＜出典＞３５１　　　国定読本　３期５－１
＜Ｐ－０００＞
もくろく　＃
第一　今日………一　　第十四　麥打………五十六　＃
第二　トラック島便り………三　　第十五　軍艦生活の朝………六十　＃
第三　弟橘媛………九　　第十六　東京から青森まで………六十七　＃
第四　養鷄………十一　　第十七　いもほり………七十七　＃
第五　動物ノ色ト形………十五　　第十八　石安工場………八十　＃
第六　五代の苦心………二十一　　第十九　星の話………八十四　＃
第七　ナイヤガラの瀧………二十九　　第二十　白馬岳………九十三　＃
第八　若葉の山道………三十一　　第二十一　初秋………九十九　＃
第九　兩將軍の握手………三十六　　第二十二　北風號………百二　＃
第十　水師營の會見………三十九　　第二十三　手紙………百十一　＃
第十一　物ノ價………四十三　　第二十四　水兵の母………百十四　＃
第十二　弟から兄へ………四十六　　第二十五　選擧ノ日………百十九　＃
第十三　老社長………四十九　＃
＜Ｐ－００１＞
第一　今日　＃
ふけ行く夜のしづけさよ。＃
あらゆるものはやみといふ＃
黒きとばりにおほはれて、＃
安き眠に入れるなり。＃
ひとり目ざむる古時計。＃
夜をいましむる夜まはりの＃
拍［ひやう］子木のごとかち〳〵と、＃
さびしく時をきざみ行く。＃
＜Ｐ－００２＞
きざみ〳〵て、明方の＃
鷄鳴けば、夜のとばり＃
しづかにあきて、ほの〴〵と＃
東の窓はしらみたり。＃
よき日は明けぬ、さわやかに。＃
朝日は出でぬ、花やかに。＃
いざ起出でて、勇ましく＃
我もはげまん、今日の業。＃
＜Ｐ－００３＞
第二　トラック島便り　＃
三月二十五日お出しのお手紙を昨日受＃
取りました。おとうさんはじめ皆樣お元＃
氣で何よりです。叔父さんも相かはらず＃
丈夫で島々を廻つてゐるから、安心して＃
下さい。＃
此のトラック島へ來てからもう三月にな＃
るので、土地の樣子も一通りはわかりま＃
した。冬でも春でもこちらではちやうど＃
内地の夏のやうです。暑さも年中此のく＃
＜Ｐ－００４＞
らゐのものださうで、かねて思つてゐた＃
とは違ひ、なか〳〵住みよいところのや＃
うです。それに此の邊一帶の島々は我が＃
國の支配に屬してゐるので、内地から移＃
つて來た人も多く、少しもさびしくはあ＃
りませ＃
ん。＃
内地か＃
ら來て＃
先づ目＃
＜Ｐ－００５＞
につくのは植物で、其の中でも殊に珍し＃
いのはコヽ椰［や］子［し］の木やパンの木などで＃
す。コヽ椰子は、高いのは七八間もありま＃
す。鳥の羽に似た大きな葉が、幹の上の方＃
に集つてついてをり、其の葉の根本には、＃
大人の頭ぐらゐの實がすゞなりになつ＃
てゐます。實の中にはかたい殼［から］があつて、＃
其の内がはに白い肉のやうなものがあ＃
ります。これから椰子油を取り、石鹸［けん］・蝋［らふ］燭［そく］＃
なども造るのださうです。まだ十分にじ＃
＜Ｐ－００６＞
ゆくしてゐない實は、中に＃
きれいな水があります。こ＃
れがなか〳〵うまいもの＃
で、私たちもよく取つて飲＃
みます。又パンの木も所々に＃
美しい林をつくつてゐます。＃
其の實は土人の一番大事な＃
食料で、燒いて食べたり、餅にして食べた＃
りします。味はまことにあつさりしたも＃
のです。＃
＜Ｐ－００７＞
珍しい植物は此の外にもまだたくさん＃
あります。これ等の植物が思ふまゝに茂＃
つてゐる樣子は實に見事です。殊に毎日＃
のやうに降るにはか雨が、非常な勢で木＃
を洗ひ草を洗つて通り過ぎた後の、あざ＃
やかな緑の世界は、何ともたとへやうの＃
ない、氣持のよいものです。水の乏しい此＃
の島々では、其の雨水がまた大切な飲料＃
水となるのです。＃
海の中もなか〳〵きれいです。水のすん＃
＜Ｐ－００８＞
でゐる事はかくべつで、波の靜かな所で＃
ふなばたからのぞいて見ると、美しい海＃
底のありさまが手に取るやうによく見＃
えます。青・緑・紅・紫、目のさめるやうに美し＃
い魚の群が、珊［さん］瑚［ご］の林や海藻の間をぬつ＃
