＜出典＞３３１　　　国定読本　３期３－１
＜Ｐ－０００＞
もくろく　＃
一　大日本………一　　十四　雨………五十　＃
二　中村君………二　　十五　養老………五十二　＃
三　大蛇たいぢ………七　　十六　日本三景………五十六　＃
四　松太郎の日記………十二　　十七　虹………六十　＃
五　金鵄勲章………十七　　十八　峠から町へ………六十三　＃
六　鯉のぼり………二十　　十九　用水池………六十八　＃
七　大賣出し………二十二　　二十　八幡太郎………七十九　＃
八　ツバメ………二十五　　二十一　水見舞………八十二　＃
九　私のうち………二十七　　二十二　郵便函………八十九　＃
十　遠足………三十四　　二十三　一足々々………九十五　＃
十一　熊襲征伐………四十一　　二十四　ブダウ………九十五　＃
十二　一口話………四十五　　二十五　熊のさゝやき………九十七　＃
十三　蠶………四十六　　二十六　東京停車場………百　＃
＜Ｐ－００１＞
一　大日本　＃
大日本、大日本、＃
神のみすゑの天皇陛下＃
われら國民七千萬を＃
わが子のやうに＃
おぼしめされる。＃
大日本、大日本、＃
われら國民七千萬は＃
＜Ｐ－００２＞
天皇陛下を神ともあふぎ、＃
おやともしたひてお仕へ申す。＃
大日本、大日本、＃
神代此の方一度もてきに＃
負けたことなく、月日とともに、＃
國の光がかがやきまさる。＃
二　中村君　＃
四月四日の朝、當番で僕が机の上をふいて＃
＜Ｐ－００３＞
ゐると、先生が知らない生徒を一人つれて＃
お出でになりました。＃
「ここがあなたの教室です。せきはあれに＃
します。」＃
といつて、此の間からあいてゐたせきをお＃
さしになりました。さうして「山田さん」とお＃
よびになりましたから、「はい」と答へますと、＃
「此の方は中村さんといふ人で、今度遠い＃
＜Ｐ－００４＞
所から來て、今日から此の級へはいる方＃
です。」＃
とおつしやいました。又中村君には、＃
「これは級長の山田さんです。分らないこ＃
とは此の方におききなさい。」＃
とおつしやいました。私ども二人はていね＃
いにおじぎをしました。＃
中村君は色が黒くて、まるまると太つてゐ＃
＜Ｐ－００５＞
ます。氣がさつぱりしてゐて、二三日たつと、＃
前からの友だちのやうになりました。＃
中村君がこれまで居た所は日本の南の方＃
で、冬でもめつたに雪のふることがなく、う＃
めやさくらも、こちらよりはずつと早くさ＃
くさうです。何でも汽車に二日二ばん乗通＃
しで、こちらへ着いたのださうですから、何＃
百里かはなれてゐるのでせう。こちらは今＃
＜Ｐ－００６＞
さくらのさかりですが、あちらでは、もうと＃
うにちつてしまつたさうです。＃
ある日、僕がうんどう場へ出て見ると、中村＃
君が泣いてゐました。聞けば級のものが二＃
三人で、中村君を生いきだといつて、いぢめ＃
たのださうです。僕は＃
「君、しつかりしたまへ。日本の男は泣くも＃
のではない。」＃
＜Ｐ－００７＞
といつて、力をつけてやりました。中村君は＃
學問もよく出來るし、うんどうも上手です。＃
僕は自分よりえらい友だちを大ぜいして＃
いぢめるのは、男らしくないと思ひます。＃
三　大蛇たいぢ　＃
天［あま］照［てらす］大［おほみ］神［かみ］の弟の方に、すさのをのみことと＃
申す神樣がございました。ある時、出［いづ］雲［も］の國＃
のひの川のはたをお通りになりますと、川＃
＜Ｐ－００８＞
上から箸［はし］が流れて來ました。みことは此の＃
川上にも人がすんでゐるにちがひないと＃
おかんがへになつて、だんだん山おくへお＃
はいりになりますと、おぢいさんとおばあ＃
さんが、一人の娘を中において泣いてゐま＃
した。＃
「なぜ泣くか。」＃
とおたづねになりますと、おぢいさんが、＃
＜Ｐ－００９＞
「私どもにはもと娘が＃
八人ございました。そ＃
れを八［や］岐［また］の大［をろ］蛇［ち］が來＃
て、毎年一人づつたべ＃
ました。もう此の子一＃
人になりましたのに、＃
近い中に又其の大蛇＃
がたべにまゐります。」＃
＜Ｐ－０１０＞
「どんな大蛇か。」＃
「頭が八つ、尾が八つある大蛇で、目はほほ＃
づきのやうに赤く、せ中には、ひのきや杉＃
の木が生えてゐます。」＃
「よし。其の大蛇をたいぢしてやらう。強い＃
酒をたくさんつくれ。」＃
とおいひつけになりました。＃
酒が出來ると、みことはそれを八つのをけ＃
＜Ｐ－０１１＞
に入れさせて、八岐の大蛇の來るのを待つ＃
