＜出典＞２４２　　　国定読本　２期４－２
＜Ｐ－０００＞
もくろく　　＃
第一　　皇大神宮………一　　第十四　　電報………四十五　＃
第二　　參宮日記の一節………三　　第十五　　藤原鎌［カマ］足［タリ］………四十九　＃
第三　　たけがり………八　　第十六　　鳥………五十四　＃
第四　　寫眞をおくる手紙………九　　第十七　　近［あふ］江［み］八景………五十九　＃
第五　　働クコトハ人ノ本分………十三　　第十八　　木綿着物ノ由來………六十二　＃
第六　　松下禪［ゼン］尼［ニ］………十六　　第十九　　手紙………六十六　＃
第七　　白雀…（一）………十八　　第二十　　胃と身體………六十九　＃
第八　　白雀…（二）………二十二　　第二十一　　虎ト猫………七十二　＃
第九　　ワザクラベ………二十七　　第二十二　　世界の話…（一）………七十五　＃
第十　　かぢ屋………三十一　　第二十三　　世界の話…（二）………八十　＃
第十一　　花ごよみ………三十四　　第二十四　　橘［タチバナ］中佐…（一）………八十三　＃
第十二　　マツチ………三十八　　第二十五　　橘中佐…（二）………八十八　＃
第十三　　火事………四十一　　第二十六　　名古屋………九十三　＃
＜Ｐ－００１＞
第一　　皇大神宮　　＃
代々の天皇は皇大神宮＃
をたふとびたまふこと＃
きはめてあつく、國民も＃
また深くうやまひ奉り＃
て、一生に一度は、かなら＃
ず伊［い］勢［せ］に參拜せんと心＃
がけざるものなし。諸子＃
は皇大神宮のかくばか＃
＜Ｐ－００２＞
りたふときいはれを知れりや。＃
神代の昔皇祖天［あま］照［てらす］大［おほみ］神［かみ］、瓊［に］々［ゝ］杵［ぎの］尊［みこと］をこの國に＃
降したまはんとせし時、八［や］咫［たの］鏡を授けたまひ＃
て、「この鏡を見ること我を見るが如くせよ。」と＃
おほせられたり。その神勅によりて、代々の天＃
皇はこれを宮中にあがめたまひしが、後神殿＃
を今の五［い］十鈴［すゞ］の川上に造り、この御鏡を御神＃
體として、皇祖天照大神をまつりたまへるな＃
り。神殿は昔ながらの白木造にして、二十年ご＃
＜Ｐ－００３＞
とに新しく造らせたまふ御定なりと承る。＃
かゝるたふとき御宮なれば、一年中の重だち＃
たる祭日には勅使を差立てたまひ、皇室及び＃
國家に大事あれば、かならずこれを告げたま＃
ふ。明治三十七八年戰役の終りたる後も、天皇＃
陛下御參拜あらせられ、平和の成りたるを告＃
げたまひしが、その御式の盛なること前古た＃
ぐひなかりきと申す。　　＃
第二　　參宮日記の一節　　＃
＜Ｐ－００４＞
十月十七日　晴　雨は夜中にはれて、今日は＃
うらゝかなる天氣なり。家々に日の丸の旗を＃
立てたり。八時宿を出でて、町を南へ行けば、宇［う］＃
治［ぢ］橋のたもとにいたる。このあたり御山木細＃
工・貝細工などを賣る店多し。五［い］十鈴［すゞ］川は流早＃
くして、水清らかなり。橋を渡りて神苑［ゑん］に入る。＃
廣き道の左右に梅・松・櫻などを植ゑたり。明治＃
二十七八年及び三十七八年戰役の戰利品た＃
る大砲、日本海海戰の記念砲身塔など、またい＃
＜Ｐ－００５＞
づれも神苑の内にあり。＃
これより少し進めば、數千年もへたらんかと＃
思はるゝ老木枝をまじへて、高く天をつく。そ＃
の神々しさいはん方なし。五十鈴川の水に口＃
すゝぎ手洗ひて左へ行き、神［か］樂［ぐら］殿・御馬屋の前＃
を通り、御宮の前にいたる。そこの御門を板垣＃
御門といふ。板垣御門を入りて、玉垣御門の前＃
にて拜し奉る。御垣の内をうかゞひ奉れば、神＃
殿の御屋根はかやにてふき、棟［むね］にはかつを木＃
＜Ｐ－００６＞
をならべ、兩はしに千木＃
をうちちがへたり。材は＃
皆ひのきの白木を用ひ、＃
金色の金物きら〳〵と＃
日にかゞやけり。その他＃
には何の御かざりもな＃
き質素なる御かまへ、か＃
へつてかしこく、かたじ＃
けなし。　　＃
＜Ｐ－００７＞
とこしへに民安かれといのるなる、　　＃
我が世を守れ、伊勢の大神。　　＃
の御製を思ひ出でて、我が國體のたふとさ、い＃
よいよ身にしみておぼゆ。＃
宿に歸りて一休みの後、外宮に參拜す。神殿の＃
御有樣、おほよそ内宮に同じと見奉る。＃
今日は神［かん］嘗［なめ］祭なれば、夕方には内宮へ勅使の＃
參拜もあるべしといふ。今日のこの日に年來＃
ののぞみを達したるは何等の幸ぞや。　　＃
＜Ｐ－００８＞
第三　　たけがり　　＃
秋の日の空すみわたり、　　＃
風暖にさてもよき日や。　　＃
山遊びするによき日や。」　　＃
友よ、來よ。手かごを持ちて、　　＃
いざ、裏山にきのこたづねん。　　＃
山深く行きてたづねん。」　　＃
たどり行く細路づたひ、　　＃
はや、かうばしくきのこにほへり。　　＃
＜Ｐ－００９＞
山風にきのこかをれり。」　　＃
うれし、この松の根もとに、　　＃
まづ見つけつと高く呼ぶ聲。　　＃
やまびこにひゞく呼聲。」　　＃
いでや、あの岩の小かげに、　　＃
皆うちよりてえもの數へん。　　＃
たけがりのいさをくらべん。」　　＃
