米国議会図書館蔵『源氏物語』 夢浮橋 ---------------------------------------------------------------------------------- 記号の説明 1.くの字点は/\で表す。 2.和歌は「」で括る。 3.散らし書き和歌の末尾に#を付ける。 4.判読できない文字は■で表す。 本文の修正 1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。 ---------------------------------------------------------------------------------- 夢のうき橋 (1オ) 山におはしてれいせさせ給やうに経仏なとくやうせさせ 給又の日はよ川におはしたれはそうつおとろきかしこまりきこ え給年ころ御いのりなとつけかたらひ給けれとことにいとしたし き事はなかりけるを此たひ一品の宮の御こゝ地の程にとふらひ給へる にすくれ給へるけむ物し給けりと見給てよりこよなうたう とひ給ていますこしふかき契りくはへ給てけれはをも/\しうお はする殿のかくわさとおはしましたる事ともてさはききこえ給 御物語なとこまやかにしておはすれは御ゆつけまいり給すこし人々 しつまりぬるに小野のわたりにしり給へるやとりや侍ととひ給へはしか侍る (1ウ) いとことやうなるところなんなにかしかはゝなるくちあまの侍を京に はか/\しからぬすみかも侍らぬうちもかくてこもり侍あひたは夜 なか暁にもあひとふらはんと思給へをきて侍なと申給そのわたりには たゝちかきころをひまて人おほうすみ侍けるをいまはいとかすかに こそなりゆくめれなとのたまひていますこしちかうゐよりてしのひ やかにいとうきたるこゝちもし侍るまたたつねきこえんにつけてはいかな りけることにかと心えすおほされぬへきにかた/\はゝかられ侍れとかの山 里にしるへき人のかくろへて侍やうに聞侍しをたしかにてこそはいかなる さまにてなとももらしきこえめなと思給ふる程に御てしになりていむ 事なとさつけ給てけりと聞侍れはまことかまた年もわかくおや (2オ) なともありし人なれはこゝにうしなひたるやうにかことかゝる人 なん侍をなとのたまふそうつされはよたゝ人と見えさりし人の そかしかくまてのたまふはかろ/\しくはおほされさりける人にこそあ めれと思ふにほうしといひなから心もなくたちまちにかたちをやつして ける事とむねつふれていらへきこえんやう思まはさるたしかに 聞給へるにこそあめれかはかり心え給てうかゝひたつねたまはむに かくれあるへき事にもあらす中々あらかひかくさんにあいなかるへしなと とはかり思えていかなる事にか侍けん此月ころうち/\にあやしと思ふ給ふる 人の御事にやとてかしこに侍あまとものはつせにくわん侍てまふてゝか へりけるみちに宇治の院といふところにとゝまりて侍けるにはゝのあまの (2ウ) らうけにはかにおこりていたくなんわつらふとつけに人のまうてきたり しかはまかりむかひたりしにまつあやしき事なんとさゝめきておやのしに かへるをはさしをきてもてあつかひなけきてなん侍し此人もなくなり給へる さまなからさすかにいきはかよひておはしけれはむかし物語にたま殿にをきたり けん人のたとひを思ひ出てさやうなる事にやとめつらしかり侍ててしはらの中にけん ある物ともをよひよせつゝかはり/\にかちせさせなとなんし侍けるなにかしはおしむ へきよはひならねとはゝの旅の空にてやまひをもきたすけてねんふつをも 心みたれすせさせむと仏をねんしたてまつり思ふ給へし程にその人のありさま くはしくも見給へすなん侍しことの心をしはかり思ふ給ふるにてんくこたま なとやうの物のあさむき出たてまつりたりけるにやとなんうけたまはり (3オ) したすけて京にゐてたてまつりて後も三月はかりはなき人にてなん物 し給けるなにかしかあまになりて侍なんひとりもちて侍し女こをうしなひて 