ていらつしやいました。＃
間もなく大蛇が來て、八つの頭を八つのを＃
けに入れて、其の強い酒を飲みました。＃
飲みほして、大蛇がよひつぶれますと、みこ＃
とはこしのつるぎをぬいて、大蛇をずたず＃
たにお切りになりました。ひの川が血にな＃
つて流れました。＃
＜Ｐ－０１２＞
尾をお切りになつた時、つるぎのはがこぼ＃
れました。ふしぎに思つて、尾をさいてごら＃
んになりますと、つるぎが一ふり出ました。＃
これはめづらしいつるぎだ。自分の物にし＃
てはならぬとおぼしめして、天照大神へお＃
上げになりました。＃
四　松太郎の日記　＃
四月二十一日　土曜　雨　＃
＜Ｐ－０１３＞
今日から日記をつけることにしました。＃
學校からかへつて見ると、廣田君からゑ＃
はがきが來てゐました。＃
北國にも春が來ました。うめやもゝや＃
さくらがみんな一しよにさいてゐま＃
す。これだけはお目にかけたいと思ひ＃
ます。＃
と書いてありました。＃
＜Ｐ－０１４＞
四月二十二日　日曜　晴　＃
朝、おさらひをすましてから、春子とつく＃
しをつみに行きました。かへりみちに、は＃
なれ馬がとんで來ましたので、どうしよ＃
うかと思つてゐますと、よそのをぢさん＃
が大手を廣げてとめて下さいました。＃
四月二十三日　月曜　晴　＃
四月二十四日　火曜　晴　＃
＜Ｐ－０１５＞
ぽちが昨日から病氣で、ごはんをたべま＃
せんので、學校に居てもしんぱいでした＃
が、かへつて來ると、もうよくなつてゐて、＃
尾をふつてむかへに出ました。＃
四月二十五日　水曜　曇　＃
つゞり方の時間に、すゞめが教室の中へ＃
とびこみました。先生がまどをすつかり＃
明けて、出しておやりになりました。＃
＜Ｐ－０１６＞
夕方から雨がふり出しました。＃
四月二十六日　木曜　雨　＃
學校からかへつて、新しい筆で書き方の＃
おけいこをしました。＃
四月二十七日　金曜　晴　＃
海軍のをぢさんがお出でになつて、春子＃
にはゑ葉書とリボン、僕には小刀とえん＃
ぴつをおみやげに下さいました。＃
＜Ｐ－０１７＞
五　金鵄勲章　＃
「をぢさん、勲［くん］章［しやう］がふえましたね。一番こつち＃
は金鵄［し］勲章でせう。」＃
「あゝ、今度の戰［せん］爭［さう］でいたゞいた。」＃
「金の鳥がついてゐますね。」＃
「これは鵄［とび］だよ。それで金鵄勲章といふのだ＃
が、鵄のついてゐるわけは知つてゐるだら＃
う。」＃
＜Ｐ－０１８＞
「いゝえ。」＃
「話して上げようか。」＃
「はい。」＃
「むかし神［じん］武［む］天皇がわるものどもをごせい＃
ばつになつた時、わるものどもが強くて、お＃
こまりになつたことがある。其の時一天に＃
はかにかき曇つて、ひようがひどくふり出＃
すと、金色の鵄が一羽とんで來て、天皇のお＃
＜Ｐ－０１９＞
弓の先にとま＃
つた。鵄の光が＃
まるでいなび＃
かりのやうで、＃
わるものどもは目を明けてゐ＃
ることが出來ず、おそれてみん＃
なにげてしまつたさうだ。其の＃
いはれで、戰爭の時、大きな手が＃
＜Ｐ－０２０＞
らを立てた軍人に下さる勲章に、金の鵄を＃
おつけになつたのだ。＃
此の勲章には功［こう］一級から功七級まである。」＃
「をぢさんのは。」＃
「をぢさんのは功七級だ。」＃
六　鯉のぼり　＃
ゆふべの雨がはれて、青葉の上に日が氣持＃
よくてつてゐます。さをの先の矢車ががら＃
＜Ｐ－０２１＞
がらと鳴る＃
と、鯉が大き＃
な口で、思ふ＃
ぞんぶん風＃
をのんで、家＃
のむねよりも高く尾を上げます。其の尾を＃
下して來て、さをに着けるかと思ふと、又は＃
らをふくらませて、をどり上ります。其のた＃
＜Ｐ－０２２＞
びに、鯉のかげが地の上をおよぎます。＃
七　大賣出し　＃
美しいびらで、一月も前から廣告してゐた＃
島屋の大賣出しは、いよ〳〵今日からはじ＃
まりました。＃
おひるすぎおかあさんにつれられて、買物＃
に行きました。島屋の前には、人が黒山のや＃
うにあつまつてゐました。二かいのまどに＃
＜Ｐ－０２３＞
萬國旗［き］がつるして＃
あつて、おくの方か＃
らたえずちくおん＃
きの音が聞えて來＃
ます。＃
下のかざりまどには、目のさめるやうなち＃
りめんや、きれいな帶や、すゞしさうな浴［ゆか］衣［た］＃
地がかざつてあります。入口の左手には、小＃
＜Ｐ－０２４＞
切やえりや帶あげなどがたくさん下げて＃
あつて、それを見てゐる人も大ぜいありま＃
す。＃
