなくて年ころいとはるかに のみ思きこえさせしにかう見たてまつり侍れは何事もなくさむこゝち し侍てなんとはかりいとわかひたるこゑにていふゑなととり出させてみ しかく火ともしてと右近にことはよませて見給にむかひて物はちもえ (28オ) しあへたまはす心にいれて見給へるほかけさらにこゝかと見ゆるところ なくこまかにおかしけ也ひたひつきまみのかほりたるこゝ地していとおほ とかなるあてさはたゝそれとのみ思ひ出らるれはゑはことにめもとゝめ たまはていとあはれなる人のかたちかないかてかうしもありけるにかあ らむこ宮にいとよくにたてまつりたるなめりかしこひめ君は宮の御 かたさまに我ははゝうへににたてまつりたるとこそはふる人ともいふなりしか けににたる人はいみしき物なりけりとおほしくらふるに涙くみて見給かれ はかきりなくあてに気たかき物からなつかしうなよらかにかたはなる まてなよ/\とたはみたるさまし給へりしにこそ是はまたもてなしの うゐ/\しきによろつの事をつゝましうのみ思たるけにや見ところおほかる (28ウ) なまめかしさそをとりたるゆへ/\しきけはひたにもてつけたらは大将の 見たまはんにもさらにかたはなるましなとこのかみ心に思あつかはれ給物語なと し給てあか月かたになりてそね給かたはらにふせてこ宮の御事とも年ころ おはせし御ありさまなとまほならねとかたり給いとゆかしう見たてまつらす なりにけるをいとくちおしうかなしと思たりよへの心しりの人々はいかなり つらむなといとらうたけなる御さまをいみしうおほすともかひあるへ き事かはいとおしといへは右近そさもあらしかの御めのとのひきすへてすゝ ろにかたりうれへし気しきもてはなれてそいひし宮もあひてもあはぬやう なる心はへにこそうちこそふきくちすさひ給しかはいさやことさらにもやあらん そはしらすかしよへのほかけのいとおほとかなりしもことありかほには見えたまは (29オ) さりしを打さゝめきていとおかしかるめのとくるまこひてひたち殿へいぬ北のかたに かう/\といへはむねつふれさはきて人もけしからぬさまにいひ思ふらんさうしみも いかゝおほすへきかゝるすちの物にくみはあて人もなき物なりとをのか心ならひにあは たゝしく思なりて夕つかたまいりぬ宮おはしまさねは心やすくてあやしく心をさな けなる人をまいらせをきてうしろやすくはたのみきこえさせなからいたちの 侍らんやうなるこゝ地のし侍れはよからぬ物ともににくみうらみられ侍ときこゆ いさいふはかりのおさなけさにはあらさめるをうしろめたけにけしきはみたる御まかけ こそわつらはしけれとてわらひ給へるか心はつかしけなる御まみを見るも心のおにゝはつ かしくそおほゆるいかにおほすらむとおもへはえも打出きこえすかくてさふらひ たまはゝ年ころのねかひのみつこゝ地して人のもり聞侍らんもめやすくおもたゝ (29ウ) しき事になん思給ふるをさすかにつゝましき事になん侍けるふかき山のほいはみ さほになん侍へきをとて打なくもいと/\おしくてこゝはなに事かうしろめたく おほえ給ふへきとてもかくてもうと/\しく思はなちきこえはこそあらはけし からすたちてよらぬ人の時々物し給めれとその心をみな人見しりためれは心つ かひしてひんなうはもてなしきこえしと思ふをいかにをしはかり給にかとのたまふ さらに御心をはへたてありても思きこえさせ侍らすかたはらいたうゆるしな かりしすちはなにゝかかけてもきこえさせ侍らんそのかたならておもほしはなつ ましきつなも侍をなんとらへところにたのみきこえさするなとをろかならす きこえてあすあさてかたき物いみに侍をおほそうならぬところにてすくし て又もまいらせ侍らんときこえていさなういとおしくほいなきわさかなとお (30オ) ほせとえとゝめたまはすあさましうかたはなることにおとろきさはきたれも おさ/\物もきこえていてぬかやうのかたたかへところと思ひてちいさき家 まうけたりけり三条わたりにされはみたるかまたつくりさしたるところ なれははか/\しきしつらひもせてなんありけるあはれ此御身一をよろつにもて なやみ聞ゆるかな心にかなはぬ世にはありふましき物にこそありけれみつから はかりはたゝひたふるにしな/\しらす人けなうたゝさるかたにはひこもりて