第四　　寫眞をおくる手紙　　＃
この間にいさんがかへつて來まし＃
＜Ｐ－０１０＞
たので、うち中の者がそろつて寫眞＃
をとりました。ついでに私一人のも＃
とりましたから、兩方一枚づつ差上＃
げます。三郎はいつもにこ〳〵して＃
ゐますから、寫眞でも笑つて寫つて＃
ゐます。私もみんなと一しよの分は＃
まじめになり過ぎましたので、にい＃
さんによそ行の顔だといつて笑は＃
れました。一人の分はうつかりして＃
＜Ｐ－０１１＞
ゐる間に寫されましたので、かへつ＃
てよく寫りました。伯母樣お笑ひに＃
なつてはいけませんよ。＃
十一月五日　　　　はな　　＃
伯母上樣　　＃
同じく返事　　＃
御寫眞をありがたう。よく寫つてゐ＃
るので、皆さんにお目にかゝつたや＃
うな氣がします。三郎さんは實にか＃
＜Ｐ－０１２＞
はいらしく寫りました。おはなさん＃
も一人の分はほんとによく寫つて＃
ゐます。なるほど皆さんと一しよの＃
分は、おはなさんも次郎さんも少し＃
まじめになつてゐます。おはなさん＃
はしばらく見ないうちに、髪が大そ＃
うきれいになりました。段々おかあ＃
さんに似て來ます。この寫眞で見る＃
と、おかあさんの小さい時分にそつ＃
＜Ｐ－０１３＞
くりです。寫眞を見て、急に皆さんに＃
お目にかゝりたくなりました。その＃
内參りませう。皆さんによろしく。＃
十一月八日　　　　伯母より　　＃
おはなさま　　＃
第五　　働クコトハ人ノ本分　　＃
ニワトリガ度々鳴イテ、日ガ上ツタ。人ハ皆ネ＃
ドコヲハナレタ。＃
母ハ臺所デ朝飯ノシタクニカヽリ、父ハハヤ＃
＜Ｐ－０１４＞
店ニスワツテ商賣ノ用向ヲシラベテヰル。町＃
ハ段々人通リガ多クナツテ、車モ通リ、馬モ通＃
ル。新聞屋ハ新聞ヲ、牛乳屋ハ牛乳ヲ家々ニ配＃
達シテアルク。＃
大工ハノコギリ、左官ハコテ、石屋ハノミ、カヂ＃
屋ハツチ、仕立屋ハ針、ソレ〴〵ノ道具ヲ持ツ＃
テ、メイ〳〵ノ仕事ニカヽル。村デハ農夫ガク＃
ハヲカツイデ、タンボヘ出ル時デアル。＃
學校デハモウ授業ガハジマツタ。役所デモ、會＃
＜Ｐ－０１５＞
社デモ、上カラ下マデ一同ソロツテ事務ニ取＃
リカヽル。兵士ハ練兵場ヘ向ヒ、旅人ハ停車場＃
ヘ急グ。＃
人ノ職業ニハイロ〳〵アツテ、皆メイ〳〵ノ＃
仕事ヲシテ、毎日働イテヰルノデアル。働クコ＃
トガナケレバ、食物モ買ハレナイシ、着物モコ＃
シラヘラレナイ。人ノ幸福ハ皆自分ノ働デ産＃
ミ出ス外ハナイ。何モシナイデ遊ンデヰルノ＃
ハ樂ナヤウニ見エルガ、却ツテ苦シイモノデ＃
＜Ｐ－０１６＞
アル。働クコトハ人ノ本分デアル。　　＃
第六　　松下禪［ゼン］尼［ニ］　　＃
北［ホウ］條［デウ］時［トキ］頼［ヨリ］ノ母松下禪尼、アル日時頼ヲ招待セ＃
ントテ、スヽケタル障子ノ破レヲツクロヒヰ＃
タリ。禪尼ノ兄義［ヨシ］景［カゲ］コレヲ見テ、＃
「召使ノ中ニカヽル事ヲヨク心得タル者ア＃
リ。ソレニ命ジタマヘ。」＃
トイヒシニ、＃
「我モコレ程ノ事ハ心得タリ。人手ヲカルニ＃
＜Ｐ－０１７＞
モ及バズ。」＃
トテ、オボツカナキ手ツキニテ、破レタル所ヲ＃
一間ヅツ張レリ。義景重ネ＃
テ、＃
「サラバコト〴〵ク張リ＃
カヘ給ヘ。切張ハマダラ＃
ニナリテ見苦シ。」＃
トイヘバ、＃
「我モ後ニハコト〴〵ク＃
＜Ｐ－０１８＞
張リカヘント思ヘドモ、總ベテ物ハ破レタ＃
ル所ノミツクロヒテ用フルトキハ、シバラ＃
クハ用ヲナスベキコトヲ、若キ者ニ知ラセ＃
ントテカクスルナリ。」＃
ト答ヘタリトゾ。＃
時頼ガ心正シク、ツネニ節儉ヲ守リテ、ヨク天＃
下ヲヲサメタルモ、カヽル母ニ養ハレタルニ＃
ヨルナルベシ。　　＃
第七　　白雀　（一）　　＃
＜Ｐ－０１９＞
昔西洋のある所に、畑もたくさんもつて、牛も＃
たくさんかひ、何不足なく暮してゐた農夫が＃
ありました。初は近所の人にもうらやまれる＃
程の身代でしたが、牛も段々減り、畑の取高も＃
年々に少くなつて、五六年の中によほど財産＃
を減らしました。親類や友だちは大そう心配＃
しまして、どうしたらよいかと、いろ〳〵考へ＃
てゐました。＃
ある日一人の友だちは、この農夫と野原の草＃
＜Ｐ－０２０＞
の上に坐つて、いろ〳〵世間話をしてゐたが、＃
そこらあたりに飛んでゐた雀を見て、雀とい＃
ふものはすぐふえるもので、又大そう作物を＃
荒すものだといふことを話しました。農夫は＃
之を聞いて、近年麥の取高の少いのは、この雀＃
のせいではあるまいかと思ひました。＃
友だちはふと思ひ出したやうに、＃
「それはさうと、君は白い雀を見たことがあ＃
るか。」＃
＜Ｐ－０２１＞
「いや、見たことがない。白い雀が實際居るの＃
か。」＃
と、ふしぎさうな顔附をして、農夫は問返しま＃
した。友だちは答へて、＃
「居るさうだ。さうしてそれをつかまへると、＃
大へんに仕合がよくなるといふが、毎年一＃
羽づつしか出て來ない。又若し外の雀が見＃
つけると、よつてたかつていぢめるので、毎＃
朝早くすを出て、ゑをさがして、すぐ歸つて＃
＜Ｐ－０２２＞
しまふといふことだ。」＃