店の中へはいつて見ますと、番頭さんたち＃
は、お客から注文をうけては、小ぞうさんた＃
ちにさしづをしてゐます。小ぞうさんたち＃
は、土ざうからいろ〳〵な反物や帶地をか＃
ついで來て、お客の前につみ上げます。しば＃
＜Ｐ－０２５＞
らく待つて、私どもは浴衣地とこんがすり＃
を買つて外へ出ました。うちへかへつて、ふ＃
ろしきを明けて見ましたら、店のしるしの＃
ついた手ぬぐひと物さしが景物にはいつ＃
てゐました。＃
八　ツバメ　＃
ツバメハトブコトガ上手ナ鳥デ、ツブテノ＃
ヤウニトンデ來テ、物ニツキアタルカト思＃
＜Ｐ－０２６＞
フト、カルクミヲカハシテ、矢＃
ヨリモ早クトンデ行キマス。＃
ガントオナジク、ワタリ鳥デ、＃
アタヽカニナツテ、ガンガ北＃
ノ國ヘカヘルコロ、南ノ國カ＃
ラワタツテ來マス。サウシテ＃
ダン〳〵スヾシクナツテ、ガ＃
ンガソロ〳〵ワタツテ來ル＃
＜Ｐ－０２７＞
コロ、南ノ國ヘカヘツテ行キマス。ツバメハ＃
コチラニ居ル間ニ、人ノ家ニスヲ作ツテ、ヒ＃
ナヲソダテマス。＃
ツバメハ田ヤ畠ノ作物ニツク虫ヲ取ツテ＃
タベマスカラ、人ノヤクニ立ツ鳥デス。＃
九　私のうち　＃
一　＃
こんな所にと思ふやうな村外れに、家が一＃
＜Ｐ－０２８＞
けん立つてゐます。これが私のうちです。＃
それは〳〵しづかな所で、風の音と水の音＃
より外には、何の音も聞えません。＃
庭さきのもみぢの木は、前の川に美しいか＃
げをうつしてゐます。＃
うら一めんの林は私のうちのもので、此の＃
ごろは栗の花がたくさんさいてゐます。＃
此の間町のをばさんがいらつしやつて、「こ＃
＜Ｐ－０２９＞
んなしづかな所でくらしてみたい。」とおつ＃
しやいました。＃
二　＃
もえる木のめに春風吹けば、＃
うちのまはりのうめ・もも・さくら、＃
かはる〴〵に花さきみだれ、＃
人も來て見る、小鳥もうたふ。＃
うちの前には小川が流れ、＃
＜Ｐ－０３０＞
舟もうかべば、あひる＃
もうかぶ。＃
つりも出來るし、およ＃
ぎも出來て、＃
あつい夏でもすゞし＃
くくらす。＃
つゆや時雨が色よく＃
そめた＃
＜Ｐ－０３１＞
うらの小山に秋風吹けば、＃
木々のしづくもきのことなつて、＃
ばんのごはんのおかずにまじる。＃
松をのこして木の葉がちれば、＃
庭は一日日がよくあたる。＃
＜Ｐ－０３２＞
本のおさらひすました後は＃
枝につるしたぶらんこ遊。＃
三　＃
私のうちの表通は電車や自轉［てん］車が引切な＃
しに通つて、りやうがはの歩道に人通のた＃
えることがありません。＃
ある朝早く、おとうさんがたびへお立ちに＃
なつた時、お見送をして表へ出て見ました。＃
＜Ｐ－０３３＞
晝あれほどにぎやかな通＃
に、新聞配［はい］達［たつ］と四五人の人＃
のすがたが見えるだけで＃
した。此の時何の氣もなく＃
自分のうちを見て、その小＃
さいのにおどろきました。＃
店・客間・居間・勝手など、これ＃
で間數が七つもあるとは、＃
＜Ｐ－０３４＞
どうしても思はれませんでした。せまい中＃
庭から、屋根の上に頭を出してゐるひよろ＃
松は、葉がほこりだらけでした。＃
私のうちの右どなりは小間物屋で、左どな＃
りは時計屋です。時計屋の前に電車の停［てい］留［りう］＃
場があります。＃
十　遠足　＃
「おかあさん、お天氣は。」＃
＜Ｐ－０３５＞
と、とこの中からおきゝすると、＃
「よいお天氣です。早く起きてお出で。」＃
とおつしやつたので、はね起きました。＃
遠足のしたくをして學校へ行くと、もう級＃
のものが大分來てゐて、先生もお出でにな＃
つてゐました。＃
學校の門を出て西へ向ひました。平尾山の＃
すそへ行くと、わらびやぜんまいが、すつか＃
＜Ｐ－０３６＞
り葉になつてゐました。＃
いたどりは私どものせ＃
いほどにのびてゐまし＃
た。＃
大道へ出て、となり村の＃
入口へ行くと、道＃
ばたの立石にさ＃
るが三匹ほつて＃
＜Ｐ－０３７＞
ありました。一匹は目に、一匹は口に、一匹は＃
耳に手をあててゐます。見ざる・いはざる・聞＃
かざるとい＃
ふのださう＃
です。＃
大平橋を渡＃
つてから左＃
へをれて、松＃
＜Ｐ－０３８＞
山の下へ瓦やきを見に行きました。ちやう＃
どかまを明けたところで、白いけむりが立＃
つてゐました。＃
此所を出て、となり村の學校の前へ行くと、＃
先生が「ちよつと用があるから。」といつて、私＃
どもを道に待たせておいて、學校へおより＃
になりました。此の時私どもの村へよく物＃
