＜出典＞３３２　　　国定読本　３期３－２
＜Ｐ－０００＞
もくろく　＃
第一　俵の山………一　　第十四　冬の夜………四十八　＃
第二　日本の高山………四　　第十五　萬じゆの姫………五十　＃
第三　ヤクワントテツビン………九　　第十六　磁石………六十四　＃
第四　きのこ取………十四　　第十七　けんやくと義捐………六十六　＃
第五　海　　第十八　賀茂川………六十九　＃
一　しけ………十九　　第十九　メリンス………七十四　＃
二　なぎ………二十　　第二十　氷すべり………七十七　＃
第六　くりから谷………二十二　　第二十一　神風………七十九　＃
第七　霜………二十六　　第二十二　象………八十五　＃
第八　虎と蟻………二十七　　第二十三　千早城………九十　＃
第九　町ノ朝………三十一　　第二十四　記念の木………九十八　＃
第十　弓流し………三十四　　第二十五　芽………百　＃
第十一　入營した兄から………三十八　　第二十六　伊勢參宮　＃
第十二　笑ひ話………四十三　　一　入營中の兄へ………百三　＃
第十三　鮭………四十五　　二　父から………百四　＃
＜Ｐ－００１＞
第一　俵の山　＃
「今年はほんたうにほう年だ。今の分では＃
去年より七八俵よけいに取れさうだ。」＃
「さうです。新田が大へんよく出來ました。＃
來年もやはりあの稻を作りませう。」＃
朝飯の時こんな話が出ました。今日はうち＃
の者がみんなたんぼへ稻こきに行きまし＃
た。おるす居はおぢいさんと私だけです。＃
＜Ｐ－００２＞
おぢいさんが庭にほしてあるもみをかへ＃
していらつしやると、卵買が來て、卵を七つ＃
買つて行きました。＃
今どこのうちへ行つて見ても、俵の山が出＃
來てゐます。うちでも土間に丸太を置いて、＃
其の上につんであります。一番下は四俵、一＃
番上は一俵で、一山は十俵づつです。＃
昨日までに二山出來て、もう三つ目の山が＃
＜Ｐ－００３＞
出來かゝつてゐま＃
す。今日庭にほして＃
あるもみをすつて、＃
俵に入れてつんだ＃
ら、三つ目の山は出＃
來上りませう。＃
私がたんぼへお湯を持つて行つてくると、＃
おぢいさんが庭で腰をのばして、＃
＜Ｐ－００４＞
「もうお晝かな。」＃
とおつしやいました。土間でこぼれもみを＃
拾つてゐたにはとりが、俵の山へ上つてと＃
きを作りました。＃
第二　日本の高山　＃
「朝晩めつきり寒くなつた。高い山はもう雪＃
だらう。」＃
「にいさん、富［ふ］士［じ］山はまつ白でせうね。」＃
＜Ｐ－００５＞
「さうさ、中ほどまでは降つてゐるかも知れ＃
ない。何しろ一万二千五百尺もあつて、内地＃
第一の高山だから。」＃
「それでは日本一の高山は。」＃
「臺［たい］灣［わん］の新高山さ。これは一万三千尺からあ＃
る。臺灣ではめつたに雪が降らないさうだ＃
が、此の山のいたゞきには、いつもつもつて＃
ゐるといふことだ。」＃
＜Ｐ－００６＞
「一番は新高山、二番は富＃
士山、三番目は。」＃
「いや、二番も三番も臺灣＃
にあつて、四番目が富士＃
山だ。」＃
「富士山の次は。」＃
「内地では甲［か］斐［ひ］の白根で、＃
一万五百尺。」＃
＜Ｐ－００７＞
「其の次は。」＃
「信［しん］州［しう］の槍［やりが］岳［たけ］や赤［あか］石［し］山［さん］で、どれも＃
一万尺以上ある。」＃
「外國には、新高山より、もつと高＃
い山がありますか。」＃
「印［いん］度［ど］のヒマラヤ山は世界一で、＃
たしか三万尺近いとおぼえて＃
ゐる。しかし三郎、高い山がかな＃
＜Ｐ－００８＞
らず名高い山だとはかぎらない。奈［な］良［ら］の春［かす］＃
日［が］山や三［み］笠［かさ］山は千尺そこ〳〵だが、白根や＃
槍岳よりも知られてゐるし、京都の東山に＃
してもさうだ。＃
ふとん着て、ねたるすがたや東山。＃
で、先づ高い岡だと思へばよい。」＃
「高くて名高いのは、どの山ですか。」＃
「それは富士山さ。」＃
＜Ｐ－００９＞
第三　ヤクワントテツビン　＃
或晩人ガネシヅマツテカラ、金物屋ノ店デ、＃
ヤクワントテツビンガ、ジマン話ヲシ合ヒ＃
マシタ。先ヅヤクワンガ言ヒマスニハ、＃
「金ニハイロ〳〵アリマスガ、中デ一番人＃
ノ役ニ立ツノハ、私ドモノ仲間ノ銅デア＃
ラウト思ヒマス。＃
金ヤ銀ハ美シクテ、オアシニナツタリ、指＃
＜Ｐ－０１０＞
ワニナツタリ、其ノ外イロ〳〵ナカザリ＃
物ニナリマスガ、ドチラモタクサンアリ＃
マセンカラ、ネダンモ高ウゴザイマス。銅＃
ハソレニヒキカヘテ、金ヤ銀ヨリモタク＃
サンアリマスカラ、シタガツテネダンモ＃
安ウゴザイマス。ソレデ、オアシニナルコ＃
トモ出來レバ、針金ニナルコトモ出來マ＃
ス。金ダラヒニモナレバ、私ノヤウナヤク＃
＜Ｐ－０１１＞
ワンニモナリマス。シテミレバ銅ホド役＃
ニ立ツ物ハアリマスマイ。」＃
テツビンハ＃