農夫は此の話を聞いて、「それはめづらしい。ど＃
うかして其の雀をつかまへて見たい。」と思ひ＃
ました。　　＃
第八　　白雀　（二）　　＃
次の朝農夫はいつになく早く起きて、若しや＃
白雀が居はしまいかと、屋敷のまはりを見ま＃
はつて、野原の方までも行つてたづねました＃
が、影も形も見えません。歸つて見ると、自分の＃
＜Ｐ－０２３＞
家は戸がまだしまつてゐて、誰も起きてゐる＃
樣子がありません。日はもう高く上つてゐま＃
す。牛小屋の牛はしきりに鳴いてゐるのに、誰＃
も草をやるものがありません。＃
その中に下男が麥俵をかついで、裏門から出＃
て來ました。水車場へ行くのかと思つて見て＃
ゐると、水車場の方へは行かずに、居酒屋の方＃
へ行きます。此の男は居酒屋に酒代の借があ＃
るので、其のかたに持つて行かうとするので＃
＜Ｐ－０２４＞
す。農夫は驚いて、其の麥＃
俵を取りもどしました。」＃
取りもどして歸つて來＃
ると、今度は下女がばけ＃
つをさげて、牛小屋から＃
出て來ました。どうするの＃
かと氣を附けてゐると、隣＃
の家の方へ行きます。此の＃
下女は毎朝かうして、主人＃
＜Ｐ－０２５＞
の目をかすめて、牛乳を賣つてゐたのです。農＃
夫はおこつて、其のばけつを引つたくりまし＃
た。＃
「成程これではいけない。」＃
と、すぐ家の中へかけこんで、まだねてゐた妻＃
を呼起して、＃
「朝ね程損なものはない。朝ねをしてゐる間＃
に、身代が減つて行くのだ。」＃
といつて、今見た事をすつかり話して聞かせ＃
＜Ｐ－０２６＞
ました。＃
其の後は毎朝必ず早く起きて、下男や下女は＃
早くから畑へ出して働かせ、自分はどうかし＃
て白雀を見つけようと、たづねまはりました。」＃
一週間程たづねたが、白雀は見つかりません＃
でした。其の中に雀のことはいつかわすれて、＃
たゞ身代を取返す事にばかり心がけるやう＃
になつて、夜も晝もよく働きました。＃
二三ヶ月立つてから、前の友だちが來て、＃
＜Ｐ－０２７＞
「どうだ、白雀は見つかつたか。」＃
と、笑ひながらたづねました。農夫は＃
「おかげで目がさめた。御恩は一生忘れない。」＃
といつて、かたく友だちの手を握りしめまし＃
た。　　＃
第九　　ワザクラベ　　＃
昔百［ク］濟［ダラノ］川成トイフ名高キ畫工アリキ。其ノ友＃
ニ飛［ヒ］騨［ダノ］工［タクミ］トテ世ニ聞エタル大工アリ。一日川＃
成ニ向ヒテ、＃
＜Ｐ－０２８＞
「我、此ノゴロ小サキ堂ヲ建テタリ。四方ノカ＃
ベニ繪ヲカキテタマハリタシ。」＃
トイヘリ。＃
川成行キテ見ルニ、小サキ＃
四角四面ノ堂アリテ、四方＃
ノ戸皆開キタリ。＃
「入リテ見給ヘ。」＃
トイフニ、何心ナクエンニ＃
上リテ、南ノ口ヨリ入ラン＃
＜Ｐ－０２９＞
トスレバ、其ノ戸ハタト閉ヅ。驚キテ西ノ口ヨ＃
リ入ラントスレバ、其ノ戸マタハタト閉ヂテ、＃
南ノ戸開キタリ。北ヘマハレバ、東ノ戸開キ、東＃
ヘマハレバ、北ノ戸開ク。幾度カマハリタレド＃
モ、入ルコトヲ得ズ、クチヲシクモ工ノ笑聲ヲ＃
後ニシテ歸レリ。＃
數日ノ後、川成ヨリ＃
「見セ申シ度キ繪出來タリ。御出アリタシ。」＃
ト、工ノモトニイヒ來レリ。工、川成ヲ音ナヘバ、＃
＜Ｐ－０３０＞
「イザ、コナタヘ。」＃
トイフ。サラバトテ入ラントスルニ、内ニハ黒＃
ブクレニナリテクサリタル死人横タハリテ、＃
臭氣鼻ヲツクガ如シ。工驚キ、アツト聲立テテ＃
ニゲ出セバ、川成腹ヲカヽヘテ笑ヒナガラ、＃
「カク我ノ居ルニ、何ユヱニ入リ給ハザルカ。」＃
トイフ。工恐ル〳〵近ヨリテ見レバ、コハ如何＃
ニ、カノ死人ト見エシハ、フスマニヱガケル繪＃
ナリシナリ。　　＃
＜Ｐ－０３１＞
第十　　かぢ屋　　＃
僕の近所に年よりのかぢ屋があつた。せが高＃
く、目がするどくて、ちよつと見ると、おそろし＃
いが、いたつて氣だてのやさしい老人であつ＃
た。＃
「トンテンカン、トンテンカン。」と、毎朝早くから＃
弟子を相手につちを打つ音が聞える。一日も＃
休んだ事がない。僕は時々其の仕事場の前に＃
立つて見てゐた。ある時は釘をこしらへてゐ＃
＜Ｐ－０３２＞
た。ある時は鎌［かま］をきたへ＃
てゐた。又車のわを打つ＃
てゐた事もあつた。僕の＃
家で一度つるべの金た＃
ががこはれた時、つくろ＃
ひを頼んだ事があつた＃
が、翌日すぐにこしらへ＃
てくれた。夏のどんな暑＃
い日でも、あせを流しな＃
＜Ｐ－０３３＞
がら、暮方まで働いてゐた。仕事をしながら、僕＃
に色々な話をした事もある。ある時の話に、＃
「自分は今こそこんな小刀や釘などを造つ＃
てゐるが、元は少しは人に知られた刀かぢ＃
で、若い時から何十本となく大太刀・小太刀＃
をきたへた。刀は武士のたましひといはれ＃
たものだから、きたへる時は身を清めて、一＃
心不亂に打つたものだ。」＃
といつた。＃
＜Ｐ－０３４＞
何時も丈夫さうな老人であつたが、去年の暮＃
に死んでしまつた。其の時分までよそへ奉公＃
に行つて居つた若いむすこが、今では其の後＃
をついで、朝から晩まで相かはらず、「トンテン＃
カン、トンテンカン。」と働いてゐる。　　＃