賣に來るおぢいさんが、紺のふろしきづつ＃
＜Ｐ－０３９＞
みをしよつて來て、＃
「皆さん、遠足かね。」＃
といつて通りました。＃
八幡［まん］樣の高い石だんを上りつめた所に、し＃
めをはつた大きな杉の木がありました。御＃
神木ださうです。私どもが六人で、やつとか＃
かへました。「さしわたしが八尺もある。」と先＃
生がおつしやいました。＃
＜Ｐ－０４０＞
先づ拜［はい］禮［れい］をして、拜殿［でん］のよこの芝［しば］の上で、べ＃
んたうをたべてゐると、さつきの學校の小［こ］＃
使［づかひ］さんが麥ゆを持つて來て下さいました。＃
のどがかわいてゐたので、みんな大よろこ＃
びで飲みました。＃
先生が拜殿にかけてある繪［ゑ］馬［ま］のお話をし＃
て下さいましてから、たんぼの小道へ出て、＃
三時ごろ學校へかへりました。＃
＜Ｐ－０４１＞
十一　熊襲征伐　＃
昔熊［くま］襲［そ］のかしらに川上のたけるといふ者＃
があつて、天皇のおほせにしたがひません＃
でした。天皇は日［やま］本［と］武［たけるの］尊［みこと］にこれを征［せい］伐［ばつ］せよ＃
とおほせられました。＃
尊は其のころ、やまとをぐなといふ御名で、＃
御年はわづかに十六でいらつしやいまし＃
たが、いさみ立つてお出かけになりました。＃
＜Ｐ－０４２＞
お着きになりますと、間もなくたけるが新＃
しい家を造つて、人々をあつめて、其の祝を＃
しました。尊はかみをといて、女のすがたに＃
なり、つるぎをふところにかくして、其の家＃
の中へおはいりになりました。＃
大ぜいの女どもにまじつていらつしやい＃
ますと、たけるは尊を見つけて、自分のそば＃
へ呼びました。＃
＜Ｐ－０４３＞
夜がふけて、人々はかへりました。たけるも＃
酒によつてねむりまし＃
た。此の時尊はふところ＃
のつるぎを出して、たけ＃
るのむねをおつきにな＃
りました。なみ〳〵の者＃
なら、「あつ」とさけんで死＃
にませうが、たけるも熊＃
＜Ｐ－０４４＞
襲のかしらだけあつて、＃
「しばらくお待ち下さい。申したいことが＃
あります。」＃
といひました。尊は手をおゆるめになりま＃
した。＃
「あなたはどなたでいらつしやいます。」＃
「われは天皇の皇［み］子［こ］やまとをぐな。」＃
「あゝ、たゞ人ではおありなさらなかつた。＃
＜Ｐ－０４５＞
自分にまさる者はないので、たけると申＃
して居りましたが、みやこには強いお方＃
がおありになつた。今御名をさし上げま＃
す。日本武皇子と申したまへ。」＃
といつて、息がたえました。これから後やま＃
とをぐなの皇子を日本武尊と申し上げる＃
ことになりました。＃
十二　一口話　＃
＜Ｐ－０４６＞
「日本一の事をくふうした。」＃
「何だ。」＃
「米をつくのに、上にもうすをさかさにつる＃
しておけば、きねの上げ下しに米がつける。」＃
「上のうすには、どうして米を入れる。」＃
「それまではまだかんがへなかつた。」＃
十三　蠶　＃
昨日からうちの蠶が上りはじめました。上＃
＜Ｐ－０４７＞
る頃には、蠶のからだがすき通るやうにな＃
ります。もう桑の葉をたべないで、頭を上げ＃
て、繭［まゆ］をかける所をさがします。それをひろ＃
つて、まぶしへうつすのですが、少しでもお＃
くれると、かごのうらや棚のすみなどで、繭＃
をかけはじめますから、ちつともゆだんが＃
出來ません。今日のお晝頃はうち中、目がま＃
はるほどいそがしうございました。＃
＜Ｐ－０４８＞
まぶしには、かさ〳〵とい＃
ふ音がしてゐますが、これ＃
は蠶が動くからです。早い＃
のはもう繭を作り上げて＃
ゐます。又うすい吉野紙の＃
やうな作りかけの繭の中＃
で、きゆうくつさうにから＃
だをまげて、一生けんめい＃
＜Ｐ－０４９＞
にはたらいてゐるのもあります。まだ繭を＃
かける場所をさがしてゐるのもあります。＃
今桑をたべてゐる蠶も、明日の朝までには、＃
たいてい上つてしまふさうです。さつきお＃
かあさんが、＃
「民子、いよ〳〵今夜一ばんになつたよ。あ＃
れで八分通だ。」＃
と、ねえさんにおつしやいました。おかあさ＃
＜Ｐ－０５０＞
んもねえさんも、此の五六日は夜もろくろ＃
くおやすみにならないのです。＃
十四　雨　＃
此ノ頃ハ雨ガ降リツヾイテ、表デ遊ブ日ガ＃
アリマセン。カウ毎日降ル雨ハドウナツテ＃
シマフノデセウ。＃
カラカサニ降ル雨ガ四方ヘ流レオチルヤ＃
ウニ、水ハ低イ方ヘ低イ方ヘト流レテ行キ＃
＜Ｐ－０５１＞