て泳いで行く。何だかおとぎばなしの世＃
界にでもまよひこんだやうです。＃
土人はまだよく開けてゐませんが、性質＃
はおとなしく、我々にもよくなつき、殊に＃
近年我が國で學校をそここゝに立てた＃
＜Ｐ－００９＞
ので、子供等はなか〳〵上手に日本語を＃
話します。此の間も十ぐらゐの少女が「君＃
が代」をうたつてゐました。＃
いづれ又近い中に便りをしませう。おと＃
うさんやおかあさんによろしく。＃
四月十日　叔父から　＃
松太郎殿　＃
第三　弟橘媛　＃
景行天皇の皇子日［やま］本［と］武［たけるの］尊［みこと］、蝦［え］夷［ぞ］を平げよとの勅命＃
を奉じて、東國の方に下り給ひき。駿［する］河［が］の賊を亡し＃
＜Ｐ－０１０＞
給ひし後、相［さが］模［み］の國より上［かづ］總［さ］の國へこえんとて、今＃
の浦［うら］賀［が］のあたりより海を渡り給へり。＃
既に大海に出で給ひしに、大風俄に吹來りて、波す＃
さまじく荒れくるひ、御船少しも進まず、今にもく＃
つがへらんばかりな＃
りき。其の時、御供にし＃
たがひ給へる弟［おと］橘［たちばな］媛［ひめ］、＃
尊の御身危しと見給＃
ひ、＃
「これ海神のたゝり＃
＜Ｐ－０１１＞
ならん。われ皇子の御身代りとなりて海に入り、＃
神の御心をなだむべし。皇子は勅命を果して、め＃
でたく都に歸り給へ。」＃
といひて、菅［すが］筵［むしろ］八枚、敷皮八枚、きぬの敷物八枚を波＃
の上に敷重ね、其の上に飛下り給へり。＃
ふしぎや、今まで荒れに荒れゐたる大海、おのづか＃
ら靜まりて、おだやかなる凪［なぎ］となり、尊はつゝがな＃
く上總の國に着き給ひきといふ。＃
第四　養鷄　＃
朝早く起きて、井戸端に出づ。井戸に近き柿の木の、＃
＜Ｐ－０１２＞
日ましにのびゆく若芽のうす緑、見るに氣持よし。＃
顔を洗ひをはりて、いつもの如く、庭のすみなると＃
やの戸を開く。待ちかねたる鷄ども、我先にと走り＃
出づ。中に入りてひよこの箱をかゝへ出し、軒下な＃
るかこひの中にひよこを放つ。綿毛に包まれたる＃
ひよこども、小さき聲を立てつゝ、ちよこ〳〵とか＃
け廻る。＃
妹は餌［ゑ］箱を持ちて、とやの前に來る。親どりどもす＃
ぐに見つけて、其の足もとにむらがる。妹は餌をつ＃
かみて、わざと少しはなれたるきりの木のあたり＃
＜Ｐ－０１３＞
にまきちらせば、鷄はあわてて其の方へ行く。白・黒・＃
うすかば色、十幾羽の鷄一つにかたまり、頭と頭と＃
をつき合はせて、いそがしげに餌を拾ふ。妹はやが＃
てかこひ近く歩みよれば、中なるひよこどもは小＃
さき口を開きて、ぴよ〳〵と鳴きつゝかこひぎは＃
に集る。毎日世話し居ることとていづれの鷄も皆＃
かはゆき中に、ひよこは一そうかはゆく思はる。妹＃
も同じ心にや、しばし見とれてひよこのそばをは＃
なれず。＃
物置の前なるあき箱より、しゞみの殼［から］を取出し、細＃
＜Ｐ－０１４＞
かに打ちくだく。其の音を聞きつけてかけ來り、飛＃
びちりたる貝のかけを、すばやくついばみたるは＃
眞白なるめんどりなり。くだきたる貝殼を器に入＃
れてあたふるに、これには餌の時のやうに集らず。＃
とやの内に入りて見るに、敷藁［わら］の中に見事なる卵＃
二つころがれり。昨日の午後に産みたるなるべし。＃
妹の置きて行きたる餌箱に入れて持歸り、茶の間＃
の戸棚の中にしまふ。机の引出より養鷄日記を出＃
し、「四月二十五日朝、卵二つ。」と記入す。父上の命にて、＃
養鷄は今年より僕等の仕事となり、日記をも渡さ＃
＜Ｐ－０１５＞
れたれば、鷄の事は總べて之に記入し置くなり。＃
朝飯を終へて、妹と共に學校に行く。出がけにとや＃
の方を見れば、めんどりはせはしげに幾度か土を＃
かきちらして、餌をあさるにいそがしく、をんどり＃
は箱のふちをふまへて、首をすゑ、むねを張り、今や＃
ときをつくらんとする樣なり。＃
第五　動物ノ色ト形　＃
多クノ動物ヲ注意シテ見ルト、イロ〳〵珍シイ事＃
ガアルノニ氣ガツク。中デモ面白イノハ、或動物ノ＃
體色ガマハリノ物ノ色ニ似テヰルコトデアル。コ＃
＜Ｐ－０１６＞