第十一　　花ごよみ　　＃
年のはじめの福［ふく］壽［じゆ］草［さう］、　　＃
黄［こ］金［がね］の色の暖く、　　＃
つゞいてかをる梅が香に、　　＃
＜Ｐ－０３５＞
うぐひす　　＃
鳴かぬ　　＃
里もなし。　　＃
ひなの祭の桃の花　　＃
ほころびそめて、山々の　　＃
櫻も咲けば、梨・すもゝ　　＃
皆一時に紅白の　　＃
花のながめの　　＃
うるはしさ。　　＃
＜Ｐ－０３６＞
野べも山べも新緑の　　＃
風に藤波さわぐ時、　　＃
池水にほふかきつばた。　　＃
垣根にからむ朝顔の　　＃
さきかはりつゝいさぎよく、　　＃
にごりにしまぬ白［びやく］蓮［れん］の　　＃
卷葉をもるゝつゆ凉し。　　＃
夕暮に咲く月見草、　　＃
月見のころも近づけば、　　＃
＜Ｐ－０３７＞
萩［はぎ］のうねりにやどる玉、　　＃
ききやう・かるかや・をみなへし、　　＃
秋の花草多けれど、　　＃
中にも君の千代八千代　　＃
祝ふや菊の花の宴。　　＃
いつしか木々もうらがれて、　　＃
さびしきにはのさざん花や、　　＃
北風寒きやぶかげに、　　＃
びはの花咲く年の暮。　　＃
＜Ｐ－０３８＞
第十二　　マツチ　　＃
マツチハ一ダースノ價三四錢グラヰナレバ、＃
一箱三四厘ニモ足ラズ。カクノ如ク價ノ安キ＃
モノニテ、カクノ如ク便利ナルモノハ世ニ少＃
カルベシ。我等ハ平生マツチヲ用ヒナレタレ＃
バ、サ程ニハ思ハザレドモ、此ノモノノナカリ＃
シ昔ヲ思ヒ出ストキハ、今更ニ其ノ便利ナル＃
ニ驚カルヽナリ。＃
諸子ハイマダマツチノ製造場ヲ見タルコト＃
＜Ｐ－０３９＞
ナカルベシ。マツチノ製造ニハ驚クベキ手數＃
ノカヽルモノナリ。マヅ木材ヲ切リテ、湯氣ニ＃
テムシ、ケヅリテウス板トシ、細クキザミテヂ＃
ク木トシ、火ニカワカシテ、頭ニ藥ヲツケ、其ノ＃
カタマルヲ待チテ、箱ニ入ル。箱ハウスキ木片＃
ヲ折リ、其ノ上ニ紙ヲ張リテ造リ、外ガハニ藥＃
ヲ塗ルナリ。＃
此ノ上ニ、山ヨリ木ヲ切出シ、紙ヲスキ、藥ヲ製＃
スル等ノ手數マデ數ヘ上グレバ、一箱ノマツ＃
＜Ｐ－０４０＞
チガ我等ノ手ニ入ルマデニハ、何十人ノ人手＃
ヲ要スルカヲ知ラズ。之ヲ思ハバ一本ノマツ＃
チモソマツニハ使フベカラズ。＃
マツチハ今ヨリ凡ソ百年前、外國ニテ發明セ＃
ラレタルモノナリ。我ガ國ニテハ、初ハモツパ＃
ラ輸入品ヲ用ヒタリシガ、明治八年ヨリ内地＃
ニテモ之ヲ製造スルニイタレリ。今日ニテハ＃
其ノ製造ハナハダ盛ニシテ、外國ヘ輸出スル＃
モノノミニテモ、一年間一千萬圓ノ金高ニ達＃
＜Ｐ－０４１＞
シ、我ガ國輸出品中ノ重要ナルモノノ一ツト＃
ナレリ。　　＃
第十三　　火事　　＃
「ヂヤン、ヂヤン、ヂヤン。」かねが鳴る。火事だ、火事＃
だ。どこだらう、あまり遠くはないらしい。＃
あちらの空がまつかだ。火のこが花火のやう＃
に散つてゐる。弓張を持つて走る人が、後から＃
後からとつゞいて飛んで行く。＃
火元は裏町通の材木屋で、もう本町通へ拔け＃
＜Ｐ－０４２＞
て、角の呉服屋が燒けてゐるのださうだ。あゝ、＃
火の勢が一そう強くなつた。又隣へうつゝた＃
のかも知れない。火事場でさわぐ人の聲がこ＃
こまでも聞える。＃
長い天氣つゞきで、かわききつてゐる上に、今＃
夜の此のはげしい風では、どこまで燒けて行＃
くか分らない。仕合に風上で安心だが、叔父さ＃
んのうちはどうだらう。＃
だん〳〵下火になつて來てうれしい。さつき＃
＜Ｐ－０４３＞
からもう二時間もたつから、四五十戸も燒け＃
ただらう。＃
叔父さんのうちへ見まひに行つたにいさん＃
が歸つての話に、やう〳〵米屋の土藏でとま＃
つたが、二棟［むね］の土藏の中、一棟はとう〳〵燒け＃
おちたさうだ。役場は幸に燒けなかつた。一切＃
の書類や記録類も皆ぶじであつたといふこ＃
とだ。＃
火は一日も無くてはならぬものである。毎日＃
＜Ｐ－０４４＞
の食物のにたきから種々の工業まで、火の力＃
を要することは數へきれない程多い。大きな＃
きかいの動くのも、汽車や汽船の走るのも、皆＃
火の力の利用によるのである。＃
これ程有用な火でも、ひよつとまちがふと大＃
へんな事が出來る。聞けば此の火事は材木屋＃
の小屋から出たので、多分煙草のすひがらが＃
元だらうといふ話だ。一服のすひがらがこん＃
な大火事になつた。火は實に恐ろしいものだ。＃
＜Ｐ－０４５＞
火の取扱は大切にしなければならぬ。　　＃
第十四　　電報　　＃
父「東京のをぢさんから火事見まひの電報が＃
來た。」＃
一郎「どうしてそんなに早く伯父さんに分つた＃
のでせう。」＃
父「こちらでは近年にない大火事だから、誰か＃
すぐに東京へ電報を打つたのだらう。それ＃
が東京の今朝の新聞に出たので、お分りに＃
＜Ｐ－０４６＞
なつたのにちがひない。伯父さんが御安心＃
なさる樣に早く返事を上げよう。お前一つ＃
書いてごらん。」＃
サクヤノクワジニウチハヤケマセ＃
ンデシタシンルヰミナブジデスゴ＃
アンシンクダサイ＃
一郎「これでようございますか。」＃
父「それでは少し長過ぎる。電報の文は成るべ＃