すくしつへし此御ゆかりは心うしと思きこえしあたりをむつひ聞ゆるにひんなき こともいてきなはいと人わらへなるへしあちきなしことやうなりともこゝを人にも しらせすしのひておはせよをのつからともかくもつかうまつりてんといひをきて 身つからはかへりなんとす君は打なきて世にあらむことところせけなる身と思 (30ウ) くし給へるさまいとあはれなるおやはたましてあたらしくおしけれはつゝか なくて思ふこと見なさむとおもふさるかたはらいたき事につけて人にも あは/\しくおもはれいはれんかやすからぬなりけりこゝちなくなとはあらぬ 人のなまはらたちやすく思のまゝにそすこしありけるかの家にも かくろへてはすへたりぬへけれとしかかくろへたらむをいとおしと思ひてかくあつ かふに年ころかたはらさらす明暮見ならひてかたみに心ほそくわりなしと おもへりこゝは又かくあはれてあやうけなるところなめりさる心し給へとのゐ人の 事なといひをきて侍もいとうしろめたけれとかしこにはらたちうらみらるゝか いとくるしけれはとなきてかへる少将のあつかひをかみは又なき物に思いそき てもろ心にさまあしくいとなさすとえんするなりけりいと心うく此人々よりかゝる (31オ) まきれともゝあるそかしと又なく思ふかたのことのかゝれはつらく心うくておさ/\ 見いれすかの宮の御まへにていと人けなく見えしにおほく思おとしてけれはわた くし物に思かしつかましをなと思しことはやみにたりこゝにてはいかゝ見ゆらんまたうち とけたるさま見ぬにと思ひてのとかにゐ給へるひるつかたこなたにわたりてものより のそくしろきあやのなつかしけなるにいまやう色のうちめなともきよらなるをきて はしのかたにせんさい見るとてゐたるはいつこかは人にをとるいときよけなめるはと みゆむすめまたかたなりになに心もなきさまにてそひふしたり宮のうへのなら ひておはせし御さまともの思ひ出れはくちおしのさまともやと見ゆまへなるこ たちに物なといひたはふれて打とけたるはいと見しやうににほひなく人わろけ にも見えぬをかの宮なりしはこと少将なりけりとおもふおりしもいふことよ兵部卿の (31ウ) 宮のはきのなをことにおもしろくもあるかないかてさるたねありけんおなしえたさし なとのいとえんなるこそ一日まいりて出給程なりしかはえおらすなりにきことたにおしき と宮の打すし給へりしをわかき人たちに見せたらましかはとて我もうたよみゐ たりいてや心はせの程をおもへは人ともおほえすいてきえはいとこよなかりけるに なに事いひゐたるそとつふやかるれといとこゝ地なけなるさまはさすかにしたらねは いかゝとてこゝろみに     「しめゆひしこはきかうへもまよはぬにいかなるつゆに うつるした葉そ」とあるにいとおしくおほえて     「みやき野のこはきかもとゝしらませは露もこゝろを わかすそあらまし」いかてみつからきこえさせあきらめむといひたりこ宮の御事 (32オ) 聞たるなめりと思ふにいとゝいかて人とひとしくとのみ思あつかはるあいなく大将殿の御 さまかたちそ恋しうおもかけに見ゆるおなしうめてたしと見たてまつりしかと宮は思ひ はなれ給て心もとまらすあなつりてをしいり給へりけるを思ふもねたし此君はさすかに たつねおほす心はへのありなから打つけにもいひかけたまはすつれなしかほなるしもこそ いたけれよろつにつけて思いてらるれはわかき人はましてかくや思ひ出きこえ給ふらん 我物にせんとかくにくき人を思ひけんこそ見くるしき事なへかりけれなとたゝ心に かゝりてなかめのみせられてとてやかくてやとよろつにうからんあらましことを思ひ つゝくるにいとかたしやむことなき御身の程御もてなし見たてまつり給へらん人は いますこしなのめならすいかはかりにてかは心をとゝめたまはん世の人のありさまを 見聞にをとりまさりいやしうあてなるしなにしたかひてかたちも心もあるへき物 (32ウ) なりけりわかこともを見るに此君にもにるへきやはある少将を此家のうちに又なき 物におもへとも宮に見くらへたてまつりしかはいともくちおしかりしにおしはからるたう たいの御かしつきむすめをえたてまつり給へらん人の御めうつしにはいとも/\はつかしく つゝましかるへき物かなとおもふにすゝろにこゝちもあくかれにけり旅のやとりはつれ/\ にて庭の草もいふせきこゝちするにいやしきこゑしたる物ともはかりのみ出入 なくさめに見るへきせんさいの花もなし打あはれてはれ/\しからてあかしくらすに 宮のうへの御ありさま思ひ出るにわかいこゝ地に恋しかりけりあやにくたち給へりし人の 御けはひもさすかに思ひ出られて何事にかありけんいとおほくあはれけにのたまひ しかな名残おかしかりし御うつり香もまた残りたるこゝ地しておそろしかりしも 思ひ出らるはゝ君たつやといとあはれなる文をかきてをこせ給をろかならす心くる (33オ) しう思あつかひ給めるにかひなうもてあつかはれたてまつることしも打なかれていかに つれ/\に見ならはぬこゝちし給ふらむしはししのひすくし給へとある返事につれ/\はなに かこゝろやすくてなん     「ひたふるにうれしからまし世のなかにあらぬところと おもはましかは」とおさなけにいひたるを見るまゝにほろ/\と打なきてかうまとはし はふるやうにもてなす事といみしけれは     「うき世にはあらぬところをもとめてもきみかあたりを 見るよしもかな」となを/\しき事ともをいひかはしてなん心のへけるかの大将殿はれい の秋ふかくなりゆくころならひにし事なれはねさめ/\に物わすれせすあはれにのみ おほえ給けれはうちの御たうつくりはてつと聞給と身つからおはしましたりひさしう (33ウ) 見たまはさりつるに山のもみちもめつらしうおほゆこほちししんてんこたみは いとはれ/\しうつくりなしたりむかしいとことそきてひしりたち給へりしすまゐ をおもひ出るにこ宮も恋しうおほえ給てさまかへてけるもくちおしきまて つねよりもなかめ給もとありし御しつらひはいとたうとけにていまかたつ かたををんなしくこまやかになと一かたならさりしをあしろ屏風なにかの あら/\しきなとはかのみたうのそうはうのくにことさらになさせ給へり山さと めきたるくともをことさらにせさせ給ていたうもことそかすいときよけに ゆへ/\しくしつらはれたりやり水のほとりなる岩にゐ給てとみにもたゝれす     「たえはてぬしみつになとかなき人のおもかけをたに とゝめさりけん」涙ををしのこひつゝ弁のあま君のかたに立より給へれはいとかな (34オ) しと見たてまつるにたゝひそみにひそむなけしにかりそめにゐ給てすたれの つまひきあけて物語し給きちやうにかくろへてゐたりことのついてにかの人はさい つころ宮にと聞しをさすかにうゐ/\しくおほえてこそ音つれよらねなを是より つたへはて給へとのたまへは一日かのはゝ君のふみ侍きいみたかうとてこゝかしこに なんあくかれ給める此ころもあやしきこ家にかくろへ物し給めるも心くるしく すこしちかき程ならましかはそこにわたして心やすかるへきをあらましき 山みちにたはやすくもえ思たゝてなんと侍しと聞ゆ人々のかくおそろしく すめるみちにまろこそふりかたくわけくれなにはかりの契りにかとおもへはあはれに なんとてれいの涙くみ給へりさらはその心やすからんところにせうそこし給へ 身つからやはかしこに出たまはぬとのたまへはおほせことをつたへ侍らんことはやすし (34ウ) いまさらに京を見侍らん事は物うくて宮にたにえまいらぬをときこゆ なとてかともかくも人の聞つたへはこそあらめあたこのひしりたに時に したかひてはいてすやはありけるふかき契りをやふりて人のねかひ を見てたまはんこそたうとからめとのたまへは一たひわたすことも 侍らぬに聞にくき事もこそ出まうてくれとくるしけに思たれとなを よきおりなゝるをとれいならすしのひてあさてはかりくるまたてまつ れんそのたひのところたつねをき給へゆめをこかましくひかわさすましう をとほゝゑみてのたまへはわつらはしくいかにおほすことならんとおもへとあふなく あは/\しからぬ御心さまなれはをのつからわか御ためにも人きゝなとはつゝみ給ふ らむと思ひてさらはうけたまはりぬちかき程にこそ御文なとを見せさ (35オ) せ給へかしふりはへさかしらめきて心しらひのやうにおもはれ侍らむも いまさらにいかたうめのかたてにやとつゝましくてなんと聞ゆ文はやすかる へきを人の物いひいとうたてある物なれは右大将はひたちのかみのむすめを なんよはふなるなともとりなしてむをやそのかんのぬしいとあら/\しけなめ りとのたまへは打わらひていとおしと思ひくらふなれは出給下草のおかしき花 とも紅葉なとおらせ給て宮に御らんせさせ給かひなからすおはしぬへけれと かしこまりをきたるさまにていたうもなれきこえたまはすそあめるうちより たゝのおやめきて入道の宮にもきこえ給へはいとやむことなきかたはかきり なく思きこえ給へりこなたかなたとかしつききこえ給宮つかへにそへてむつかし きわたくし心のそひたるもくるしかりけりのたまひしまたつとめてむつましく (35ウ) おほすけらうさふらひひとりかほしらぬうしかひつくり出てつかはすさうの物とも のゐなかひたるめし出つゝつけよとのたまふかならすいつへくのたまへりけれは いとつゝましくくるしけれと打けさうしつくろひてのりぬ野山のけしきを見る につけてもいにしへよりのふることとも思ひ出られてなかめくらしてなんきつき けるいつつれ/\に人めも見えぬところなれは心やすくひきいれてかくなんまいり きつるとしるへのおとこしていはせたれははつせのともにありしわか人出きておろす あやしきところをなかめくらしあかすにむかしかたりもしつへき人のきたれはうれしく てよひ入給ておやときこえける人の御あたりの人と思ふにむつましきなるへし あはれに人しれす見たてまつりし後よりは思ひ出きこえぬおりなけれと世中かはり 思給へすてたる身にてかの宮にたにまいり侍らぬを此大将殿のあやしきまて (36オ) のたまはせしかは思給へをこしてなんと聞ゆ君もめのともめてたしと見をきき こえてし人の御さまなれはわすれぬさまにのたまふらんもあはれなれとにはかに かくおほしたはかるらむと思もよらすよゐ打すくる程に内より人まいれりとて かとしのひやかに打たゝくさにやあらむとおもへと弁あけさせたれはくるま をそひきいるにあやしと思ふにあま君にたいめんたまはらむとて此ちかき みさうのあつかりのなのりをせさせ給へれは戸くちにゐさり出たり雨すこしうち そゝくに風はいとひやゝかに吹いりていひしらすかほりくれはかうなりけりと 誰も/\心ときめきしぬへき御けはひおかしけれはよういもなくあやしきに 又思あへぬ程なれは心さはきていかなることにかあらむといひあへり心やすきところ にて月ころの思あまることもきこえさせんとてなんといはせ給へりいかに聞ゆへき (36ウ) ことにかと君はくるしけに思ひてゐ給へれはめのと見くるしかりてしかおはし ましたらんをたちなからやかへしたてまつりたまはんかの殿にこそかくなんと しのひてきこえめちかき程なれはといふうゐ/\しくなとてかさはあらんわかき 御とち物きこえたまはんはふとしもしみつくへくもあらぬをあやしきまて心 のとかに物ふかうおはする君なれはよも人のゆるしなくては打とけたまはしなと いふ程雨やゝふりくれは空はいとくらしとのゐ人のあやしきこゑしたる 夜行うちしてやかのたつみのくつれいとあやうし此人のみくるまいるつくは ひきいれてみかとさしてよからぬ人のとも人こそ心はうたてあれなと いひあへるもむく/\しく聞ならはぬこゝちし給さのゝわたりに家も あらなくになとくちすさひて里ひたるすこのはしつかたにゐ給へり (37オ)     「さしとむるむくらやしけきあつまやのあまりほとふる 雨そゝき哉」わかたちぬれんと打わらひ給へるをひかせいとかたはなる まてあつまの里人もおとろきぬへしとさまかうさまにきこえのかれむ かたなけれはみなみのひさしにおましひきつくろひていれたてまつる心やすく もたいめしたまはぬをこれかれをしいてたりやり戸といふ物さしていさゝかあけ たれはひたのたくみもうらめしきへたてかなかゝる物のとはまたゐならはすとう れへ給ていかゝし給けんいりたまひぬかの人かたのねかひはのたまはておほえなき 物のはさまより見しよりすゝろに恋しきことさるへきにやあらむあやしき まてそ思聞ゆるとそかたらひ給ふへき人のさまいとらうたけにおほとき たれは見をとりもせすいとあはれとおほえけり程もなう明ぬるこゝちするに (37ウ) 鳥なとはなかておほちちかきところにおほとれたるこゑしていかにとか聞 もしらぬなのりをして打むれてゆくなとそ聞ゆるかやうのあさほらけに 見れは物いたゝきたる物のおにのやうなるさまそかしと聞給もかゝる