マス。庭ヘ降ル雨モ、庭ノ高イ所カラ、低イ方＃
ヘ流レテ行キマス。ハジメハ絲スヂホドノ＃
流デスガ、ソレガダン〳〵アツマツテ、ミゾ＃
ニオチル頃ニハ、流モ早クナリ、水ノカサモ＃
多クナリマス。＃
雨水ノ流レル道ハ地［チ］圖［ヅ］ニカイタ川ヲ見ル＃
ヤウデス。本流ガアリマス。支流ガアリマス。＃
低クテ廣イ所ニタマルト、池ノヤウニナリ、＃
＜Ｐ－０５２＞
高イ所ニ行キアタルト、其所ヲヨケテ流レ＃
マス。カウシテ流レル水ハ、ミゾカラ小川ヘ、＃
小川カラ大河ヘ、流レ〳〵テ海ヘ行キマス。＃
雨水ハタヾカウシテ流レルバカリデハア＃
リマセン。地ノ中ニシミコンデ、井戸水ヤ泉［イヅミ］＃
ノモトニナルノモアリ、目ニ見エナイ水蒸［ジヨウ］＃
氣ニナツテ、空ヘカヘルノモアルサウデス。＃
十五　養老　＃
＜Ｐ－０５３＞
昔美［み］濃［の］の國にまづしい人がありました。山＃
から薪を取つて來て、それを賣つて、くらし＃
を立ててゐました。此の人に年取つたおと＃
うさんがありまして、酒がすきでございま＃
した。それで山へ行くにも、へうたんを腰に＃
着けてゐて、かへりに酒を買つて來ては、お＃
とうさんを喜ばせてゐました。＃
或日山の中で、こけに足をすべらせて、うつ＃
＜Ｐ－０５４＞
むけにたふれました。すると酒のにほひが＃
しますので、ふしぎに思つて、見まはします＃
と、石の中から酒ににた物がわいてゐます。＃
なめてみると、酒のあぢがいたします。喜ん＃
で、それから＃
は毎日其の＃
酒をくんで＃
來て、おとうさん＃
＜Ｐ－０５５＞
に上げました。＃
いつか此の事が天皇のお耳に入りまして、＃
わざ〳〵奈［な］良［ら］の都から美濃の國へ行［ぎやう］幸［かう］に＃
なりました。酒の出る所を御らんになつて、＃
「これは親孝行のほうびに、神々がさづけ＃
られたにちがひない。」＃
とおほせになりました。又まことにめでた＃
い事だといふので、年がうを養［やう］老［らう］とお改め＃
＜Ｐ－０５６＞
になつたと申します。＃
十六　日本三景　＃
日本の國には、景色のよい所がたくさんあ＃
りますが、松島・天の橋立・宮島の三つを、昔か＃
ら日本三景と申します。＃
松島は大小二三百の島が、海上三四里の間＃
にちらばつてゐて、島といふ島には、枝ぶり＃
のよい松がしげつてゐます。あたりの高い＃
＜Ｐ－０５７＞
所からもながめますが、多く＃
は舟に乗つて、島の間を通つ＃
て見物します。晴れた日、月の＃
夜、雪の朝、いつ見てもよい景＃
色です。＃
天の橋立は海中へつき出た＃
細長い洲［す］で、長さは一里、はゞ＃
は四五十間。其の洲の白い砂＃
＜Ｐ－０５８＞
の上に、青い松が一面に立つ＃
てゐて、長い橋のやうに見え＃
ます。＃
宮島はまはりが七里もある＃
島で、島の山には鹿［しか］がたくさ＃
んすんでゐます。＃
島の東北に嚴［いつく］島［しま］神社があり＃
ます。朱ぬりの社殿が山のみどりを後にし＃
＜Ｐ－０５９＞
て、たいそうきれいに見えま＃
す。ことにしほのみちた時は、＃
社殿や廻［くわい］廊［らう］が海の中に浮い＃
て、お話にある龍［りゆう］宮［ぐう］＃
はこれかと思はれ＃
ます。社前の海に、日＃
本一の大鳥居があ＃
ります。＃
＜Ｐ－０６０＞
十七　虹　＃
あれ〳〵、虹［にじ］が立つてゐる。＃
森も小山も下に見て、＃
向ふの田から大空の＃
雲までとゞく弓のなり。＃
だれがかけたか、虹の橋。＃
さて〳〵、虹は美しい。＃
＜Ｐ－０６１＞
赤・黄・みどりやむらさきと、＃
七つの色をならばせて、＃
空のゑぎぬへ一筆に、＃
だれがかいたか、虹の橋。＃
さて〳〵、虹はおもしろい。＃
雨のはれ間にちよつと出て、＃
用ありさうに天と地の＃
＜Ｐ－０６２＞
遠きをつなぐ雲の上。＃
だれが渡るか、虹の橋。＃
あれ〳〵、虹がきえて行く。＃
あのあざやかな色どりも＃
しだい〳〵にうすくなり、＃
小山の方はもう見えぬ。＃
だれがけすのか、虹の橋。＃
＜Ｐ－０６３＞
十八　峠から町へ　＃
作太郎は父につれられて、はじめて町へ行＃
きました。村ざかひの峠へ上りますと、もう＃
町が目の下に見えます。＃
「おとうさん、町があんなに近く見えてゐ＃
て、まだ一里半もあるのですか。」＃
「さう。これで中々近くはない。あのたんぼ＃
の中に、ちよつとした森があるだらう。あ＃
＜Ｐ－０６４＞
れは神明樣の森だが、あ＃
れまでが半道で、あれか＃
ら町まで一里ある。」＃
「神明樣のこちらにある＃