後月日はおほくへたて侍しかとかなしひたえすなけき思給へ侍に おなし年の程と見ゆる人のかくかたちいとうるはしくきよらなるを見出 たてまつりてくはんをんの給へるとよろこひ思ひて此人いたつらになしたて まつらしとまとひいられてなく/\いみしき事ともを申されしかは後になん かのさかもとにみつからおり侍てこしむなとつかうまつり侍しにやう/\いき出て人 となり給へりけれとなをこのらうしたりける物の身にはなれぬこゝちなんする 此あしき物のさまたけをのかれて後の世をおもはんなとかなしけにのたまふ事 ともの侍しかはほうしにてはすゝめも申つへき事にこそはとてまことにすけ (3ウ) せしめたてまつりてしに侍さらにしろしめすへき事とはいかてか空にさとり侍らん めつらしきことのさまにもあるを世かたりにもし侍りぬへかりしかときこえありて わつらはしかるへきことにもこそと此老人とものとかく申て此月ころ音なくて 侍つるになんと申給へはさてこそあれとほの聞てかくまてもとひ出給へる事 なれとむけになき人と思たえにし人をさはまことにあるにこそいとおほす程 夢のこゝちしてあさましけれはつゝみもあへす涙くまれ給ぬるをそうつのはつ かしけなるにかくまて見ゆへき事はと思かへしてつれなくもてなし給へとかくおほし ける事を此世にはなき人とおなしやうになしたる事とあやまちしたるこゝ地して つみふかけれはあしき物にらうせられ給けんもさるへきさきの世の契りなり おもふにたかき家のこにこそ物し給けめいかなるあやまちにてかくまてはふれ給 (4オ) けんにかととひ申給へはなまわかむとをりなといふへきすちにやありけんこゝに も侍らす物はかなくて見つけそめては侍しかと又いとかくまておちあふるへき とは思給へさりしをめつらかに跡もなくきえうせにしかは身をなけたるにやなと さま/\にうたかひおほくてたしかなる事はえ聞侍らさりつるになんつみかろめて 物すなれはいとよしと心やすくなん身つからは思給へなりぬるをはゝなる人なん いみしく恋かなしふなるをかくなん聞出たるとつけしらせまほしく侍れと年 ころかくさせ給けるほいたかふやうに物さはかしくや侍らんおやこの中の思たえす かなしみにたへてとふらひ物しなとし侍なんかしなとのたまひてさていとひんなき しるへとはおほすともかのさかもとにおり給へかはかり聞てなのめに思すくすへくは思 侍らさりし人なるを夢のやうなる事ともゝいまたにかたりあはせんとなん思ひ (4ウ) 給ふるとのたまふけしきいとあはれと思給へれはかたちをかへ世をそむきにきと おほえたれとかみひけをそりたるほうしたにあやしき心はうせぬもあなりまして 女の身はいかゝあらんいとおしうつみえぬへきわさにもあるへきかなとあちきなく 心みたれぬまかりおかむことけふあすはかり侍月たちての程に御せうそこを申 させ侍らんと申給いと心もとなけれとなを/\打つけにいられむもさまあしけれは さらはとてかへり給かのせうとのわらは御ともにゐておはしたりけりことはらから ともよりはかたちもきよけなるをよひ出給て是なんその人のゆかりなるを是を かつ/\物せん御文一くたり給へその人とはなくてたゝ聞ゆる人なんあるとはかりの心を しらせ給へとのたまへはなにかし此しるへにてかならすつみえ侍なんことのありさまは くはしくとり申ついまは御みつから立よらせてあるへからん事は物せさせたまはんに (5オ) なにのとかゝ侍らんと申給へは打わらひてつみえぬへきしるへと思なし給ふらん こそはつかしけれこゝにはそくのかたちにていまゝてすくすなんいとあやしき いはけなかりしより思ふ心さしふかく侍を三条の宮の心ほそけにてたのもし けなき身一をよすかにおほしたるかさりかたきほたしにおほえ侍てかゝ つらひ侍つる程にをのつからくらゐなといふこともたかくなり身のをきても心に かなひかたくなとして思なからすき侍るには又えさらぬことも数のみそひ つゝはすくせとおほやけわたくしにのかれかたき事につけてこそさも侍らめ さらては仏のせいし給ふかたのことをわつかにも聞をよはんいかてあやまたし