ンナ體色ヲ保護色トイフ。保護色ヲモツテヰルト、＃
マハリノ色ニマギレテ、容易ニ他ノ動物ニ見ツケ＃
ラレナイ。シタガツテ敵ニオソハレル心配モ少ク、＃
又コチラカラ敵ヲオソフノニモ都合ガヨイノデ＃
アル。＃
保護色ノ例ハイクラモアル。田ニ住ム土蛙ハ土色、＃
木ノ葉ニ宿ル雨蛙ハ緑色。黄色ナ蝶ハ菜ノ花ニム＃
ラガリ、白イ蝶ハ大根ノ花ニ集ル。沙［サ］漠［バク］地方ニ居ル＃
ラクダハ灰色デ、雪ノ中ニ住ム北［ホク］極［キヨク］熊［グマ］ハ眞白デア＃
ル。＃
＜Ｐ－０１７＞
保護色ヲモツテヰルモノノ中ニハ、季節ニヨツテ＃
マハリノ物ノ色ガカハレバ、ソレニツレテ同ジヤ＃
ウナ色ニカハルモノモアル。北國ニ住ム野ウサギ＃
ヤ高山ノ上ニ居ル雷鳥ハ、夏ハ褐［カツ］色［シヨク］デ、枯葉ヤ土ノ＃
色ニ似テヰルガ、冬ニナツテ雪ガ降リツモルト、眞＃
白ニナル。又季節ニヨツテカハルクラヰデナク、何＃
時デモマハリノ物ノ色ガカハレバ、間モナクソレ＃
ト似タ色ニカハルモノモアル。例ヘバ雨蛙ハ緑色＃
ノ葉ノ上ニ居ル時ハ緑色デアルガ、枯木ニ移レバ＃
枯木ニ似タ色ニナル。＃
＜Ｐ－０１８＞
保護色ヲモツテヰル上ニ、其ノ＃
動物ノ姿勢ニヨツテ、形マデマ＃
ハリノ物ニ似テ見エルモノモ＃
アル。桑ノ木ニ居ルエダシヤク＃
トリハ、其ノ色ガ桑ノ木ニ似テヰルバカリデナク、＃
體ノ後ノ端ヲ木ニツケテ、體ヲナヽメニツキ出ス＃
ト、形ガ桑ノ小枝ニ寸分違ハナイ。所ニヨツテ此ノ＃
蟲ヲドビンワリト呼ンデヰルノハ、農夫ナドガ小＃
枝ト見違ヘテ、ドビンヲ掛ケ、落シテワルトイフ意＃
味デアラウ。又沖縄ニ産スル木ノ葉蝶ハ、其ノ羽ノ＃
＜Ｐ－０１９＞
表ノ方ニハ美シイ色ドリ＃
ガアルガ、裏ハ枯葉ニ似テ＃
ヰルノデ、羽ヲトヂテサカ＃
サニ草木ノ枝ニ止ツテヰ＃
ルト、マルデ枯葉ガ引掛ツ＃
テヰルヤウニ見エル。シカシ＃
サラニコレヨリモ色ヤ形ガ＃
ウマク出來テヰルノハ、印度＃
ニ産スルカマキリノ一種デ＃
アラウ。此ノ蟲ハ主ニ蘭［ラン］ニ止＃
＜Ｐ－０２０＞
ツテヰテ、外ノ蟲ヲトツテ食フモノデアルガ、羽ヲ＃
廣ゲテヰルト、全ク蘭ノ花ト同ジヤウデ、ナカ〳〵＃
見分ケガツカナイサウデアル。＃
又或動物ハ保護色トハ反對ニ、マハリノ物トマギ＃
レナイヤウナ鮮カナ體色ヲモツテヰル。コレ等ハ＃
大テイ他ノ動物ノ恐レル武器ヲソナヘテヰルカ、＃
イヤガル味ヤニホヒノアルモノデ、之ニ近ヅカウ＃
トスルモノガナイカラ、タヤスク見トメラレル方＃
ガカヘツテ安全ナノデアル。此ノ類ノ色ヲ警戒色＃
トイフ。例ヘバ毒ヲモツテヰル蜂ノ體色ガ黄ト黒＃
＜Ｐ－０２１＞
ノダンダラニナツテヲリ、惡味ヤ惡臭ノアル蝶ノ＃
羽ニハ美シイ色ドリガアルヤウナモノデアル。＃
動物ノ形ヤ色デモ、注意シテ調ベテミルト、コノヤ＃
ウニイロ〳〵フシギナ事ガアル。ホンタウニ面白＃
イデハナイカ。＃
第六　五代の苦心　＃
病みつかれた六十ばかりの老人が、ふとんの上に＃
起直つて、十五六の少年に、熱心に何か言聞かせて＃
ゐる。少年はひざに兩手をついて、老人の顔をじつ＃
と見つめながら聞いてゐる。＃
＜Ｐ－０２２＞
まくらもとに置いてある行［あん］燈［どん］の光はうす暗く、た＃
て切つてあるしやうじのやぶれを、秋風がはたは＃
たとあふる。＃
「これまでも折々話した通り、四代前の歡［くわん］庵［あん］樣が、＃
國利民福の本は農業を盛にするにあるとお氣＃
づきになつて、始めて農學をお修めになり、りつ＃
ぱな書物もお書きになつた。それから元庵樣・不［ふ］＃
昧［まい］軒［けん］樣、二代つゞいて、其のお志をおつぎになり、＃
一そう研究を進められた。しかし此の農學とい＃
ふ學問は、種々樣々の事を、實地と學理の兩方か＃
＜Ｐ－０２３＞
ら調べて行かねばならぬので、三代かゝつても、＃
まだ全く手の着かない事が少くなかつた。そこ＃
で此の父も、何とぞ此の學問を大成したいと、四＃
十餘年の間、寢食を忘れて其の道の書物を讀み、＃
國々の實地を調べ、本もあらはし、出來るだけは＃
骨折つたつもりである。しかし思ふ程に仕事は＃