白壁造の家は工場です＃
か。」＃
「あの青田の中にあるの＃
だらう。あれは製絲工場＃
＜Ｐ－０６５＞
で、女工が四百人も絲を＃
取つてゐる。うちの繭［まゆ］も＃
あの工場で生絲になつ＃
たはずだ。」＃
「あ、町の方へ馬車が二だいかけて行きま＃
す。」＃
「今日は買物もあるし、歸りには馬車に乗＃
つて、此の下まで來てもよい。」＃
＜Ｐ－０６６＞
二人は峠を下りて、となり村へはいりまし＃
た。道の兩がはは一面に青田で、ちやうど田＃
の草取のさい中です。＃
「うちの方では、田に水がないと言つて、さ＃
わいでゐますのに、此の村にはよく水が＃
ありますね。」＃
「よく氣がついた。此の村には、向ふの杉山＃
のすそに、大きな用水池があつて、其所か＃
＜Ｐ－０６７＞
ら水を引くからだ。」＃
「私どもの村では、どうして池を掘らない＃
のでせう。」＃
「來年あたりから掘ることになつてゐる。＃
少しまはり道だが、となり村の用水池を＃
見て行くことにしよう。」＃
「用水池には大きな鯉が居ませうね。」＃
「鯉も居るが、それよりも、もつとお前に聞＃
＜Ｐ－０６８＞
かせて置きたい話がある。」＃
十九　用水池　＃
昔此の村はひどく貧乏で、此の村の名を言＃
ふと、「あゝ、あの貧乏村か。」と言はれたものだ＃
さうだ。此のあたりの青田も、其の頃は大て＃
いあれ地で、其の杉山なんぞは、木もろくに＃
ない草山だつたといふことだ。＃
ところが、今から百二三十年前に、此の村の＃
＜Ｐ－０６９＞
庄［しやう］屋［や］が、村のことをいろ〳〵と考へたすゑ、＃
どうかして村のあれ地を田地にして、米が＃
とれるやうにしたいものだと思つた。田地＃
にするには、水がいるが、引いて來る川がな＃
い。どうしても大きな用水池を掘らなけれ＃
ばならないと考へた。＃
此の事を村の相談にかけた。村の人々は中＃
中大きな仕事だとは思つたが、さうでもし＃
＜Ｐ－０７０＞
なければ、外に村のさかえる工夫はあるま＃
いといふので、みんな賛成したといふこと＃
だ。＃
着手は來年からといふことになつて、庄屋＃
は方々の村へ用水池を見に出た。物なれた＃
人には相談をかけた。＃
いよ〳〵其の年になつて、庄屋は普［ふ］請［しん］方［かた］を＃
よそからつれて來た。村の人は代り合つて、＃
＜Ｐ－０７１＞
一日置に普請の手つだひをすることにな＃
つた。土を掘る、石を運ぶ、樋［ひ］をうめる、土手を＃
つく、いろ〳〵の工事に、村の人は普請方の＃
さしづをうけてはたらいた。＃
土手は長さが三百間、高さが六間半、幅は一＃
番上で三間といふ大きなもくろみであつ＃
た。＃
「そんな大きな池がいるだらうか。」＃
＜Ｐ－０７２＞
と言つて、首をひねる者もあつたといふが、＃
一年ばかりの間は、べつだんくじやうも出＃
なかつた。氣早な者は自分の持地を田に造＃
りかへたといふことだ。＃
翌年の春、大雨がふりつゞいて、せつかくつ＃
き上げた土手が、半分ほどもくづれてしま＃
つた。すると、＃
「もくろみが惡い。」＃
＜Ｐ－０７３＞
「工夫がたりない。」＃
「こんなむだな仕事をすれば、貧乏村はい＃
よいよ貧乏になる。」＃
などと言ふ者が出て來て、手つだひに出る＃
者は日ましにへつた。＃
庄屋は村の者にいろ〳〵言つて聞かせて、＃
土手をつきなほしたが、運の惡い時には惡＃
いもので、其の年のつゆに、又土手がくづれ＃
＜Ｐ－０７４＞
て、池のたまり水が村の中へおし出した。＃
かうなつては、もう庄屋の惡口を言ふ者ば＃
かりで、普請方はとう〳〵にげてしまつた。＃
それでも庄屋はくじけなかつた。方々から＃
人夫をやとつて來て、もう一度土手をつき＃
なほした。其の賃錢をみんな庄屋が自分の＃
ふところから出した。よい身代であつたが、＃
其のために田を賣り、畠を賣り、家も土藏も＃
＜Ｐ－０７５＞
みんな賣りはらつた。しまひには妻や子ど＃
もの着がへまでもないやうになつた。＃
人の一心といふものはえらいもので、三度＃
目に土手の工事はうまくいつた。一雨毎に＃
池の水はふえた。それを見て、村の人は急に＃
あれ地を田にしだした。一冬こして、春には＃
池の水が一ぱいになつた。六月の田植時か＃
ら七月・八月にかけて、水はありあまつた。そ＃
＜Ｐ－０７６＞
こで一年ましに田がふえたが、をしいこと＃
に、庄屋は池が出來上つた年の冬、死んでし＃
まつた。長い間の苦勞が病氣のもとであつ＃
たといふことだ。＃
家屋［や］敷［しき］もなく＃