「ナルホド、銅ハタクサンアツテ、役ニモ立＃
チマセウガ、モツトタクサンアツテ、モツ＃
ト役ニ立ツ物ハ鐵デアラウト思ヒマス。＃
飯ヲタクカマモ、物ヲニルナベモ、湯ヲワ＃
カス私モ、私ノ乗ルゴトクモ鐵デス。其ノ＃
＜Ｐ－０１２＞
外、釘ヤ針ノヤウナ小サイ物カラ、キクワ＃
ン車・軍艦ノヤウナ大キナ物マデ、皆鐵ガ＃
ナケレバ造ルコトガ出來マセン。今デハ＃
鐵ハオアシノ仲間ニハハイレマセンガ、＃
人ノ役ニ立ツコトハ銅以上デス。」＃
ヤクワンハ之ヲ聞イテ、＃
「ソレデモ鐵ハヂキニサビテ、赤クナルデ＃
ハアリマセンカ。」＃
＜Ｐ－０１３＞
ト言ヒマシタ。其ノ時鐵ビンハ＃
「私タチノサビルノハ人ガ使ハナイカラ＃
デス。モシセイ出シテ使ツテクレサヘス＃
レバ、イツデモ光ツテヰマス。銅ハ人ニ使＃
ハレテヰテモ、時々青イ物ヲ出シマス。ア＃
レガヤハリサビデス。シカモ其ノサビハ＃
大ソウ毒ナ物デス。」＃
ト言ツテ、中々マケマセンデシタ。＃
＜Ｐ－０１４＞
第四　きのこ取　＃
二三日降りつゞいた雨がからりとはれた＃
ので、昨日のお晝すぎ、にいさんときのこ取＃
に行きました。松山の入口で、赤くなつてゐ＃
たぐみを一枝折ると、＃
「そんな大きな枝を。」＃
と、にいさんに注意されました。＃
僕がぐみをたべてゐる間に、にいさんは初＃
＜Ｐ－０１５＞
茸を五六本取つたやうでした。僕が紅色の＃
きれいなきのこを取つて、にいさんに見せ＃
ましたら、＃
「あゝ、それは紅茸だ。毒だよ。其の手でぐみ＃
をたべてはいけない。」＃
と、にいさんが言ひました。僕はびつくりし＃
て、ぐみも紅茸も地面へなげつけました。＃
それからにいさんと、ざふ木林へはいつて、＃
＜Ｐ－０１６＞
じめ〳〵した落葉をふんで、ねずみ茸を少＃
し取りました。＃
だん〳〵上つて行くと、＃
山の中でも、三軒家でも、＃
住めば都よ、わが里よ。＃
木びきの力藏さんがうたをうたひながら、＃
大きなのこぎりで板をひいてゐました。何＃
の木か、おがくづが大そうよくにほつてゐ＃
＜Ｐ－０１７＞
ました。にいさんが＃
「今日は。」＃
と言つて、＃
「此の近くに、しめぢの出る所＃
はありませんか。」＃
とたづねますと、＃
「さあ、まだ早いかも知れない＃
がね。」＃
＜Ｐ－０１８＞
と言つて、栗林の下のくぼ地を教へてくれ＃
ました。＃
行つて見ますと、なるほど少し早すぎまし＃
たが、それでも、小さなしめぢが列を作つて＃
出てゐました。ふまないやうに注意して、か＃
ご一ぱい取つて歸りました。歸りがけに、力＃
藏さんにお禮を言ひましたら、＃
「一雨降つたら、又お出で。」＃
＜Ｐ－０１９＞
と言ひました。＃
第五　海　＃
一　しけ　＃
鉛色の空は次第々々に低くなつて來ます。＃
風がひゆうつとうなつて來るたびに、濱の＃
松は身をふるはせて、頭を地に着けさうに＃
します。うちよせて來る波は、岩をかみ、小じ＃
やりをとばしては、さあつと引いて行きま＃
＜Ｐ－０２０＞
す。もとより舟は一そうも出てゐません。い＃
つも通る汽船も、高波をよけて、沖を通ると＃
見えて、汽てきの音は少しも聞えません。＃
冬時の海には、よくこんなことがあります。＃
こんな時には、＃
「これが五日もつゞくと、ひぼしだ。」＃
と言ふれふしのこゑが、其所此所にします。＃
二　なぎ　＃
＜Ｐ－０２１＞
空もみどり、＃
海もみどり、＃
空につゞく海のみどり、＃
海につゞく空のみどり、＃
すみきつて、＃
かゞみとかゞみ。＃
沖ものどか、＃
濱ものどか、＃
＜Ｐ－０２２＞
沖へ急ぐ兄の小舟、＃
濱へ歸る父の小舟、＃
すれ合つて、＃
ゑがほとゑがほ。＃
第六　くりから谷　＃
木［き］曽［そ］義仲が都へせめ上ると聞いて、平家は＃
あわてて討手をさしむけました。大將は平［たひらの］＃
維［これ］盛［もり］で、十万騎を引きつれて、越［ゑつ］中［ちゆう］の國の砺［と］＃
＜Ｐ－０２３＞
波［なみ］山にぢんを取りました。義仲は五万騎を＃
引きつれて、これもおなじく砺波山のふも＃
とにぢんを取りました。＃
兩方からおしよせて、ぢんの間がわづか三＃
町ばかりになりました。＃
其の夜のことです、義仲はひそかにみ方の＃
者を敵の後へまはらせて、兩方から一度に＃
どつとときのこゑをあげさせました。＃
＜Ｐ－０２４＞
不意を討たれた＃
平家方は、上を下への＃
大さわぎ、弓を取つた＃
者は矢を取らず、矢を取つ＃
た者は弓を取らず、人の馬＃
には自分が乗り、自分の馬＃
には人が乗り、後向に乗る＃
者もあれば、一匹の馬に二＃
＜Ｐ－０２５＞
人乗る者もあります。暗さは暗し、道はなし、＃
平家方はにげ場がなくて、後のくりから谷＃
へ、なだれをうつて落ちました。＃
親が落ちれば其の子も落ち、弟が落ちれば＃
兄も落ち、馬の上には人、人の上には馬、かさ＃