く短く書かなければならない。燒けない事＃
＜Ｐ－０４７＞
さへいへば、御安心なさるから、ゴアンシン＃
クダサイと書くにも及ばない。又ことばも＃
電報だから、そんなにていねいに書くこと＃
はいらない。」＃
サクヤウチヤケナイシンルヰミナ＃
ブジ＃
一郎「これでようございますか。」＃
父「それでもよいが、火事の昨夜あつたことは＃
もう御存じだから、サクヤとは書くには及＃
＜Ｐ－０４８＞
ばない。又ヤケナイといへば、うちの燒けな＃
かつたことも分るから、ウチもいらない。電＃
報は十五字＃
までが一音＃
信で、にごつ＃
た字は二字＃
に數へるか＃
ら、うちの名＃
の和田を入＃
＜Ｐ－０４９＞
れて、十五字になるやうに書いてごらん。」＃
ヤケナイシンルヰブジワダ＃
一郎「かうすると、ちやうど十五字になります。」＃
父「それでよろしい。こゝに頼信紙があるから、＃
書いてお出し。」　　＃
第十五　　藤原鎌［カマ］足［タリ］　　＃
今ヨリ千二百年ノ昔、皇［クワウ］極［ギヨク］天皇ノ御代、蘇［ソ］我［ガノ］入［イル］＃
鹿［カ］勢ヲホシイマヽニシテ、父蝦［エ］夷［ミシ］ト共ニ不忠＃
ノフルマヒ多カリキ。中［ナカ］臣［トミノ］鎌足コレヲウレヘ＃
＜Ｐ－０５０＞
テ、國ノタメニ入鹿父子ヲノゾカント思ヒ立＃
チタリ。＃
此ノ頃中［ナカノ］大［オホ］兄［エノ］皇子ト申スカシコキ皇子アリ＃
キ。鎌足早クヨリ其ノ人トナリヲシタヒ奉リ、＃
大事ヲ成スニハ此ノ皇子ヲイタヾキ奉ルヨ＃
リ他ニ道ナシト思ヒシガ、未ダ近ヅキ奉ル折＃
ヲ得ザリキ。＃
アル日皇子、寺ノニハニテケマリノ會ヲナシ＃
給ヒ、鎌足モ參リ合セタリ。御遊ナカバニシテ、＃
＜Ｐ－０５１＞
マリヲケ給フハズミニ、皇子ノクツヌゲタリ。＃
鎌足之ヲ拾ヒテ、ヒザマヅキテ皇子ニサヽゲ＃
シニ、皇子モマタヒザマヅキテ、之ヲ受ケ給ヘ＃
リ。コレヨリ鎌足、皇子ト親シミ奉ルコトヲ得＃
テ、同志ノ人々ヲモカタラヒテ、ヒソカニ時ノ＃
イタルヲ待テリ。＃
サル程ニ三韓［カン］ノ使ミツギヲ奉ルニヨリテ、入＃
鹿ノ參内スルコトアリ。鎌足等此ノ日ヲ以テ＃
大事ヲオコナハントシ、アラカジメ其ノ手ハ＃
＜Ｐ－０５２＞
ズヲ定メタリ。＃
サテイヨ〳〵其ノ日トナレリ。天皇大［ダイ］極［ゴク］殿ニ＃
出デサセ給ヒ、入鹿カタハラニ侍ス。中大兄皇＃
子命ジテ宮門ヲ閉ヂサセ、長キヤリヲトツテ＃
物カゲニカクレ給フ。鎌足ハ弓矢ヲ持ツテ御＃
後ニシタガヘリ。ヤガテ同志ノ一人御前ニ進＃
ミテ、三韓ノ表文ヲ讀ムニ、手ワナヽキ聲フル＃
フ。入鹿アヤシミテ「何故ゾ」ト問ヘバ、「御前近ウ＃
シテ。」ト答フ。他ノ二人ハ此ノ間ニ入鹿ヲ討ツ＃
＜Ｐ－０５３＞
ベキ手ハズナリシガ、恐レテ出デズ。今シバシ＃
タメラハバ事アラハレントス。皇子コラヘカ＃
ネテ、ヲドリ出デテ、入鹿＃
ノ肩ヲキリ給フ。之ヲ見＃
テ他ノ一人進ミ出デテ、＃
入鹿ノ足ヲキル。入鹿ツ＃
ヒニ殺サレタリ。蝦夷モ＃
マタ其ノ家ニテ自殺セ＃
リ。＃
＜Ｐ－０５４＞
中大兄皇子ハ後天皇ノ位ニツキ給フ。天［テン］智［ヂ］天＃
皇ト申シ奉ルハ即チ此ノ御方ナリ。鎌足其ノ＃
後モ天皇ヲタスケ奉リテ功アリシカバ、天皇＃
重ク用ヒテ大臣トナシ、藤原ノ姓ヲタマヘリ。＃
藤原氏ノ一門コレヨリナガクサカエタリ。　　＃
第十六　　鳥　　＃
わし・たか・とびなどの樣に、大空を飛びまはつ＃
て、他の鳥をとらへて食ふ鳥や、つる・がん・つば＃
めなどの樣に、氣候によつてすむ所をかへる＃
＜Ｐ－０５５＞
鳥は、總べてつば＃
さが大きい。又に＃
はとり・七面鳥・あ＃
ひるなどは陸上や水上に＃
ばかり居て高く飛ばない＃
から、其のつばさが小さい。」＃
鶴・さぎ・くひななど水の中＃
をあるく鳥ははぎが＃
長い。陸上に居る鳥で、＃
＜Ｐ－０５６＞
はぎの長いのは駝［だ］鳥［てう］である。駝鳥は鳥類の中＃
で一番大きくて、卵も子供の頭程ある。走るこ＃
とは馬よりも早いので、空を飛ぶ必要はない＃
から、つばさははなはだ小さい。はぎの長い鳥＃
は首も長く、首の長い鳥は大ていくちばしも＃
長い。併しかはせみははぎも首も短くて、くち＃
ばしばかりが長い。駝鳥ははぎも首も長くて、＃
くちばしだけが短い。水鳥のくちばしは平た＃
くて先が圓く、陸鳥のくちばしは圓く細くて、＃
＜Ｐ－０５７＞
先がとがつて居る。わし・た＃
か・とびなどは上くちばし＃
がことに鋭くて、やゝ太い。＃
いすかのくちばしは上と下がくひちがつて＃
ゐる。それで「いすかのはしのくひちがひ。」とい＃
ふことがある。＃
目の最も恐ろしげな＃
のは、わし・たかの類で、＃
からだの割合に目＃
＜Ｐ－０５８＞
の最も大きいの＃
はふくろふ・み＃
みづくなどで＃
ある。尾の短い＃
のはかはせみ・あ＃
ひるなどで、長いのは＃
きじ・山鳥・くじやくなどである。くじやくは時＃
時尾を扇形にひろげて見せる。大きなものに＃
なると、若し家の中でひろげさせたら、座敷一＃
＜Ｐ－０５９＞
ぱいになつて、天井へつかへる程である。　　＃
第十七　　近［あふ］江［み］八景　　＃
（一）　　＃
琵［び］琶［は］の形に似たりとて、　　＃
其の名をおへる湖の　　＃
かゞみの如き水の面、　　＃
あかぬながめは八つの景。　　＃
（二）　　＃
まづ渡り見ん瀬田の橋、　　＃
＜Ｐ－０６０＞
かゞやく入日美しや。　　＃
粟［あは］津［づ］の松の色はえて、　　＃
かすまぬ空ののどけさよ。　＃
（三）　　＃
石山寺の秋の月、　　＃
雲をさまりてかげ清し。　　＃
春より先に咲く花は、　　＃
比［ひ］良［ら］の高ねの暮の雪。　　＃
（四）　　＃
＜Ｐ－０６１＞
滋［し］賀［が］唐［から］崎［さき］の一つ松、　　＃
夜の雨にぞ名を得たる。　　＃
堅［かた］田の浦の浮御堂、　　＃
おち來るかりもふぜいあり。　　＃
（五）　　＃
三つ四つ五つうち連れて、　　＃
矢［や］走［ばせ］をさして歸り行く　　＃
白帆を送る夕風に、　　＃
聲程近し、三井のかね。　　＃
＜Ｐ－０６２＞
第十八　　木綿着物ノ由來　　＃
皆サンノ着物ニシテヰル木綿織物ハドウシ＃
テ造リマスカ。＃
木綿絲ヲ機デ織ツテ造リマス。＃
木綿絲ハドウシテ出來マスカ。＃
綿ヲ機械ニカケテツムグト、木綿絲ニナリ＃
マス。＃
綿ハ何カラトリマスカ。＃
綿ノ木カラトリマス。＃
＜Ｐ－０６３＞
綿ノ木ハドコニ出來マスカ。又ドウシテ出來＃
マスカ。＃
綿ノ木ハ畑ニ作リマス。種ヲ蒔クノハ五月＃
頃デ、七月頃ニ花ガ咲イテ、九月カラ十月ノ＃
初頃ニ實ガ熟シマス。實ガ熟スルト、サケテ＃
中カラ白イ綿ガハミ出シマス。綿ノ中ニハ＃
種ガアリマスカラ、綿クリ機械ニカケテ、ソ＃
レヲ取去ルノデス。＃
木綿織物ニ紺ヤ淺黄ヤカスリヤ其ノ他色々＃
＜Ｐ－０６４＞
ナ縞ガアルノハ、ドウシテコシラヘルノデス＃
カ。＃
紺ヤ淺黄ヤカスリハアヰデ染メマス。コク＃
染メタノガ紺デ、ウスイ＃
ノガ淺黄デス。又所々＃
白ク染メ殘シタノ＃
ガカスリデス。又色々＃
ニ染メタ絲デ織ツタ＃
ノガ縞物デス。＃
＜Ｐ－０６５＞
藍ハ何カラ取リマスカ。＃
藍ノ草カラデス。藍ノ草ハ綿ノ木ト同ジ樣＃
ニ畑ニ作リマス。綿ハ實カラトリマスガ、藍＃
ハ葉ト莖カラ取ルノデス。二月頃種ヲ蒔イ＃
テ、六月頃刈取ルノデス。サウシテ其ノ莖ト＃
葉ヲ細カクキザンデ、日ニホシテ、ソレカラ＃
ウスニ入レテツキカタメマス。ソレヲ藍玉＃
トイヒマス。藍玉ヲ水ノ中ヘ入レテオクト、＃
紺色ノ汁ガ出マス。其ノ中ヘ白絲ヤ白布ヲ＃
＜Ｐ－０６６＞
入レテ、紺ヤ淺黄ニ染メルノデス。　　＃
第十九　　手紙　　＃
一、　　小ぞうから主人へ　　＃
謹んで申し上げます。取分けおいそ＃
がしい中を、一週間もおひまをいた＃
だきまして、まことに有りがたう存＃
じます。病中の祖母も大そうよろこ＃
びまして、有りがた涙をこぼして居＃
ります。初は熱があまり高いので、一＃
＜Ｐ－０６７＞
時はどうなることかと心配いたし＃
ましたが、昨朝あたりから熱がずつ＃
と下つて、食事も進みますから、一先＃
安心いたしました。併し老病の事故、＃
よほど大事にしなければならぬと＃
存じます。祖母一人孫一人の事で御＃
座いますから、勝手がましい御願で＃
すが、どうか今四五日のところ御ゆ＃
るしを願ひ度う御座います。＃
＜Ｐ－０６８＞
二月四日　　　　淺吉　　＃
御主人樣　　＃
二、　　主人から小ぞうへ　　＃
其の後どうかと思つてゐましたが、＃
手紙を見て安心しました。こちらの＃
方はどうとも都合がつくから、心配＃
するには及びません。五日でも十日＃
でも、一人でね起きの出來るまで、ゆ＃
つくり看病してお上げなさい。此の＃
＜Ｐ－０６９＞
かはせの金は、ほんの僅かですが、何＃
かすきな物を買つて上げて下さい。＃
二月六日　　　　井上勉藏　　＃
淺吉殿　　＃
第二十　　胃と身體　　＃
ある時口・耳・目・手・足等一同申し合せて、胃に向＃
つていふやう、＃
「我等はつねにいそがしく働けるに、汝はた＃
だ坐して食ふのみにて、少しも我等に報ゆ＃
＜Ｐ－０７０＞
る所なし。我等一同申し合せて、今日より働＃
くことを止むべければ、左樣心得られたし。」＃
とて、これより後は耳は食事の知らせを聞き＃
ても知らぬ風をし、目は食物を見ても見ぬふ＃
りをして過し、手は食物を口に入るゝことを＃
止め、足は食堂へ行くことを止めたり。＃
かくて二三日を過せしに、耳鳴り、目暗み、手足＃
なえて、動くことかなはず、皮膚の色さへ青ざ＃
めて、身體は全く力なきにいたれり。こゝにお＃
＜Ｐ－０７１＞
いて、胃は一同に向つて曰く、＃
「諸君は知らずや、我はたゞ坐して食ふ者に＃
あらず。我の職務は食物をこなして、之を血＃
の製造場へ送るにあり。我若し食物をこな＃
す事なくば、全身を養ふ血は如何にして得＃
らるべき。諸君我を苦しめんとして、此の數＃
日間少しも食物を送らざるが故に、新しき＃
血出來ずして、諸君は皆却つて自ら苦しむ＃
にいたれり。これ諸君の自ら招く所なり。諸＃
＜Ｐ－０７２＞
君は今にして諸君の誤れるをさとりしな＃
らん。諸君若し我に食物を送るために働き＃
たりといはば、我もまた諸君を養ふために＃