よもきのまろねにならひたまはぬこゝ地もおかしくもありけりとのゐ人もかと あけて出るをとすをの/\いりてふしなとするを聞給て人めしてくるまつま戸 によせさせ給かきいたきてのせ給つ誰も/\あやしうあへなき事を思さ はきて九月にもありけるを心うのわさやいかにしつることそとなけゝはあま 君もいと/\おしく思のほかなる事ともなれとをのつからおほすやうあらむ うしろめたうな思給そ長月はあすこそせちふと聞しかといひなくさむけふ は十三日なりけりあま君こたみはえまいらし宮のうへきこしめさんことも (38オ) あるにしのひてゆきかへり侍らむもいとうたてなんと聞ゆれとまたき此ことを きかせたてまつらむも心はつかしくおほえ給てけれは後にもつみさり申給 てんかしこにしるへなくてはたつきなきところをもせめてのたまふ人ひとりや侍 へきとのたまへは此君にそひたる侍従とのりぬめのとあま君のともなりしわらは なともをくれていとあやしきこゝちしてゐたりちかき程にやとおもへはうちへおは するなりけりうしなとひきかふへき心まうけし給へりかはらすきほうさうしのわたり おはしますに夜は明はてぬわかき人はいとほのかに見たてまつりてめてきこえて すゝろに恋たてまつるに世中のつゝましさもおほえす君そいとあさましきに 物もおほえすうつふし/\たるをいしたかきわたりはくるしき物をとていたき給へり うす物のほそなかをくるまのなかにひきへたてたれは花やかにさし出たる朝日影に (38ウ) あま君はいとはしたなくおほゆるにつけてこひめ君の御ともにこそかやう にても見たてまつりつへかりしかありふれは思かけぬことをも見るかなとかな しうおほえてつゝむとすれと打ひそみつゝなくを侍従はいとにくゝ物の はしめにかたちことにてのりそひたるをたにおもふになそかくいやめなる とにくゝをこにも思おいたる物はすゝろに涙もろにある物そとおろそかに うちおもふなりけり君も見る人はにくからねと空の気しきにつけても きしかたの恋しさまさりて山ふかく入まゝにも霧たちわたるこゝ地し 給打なかめてよりゐ給へる袖のかさなりなからなかやかに出たりけるか川霧 にぬれて御そのくれなゐなるに御なをしの花のおとろ/\しううつり たるをおとしかけのたかきところに見つけてひきいれたまふ (39オ)     「かた見そと見るにつけてはあさ露のところせきまて ぬるゝ袖かな」と心にもあらすひとりこち給を聞ていとゝしほるはかりあま君 の袖もなきぬらすをわかき人あやしう見くるしき世かな心ゆくみちにいと むつかしきことそひたるこゝちすしのひかたけなるはなすゝりをきゝ給て我 もしのひやかに打かみていかゝおもふらむといとおしはあまたの年ころこの みちをゆきかふたひかさなるをおもふにそこはかとなく物あはれなるかな すこしおきあかりて此山の色も見給へいとむもれたりやとしゐてかき おこし給へはおかしき程にさしかくしてつゝましけに見いたしたるまみ なとはいとうく思ひ出らるれとおいらかにあまりおほときすきたる そ心もとなかめるいといたうこめいたる物からようゐのあさからす物し給し (39ウ) はやとなをゆくかたなきかなしさはむなしきそらにもみちぬ へかめりおはしつきてあはれなき玉ややとりて見給ふらむ 誰によりてかくすゝろにまよひありく物にもあらなくにと思ひ つゝけ給ておりてはすこし心しらひてたちさり給へり女ははゝ 君のおもひたまはん事なといとなけかしけれとえんなるさまに心 ふかくあはれにかたらひ給に思なくさめておりぬあま君はことさらに おりてらうによするをわさとおもふへきすまゐにもあらぬをよう ゐこそあまりなれと見給みさうよりれいの人々さはかしきまて まいりあつまる女の御たいはあま君のかたよりまいるみちはしけかり (40オ) つれと此ありさまいとはれ/\し川の気しきも山の色ももてはやし たるつくりさまを見いたして日ころのいふせきなくさみぬるこゝ ちすれといかにもてないたまはんとするにかとうきてあやしう おほゆ殿は京に御ふみかき給也あはぬ仏の御かさりなと見給へをき てけによろしき日なりけれはいそき物し侍てみたりこゝ地のなや ましきに物いみなりけるを思給へ出てなんけふあすこゝにてつゝしみ 侍へきなとはゝ宮にもきこえ給打とけたる御ありさまいますこし