出來ず、其の上政治上の事で度々殿樣に上書し＃
た爲、役人ににくまれて、終には國を立ちのかね＃
ばならぬやうになつた。それから諸國を歩き廻＃
つたすゑ、あの毎日見舞に來てくれる門人たち＃
＜Ｐ－０２４＞
に頼まれて、此所の銅の製法を改良したり、新し＃
い鑛［くわう］山を開いたりする爲に、此の山中へ來たの＃
である。しかし此の分では、わたしの命は、とても＃
仕事の出來上るまでもつまいと思ふ。」＃
老人は大分つかれたやうである。少年はてつびん＃
の湯をついで老人にすゝめた。老人は一口飲んで＃
横になつた。＃
少したつて、今度は寢たまゝぽつ〳〵と話し出し＃
た。＃
「歡庵樣は佐藤の家の農學の本をお開きなされ、＃
＜Ｐ－０２５＞
元庵樣はおもに氣候と農業＃
との關係をお調べなされた＃
が、おぢい樣の不昧軒樣はま＃
た、地質や鑛物の方で新しい＃
發見をなされた。此の方々の＃
お書きになつたものは、大て＃
い此所に持つてゐる。其の本＃
については、後に又言聞かせ＃
るが、大體一身一家の爲でなく、一すぢに國の爲、＃
民の爲につくすといふお考は、どなたも皆同じ＃
＜Ｐ－０２６＞
事で、これが佐藤の家の學問の精神である。わた＃
しも此の精神にもとづいて、主に海産物や水利＃
の事を調べて、くはしく計畫［くわく］を立てた事もある＃
が、いろ〳〵の差支があつて、實行が出來ずにし＃
まつた。これはまことに殘念な事である。しかし＃
わたしの四十年の骨折は、農學の進歩の爲には＃
決してむだでなかつたと思ふ。＃
此の四代の苦心の後を受けて、國家の爲に、此の＃
學問を大成するのがお前の役目だ。十六のお前＃
が、旅費も乏しい旅先で親に別れては、さぞ心細＃
＜Ｐ－０２７＞
くもあらう、又つらい事もあるであらうが、父の＃
此の願だけは、しかと心にとめて置いて、必ず仕＃
とげてもらひたい。それにはわたしが死んでも＃
國へ歸らずに、すぐに江戸へ出て、りつぱな學者＃
を先生にして、一心に學問をはげむがよい。古人＃
も『志ある者は事終に成る。』と言つてゐる。」＃
目に涙を一ぱいためて聞いてゐた少年は、固い決＃
心を顔にあらはして、實行をちかつた。父は安心し＃
た樣子で、やがてすや〳〵と眠つた。＃
これは今から百三十年ばかり前に下［しも］野［つけ］の國足尾＃
＜Ｐ－０２８＞
山中の旅人宿で起つた事で、此の老人こそは出羽＃
の國の醫者佐藤信［のぶ］季［すゑ］、少年は其の子信［のぶ］淵［ひろ］である。信＃
季は其の後幾日かたつて、とう〳〵此の宿でなく＃
なつた。信淵は父の門人たちの情で、形ばかりの葬＃
式をすますと、間もなく江戸へ出て、宇［う］田［だ］川［がは］玄［げん］隨［ずゐ］・大［おほ］＃
槻［つき］玄［げん］澤［たく］などの人々をたよつて、一心に西洋の學問＃
を勉強した。さうして終に當代第一の農學の大家＃
となつて、國家の爲に富源を開發することが甚だ＃
多かつた。＃
歡庵以來代々力をつくして來た農學は、信季の望＃
＜Ｐ－０２９＞
通り、信淵に至つて大成したのである。＃
第七　ナイヤガラの瀧　＃
世界一といはれるナイヤガラの瀧は、アメリカ合＃
衆國とカナダとの國境にあります。廣さが千數百＃
方里もある、海のやうな湖から流れる大きな河が、＃
一大絶壁をみなぎり落ちるのですから、其の壯觀＃
はとても筆や口にはつくされません。物すごいひ＃
びきは萬雷の如く、大地もふるひ、數百歩はなれた＃
所でも、器に盛つた水が波紋をゑがく程です。＃
瀧は、落口にあるゴート島といふ小島の爲に二つ＃
＜Ｐ－０３０＞
に分れてゐます。右にあるの＃
がアメリカ瀧、左にあるのが＃
カナダ瀧で、此の二つを合は＃
せてナイヤガラの瀧といふ＃
のです。瀧の幅は、アメリカ瀧＃
が百餘丈、カナダ瀧が三百餘＃
丈、高さはどちらも十五六丈＃
あります。＃
瀧の上手にかけた石橋を渡＃
り、木立の深いゴート島に行＃
＜Ｐ－０３１＞
つて、もう〳〵と立ちこめる＃
水煙の間から近く瀧をなが＃
めるのもよく、下手へ廻つて、＃
カナダの方からはるかに全＃
景を見渡すのも面白い。殊に＃