なりかさなつて、ずゐぶん深いくりから谷＃
が、平家の人馬で埋まりました。＃
大將維盛は命から〴〵加［か］賀［が］の國へにげま＃
＜Ｐ－０２６＞
した。＃
第七　霜　＃
今朝は大そう寒い。＃
屋根の上に霜がまつ白だ。＃
庭の菊も白い花びらに赤みがさして來た、＃
霜にあたつたからだらう。＃
うめもどきの實がいつもより目立つて見＃
える。＃
＜Ｐ－０２７＞
ひよどりは元氣な鳥だ。こんな寒い日にも、＃
朝早くから、高い木の上をとびまはつて鳴＃
いてゐる。＃
第八　虎と蟻　＃
大きな虎［とら］が山おくで、＃
「どうも分らないのは、あの弱い人間がわ＃
れわれの仲間を生けどりにすることだ。」＃
とひとりごとを言ひました。其の時＃
＜Ｐ－０２８＞
「あはゝ。」＃
と笑ふものがありました。虎が見まはしま＃
したが、だれも居ません。＃
「だれだい、今笑つたのは。」＃
「私です。蟻［あり］です。」＃
なるほど、ごまつぶ程の蟻が一匹虎を見上＃
げてゐます。＃
「何で笑つた。」＃
＜Ｐ－０２９＞
「だつて分り切つた事＃
でせう。人間があなた＃
方を生けどりにする＃
には、いく人かで力を＃
合はせるではありま＃
せんか。私どもだつて、＃
大ぜいしてかゝれば、＃
あなた方に負けません。」＃
＜Ｐ－０３０＞
虎はおこつて、蟻をふみつぶさうとしまし＃
た。蟻は虎の指のまたからくゞつて、仲間の＃
者にあひづをしました。＃
さあ大へん、何千匹か何萬匹か、數かぎりも＃
ない蟻がまつ黒になつて、出て來ました。さ＃
うして虎の目・鼻・耳・口、所きらはず食ひつき＃
ました、頭のてつぺんから尾のさきまで、か＃
らだ中すき間もなく。＃
＜Ｐ－０３１＞
虎はうん〳〵うなつて、かけまはるより外、＃
どうすることも出來ません。とう〳〵弱つ＃
て、蟻にあやまつたと言ひます。＃
第九　町ノ朝　＃
一番汽車ニ乗ラウトイフノデ、父ト五時半＃
頃ニ家ヲ出タ。町ハマダヒツソリトシテ、ネ＃
ムツテヰタ。其所此所ニニハトリノコヱガ＃
聞エタ。＃
＜Ｐ－０３２＞
マツ先ニ出アツタノハ牛［ギウ］乳［ニユウ］配［ハイ］達［タツ］デ、車ノ音＃
ヲ高クサセテ、ハシツテ行ツタ。橋ノタモト＃
ニ人力車ガ一ダイアツテ、車夫ガ＃
「ダンナ、マヰリマセウ。」＃
ト言ツタ。＃
東ガ白ンデ、屋根ノ霜ガ見エルヤウニナツ＃
タ。カラノ荷［ニ］車ヲヒイテ行クノハ、八［ヤ］百［ホ］屋ヤ＃
サカナ屋デ、買出シニ行クノラシイ。病院［ヰン］ノ＃
＜Ｐ－０３３＞
前ノ酒屋デハ雨戸ヲ明ケハジメタ。少シ行＃
クト、呉［ゴ］服［フク］屋ノ小ゾウガ表ヲハイテヰタ。＃
自轉［テン］車ガ後カラ來テ、カケヌケテ行ツタ。豆［トウ］＃
腐［フ］屋ノラツパヤ煮［ニ］豆［マメ］屋ノリンガ小［コウ］路［ヂ］ノオ＃
クニ聞エテ來テ、町ハダン〳〵ニギヤカニ＃
ナツテ來タ。＃
停車場近クニナルト、急ニ人通ガ多クナツ＃
タ。ベンタウヲサゲテ來ル女工ハ、サツキカ＃
＜Ｐ－０３４＞
ラ汽テキノ鳴ツテヰル工場ヘ急グノデア＃
ラウ。＃
朝日ガパツト西ガハノ家ノガラス戸ニカ＃
ガヤイタ。＃
停車場デキツプヲ買ツテヰルト、郵便物ヲ＃
ツンダ車ガヰセイヨクカケテ來タ。＃
第十　弓流し　＃
屋島の合戰に、義［よし］經［つね］が小わきにはさんでゐ＃
＜Ｐ－０３５＞
た弓を海へ落しました。＃
弓は潮［しほ］に引かれて流れて行きます。義經は＃
馬の上にうつぶしになつて、むちのさきで＃
それをかきよせようとします。敵は船の中＃
から熊［くま］手［で］を出して、義經のかぶとに引つか＃
けようとします。源氏の者どもは義經をか＃
ばひながら、＃
「捨てておしまひなさい。」＃
＜Ｐ－０３６＞
「お捨てなさい。」＃
と口々に言ひます。そ＃
れでも義經は、太刀で＃
熊手をふせぎ〳〵、と＃
うとう弓を拾ひ上げ＃
ました。＃
陸へ上つた時、家來が＃
「たとひ金銀で作つ＃
＜Ｐ－０３７＞
た弓でも、御命には＃
代へられませぬ。」＃
と申しますと、義經は＃
笑つて、＃
「いや〳〵、弓が惜し＃
かつたのではない。＃
叔父爲［ため］朝［とも］の弓のや＃
うな強い弓なら、わ＃
＜Ｐ－０３８＞
ざと敵にやつてもよいが、此の弱い弓を＃
取られて、『これが義經の弓だ。』などと言は＃
れては、源氏の名折れになるからだ。」＃
と言つたと申します。義經に此の名を惜し＃
む心があつたので、何時の戰にも勝つたの＃
でございませう。＃
第十一　入營した兄から　＃
國では初雪が降つたさうだね。こ＃
＜Ｐ－０３９＞
つちは國よりよほどあたゝかだ。＃
洋服は着なれなかつたので、はじ＃
めは寒いやうに思つたが、もうな＃
れた。＃
入營後はじめて此の前の日曜日＃
に外出をゆるされた。昨日はとな＃
り村から來てゐる歩兵の音吉君＃
と二人で町を見物した。お前はな＃
＜Ｐ－０４０＞
ぜ自分の村の人と見物しなかつ＃