勞したりといはん。今より後はたがひに親＃
密に暮すべし。世はすべて相持なり。」＃
といふに、手足等一同成程と感心せり。　　＃
第二十一　　虎ト猫　　＃
「猫デナイシヨウコニ竹ヲ書イテオキ。」トイフ＃
コトアリ。虎ト猫トハ最モヨク相似タル獸ナ＃
＜Ｐ－０７３＞
リ。＃
虎モ猫モアゴ短ク、首太シ。＃
アゴ短ケレバ、物ヲカム力＃
強ク、クビ太ケレバ、他ノ獸＃
類ヲトラヘタル時、之ヲ運＃
ビ去ルニ便ナリ。」＃
足モマタ太クシ＃
テ、力強シ。虎ハ前足ノ一撃ニテ鹿ナ＃
ドヲタフスコト、猫ノネズミヲトラ＃
＜Ｐ－０７４＞
フルガ如シ。足ノ先ニハ鋭クシテ曲レル爪ア＃
リ。用ナキ時之ヲカクスコト、虎モ猫モ相同ジ。」＃
猫ノ口ニハ上下ニ二本ヅツノ鋭キ牙アリテ、＃
肉ヲサクニ適ス。又其ノ舌ニハ内方ニ向ツテ＃
ハエタル太キ毛ノ如キトゲアリ、骨ニ附キタ＃
ル肉ヲ食取ルニ便ナリ。虎モマタ同ジ。＃
虎モ猫モ足ノ裏ヤハラカナレバ、歩ム時音ヲ＃
立テズシテ、シヅカニ他獸ニ近ヨリ、急ニ飛ビ＃
ツキテ之ヲ捕フ。虎モマタ猫ノ如ク、ヨク木ニ＃
＜Ｐ－０７５＞
ヨヂ上ルコトヲ得。＃
此ノ外目・鼻・耳ノ形ヨリ、尾ノ長ク、ヒゲノ太キ＃
マデ、相似タル所甚ダ多シ。タヾ猫ノ毛色ニハ＃
黒・白・三毛ナド樣々アレド、虎ハ一樣ナリ。猫ノ＃
中ニモ其ノ毛色虎ニ似タルモノアリ、之ヲ虎＃
猫トイフ。　　＃
第二十二　　世界の話　（一）　　＃
我が大日本帝國はアジヤ大陸の東の海中に＃
ある島國なり。我等若し汽船に乘りて、我が帝＃
＜Ｐ－０７６＞
國の港を出で、東へ東へと進み行かば、凡そ二＃
週間の後にはアメリカ大陸に着くべし。アメ＃
リカ大陸は北アメリカと南アメリカとに分＃
る。北アメリカには合衆國といふ國あり。農業・＃
工業・商業共に盛にして、國甚だ富めり。此の國＃
にて商業の最も盛なる都會をニューヨークと＃
いふ。＃
こゝより汽船に乘りて、ふたゝび東へ進めば、＃
一週間にしてイギリス國の港に着く。＃
＜Ｐ－０７７＞
イギリスは我が日本帝＃
國の如き島國にして、商＃
業・工業いづれも盛に、海＃
軍強く、商船多し。首府ロ＃
ンドンは世界の都市中＃
にて、人口最も多きとこ＃
ろなり。＃
ヨーロッパ大陸にはフラ＃
ンス・ドイツ・ロシヤ等の＃
＜Ｐ－０７８＞
國々あり。フランスは海をへだててイギリス＃
の南にあり。早くより工藝・美術の發達したる＃
國なり。首府をパリーといひ、世界中最も美し＃
き都なり。フランスの隣國にて、其の東北にあ＃
るドイツは學問のよく開けたる國なり。＃
ロシヤはヨーロッパ大陸の東部にひろがれる＃
國にして、其の領地甚だ廣く、アジヤ大陸のシ＃
ベリヤもまた其の一部なり。＃
アジヤ大陸には印度・支［し］那［な］・韓［かん］國［こく］等あり。　アジヤ＃
＜Ｐ－０７９＞
大陸の西、ヨーロッパ大陸の南にある大陸をア＃
フリカといふ。＃
ヨーロッパよりシベリヤ鐵道にて東方へ向は＃
ば、二週間あまりにして日本に歸着すること＃
を得べし。＃
ヨーロッパより船にて日本へ歸るには、ヨーロッ＃
パ大陸とアフリカ大陸との中間にある地中＃
海を過ぎ、印度洋を渡りて、東へ東へと進むな＃
り。＃
＜Ｐ－０８０＞
かくの如く日本を出で、海を越え、陸を越え、東＃
へ東へと進めば、又元の日本に歸り來る。西へ＃
西へと進むもまた同じ。これ世界の圓きがた＃
めにして、若し平たき物ならば、行けば行く程＃
出發點に遠ざかるべきはずならずや。　　＃
第二十三　　世界の話　（二）　　＃
我等の住む世界は圓きもの故、名づけて地球＃
といふ。地球の表面の凡そ三分の二は海にし＃
て、三分の一は陸なり。＃
＜Ｐ－０８１＞
地球を南北の兩半球に分てば、北半球は南半＃
球よりも陸地多し。北半球と南半球とは時候＃
全く相反し、北半球の夏は南半球の冬なり。北＃
半球にて百花咲みだれて、蝶の飛ぶ春の時＃
節は、南半球にては木の葉散りしきて、蟲の鳴＃
く秋の時候なり。＃
北極・南極に近き地方にては、半年は晝にして、＃
半年は夜なる所あり。かゝる地方にては氣候＃
つねに寒冷にして、美しき花木を見ること能＃
＜Ｐ－０８２＞
はず。ある土人の如きは氷＃
を以て家を造りて住めり。」＃
又世界の中には、年中夏の＃
氣候にして甚だ暑く、少し＃
も氷雪を知らざる國あり。＃
かゝる地方にては、人は皆＃
はだかにして、布片を身體＃
の一部にまとふに過ぎず。＃
我が日本の國の大部分は、＃
＜Ｐ－０８３＞
冬も甚だしく寒からず、夏も甚だしく暑から＃
ず、雪月花のながめも折節にかはりて面白く、＃
山川の風景もうるはし。＃
地球上に住む人類は總數十六億ありて、其の＃
人種はさま〴〵なり。ヨーロッパ人は大むね皮＃
膚白く、髪赤く、眼の色青し。アフリカ人は皮膚＃
黒く、髪ちゞれたり。我等日本人は髪も黒く、眼＃
も黒く、皮膚の色は黄なり。　　＃
第二十四　　橘［タチバナ］中佐　（一）　　＃
＜Ｐ－０８４＞
明治三十七八年ノ戰役ニ、君ノタメ國ノタメ、＃
名譽ノ戰死ヲトゲタ軍人ハ大ゼイアツタガ、＃
ソノ中デモ海軍ノ廣瀬中佐、陸軍ノ橘中佐ノ＃