遊覽船に乗つて、頭から雨の＃
やうなしぶきを浴びながら、＃
瀧つぼを見物して廻るのは、實に壯快です。＃
第八　若葉の山道　＃
だら〳〵坂を登りきると、道は低いみねづたひに＃
＜Ｐ－０３２＞
なる。何時もはうす暗い程茂り合つてゐる兩がは＃
の木立も、まだ若葉だけに、下草まで見えるぐらゐ＃
明るい。其所の木のかげ、此所の石のそばには、やぶ＃
かうじの赤い實に並んで、春［しゆん］蘭［らん］のつぼみのふくら＃
んだのも見える。しつとりとしめりを帶びた一す＃
ぢの道が、足もとからうね〳〵とつゞいて、やがて＃
茂みの中にかくれてしまふ。＃
「もう一息だ。」さう思ひながら足を早める。かん〳〵＃
とこずゑをてらしてゐる十時過ぎの日かげが、若＃
葉の色を下に投げるのか、手もうす緑、足もうす緑、＃
＜Ｐ－０３３＞
帶も着物も皆うす緑。あたりの空氣までが何とな＃
くぼうつとして、ふろしき包をしよつたせなかが＃
じつとりと汗［あせ］ばんで來る。＃
目じるしの大けやきの所まで來た時、急にかん高＃
い音を立てて、美しい小鳥が二三羽、身がるに枝移＃
りした。すると木のうろから、栗［り］鼠［す］が一匹、けろりと＃
した顔を出したが、僕の姿を見ると、太い尾をちら＃
りと見せて、急にまた穴にかくれてしまつた。＃
道がだん〳〵上りになつたと見えて、谷のこずゑ＃
ごしに、遠い湖がちら〳〵と見えて來た。空ははて＃
＜Ｐ－０３４＞
もなくすんで、所々にちぎれ雲が飛んでゐる。みね＃
からすそにかけての若々しいこずゑの色は、強い＃
日光を浴びて、一面に煙つてゐる。道端の切りかぶ＃
に腰かけて、ひたひの汗をふいてゐると、そよ〳〵＃
と吹く風につれて、若葉のにほひがひし〳〵と身＃
にせまつて來る。うす紅のかへで、銀ねずみ色の楢［なら］、＃
黄の勝つた緑のけやき、どの木を見てもなつかし＃
い。＃
「此の坂を下りて、あの清水の所まで行くと、石井君＃
のうちが見えるはずだ。」と、此の前來た時の事を考＃
＜Ｐ－０３５＞
へながら、出後れのわらびを一本折つて、又歩き出＃
す。腹が大分すいて來た。もうお晝頃だらう。＃
やうやく清水まで來て、手の切れるやうにつめた＃
いのを二三ばいつゞけ樣に飲んでゐると、大きな＃
青大將が、向ふの水たまりの所をうねつて、のろの＃
ろと草の中にかくれて行く。それをじつと見送つ＃
てゐると、＃
「やあ、加藤君、よく來てくれたね。」＃
と、聲をかけた者がある。頭を上げてみると、それは＃
石井君であつた。＃
＜Ｐ－０３６＞
第九　兩將軍の握手　＃
リエージュの要［えう］塞［さい］に立てこもりたるベルギーの勇＃
將レマンは、部下の將卒をはげまし〳〵、エンミッヒ＃
將軍のひきゐたるドイツの大軍を物ともせず、勇＃
ましく防ぎ戰ひたり。されど比類なき四十二セン＃
チメートルの大口徑［けい］砲の威力に對しては、正義の＃
念と愛國の情とに死を恐れざるベルギー軍の防＃
戰も、終に如何ともしがたく、要塞は全く破くわい＃
せられ、將卒は多く戰死せり。＃
レマン將軍も、火藥の爆［ばく］發によりて起れるガスの＃
＜Ｐ－０３７＞
爲に窒［ちつ］息し居たるを、ドイ＃
ツ兵に發見せられて、野戰＃
病院に送られたり。＃
後日レマン將軍が捕［ほ］虜［りよ］と＃
してエンミッヒ將軍の前に＃
引出されし時、エンミッヒ將＃
軍はみづから進んで握手＃
を求め、＃
「閣下の防戰はまことに＃
見事であつた。」＃
＜Ｐ－０３８＞
と感歎せるに、レマン將軍は靜かに、＃
「おほめにあづかつて恐れ入る。しかし部下の者＃
は、最後までベルギーの名譽をけがさなかつた＃
つもりである。」＃
と答へたり。＃
やがてレマン將軍は、萬感胸にみちて、かすかにふ＃
るふ手に帶劔をときて渡さんとするを、エンミッヒ＃
將軍は＃
「いや、それには及ばん。閣下の劔は軍人の魂とし＃
て少しも名譽をきずつけなかつた。」＃
＜Ｐ－０３９＞
と、強ひて之をおし止めたり。＃
レマン將軍の目には涙ありき。＃
第十　水師營の會見　＃
旅順開城約成りて、＃
敵の將軍ステッセル＃