たかと思ふだらうが、兵には歩・騎・＃
砲・工・輜［し］重［ちよう］の五種があつて、私の村＃
から、今歩兵になつて來てゐるの＃
は私一人だけなのだ。＃
正作君と大工の松さんは工兵、力＃
松君は砲兵、役場につとめてゐら＃
れた下村さんは騎兵、私を入れて＃
＜Ｐ－０４１＞
村からは五人も出てゐるが、兵種＃
がちがふと、兵舍のあり場所もち＃
がふので、めつたに一しよになる＃
ことはない。どの町村からも、歩兵＃
が一番多く出てゐるのに、ふしぎ＃
と私の村からは私一人だ。其の代＃
り輜重兵の外は各種の兵が出て＃
ゐる。輜重兵にも其の中にだれか＃
＜Ｐ－０４２＞
出るだらう。分家の萬藏君などは＃
小男だから、ひよつとすると輜重＃
輸［ゆ］卒［そつ］にあたるかも知れない。お前＃
は今の分では大男になりさうだ＃
から、砲兵か騎兵になれるだらう。＃
からだをぢやうぶにして、よく學＃
問をべんきやうしなさい。軍隊へ＃
來ても、學校でなまけてゐた者は＃
＜Ｐ－０４３＞
人一倍苦勞をする。其の中に又く＃
はしい事を知らせよう。＃
十二月十五日　兄から　＃
千太どの　＃
第十二　笑ひ話　＃
一　＃
「海の上でも歩けさうだ。」＃
「どうして。」＃
＜Ｐ－０４４＞
「左足が沈まない中に右足を出し、右足が沈＃
まない中に左足を出す。」＃
「なるほど、理くつはさうだ。」＃
二　＃
月と日と雷が同じ宿屋にとまりました。朝、＃
雷が目をさまして見ると、月と日が居りま＃
せん。宿の者にきくと、「もうとうにお立ちに＃
なりました。」と言ひます。雷はかんしんして、＃
＜Ｐ－０４５＞
「あゝ、月日の立つのは早いものだ。自分は＃
夕立にしよう。」＃
第十三　鮭　＃
叔父サンニ鮭ノ話ヲ聞イタカラ、ワスレナ＃
イ中ニ書イテ置カウ。＃
鮭ハ海ノ魚デモアレバ、川ノ魚デモアル。其＃
ノワケハ、川デ卵カラカヘツテ、海デ大キク＃
ナルカラダ。＃
＜Ｐ－０４６＞
大キクナツタ鮭ハ、秋カラ冬ニカケテ、海カ＃
ラ川ヘ上ツテ來ル。ダン〳〵上流ニサカノ＃
ボツテ、時ニハセ中ガ出ル程ノ淺イ所マデ＃
上ツテ來ル。コレハ卵ヲ産ム場所ヲ見ツケ＃
ニ來ルノデアル。＃
キレイナ水ガサラ〳〵流レテ、川ソコニ小＃
石ノ多イ所ガアルト、頭ヤ尾デ穴ヲ掘ツテ、＃
其ノ中ヘ卵ヲ産ム。卵ハ小［アヅ］豆［キ］程ノ大キサデ、＃
＜Ｐ－０４７＞
ウスアカイ玉ノヤウニ見エル。一匹デ三四＃
千粒モ産ムトイフガ、産ンデシマフト、其ノ＃
上ニ砂ヤ小石ヲカブセル。サウシテ外ノ魚＃
ガ其所ヘ來ナイヤウニ、シバラク其ノアタ＃
リニ番ヲシテヰテ、ソレカラ海ヘ歸ル。中ニ＃
ハ其所デツカレテ死ンデシマフノモアル。＃
翌年ノ春ニナツテ、卵カラカヘツタ鮭ハ、川＃
ヲ下ツテ海ヘ行ク。四五年モタツト、大キク＃
＜Ｐ－０４８＞
ナツテ、今度ハ自分ガ卵ヲ産ミニ川ヘ上ツ＃
テ來ルガ、フシギニ自分ノ生レタ川ヘ歸ツ＃
テ來ルサウデ、「之ヲ鮭ノ里歸トデモ言ツタ＃
ラヨカラウ。」ト叔父サンガ言ハレタ。＃
鮭ハ寒イ國ノ魚デ、我ガ國デハ樺［カラ］太［フト］ト北海＃
道ガオモナ産地ダサウダ。＃
第十四　冬の夜　＃
ともし火近く＃
＜Ｐ－０４９＞
衣［きぬ］ぬふ母は＃
春の遊の＃
樂しさかたる。＃
居ならぶ子どもは＃
指を折りつつ、＃
日數かぞへて、＃
喜び勇む。＃
ゐろり火はとろ〳〵、＃
＜Ｐ－０５０＞
外は吹［ふゞ］雪［き］。＃
ゐろりのはたに縄なふ父は＃
すぎしいくさの手がらを語る。＃
居ならぶ子どもはねむさ忘れて、＃
耳をかたむけ、こぶしをにぎる。＃
ゐろり火はとろ〳〵、外は吹雪。＃
第十五　萬じゆの姫　＃
源［みなもとの］頼［より］朝［とも］が鶴［つるが］岡［をか］の八幡［まん］宮［ぐう］へ舞を奉［ほう］納［なふ］する事＃
＜Ｐ－０５１＞
になつて、舞姫［ひめ］をあつめました。十二人いる＃
うち、十一人まではありましたが、あとの一＃
人がありません。こまつてゐる所へ、御殿に＃
仕へてゐる萬じゆがよからうと申し出た＃
者がありました。頼朝は一目見た上でと、萬＃
じゆを呼出しましたが、かほも美しく、すが＃
たも上品に見えましたので、さつそく舞姫＃
にきめました。萬じゆは當年やうやく十三、＃
＜Ｐ－０５２＞
舞姫の中では一番年わかでございました。＃
奉納の當日は、頼朝をはじめ、舞見物の人々＃
が何千人ともなくあつまりました。一番二＃
番三番と、十二番の舞がめでたくすみまし＃
たが、其の中でことに人のほめ立てたのは＃
五番目の舞でございました。此の時には頼＃
朝もおもしろくなつて、いつしよに舞を舞＃
ひました。其の五番目の舞姫といふのは、か＃
＜Ｐ－０５３＞
の萬じゆの姫であつた＃
のでございます。＃
翌日頼朝は萬じゆを呼＃
出して、＃
「さて〳〵、此のたびの＃
舞は日本一の出來。國＃
はどこ、又親の名は何＃