とつゝしみてをとり侍らぬ物をましていとはかなきことにつけてしもをも きつみうへき事はなとてか思給へんさらにあるましき事に侍りうたかひ (5ウ) おほすましたゝいとおかしきおやの思なとを聞あきらめ侍らんはかりなん うれしう心やすかるへきなとむかしよりふかかりしかたの心をかたり給ふそ うつもけにとうなつきていとゝたうとき事なときこえ給程に日も くれぬれは中やとりもいとよかりぬへけれとうはの空にて物したらん こそなをひんなかるへけれと思わつらひてかへり給に此せうとのわらは をそうつめとめてほめ給是につけてまつほのめかし給へときこえ 給へは文かきてとらせ給時々は山におはしてあそひ給へよとすゝろなる やうにおほすましきゆへもありけりと打かたらひ給このこは心もえねと 文とりておほんともにいつさかもとになれは御せんの人々すこしたち あかれてしのひやかにをとのたまふ小野にはいとふかくしけりたるあを葉 (6オ) の山にむかひてまきるゝ事なくやり水のほたるはかりをむかし おほゆるなくさめにてなかめゐ給へるにれいのはるかに見やらるゝ谷 の軒端よりさき心ことにをいていとおほうともしたる火のゝとかなら ぬひかりを見るとてあま君たちもはしに出ゐたりたかおはするにか あらん御せんなといとおほくこそ見ゆれひるあなたにひきほしたて まつれたりつる返ことに大将殿おはしましておほんあるしのことにはかに するをいとよきおりなとこそありつれ大将殿とは此女二の宮の御おとこ にやおはしつらんなといふもいと此世とをくゐ中ひにたるやまことにさや あらむ時々かゝる山路わけおはせしときいとしるかりしすいしんのこゑ も打つけにましりて聞ゆ月日のすきゆくまゝにむかしのことのかく思 (6ウ) わすれぬもいまはなにゝすへき事そと心うけれはあみた仏に思まき らはしていとゝ物もいはてゐたりよ川にかよふ人のみなん此わたりには ちかきたよりなりけるかの殿は此こをやかてやらむとおほしけれと人め おほくてひんなけれは殿にかへり給て又の日ことさらにそいたしたて給 むつましくおほす人のこと/\しからぬ二三人をくりにてむかしもつねにつかはし しすいしんそへ給へり人きかぬまによひよせ給てあこかうせにしいもうとの かほはおほゆやいまは世になき人と思はてにしをいとたしかにこそ物し給 なれうとき人にはきかせしと思ふをいきてたつねよはゝにいまたしきに いふな中々おとろきさはかん程にしるましき人もしりなんそのおやのみ 思のいとおしさにこそかくもたつぬれとまたきにいとくちかため給ふを (7オ) おさなきこゝ地にもはらからはおほかれと此君のかたちをにる物なしと思 しみたりしにうせ給にけりと聞ていとかなしと思わたるにのたまへは うれしきにも涙のおつるをはつかしと思ひてをゝとあらゝかにきこえゐたり かしこにはまたつとめて僧都の御もとよりよへ大将殿の御つかひにてこ きみやまうて給へりしことの心うけたまはりしにあちきなくかへりておく し侍てなとひめ君にきこえ給へみつからきこえさすへき事もおほかれと けふあすすくしてさふらふへしとかき給へり是は何事そとあま君 おとろきてこなたへもてわたりて見せたてまつり給へはおもて打あかめて 物のきこえあるにやとくるしう物かくししけるとうらみられんをおもひ つゝくるにいらへむかたなくてゐ給へるになをのたまはせよ心うくおほし (7ウ) へたつる事といみしく恨てことの心をしらねはあはゝしきまて思ひたる 程に山よりそうつの御せうそこにてまいりたる人なんあるといひいれたり あやしけれと是こそはさはたしかなる御せうそこならめとてこなにとい はせたれはいときよけにしなやかなるわらはのえならすさうそきたるそ あゆみきたるわらうたさし出たれはすたれのもとについゐてかやう にてはさふらふましくこそはそうつはのたまひしかといへはあま君そいらへ なとし給文とりいれて見れは入道のひめ君の御かたに山よりとて名かき 給へりあらしなとあらかふへきやうもなしいとはしたなくおほえていよ/\ひ きいられて人にかほも見あはせすつねにほこりかならす物し給人 