二人ハ軍神トマデイハレタ。＃
橘中佐ハ東宮武官トシテ皇太子殿下ノ御信＃
任ノアツイ軍人デアツタ。三十七年ノ四月第＃
二軍ニツイテ戰地ヘ向ツタガ、中佐ハ今度ノ＃
出陣ヲ幸ニ、帝國ノタメ、天皇陛下ノ御タメニ、＃
メザマシイ働ヲシナケレバナラナイト、八月＃
＜Ｐ－０８５＞
末ノ遼［レウ］陽［ヤウ］ノ戰ニハ、部下ノ大＃
隊ヲヒキヰテ、勢鋭ク進撃シ＃
タ。＃
敵ハケハシイ山ニ陣取ツテ、＃
上カラ下マデ幾重モノ＃
陣地ヲ布キ、盛ニ彈＃
丸ヲ打出ス。＃
我ガ兵ハ物トモ＃
セズ敵陣メガケテ＃
＜Ｐ－０８６＞
突撃シタガ、敵ハツルギノ林ヲ以テムカヘタ。＃
中佐ハマツサキニ立ツテ、敵中ヘヲドリコン＃
デ、タチマチ三人ノ敵ヲ斬リ殺シタ。＃
敵ノ彈丸ハ雨アラレノ樣ニ飛ンデ來ル。中佐＃
ハハヤ、右手ニ一ヶ所ノ傷ヲ受ケタガ、少シモ＃
ヒルマズ、左手ニ軍刀ヲ持ツテ部下ノ兵士ヲ＃
ハゲマシ〳〵、トウ〳〵山上ノ敵ヲ追拂ツテ、＃
日ノ丸ノ國旗ヲ立テタ。時ハ八月三十一日ノ＃
朝日モマダ上ラナイ頃デアツタ。＃
＜Ｐ－０８７＞
敵ハ之ヲ見テ、三方カラ大砲ヲウチカケタ。イ＃
カニ心ハ堅クテモ、身ハ鐵石デナイ。砲彈ニタ＃
フレル兵士ハ數ヘキレナイ。之ヲ見タ敵ハ更＃
ニ新［アラ］手［テ］ヲ加ヘテ、フタヽビ攻メヨセテ來タ。＃
中佐ハ＃
「一度占領シタ此ノ高［カウ］地［チ］、全滅スルトモ敵ノ＃
手ニワタスナ。一足モ退却スルナ。」＃
トサケンデ部下ヲハゲマシ、敵ヲ撃退スルコ＃
ト數度ニ及ンダ。此ノ時中佐ハスデニ第二彈＃
＜Ｐ－０８８＞
ヲ右手ニ、第三彈ヲ腹ニ受ケテ居タガ、ソレデ＃
モタワマズ、奮戰ヲツヾケテ居ルト、間モナク＃
砲彈ノ破片ガ中佐ノコシニアタツテ、中佐ハ＃
ドウト其ノ場ニ倒レタ。　　＃
第二十五　　橘中佐　（二）　　＃
カタハラニ居タ一軍曹ハ中佐ヲ壕［ホリ］ノ内ニ入＃
レテカイハウシタ。戰ハマス〳〵ハゲシイ。中＃
佐ハ目ヲ見張リテ、軍刀ヲ杖ニ起上ラウトス＃
ル。軍曹ハ中佐ヲセオツテ、彈丸ノ下ヲクヾリ＃
＜Ｐ－０８９＞
ナガラ、ケハシイガケヲカケ下リタ。＃
ホツト一イキツク折カラ、一彈又モ中佐ノ胸＃
ヲツラヌキ、軍曹ノ胸ヲモ打拔イタ。二人ハ投＃
ゲ出サレテユメウツヽ。＃
二人ハ吹ク朝風ニ正氣ヅイタ。軍曹ハ同ジク＃
負傷シテソコニ倒レテ居タ一兵士トトモニ＃
中佐ヲイタハツタ。敵ノ突撃ノ聲ガ盛ニ聞エ＃
ル。陣地ハフタヽビ敵ニ取返サレルノデアラ＃
ウ。中佐ハ＃
＜Ｐ－０９０＞
「アヽ殘念。多數ノ部下ヲ死ナセタ上、セツカ＃
ク占領シタ陣地ヲ取返サレテ殘念千萬ダ。」＃
トイヒナガラ、形ヲ正シテ、＃
「今日ハ我ガ皇太子殿下ノ御誕［タン］生［ジヤウ］日ダ。此ノ＃
メデタイ日ニ討死スルノハ軍人ノ面目ダ。＃
名譽ノ事ダ。」＃
軍曹ハ自分ノ重傷ヲモウチ忘レテ、アランカ＃
ギリノ力ヲツクシタガ、中佐ノイキハトウト＃
ウ其ノ日ノ夕方ニ絶エタ。＃
＜Ｐ－０９１＞
コレヨリ先、中佐ハ自分ノ馬丁ニ言付ケテ、＃
「若シ夜明頃、突撃ノ聲ガ聞エテ、砲聲・銃聲ガ＃
絶エタラ、見事ニ敵ノ陣地ヲ取ツタト思ヘ。＃
其ノ時ハスグ馬ヲ引イテ來イ。若シ突撃ノ＃
聲ガ聞エテモ、砲聲・銃聲ガツヾクヤウナラ、＃
我ガ軍ガ苦戰シテヰルト思ヘ。其ノ時ハオ＃
レノ死體ヲセオツテ歸ル積リデカケツケ＃
ヨ。」＃
トイツタガ、夜明頃突撃ノ聲ガ盛ニ起ツテモ、＃
＜Ｐ－０９２＞
砲聲・銃聲ハ絶エナイ。馬丁ハドウナルコトカ＃
ト心配シナガラ、樣子ノ分ルノヲ待ツテ居タ＃
ガ、トウ〳〵戰死サレタト聞イテ、カケツケテ＃
其ノ死ガイニ取リスガツテ泣イタ。＃
橘中佐ハ平生カラ志ノ堅イ、勇氣ニミチタ軍＃
人デ、部下ヲアハレム心モ深カツタ。中佐ノ樣＃
ナ死方ヲシタ人ハイクラモアルガ、軍神トイ＃
ハレル程ニウヤマハレタノハ、平生カラノ行＃
ガリツパデアツタカラデアル。海軍ノ廣瀬中＃
＜Ｐ－０９３＞
佐モヤハリ同ジデアル。　　＃
第二十六　　名古屋　　＃
東海道の旅行中、最も多く衆人の目をひくも＃
のは、富士山と名古屋城の金のしやちほこと＃
なるべし。＃
名古屋城は今より凡そ三百年前、徳［とく］川［がは］家［いへ］康［やす］が＃
諸大名に課して造らしめたる名城にして、其＃
の天守閣は加［か］藤［とう］清［きよ］正［まさ］のきづきしものなり。名＃
高き金のしやちほこは此の天守閣の棟［むね］の兩＃
＜Ｐ－０９４＞
はしにあり。高さ八尺＃
五寸、朝日・夕日にかゞ＃
やきて、遠く數里の外＃
よりも望み見ること＃
を得べし。名古屋は此＃
の城あるによりて名＃
高く、「尾張名古屋は城＃
で持つ。」とうたはれた＃
り。＃
＜Ｐ－０９５＞
名古屋は平野の間にあり。四通八達の要路に＃
あたれるを以て、早くより東海道一の大都會＃
なりしが、鐵道の開通せしより、商工業の發達＃
著しく、燒物・塗物・扇・綿絲・織物等の産出すこぶ＃
る盛なり。戸口もまた年々に増加す。＃
名古屋の南に熱［あつ］田あり。今合して名古屋市の＃
一部となれり。近年新しき港も成りたれば、海＃
陸運輸の便益〻開け、産業の發達は今後いよい＃
よ著しからん。　　＃
＜Ｐ－０９６＞
終　　＃