おかしくていりおはしたるもはつかしけれともてかくすへきにも あらてゐ給へり女の御さうそくなと色々にきよくと思ひてしかさね (40ウ) たれとすこしゐなかひたる事も打ましりてそむかしのいとなみ はみたりし御すかたのあてになまめかしかりしのみ思ひ出られ てかみのすそのおかしけさなとはこま/\とあて也宮の御くしの いみしくめてたきにもをとるましかりけりと見給かつは此人をいかに もてなしてあらせんとすらむたゝいま物々しけにてかの宮にむかへすへんも をときひんなかるへしさりとてこれかれあるつらにておほそふに ましらはせむはほいなからむしはしこゝにかくしてあらむと思も見すは さう/\しかるへくあはれにおほえ給へはをろかならすかたらひくらし給 こ宮の御事ものたまひ出てむかしの物語おかしうこまやかにいひたはふ (41オ) れ給へとたゝいとつゝましけにてひたちにはちたるをさう/\しうおほす あやまりてもかうも心もとなきはいとよくをしへつゝも見てんゐ中ひ たるされ心もてつけてしな/\しらすはやりかならましはしもかたしろふよう ならましと思なし給こゝにありけるきんさうのことめし出てかゝることはた ましてえせしかしとくちおしけれはひとりしらへて宮うせ給て後こゝ にてかゝる物にいとひさしうてふれさりつかしとめつらしく我なからおほえて いとなつかしくまさくりつゝなかめ給に月さし出ぬ宮の御きんのねの おとろ/\しくはあらていとおかしくあはれにひき給しはやとおほし出て むかし誰も/\おはせし世にこゝにおひ出給へらましかはいますこしあはれは (41ウ) まさりなましみこの御ありさまはよその人たにあはれに恋しく こそおもひいてられ給へなとてさるところには年ころへたまへしそと のたまへはいとはつかしくてしろきあふきをまさくりつゝそひふしたる かたはらめいとくまなうしろうてなまめいたるひたひかみのひまなと いとよくおもひ出られてあはれ也まいてかやうのこともつきなからす をしへなさはやとおほしてこれはすこしほのめいたまひた るやあはれわかつまといふことはさりとも手ならし給けんなととひ たまふそのやまとこと葉たにつきなくならひけれはましてこれ はといふいとかたはにこゝろをくれたりとは見えすこゝにをきては (42オ) えおもふまゝにもこさらん事をおほすかいまよりくるしきはなのめには おほさぬなるへしことはをしやりて楚わうのたいのうへのよるのきんの こゑとすんし給へるもかのゆみをのみひくあたりにならひていとめてたく おもふやうなりと侍従も聞ゐたりけりさるはあふきの色もこゝろ をきつきねやのいにしへをはしらねはひとへにめてきこゆるそ をくれたるかしことこそあれあやしくもいひつるかなとおほす あま君のかたよりくたものまいれりはこのふたにもみちつた なとおりしきてゆへなからすとりませてしきたるかみに ふつゝかにかきたる物くまなき月にふと見ゆれはめとゝめ (42ウ) たまふほとにくたものいそきにそ見えける     「やとり木は色かはりぬる秋なれとむかしおほえて すめる月かな」とふるめかしくかきたるをはつかしくも あはれにもおほされて     「里の名もむかしなからも見し人のおもかはりせる ねやの月かけ」わさとかへり事とはなくてのたまうを しゝうつたへけるとそ ---------------------------------------------------------------------------------- 底本:Japanese Rare Book Collection (Library of Congress) LC Control No.2008427768 翻字担当者:千川彩佳、伊藤朋、山田友美、阿部江美子、矢澤由紀 更新履歴: 2012年12月26日公開 2013年12月10日更新 ---------------------------------------------------------------------------------- 修正箇所(2013年12月10日修正) 丁・行 誤 → 正 (25オ)2 事を → 手を (29ウ)1 たかき → ふかき (32ウ)2 おしはかゝる → おしはからる