と申す。ほうびはのぞ＃
＜Ｐ－０５４＞
みにまかせて取らせるであらう。」＃
と言ひました。萬じゆはおそる〳〵、＃
「べつにのぞみはございませんが、唐［から］糸［いと］の＃
身代りに立ちたうございます。」＃
と申しました。之を聞くと、頼朝のかほの色＃
はさつとかはりました。かはるも道理、これ＃
には深いわけがあつたのでございます。＃
頼朝が木［き］曽［そ］義仲をせめようとした頃、木曽＃
＜Ｐ－０５５＞
の家來手［て］塚［づかの］太郎光［みつ］盛［もり］の娘が頼朝に仕へて＃
居りましたが、之をさとつて、すぐに義仲の＃
所へ知らせました。義仲からは折りかへし＃
返事があつて、「すきをねらつて、頼朝の命を＃
取れ。」と、木曽の家につたはつてゐた大切な＃
刀を送つてよこしました。＃
光盛の娘は其の後、夜晝頼朝をねらひまし＃
たが、少しもすきがありません。かへつて、は＃
＜Ｐ－０５６＞
だみはなさず持つてゐた刀を見つけられ＃
てしまひました。頼朝は其の刀に見おぼえ＃
があつたのでございます。さあ、此の女には＃
ゆだんが出來ぬといふ事になつて、石のら＃
うを造つて、それに入れました。唐糸といふ＃
のは此の女のことでございます。＃
唐糸には其の時十二になる娘がありまし＃
た。これが萬じゆの姫で、木曽に住んで居り＃
＜Ｐ－０５７＞
ましたが、風のたよりに此の事を聞いて、う＃
ばをつれて、鎌［かま］倉［くら］をさして上りました。二人＃
は野をすぎ、山をこえ、なれない道を一月あ＃
まりも歩きつゞけて、やう〳〵鎌倉に着き＃
ました。＃
先づ鶴岡の八幡宮へまゐつて、母の命を助＃
けたまへといのり、それから頼朝の御殿へ＃
行つて、うばと二人で御ほうこうをねがつ＃
＜Ｐ－０５８＞
たのでございます。かげひなたなくはたら＃
く上に、人の仕事まで引きうけるやうにし＃
ましたので、「萬じゆ〳〵。」と、人々にかはいが＃
られました。＃
さて萬じゆは、だれか母の事をいひ出す者＃
はないかと氣をつけてゐますが、十日たつ＃
ても二十日たつても、母の名をいふ者があ＃
りません。あゝ、母はもう此の世［よ］の人ではな＃
＜Ｐ－０５９＞
いのかと、力をおとして居りました。＃
或日のこと、萬じゆが御殿のうらへ出て、何＃
の氣もなくあたりをながめて居りますと、＃
下仕の女が來て、「あの門の中へ、はいつては＃
なりませぬ。」と申しました。わけをたづねま＃
すと、＃
「あの中には石のらうがあつて、唐糸樣が＃
おしこめられて居られます。」＃
＜Ｐ－０６０＞
と答へました。之を聞いた萬じゆの喜はど＃
んなであつたでございませう。＃
三月二十日、今日はお花見といふので、御殿＃
は人少でございます。萬じゆは其の夜ひそ＃
かにうばをつれて、石のらうをたづねまし＃
た。八幡樣の御引合はせか、門の戸は細めに＃
明いて居りました。うばを門のわきに立た＃
せて置いて、姫は中にはいりました。月の光＃
＜Ｐ－０６１＞
にすかして、あちらこちらさがしますと、松＃
の一むら立つてゐる中に、石のらうがあり＃
ました。萬じゆ＃
がかけよつて、＃
らうのとびら＃
に手をかけま＃
すと、「たれか。」と、＃
らうの中から＃
＜Ｐ－０６２＞
申しました。萬じゆはとびらのすきから手＃
を入れて、＃
「おなつかしや、母樣。木曽の萬じゆでござ＃
います。」＃
「何、萬じゆ。木曽の萬じゆか。」＃
と、親子は手を取合つて泣きました。やがて＃
うばをも呼入れて、三人は其の夜をなみだ＃
の中に明かしました。＃
＜Ｐ－０６３＞
これから後萬じゆは、うばと心を合はせて、＃
折々らう屋をたづねては、母をなぐさめて＃
居りました。さうして其の明くる年の春、舞＃
姫に出ることになつたのでございます。＃
親を思ふ孝子の心には、頼朝もかんしんし＃
て、石のらうから唐糸を出して、萬じゆに渡＃
しました。二人がたがひに取りついて、うれ＃
し泣きに泣いた時には、頼朝をはじめ、居合＃
＜Ｐ－０６４＞
はせた者に、だれ一人もらひ泣きをしない＃
者はありませんでした。＃
頼朝は唐糸をゆるした上に、萬じゆにはた＃
くさんなほうびをあたへましたので、親子＃
は、うばもろともに、喜び勇んで木曽へ歸り＃
ました。＃
第十六　磁石　＃
町ノ叔父サンカラ、オ年玉ニ大キナ磁石ヲ＃
＜Ｐ－０６５＞
イタヾイタ。鐵ヲ引ク力ガ強イ。昨日ニイサ＃
ンガ釘箱ヲ火鉢ノフチニ置イテ、手工ヲシ＃
テヰタ時、弟ガ釘箱ヲ火鉢ノ中ヘヒツクリ＃
カヘシテ、手ヲ灰ダラケニシテ拾ヒハジメ＃
タ。僕ハ「待テ、待テ。」トイツテ、磁石ヲ持ツテ來＃
タ。サウシテ灰ノ＃
中ヲカキマハシ＃
テ、上ゲテ見ルト、＃
＜Ｐ－０６６＞
果シテ磁石ノサキニ釘ガタクサンツイテ＃
ヰタ。二三返クリカヘシタラ、釘ハ殘ラズ取＃
レテ、其ノ上、折レタ針ヤ、サビタ針金マデツ＃
イテ來タ。＃