なつた上に、夫＃
に死なれたの＃
で、庄屋の妻は＃
＜Ｐ－０７７＞
子どもをつれて里へ歸＃
つてゐた。其の後村の人＃
は、庄屋の家屋敷や田地＃
を買ひもどして、妻や子＃
どもに、もとの家へ歸つ＃
てもらつた。あの白壁造＃
の土藏のある家がそれ＃
だ。親のほねをりが子の＃
＜Ｐ－０７８＞
時になつてあらはれたのであらう、あの家＃
にはよい事がつゞいて、身代は前よりもよ＃
くなつた。＃
土手の此の記念碑［ひ］に、今話した事がくはし＃
く書いてある。此の山の杉も庄屋が先に立＃
つて植ゑたのださうだ。＃
昔の貧乏村は、今、郡の中でもゆびをりの金＃
持村だと言はれてゐる。今年のひでりにも、＃
＜Ｐ－０７９＞
此の用水池にはあんなに水がたまつてゐ＃
る。＃
二十　八幡太郎　＃
八幡［まん］太郎義［よし］家が或日安［あ］倍［べの］宗［むね］任［たふ］をつれて廣＃
い野原を通りますと狐［きつね］が一匹とんで出ま＃
した。義家はせ中のうつぼから、かりまたを＃
ぬいて狐を追つかけました。いころすのも＃
かはいさうだと思つて、兩耳の間をねらつ＃
＜Ｐ－０８０＞
て、頭の上をすれ〳〵にいました。矢は狐の＃
鼻［はな］のさきの地面につつ立つて、狐はころり＃
とたふれました。＃
かけよつて見て、宗任が＃
「矢はあたつて居りませぬのに、狐は死ん＃
で居ります。」＃
と言ふと、義家が＃
「びつくりしてたふれたのだ。ほつて置け、＃
＜Ｐ－０８１＞
今に生きかへる。」＃
と言ひました。＃
さて宗任がかりまたを＃
ぬき取つて、義家にかへ＃
しますと、義家はせ中を＃
くるりとむけて、うつぼ＃
へさゝせました。かりま＃
たは、矢じりがつ＃
＜Ｐ－０８２＞
ばめの尾のやうにわれた、たいそうするど＃
い矢で、宗任はつい此の間義家にかうさん＃
したてきの大將なのです。＃
「あぶないことだ。もし宗任に惡い心があ＃
つたら。」＃
と、義家の家來どもはひや〳〵したといひ＃
ます。＃
二十一　水見舞　＃
＜Ｐ－０８３＞
おとうさんにうかゞひますと、叔＃
母さんの町に大水が出たさうで＃
す。皆樣におけがもございません＃
でしたか、お見舞を申し上げます。＃
九月七日　竹子　＃
叔母上樣　＃
返事　＃
お手紙をありがたう。おとうさん＃
＜Ｐ－０８４＞
へ電報で御返事をいたしたやう＃
に、うちには大した事もありませ＃
んでしたが、中々のさわぎでした。＃
九月にはいつては雨つゞきでし＃
たが、四日の日は朝からひどい雨＃
で、夕方から風もはげしくなりま＃
した。大水が出なければよいがと＃
心ぱいして、夜中に手をけやはき＃
＜Ｐ－０８５＞
物まですつかり二階へ上げまし＃
た。＃
夜明け方になつて、雨も風もやみ＃
ますと、急に川水の音がごう〳〵＃
と聞えて來て、間もなく火の見で＃
半しようをうち出しました。其の＃
時表で水だ〳〵とさけぶこゑが＃
しましたので、二階のまどからの＃
＜Ｐ－０８６＞
ぞいて見ますと、水が表の通をさ＃
つと洗ひました。叔父さんは大へ＃
んだ土手が切れたといつて、すぐ＃
屋根へ出ました。たちまち水が二＃
尺になり、三尺になり、五尺にもな＃
りました。うら手で助けてくれ助＃
けてくれと呼ぶこゑが聞えまし＃
たが、うちでも下の雨戸がたふれ＃
＜Ｐ－０８７＞
て、中からうすやたらひがぽかぽ＃
か流れ出すほどで、どうすること＃
も出來ませんでした。＃
其のうちに、どうやら水が二階に＃
もつきさうになつたので、わたし＃
は正男をつれて物ほしへ出まし＃
た。仕合はせに水はそれからふえ＃
ませんでしたが、町は大てい水に＃
＜Ｐ－０８８＞
つかつて、人家も七八軒流れまし＃
た。うちでも一時は飲水やたべ物＃
にこまりましたが、今ではあとか＃
たづけも大がいすみました。どう＃
か御安心下さい。＃
おとうさんやおかあさんには、取＃
りまぎれてまだ手紙も上げずに＃
居ります。どうぞよろしく申して＃
＜Ｐ－０８９＞
下さい。＃
九月十五日　叔母から　＃
竹子樣　＃
二十二　郵便函　＃
私は町の辻に立つてゐる郵便函［ばこ］でありま＃
す。雨が降つても、風が吹いても、夜でも、晝で＃
も、此所に立通しに立つてゐますが、葉書や＃
封書などを入れる人の外は、私のからだに＃
＜Ｐ－０９０＞
さはる者がありません。時々道を人にきい＃
て來た者と見えて、「うん、郵便函といつたの＃
はこれだな。」とひとりごとを言つて行く者＃
があります。＃
私のやくめは、御承知の通り、皆樣が私の口＃