乃木大將と會見の＃
所はいづこ、水師營。＃
庭に一本なつめの木、＃
彈丸あともいちじるく、＃
くづれ殘れる民屋に、＃
＜Ｐ－０４０＞
いまぞ相見る二將軍。＃
＜Ｐ－０４１＞
乃木大將はおごそかに、＃
御めぐみ深き大君の＃
大みことのりつたふれば、＃
彼かしこみて謝しまつる。＃
昨日の敵は今日の友、＃
語る言葉もうちとけて、＃
我はたゝへつ、彼の防備。＃
彼はたゝへつ、我が武勇。＃
かたち正していひ出でぬ、＃
『此の方面の戰鬪［とう］に＃
＜Ｐ－０４２＞
二子をうしなひ給ひつる＃
閣下の心如何にぞ。』と。＃
『二人の我が子それ〴〵に、＃
死所を得たるを喜べり。＃
これぞ武門の面目。』と、＃
大將答力あり。＃
兩將晝［ひる］食［げ］共にして、＃
なほもつきせぬ物語。＃
『我に愛する良馬あり。＃
今日の記念に獻［けん］ずべし。』＃
＜Ｐ－０４３＞
『厚意謝するに餘りあり。＃
軍のおきてにしたがひて、＃
他日我が手に受領せば、＃
長くいたはり養はん。』＃
『さらば』と、握手ねんごろに、＃
別れて行くや右左。＃
砲［つゝ］音たえし砲臺に＃
ひらめき立てり、日の御旗。＃
第十一　物ノ價　＃
飲料水ニ不自由ナキ土地ニアリテハ、金錢ヲツヒ＃
＜Ｐ－０４４＞
ヤシテ、水ヲ買フナドトイフハ、思ヒモヨラヌ事ナ＃
リ。然レドモ飲料水ノ得ガタキ所ニテハ、一手桶何＃
程トイフ代價ヲハラヒテ水ヲ買フ。同ジ物ニテモ、＃
意ノ如クニ得ラルレバ價ナク、得ガタケレバ價ア＃
ルナリ。＃
得ガタキ物ニテモ、有用ナラヌ物ハ價ナシ。例ヘバ＃
コヽニ一ツノ石アリトセヨ。ソレガ如何ニマレニ＃
シテ、タヤスク得ラレザル物ナリトモ、用ヒヤウナ＃
ケレバ、誰モ之ヲ買フ者ナク、シタガツテ價アルコ＃
トナシ。＃
＜Ｐ－０４５＞
カクノ如ク物ニ價アルハ、其ノ物ガ人ノ爲ニ有用＃
ナルト、意ノ如クニ得ラレザルトニヨルナリ。＃
又コヽニ一匹ノ馬アリテ、之ヲ買ハントスル人五＃
人アルトキハ、其ノ五人ハ、各其ノ馬ガ他人ノ手ニ＃
渡ランコトヲ恐レテ、爭ヒテ高キ價ヲツク。カクテ＃
價ハ次第ニ高クナリテ、馬ハ最モ高キ價ヲツケタ＃
ル人ノ物トナル。＃
之ニ反シテ、同ジヤウナル馬五匹アリ、其ノ持主ハ＃
別々ニテ、買ハントスル人タヾ一人ナルトキハ、五＃
人ノ持主各其ノ馬ノ賣レザランコトヲ恐レテ、爭＃
＜Ｐ－０４６＞
ヒテ價ヲ下グ。カクテ價ハ次第ニ安クナリテ、最モ＃
價ヲ下ゲタル持主、其ノ馬ヲ賣ルコトトナル。＃
カクノ如ク、品物多クシテ、之ヲ望ム者少ケレバ、其＃
ノ物ノ價安クナリ、品物少クシテ、之ヲ望ム者多ケ＃
レバ、其ノ物ノ價高クナル。スナハチ物ノ價ノ高下＃
ハ、主トシテ需要ト供給トノ關係ニヨルナリ。＃
第十二　弟から兄へ　＃
にいさん、昨日でうちの田植がすつかり＃
すみました。「今年ほど水の都合のよかつ＃
た事はない。」と、おとうさんが喜んでいら＃
＜Ｐ－０４７＞
つしやいます。あの降りつゞいた雨のお＃
かげで、山田の高い所まで一息に植ゑる＃
ことが出來ました。＃
一昨日海軍のにいさんが休［きう］暇［か］でお歸り＃
になつたので、おとなりからの手つだひ＃
と合はせて、植手が八人になつて、にぎや＃
かでした。私は苗［なへ］くばりをして、「お前もた＃
しかに半人前だ。」と、おかあさんにほめら＃
れました。＃
田植がすんだので、昨夜は手つだひの人＃
＜Ｐ－０４８＞
たちを呼んで、ごちそうをしました。其の＃
時おとうさんがにいさんと、「世の中は何＃
でも一生けんめいに働く者が勝だ。米が＃
出來るのも、麥が取れるのも、土といふあ＃
りがたいものが、めい〳〵の骨折に對し＃
て、御ほうびを下さるのだ。うち中が丈夫＃
で、仲よくかせぐ、こんな仕合なことはな＃
い。」と話していらつしやいました。＃
おとうさんは今朝も、「もう二番茶もつま＃
なくてはならない。それがすむとやがて＃
＜Ｐ－０４９＞
夏蠶［ご］の上りだ。にいさんたちの分もわた＃
しが働くのだ。」とおつしやつて、大そう元＃
氣です。うちの事はすべて御安心下さい。＃
夏休も近くなりました。みんなでにいさ＃