からなれといとうたて心うしなといひてそうつの御文見れはけさこゝに (8オ) 大しやう殿の物し給て御ありさまたつねとひ給ふにはしめよりありし やうくはしくきこえはへりぬ御こゝろさしふかかりける御中をそむき 給てあやしき山かつの中にすけし給へることかへりてはほとけの せめそふへきことなるをなんうけたまはりおとろき侍るいかゝはせん もとの御ちきりあやまちたまはてあいしふのつみはるかしきこ え給て一日のすけのくとくはかりなき物なれはなをたのませ 給へとなんこと/\にはみつからさふらひて申侍らむかつ/\このこきみ きこえたまひてんとかいたりまかふへくもあらすかきあきらめ たまへれとこと人は心もえすこの君はたれにかおはすらむなをいと こゝろうしといまさへかくあなかちにへたてさせ給ふとせめられて (8ウ) すこしとさまにむきて見給へはこのこはいまはと世を思なりし 夕くれにもいと恋しとおもひし人なりおなしところにて見しほとは いとさかなくあやにくにおこりてにくかりしかとはゝのいとかなしく して宇治にもとき/\ゐておはせしかはすこしおよすけしまゝに かたみにおもへりしわらはこゝろをおもひ出るにもゆめのやうなり まつはゝのありさまいととはまほしくこと人々のうへはをのつからやう/\と きけとおやのおはすらむやうはほのかにもえきかすかしと中々これを 見るにいとかなしくてほろ/\となかれぬいとおかしけにてすこし打 おほえ給へるこゝ地もすれはおほんはらからにこそおはすめれきこえ まほしくおほすこともあらんうちにいれたてまつらんといふをなにかいまは (9オ) 世にある物ともおもはさらんにあやしきさまにおもかはりしてふとみ えんもはつかしとおもへはとはかりためらひてけにへたてありとお ほしなすらむかくるしさに物もいはれてなんあさましかりけんありさまは めつらかなる事と見給てけんをうつし心もうせたましゐなといふらん物も あらぬさまになりにけるにやあらむいかにも/\すきにしかたのことをわすれ なからさらにえ思ひ出ぬにきのかみとかありし人の世の物語すめりしなかに なん見しあたりの事にやほのかに思ひ出らるゝ事あるこゝちせしそのゝち とさまかうさま思つゝくれはさらにはか/\しくおほえぬるにたゝひとり物 し給し人いかてとをろかならす思ためりしをまたや世におはすらんと それはかりなん心にはなれすかなしきおり/\に侍にけふ見れは此わらはの (9ウ) かほはちいさくて見しこゝちするにもいとしのひかたけれといまさらにかゝる 人にもありとはしられてやみなんと思侍るかの人もし世に物したまはゝそれ ひとりになんたいめんせまほしく思侍る此そうつののたまへる人なとには さらにしられたてまつらしとこそ思侍つれかまへてひか事なりけりと きこえなしてもてかくし給へとのたまへはいとかたひことかな僧都の御心は ひしりといふ中にもあまりくまなく物し給へはまさにのこいてはきこえ給 てんや後にかくれあらしなのめにかろ/\しき御程にもおはしまさすさはきて 世にしらす心つよくおはしますことそみないひあはせてもやのきはもき ちやうたてゝいれたり此こもさはききつれとおさなけれはふといひよらん もつゝましけれと又はつる御文いかてたてまつらん僧都のおほんしるへは (10オ) たしかなるをかくおほつかなく侍こそとふしめにていへはそゝやあなうつくし なといひて御らんすへき人はこゝに物せさせ給めりけそうの人なんいかなる 事にかと心えかたく侍をなをのたまはせよおさなき御程なれとかゝる御しるへに たのみきこえ給やうもあらむなといへとおほしへたてゝおほ/\しくもてな させ給にはなに事をか聞ゆへき事も侍らんうとくおほしなりにけれは聞ゆ へき事も侍らすたゝ此御文を人つてならてたてまつれとて侍つるいかて たてまつらんといへはいとことはり也なをいとかくうたてなおはせそさすかにむくつ けき御心にこそときこえうこかしてきちやうのもとにをしよせたてまつり たれはあれにもあらてゐ給へるけはひこと人にはにぬこゝちすれはそこもとに