第十七　けんやくと義捐　＃
或村に大火事があつて、一村ほとんど丸や＃
けになつた。其のとなり村の青年たちが見＃
かねて、方々へ義捐金をつのりに出た。或物＃
＜Ｐ－０６７＞
持の所へ行くと、下男がまだ使へる小縄を＃
捨てたと言つて、主人がひどくしかつてゐ＃
た。青年たちは之を聞いて、さゝやき合つた。＃
「こまかな人だ。これではとても義捐はし＃
てくれまい。」＃
「さうかも知れない。」＃
さて主人に火事の話をして、義捐金のこと＃
をいひ出すと、＃
＜Ｐ－０６８＞
「それはお氣の毒だ。」＃
と言つて、たくさん金を出した上に、籾や豆＃
の種を分けて上げてもよいと言つた。＃
其の歸り途で、青年たちは＃
「こまかな人だが、出す時には出すね。」＃
「全くだ。あんな小言を言ふ程だから、此の＃
義捐が出來たのだらう。」＃
「さうだ、〳〵。」＃
＜Ｐ－０６９＞
といひ合つた。＃
第十八　賀茂川　＃
京都を北から南へ流れてゐる川を賀［か］茂［も］川＃
といひます。京都は長い間の都ですから、冠［かんむり］＃
をかぶつて太刀をはいたおくげ樣方や、き＃
れいな着物を着て、牛車に乗つたお姫樣方＃
の姿を、此の川の水はいくたびとなくうつ＃
したことでございませう。又いくさのあつ＃
＜Ｐ－０７０＞
た時には、よろひかぶとの勇ましいなりを＃
した武士の刀や、なぎなたの光も、いくたび＃
となく此の川の水にう＃
つつたことでございま＃
せう。こんな人、こんな姿＃
は、とうの昔にきえまし＃
たが、川は昔のまゝに清＃
く美しく流れてゐます。＃
＜Ｐ－０７１＞
賀茂川には橋がたくさんかけてあります。＃
名高いのは三條［でう］・四［し］條・五條の三つの橋でご＃
ざいます。今、三條の大橋に立つて、川下を見＃
ると致しま＃
せう。川の西＃
は水のすぐ＃
そばから、す＃
き間もなく＃
＜Ｐ－０７２＞
家が立ちならんでゐます。東の方は此の橋＃
のたもとから、川にそつて電車が出ます。此＃
の電車道から東山のすそへかけて、やはり＃
人家がこみ合つて立つてゐますが、青い松＃
の間に、五重［ぢゆう］の塔［たふ］や大きな寺の屋根が見え＃
ます。四條の大橋はすぐ其所に見えます。人＃
通の多いのは此の大橋で、これには電車も＃
通つてゐます。義［よし］經［つね］・辨［べん］慶［けい］の五條の大橋は此＃
＜Ｐ－０７３＞
の川下にかゝつてゐるのでございます。＃
又三條の大橋から川上を見ると、川原が遠＃
く北につゞいて、其のさきにやさしい姿の＃
山がかすんで見えます。＃
賀茂川は水が多くないので、船は通りませ＃
んが、其の代りに水がいたつてきれいで、染＃
物にむいてゐます。あの美しい友［いう］禪［ぜん］染は、も＃
と此の川べりで出來たのでございます。＃
＜Ｐ－０７４＞
第十九　メリンス　＃
「春子、オ前ハ着物ヤ帶ノ地ハ何ノ絲デオル＃
カ知ツテヰマスカ。」＃
「絹［キヌ］絲ト木［モ］綿［メン］絲デス。」＃
「マダアリマス。」＃
「麻［アサ］絲。」＃
「マダアリマセウ。」＃
「毛絲デス。」＃
＜Ｐ－０７５＞
「サウ、ヨク知ツテヰマシタ。毛絲デオツタ物＃
ニハ、ドンナ物ガアリマスカ。」＃
「ラシヤトフランネル。」＃
「ソレダケデスカ。」＃
「セルモサウデセウカ。」＃
「サウデス。マダアリマセウ。」＃
「モウ知リマセン。」＃
「ネエサンガ今ヌツテヰル此ノ帶ハ。」＃
＜Ｐ－０７６＞
「ソレハメリンスデ、絹デセウ。」＃
「イヽエ、ヤハリ毛絲デオツタ物デス。ラシヤ＃
ヤフランネルトチガツテ、絲ガ細イカラ、氣＃
ガツカナイノデス。」＃
「其ノキレイナモヤウハ、ドウシテツケルノ＃
デセウカ。」＃
「コレハ、ハジメ白地ニオツテ置イテ、後デカ＃
タヲ置イテ染メルノデ、縮［チリ］緬［メン］ノ友［イウ］禪［ゼン］ト同ジ＃
＜Ｐ－０７７＞
デス。コレゴラン、表ダケデ、ウラノ方ハ染メ＃
テナイデセウ。」＃
第二十　氷すべり　＃
二三日ひどく寒かつたので、湖の氷が大へ＃
んあつくなつた。一尺ぐらゐもあらう。＃
今日は日曜日で、おまけに日本晴だ。湖の上＃
は朝からひじやうな人出である。＃
男の生徒もゐれば、女の生徒もゐる。先生も＃
＜Ｐ－０７８＞
ゐれば、軍人もゐる。又西洋＃
人もゐる。みんな氷靴を着＃
けて、思ひ〳〵のすべり方＃
をしてゐる。＃
すべる〳〵、みんなすべる。＃
片足でおそろしい程早く＃
すべる者もあれば、人＃
の手にすがつて、こは＃
＜Ｐ－０７９＞
ごはすべる者もある。いろ〳〵な曲すべり＃
をやる者もあり、ころんでばかりゐる者も＃
ある。はた拾、まり送、おにごつこ、何でもなれ＃
てしまへば、少しも陸上とかはらない。＃
第二十一　神風　＃
博［はか］多［た］の沖は見渡すかぎり、元からおしよせ＃
た船でおほはれた。十何萬といふ大軍であ＃
る。＃
＜Ｐ－０８０＞