んのお歸を待つてをります。＃
六月十日　要吉　＃
兄上樣　＃
第十三　老社長　＃
僕は今日學校から歸るとすぐ、おとうさんのお手＃
紙を持つて、精米會社へお使に行つて來ました。會＃
＜Ｐ－０５０＞
社では、幾臺もある精米機械が電力で勢よく廻り、＃
四五人の若い人々がぬかだらけになつて働いて＃
ゐました。社長さんは餘程の年よりらしいが、にこ＃
にしてゐる元氣な方です。僕は何となくえらさ＃
うな人だと思ひました。＃
お返事をお渡しした後で、おとうさんに＃
「あの精米會社の社長さんはえらい方なんでせ＃
う。」＃
と言ふと、おとうさんは＃
「お前にもさう見えるかね。」＃
＜Ｐ－０５１＞
とおつしやつて、あの方の小さい時分からのお話＃
をして下さいました。＃
「あの社長さんはもと上方の人で、此の町へ始め＃
て奉公に來たのは、ちやうどお前と同じ十二の＃
年だつたさうだ。主人の家が大きな醤［しやう］油屋だつ＃
たので、始は近在の小賣店へ、毎日々々、降つても＃
照つても、おろしに歩き廻つたものださうだが、＃
其のつらさはとてもお前たちにわかるもので＃
はない。十年餘りもしんばうして、やう〳〵一人＃
前の番頭になり、それから又長い間忠實に勤め＃
＜Ｐ－０５２＞
て、三十ぐらゐの時、年來の貯金と主人からもら＃
つた金を資本にして、小さい米屋を始めた。＃
さて商賣を始めると、あの人ならといふ信用は＃
あるし、それにわき目もふらず働くので、店はだ＃
んだん繁昌して、十年もたゝぬ中に、町でも屈指＃
の財産家となつた。さうして人々に推されて、町＃
の銀行の頭取になつた。それはわたしの十五六＃
の時分だつたらう。うちのおぢいさんはあの人＃
とは前から友だちだつたので、よく其の話をな＃
すつては、大へんほめていらつしやつたものだ。」＃
＜Ｐ－０５３＞
「ほんたうにえらい人ですね。」＃
「いや、これから先があの人のほんたうにえらい＃
所だ。」＃
おとうさんはすぐ言葉をついで、＃
「社長さんが銀行の頭取になつてからちやうど＃
十年目の秋、いろ〳〵の手違から、銀行が破産し＃
なければならぬ事になつた。世間にはこんな場＃
合に、なるたけ自分の負擔を輕くしようとする＃
者もあるが、あの人は反對に、少しでも他人の負＃
擔を輕くしようとして、自分の財産を殘らず差＃
＜Ｐ－０５４＞
出した。さうして全く無一物になつて、親子三人＃
町外れの裏長屋に移つてしまつた。けれども社＃
長さんは、それを少しも苦にしないで、『なあに、も＃
う一度出直すのです。』といつて、笑つてゐた。＃
社長さんは早速荷車を一臺借りて來て、醤油の＃
はかり賣を始めた。町の人々は之を見かねて、『そ＃
んな事までなさらなくても。』といつて、資本を出＃
さうとする者もあつたが、社長さんは、『自分の力＃
でやれる所までやつてみます。』といつて、夜を日＃
についで働いた。人々の同情は集つてゐるし、商＃
＜Ｐ－０５５＞
賣の仕方は十分心得てゐるので、毎朝引いて出＃
た荷が、夕方には必ず空になるといふ景氣。それ＃
にあの人の事だから、決してあせらず、一軒二軒＃
と得意先をまして行つて、後には表通へ店を出＃
すまでになつた。それからだん〳〵商賣の手を＃
廣げて、六十五六の時にはもう餘程の財産が出＃
來た。そこで間もなく片手間に精米所を始め、追＃
追に大きくして、あんなりつぱな會社にしたの＃
だ。全くあんな人は珍しい。」＃
とお話しになりました。僕は今日其のえらい社長＃
＜Ｐ－０５６＞
さんに會つて來たのだと思ふと、何となくうれし＃
い氣がしました。＃
第十四　麥打　＃
一　＃
さん〳〵〳〵、さん〳〵〳〵。＃
今日は天氣がよいので、朝から麥を打つ音が方々＃
で聞える。＃
正一の家でも、親子三人、庭にすゑた打臺の前に並＃
んで、麥を打つてゐる。後には麥の束が山と積んで＃
ある。それをてんでに一束づつ取つては、兩手で根＃
＜Ｐ－０５７＞
本の所をつかんで、打臺にぱた〳〵とたゝきつけ＃
ると、莖の先についてゐる穗が、敷いてあるむしろ＃
の上に面白いやうに飛散る。束を廻して又たゝき、＃