よりてたてまつりつ御返とく給てまいりなとかくうと/\しきを心うしと思ひて (10ウ) いそくあま君御文ひきときて見せたてまつるありしなからの御手にてかみ のかなとれいのよつかぬまてしみたるほのかに見てれいの物めてのさしすき 人いとありかたくおかしと思ふへしさらにきこえんかたなくさま/\につみ をもき御心をはそうつに思ゆるしきこえていまはいかてあさましかりし よの夢かたりをたにといそかるゝ心の我なからもとかしきになんまして人 めはいかにとかきもやりたまはす     「のりのしとたつぬるみちをしるへにておもはぬ山に ふみまよふ哉」此人はみやわすれ給ぬらんこゝにはゆくゑなき御かたみに 見る物にてなんなとこまやか也かくつふ/\とかき給へるさまのまきらは さんかたなきにさりとてその人にもあらぬさまを思のほかに見つけられ (11オ) きこえたらむ程のはしたなさなとなを思みたれていとはれ/\しからぬ 心はいひやるへきかたもなしさすかに打なきてひれふし給へれはいとよつか ぬ御ありさまかなと見わつらひぬいかゝきこえんなとせめられてこゝ地の かきみたるやうにし侍程ためらひていまきこえんむかしの事思ひ出れと さらにおほゆる事なくあやしういかなりける夢にかとのみ心もえすなん すこししつまりてや此御文なとも見しらるゝ事もあらんけふはなをもてま いりたまひねところたかへにもあらんにいとかたはらいたかるへしとてひろ けなからあま君にさしやり給へれは見くるしき御ことかなあまりけしからぬは 見たてまつる人もつみさりところなかるへしなといひさはくもうたてきゝ にくゝおほゆれはかほもひきいれてふし給へりあるしそ此君に物語すこし (11ウ) きこえて物の気にやおはすらんれいのさまに見え給ふおりなく なやみわたり給て御かたちもことになり給へるをたつねきこえ 給人あらはいとわつらはしかるへき事と見たてまつりなけき侍しも しるくかくいとあはれに心くるしき御事ともの侍けるをいまなんいと かたしけなくおもひ侍る日ころも打はへなやませ給めるをいとゝ かゝる事ともにおほしみたるゝにやつねよりも物おほえさせた まはぬさまにてなんと聞ゆところにつけておかしきあるしなと したれとおさなき御こゝちはそこはかとなくあはてたるこゝちして わさとたてまつれさせ給へるしるしになに事をかはきこえさせん (12オ) とすらむたゝ一ことをのたまはせよかしなといへはけになといひ てかくなとうつしかたれとも物ものたまはねはかひなくて かくおほつかなき御ありさまをきこえさせ給ふへきなめり 雲のはるかにへたゝらぬほとにも侍めるを山風ふくとも 又もかならすたちよらせ給なんかしといへはすゝろにゐ くらさむもあやしかるへけれはかへりなんとす人しれすゆか しき御ありさまをもえみすなりぬるをおほつかなくくち おしくてこゝろゆかすなからまいりぬいつしかとまちおはす るにかくたと/\しくてかへりきたれはすさましく (12ウ) 中々なりとおほすことさま/\にて人のかくしすへたる にやあらむとわか御こゝろのおもひよらぬくまなく おとしをきたまへりしならひにとそ本に侍る ---------------------------------------------------------------------------------- 底本:Japanese Rare Book Collection (Library of Congress) LC Control No.2008427768 翻字担当者:淺川槙子、阿部江美子、伊藤鉄也、木川あづさ 更新履歴: 2012年12月26日公開 2013年11月19日更新 ---------------------------------------------------------------------------------- 修正箇所(2013年11月19日修正) 丁・行 誤 → 正 (1オ)9 しか侍り → しか侍る (10ウ)8 此人は身や → 此人はみや (12オ)5 みもかならす → 又もかならす