四國・九州の武士は博多の濱にあつまつた。＃
元の兵は一人も上陸させぬといふ意氣ご＃
みで、濱べに石垣をきづいて守つた。＃
我が武士は敵の攻めよせるのを待ちきれ＃
ず、こつちからおしよせた。敵は高いやぐら＃
のある大船、こつちはつり舟のやうな小舟＃
であつた。けれども我が武士は、船の大小な＃
どは少しも氣にしなかつた。草野の次郎の＃
＜Ｐ－０８１＞
如きは夜敵の船におしよせて、首二十一取＃
つて、敵の船に火をかけて引上げた。敵は此＃
のいきほひにおそれて、鐵のくさりで船を＃
つなぎ合はせた。まるで大きな島が出來た＃
やうなものである。＃
此の時河野の通［みち］有［あり］は、たつた小舟二そうで＃
向つた。敵ははげしく射立てた。味方はばた＃
ばたとたふれた。通有も左のかたを射られ＃
＜Ｐ－０８２＞
たが、少しも屈せず、＃
刀をふるつて進ん＃
だ。いよ〳〵おしよ＃
せたが、敵の船＃
は高くて上る＃
ことが出來な＃
い。通有はほば＃
しらをたふして、之を＃
＜Ｐ－０８３＞
はしごにして、敵の船へをどりこんだ。味方＃
は後から〳〵とつゞいた。さん〴〵に切り＃
まくつて、其の船の大將を生けどりにして＃
引上げた。＃
其の後も攻めよせる者がたえないので、敵＃
は一先づ沖の方へしりぞいたが、又おしよ＃
せて來るのは明らかである。實に我が國に＃
とつては、これまでにない大難であつた。＃
＜Ｐ－０８４＞
おそれ多くも亀［かめ］山上皇は、御身をもつて國＃
難に代らうと、おいのりになつた。武士とい＃
ふ武士は必死のかくごでふせいだ。百しや＃
うも一生けんめいで、ひやうらうをはこん＃
だ。全く上下の者が心を一にして、國難にあ＃
たつたのである。＃
此のまごころが神のおぼしめしにかなつ＃
たのであらう、一夜大暴風雨がおこつて、海＃
＜Ｐ－０８５＞
はわきかへつた。敵の船はこつぱみぢんに＃
くだけて、敵兵は海のそこに沈んでしまつ＃
た。生きてかへつた者は數へる程しかなか＃
つたといふ。＃
それからこゝに六百餘年、まだ一度も外國＃
から攻められたことはない。＃
第二十二　象　＃
見せ物小屋で象を見た。先づ大きなのにお＃
＜Ｐ－０８６＞
どろいた。たけは一丈からあつた。自由にう＃
ごかすことの出來る＃
長い鼻、箕［み］のやうな耳、＃
長い牙、小さな目、それ＃
から太い足、細い尾、一＃
切繪で見た通りであ＃
つた。＃
象つかひが乗つてゐ＃
＜Ｐ－０８７＞
て、口上をのべては、らつぱを吹かせたり、ご＃
ばんの上へ乗らせたりした。＃
象が大きな桶を鼻で頭の上へまき上げる＃
と、乗つてゐた象つかひは桶の中へはいつ＃
てしやがんだ。象がそれを下して來て地に＃
置くと、象つかひがぬつと桶の中で立上つ＃
た。みんな手をうつてかつさいした。象の鼻＃
は手の用をなすもので、實に力がある。＃
＜Ｐ－０８８＞
牙は象つかひの腕よりも太かつた。自分た＃
ち程の子どもが出て來て、象の前足にだき＃
ついて見せた。子どもの手がやつと合つて＃
ゐた。象つかひが＃
「此の太い足で、どさり〳〵と歩きます。」＃
といふと、長い鼻をぶら〳〵させて歩き出＃
した。何だか地ひゞきでもするやうな氣が＃
した。又＃
＜Ｐ－０８９＞
「御らんの通り大きなからだをしてゐま＃
すが、氣立はしごくやさしうございます。＃
なれますれば、お子どもしゆうのお守も＃
致します。印度の國はいたつてあつうご＃
ざいますので、お子どもしゆうは此の腹＃
の下でお晝ねをなさると申します。」＃
といふと、今の子どもが象の腹の下へねこ＃
ろんだ。すると象は鼻で、其所にあつたうち＃
＜Ｐ－０９０＞
はを拾つて、子どもの顔をあふぎ出した。此＃
の時、＃
「大きなお守さんだ。」＃
と誰かがいつたので、みんなが一度にふき＃
出した。＃
第二十三　千早城　＃
楠［くすの］木［き］正［まさ］成［しげ］が守つた千早城は、けはしい金［こん］剛［がう］＃
山［ざん］上にはあるが、まはりが一里にも足らず、＃
＜Ｐ－０９１＞
總［そう］勢［ぜい］わづか千人ばかり。之をかこんだ賊は＃
百萬騎といふ大軍で、城の四方二三里の間＃
は、人や馬でふさがつた。＃
こんな山城一つ、何程の事があるものかと、＃
賊が城の門まで攻上ると、城のやぐらから＃
大きな石を投落して、賊のさわぐ所をさん＃
ざんに射た。賊は坂からころげ落ちて、たち＃
まち五六千人も死んだ。＃
＜Ｐ－０９２＞
これにこりて、賊は城の水をたや＃
して苦しめようとはかつた。先づ＃
谷川のほとりに三千人＃
の番兵を置いて、城兵が＃
汲みに來られないやう＃
にした。城中には十分水＃
の用意がしてあつた。二＃
日たつても三日たつて＃
＜Ｐ－０９３＞
も汲みに來ない。番兵がゆだんをしてゐる＃
と、城兵が切りこんで來て、旗をうばつて引＃
上げた。＃
正成は此の旗を城門＃