へお入れになる郵便物を大切にあづかつ＃
てゐて、これをあつめに來る人に渡すので＃
あります。いかな日でも葉書の百枚や封書＃
＜Ｐ－０９１＞
の三十通ぐらゐは、私の口にはいらないこ＃
とはありません。毎日かならず新聞を入れ＃
に來る方も四五人はあります。たまには雜［ざつ］＃
誌［し］や寫［しや］眞［しん］がはいることもあります。作物の＃
種や商品の見本も入れてよいことになつ＃
てゐますが、私はまだそれをあづかつたこ＃
とはありません。＃
私の口にはいる物は、はがきの外はきつと＃
＜Ｐ－０９２＞
切手がはつてあります。それも品と目方に＃
よつて切手の價がちがひます。＃
郵便物をあつめる人は、毎日きまつた時刻＃
に來て、私のおなかを明けて持つて行きま＃
す。其のあつめに來る頃に、急ぎの封書を入＃
れに來る者が、途中で人と立話でもはじめ＃
ると、私は氣がもめてたまりません。もし間＃
に合はないと、向ふへ大そうおくれて着く＃
＜Ｐ－０９３＞
からです。＃
葉書には、大ていちよつとした用事が書い＃
てありますが、封書には、いろ〳〵こみ入つ＃
た事が書いてあります。おめでたい事やた＃
のしさうな事が書いてありますと、私もう＃
れしいと思ひますが、悲しい事や苦しさう＃
な事が書いてありますと、もらひ泣きをい＃
たします。いつか大そう雨のふるばんに、年＃
＜Ｐ－０９４＞
取つたおぢいさんが、遠方に居るむすこの＃
所へ出した封書や、かつけで足をはらして＃
ゐる書生さんが、お友だちへ出した葉書に＃
は、私もはらわたがちぎれるやうに思ひま＃
した。「それにはどんな事が書いてあつたか。」＃
といふおたづねが出るかも知れませんが、＃
それは人にもらしてはならないことにな＃
つてゐます。＃
＜Ｐ－０９５＞
二十三　一足々々　＃
一足々々、遠い所へ進み行き、＃
一くは〳〵、廣いたんぼをうちかへす。＃
一針々々、金絲・銀絲でぬひをぬひ、＃
一こて〳〵、大きな土藏の壁をぬる。＃
ちりがつもつて山となり、＃
しづくがよつて海となる。＃
二十四　ブダウ　＃
＜Ｐ－０９６＞
庭サキノブダウ棚ニ、今、夕日ガサシテヰマ＃
ス。フサ〳〵ト下ツタウスムラサキノ實ハ、＃
美シイ玉ノヤウニ見エマス。モウアマクナ＃
ツテヰマセウ。＃
叔父サンノウチニモ、ブダウ棚ガゴザイマ＃
ス。ソレニハ黒ミノアルムラサキ色ノ實ガ＃
ナツテヰマス。ウチノブダウトハ種ガチガ＃
フノダサウデス。＃
＜Ｐ－０９７＞
ブダウニハ、マダイロ〳〵ノ種類ガアルト＃
イヒマス。私ドモハブダウノ實ヲ生デタベ＃
マスガ、タクサン作ル所デハ、ブダウ酒ヲ造＃
ツタリ、ホシブダウニシタリスルト申シマ＃
ス。＃
二十五　熊のさゝやき　＃
二人の者が山の中を通ると、熊［くま］が出て來ま＃
した。一人は早く見つけて、木の上へにげ上＃
＜Ｐ－０９８＞
りました。一人はもうにげる間がないので、＃
地にたふれて、死んだふりをしてゐました。＃
熊は死人には手を着けないと聞いてゐた＃
からでございます。＃
熊が來て、からだ中かぎまはしましたが、ほ＃
んたうの死人だと思つたのでせう、其のま＃
ま行つてしまひました。＃
此の時、木に上つてゐた者が下りて來て、＃
＜Ｐ－０９９＞
「どんなにこはかつたらう。僕は木の上か＃
ら見て、びく〳〵してゐた。熊が君の耳の＃
所へ口を持つて行つたや＃
うだが、何か言つたのか。」＃
「うん。『あぶない時に、友だち＃
をすててにげ＃
るやうな者に＃
は、これからつ＃
＜Ｐ－１００＞
きあふな。』と言つた。」＃
二十六　東京停車場　＃
東京停車場は東洋第一の＃
大停車場で、宮［きゆう］城［じやう］の東にあ＃
ります。赤れんぐわの三階＃
造で、間口が百八十四間も＃
あります。向つて右が入口、＃
左が出口で、まん中が帝室＃
＜Ｐ－１０１＞
用になつてゐます。＃
停車場の階上には、役所も＃
ホテルもあります。階下の＃
入口には、左右に大きな待＃
合室があつて、此の外に中＃
央郵便局の分室もあれば、＃
兩替店や、いろ〳〵の賣店＃
もあります。又洗面所もあ＃
＜Ｐ－１０２＞
れば、食［しよく］堂［だう］もあります。＃
此の停車場から、毎日七八千人づつの人が＃
乗降りします。汽車の發着時刻が近づくと、＃
自動車・馬車・人力車がいくだいとなく、入口・＃
出口によつて來ます。＃
はじめて東京見物に來て、此の停車場へ降＃
りる人は、大てい先づ第一に宮城をさして＃
まゐります。　　をはり＃