に立てて、さん〴〵に＃
賊を惡口させた。賊が＃
之を聞いて、くやしが＃
つて攻めよせると、正＃
＜Ｐ－０９４＞
成は高いがけの上から大木を落させた。さ＃
うして、これをよけようとして賊のさわぐ＃
所を射させて、又々五千人餘もころした。此＃
の上はひやうらう攻にしようと思つて、賊＃
は城へ攻めよせないことにした。＃
或朝、夜明頃、城中からうつて出て、どつとと＃
きの聲をあげた。賊は「それ、敵が出た。一騎も＃
餘すな。」とおしよせた。城兵はさつと引上げ＃
＜Ｐ－０９５＞
たが、二三十人はふみとゞまつた。賊が四方＃
から之を目がけておしよせると、城から大＃
石を四五十、一度に落したので、又何百人か＃
ころされた。ふみとゞまつてゐたのは、みん＃
な藁［わら］人［にん］形［ぎやう］であつた。賊はうまくはかられた＃
のである。＃
もう此の上は、しやにむに攻落さうといふ＃
ので、賊は大きなはしごを作つて、之を城の＃
＜Ｐ－０９６＞
堀に渡して橋にした。廣さが一丈五尺、長さ＃
が二十丈、其の上を賊が我先に渡つた。今度＃
こそは千早城もあやふく見えた。すると正＃
成は、何時の間に用意して置いたか、たくさ＃
んなたいまつを出して、之に火をつけて、橋＃
の上に投げさせた。さうして其の上へ油を＃
ふりかけさせた。橋はまん中からもえ切れ＃
て、谷そこへどうと落ちた。又賊は何千人か＃
＜Ｐ－０９７＞
死傷した。＃
賊が千早城一つを持餘してゐると、方々で＃
官軍が賊のひやうらう道をふさいだので、＃
賊は人馬ともにつかれた。百騎にげ、二百騎＃
にげして、はじめ百萬騎といつた賊も、しま＃
ひには十萬騎に減じ、前後から官軍にうた＃
れて、殘少になつて退いた。＃
正成は實にえらい人である。＃
＜Ｐ－０９８＞
第二十四　記念の木　＃
村の學校のげんくわんの＃
向つて右の落［か］葉［ら］松［まつ］は、＃
わたしの子どもが植ゑたので、＃
其の子はとうに戰死した。＃
あの學校がたつた時、＃
うちの畠にあつたのを＃
死んだあの子が掘取つて、＃
＜Ｐ－０９９＞
かついで行つて植ゑたのだ。＃
あの子は十二、落葉松は＃
あの子のせいより低かつた。＃
それが今では學校の＃
二階のまどにとゞいてる。＃
あの子がいくさに行く時に、＃
學校の前でふりかへり、＃
「わたしの植ゑた落葉松が＃
＜Ｐ－１００＞
あんなに高くなりました。」＃
昨日學校で校長に、＃
あの木の事を話したら、＃
はじめて聞いた記念の木、＃
大事にするとおつしやつた。＃
第二十五　芽　＃
「一雨々々暖になつて、よいあんばいです。」＃
と、おかあさんが誰かにおつしやつてゐる＃
＜Ｐ－１０１＞
時、私は庭へ出ました。雨あがりの庭はぼう＃
つとけむつてゐました。＃
池のはたへ行つて見ると、しやうぶが小指＃
程に芽を出してゐました。うちの人はみん＃
な知らずに居るから、一つ取つて行つて見＃
せようと思つて、手を出すと、＃
「義一さん、それはお節［せつ］供［く］に使ふのですよ。」＃
といふねえさんの聲がしました。ねえさん＃
＜Ｐ－１０２＞
は赤いたすきをかけて、手洗鉢の水をかへ＃
てゐました。＃
なるほど、去年鯉のぼりを立てた時、しやう＃
ぶとよもぎを軒へさした。しやうぶ湯を立＃
ててうち中の者がはいつた。かしはもちを＃
こしらへていたゞいた。こんなことを思ひ＃
出して垣根の方へ行くと、しやくやくが赤＃
い芽を出してゐました。＃
＜Ｐ－１０３＞
第二十六　伊勢參宮　＃
一　入營中の兄へ　＃
其の後おさはりもございません＃
か。おとうさんは昨日分家の叔父＃
さんと、夜汽車で伊［い］勢［せ］參宮に立た＃
れました。參拜をすましてから、京＃
都へ出て、二三日見物して歸られ＃
るさうです。うちにも村にも、かは＃
＜Ｐ－１０４＞
つた事はありません。＃
三月十八日　千太　＃
兄上樣　＃
二　父から　＃
昨日正午にこちらへ着いて、午後＃
外宮へ參り、今日内宮へ參つた。宇［う］＃
治［ぢ］橋［はし］を渡つて神［しん］苑［ゑん］に入り、千年も＃
たつたかと思ふ老木の下へ行つ＃
＜Ｐ－１０５＞
た時には、何となく心持がかはつ＃
て、一そうあり＃
がたくかんじ＃
た。＃
御門の前でう＃
やうやしく拜＃
禮してから、神＃
殿の御もやう＃
＜Ｐ－１０６＞
を拜した。一切＃
白木造で、お屋＃
根はかやでふ＃
いてある。棟に＃
はかつを木が＃
ならべてあり、＃
棟の兩はしに＃
は千木が置いてある。何のかざり＃
＜Ｐ－１０７＞
もない御神殿を＃
拜して、まことに＃
おそれ多い氣が＃
した。＃
參拜をすまして＃
から、二［ふた］見［みが］浦［うら］を見＃
に行つて、おみやげに貝細工を買＃
つた。こはさないやうにして持つ＃
＜Ｐ－１０８＞
て歸る。＃
夕方京都へ立つ。＃
三月十九日　父から　＃
千太どの　＃
をはり＃