穗が殘らず落ちてしまふと、束をむしろの向ふに＃
ぽいと投げて、又新しい束を取る。後の山がだんだ＃
ん低くなるにつれて、前の麥藁［わら］の山が見る〳〵高＃
くなる。＃
「正一も大分役に立つやうになつたなあ。」＃
あみ笠をかぶつた父がふり向くと、母もすげ笠を＃
そちらへ向けて、＃
＜Ｐ－０５８＞
「ほんたうにさうですね。おかげで今日中には大＃
がいかたづきます。」＃
と言ひながら、正一を見てにつこりした。＃
仕事は水入らずの三人の手で、ずん〳〵はかどつ＃
て行く。何所からかにぎやかな歌が聞えて來る。＃
二　＃
庭に敷きつめたむしろの上に、黄色い麥の穗が一＃
面に廣げられて、まぶしいやうな夏の日にかゞや＃
いてゐる。正一のうちの人たちに手つだひもまじ＃
つて、七八人の男や女が向ひ合つて、片足をふみ出＃
＜Ｐ－０５９＞
し、掛聲を合はせながら、ばた＃
んばたんと殼［から］竿［ざを］で麥を打つ＃
てゐる。のぎが飛ぶ、穗がはね＃
る。ふり上げた棒の先が、強い＃
日光にきらり〳〵と光る。＃
赤いたすきを掛けた女たち＃
がよい聲で歌をうたふと、へ＃
うきんな五平ぢいさんが、時＃
時へんな掛聲をして皆を笑＃
はせる。分家の金次叔父さん＃
＜Ｐ－０６０＞
は、軍隊歸のたくましい腕で、すとん〳〵と打下す。＃
男も女もひたひの汗を、ほこりだらけの腕でふき＃
ながら、にぎやかに打續ける。＃
日はかん〳〵と照つてゐる。庭のすみにはほうせ＃
ん花が眞赤に咲いてゐる。鷄が麥のこぼれを食ひ＃
に來ては、追はれて逃げて行く。＃
第十五　軍艦生活の朝　＃
東の空が明るくなると、今まで軍港のやみに包ま＃
れてゐた軍艦の壯大な姿が、だん〳〵にあらはれ＃
て來る。艦橋には當直將校の姿が見え、其のそばに＃
＜Ｐ－０６１＞
は、望［ばう］遠［ゑん］鏡［きやう］を持つた信號兵が遠くを見張つてゐる。＃
舷［げん］門には、銃を手にした番兵が近くを警戒してゐ＃
る。千數百人の乗員は、今もなほ安らかに眠を續け＃
てゐる。艦内は深山のやうな靜かさである。＃
人の顔がやつと見分けられるやうになつた頃、時＃
鐘［しよう］番兵がこと〳〵と艦橋の下へ來て、「總員起し五＃
分前。」と當直將校に報告する。軍艦の起床時間は、夏＃
は五時、冬は六時である。間もなく甲板士官や傳令＃
員が起きて來る。副［ふく］長もはや上甲板にあらはれて、＃
今日の天氣はどうかと空をながめる。＃
＜Ｐ－０６２＞
やがて午前五時の鐘［かね］が鳴ると、當直將校が元氣の＃
よい聲で號令をかける。＃
「總員起し。」＃
此の號令で、朝の靜かさが忽ち破られ、起床ラツパ＃
は勇ましくひゞき、傳令員は號笛を＃
吹きながら、「總員起し。」と呼んで、つり＃
床の間をぬつて行く。すると乗員は、＃
一せいに飛起きて、手早くつり床を＃
くゝる。これから號令が雨のやうに＃
下る。それにつれて、つり床は正しく＃
＜Ｐ－０６３＞
一定の場所に納められる、すべての＃
窓や出入口は開かれる。これ等の仕＃
事は、陸上の家で、毎朝起きると先づ＃
夜具をかたづけ、雨戸をくるのとか＃
はりはないが、千數百人の乗員が號＃
令にしたがつて、規律正しく活＃
動する其の樣は、如何にも目ざまし＃
い。數分の内に艦内はすつかり整［せい］頓［とん］＃
する。＃
そこで五分間の休けいがあつて、上＃
＜Ｐ－０６４＞
甲板洗となる。上甲板洗は水兵の受持で、先づ＃
「兩舷直、整列。」＃
のラツパが一きは高くひゞき渡ると、はだしのま＃
まの水兵が後甲板にはせ集つて、ずらりと整列す＃
る。兩舷直といふのは、特別の務のあるものをのぞ＃
いた外の水兵のことである。間もなく當直將校か＃
ら威勢のよい號令がかゝる。＃
「上甲板洗ひ方。」＃
水兵はくもの子を散らすやうに八方へ散つて、か＃
ひがひしくズボンと袖をまくり上げ、身輕な姿と＃
＜Ｐ－０６５＞
なつて分隊毎に甲板洗を始める。甲板洗はいかに＃
も勇ましく面白いものである。下士官が、甲板の吐［と］＃
水口からふき出る海水を、桶に汲んではどん〳〵＃
流すと、ブラシを持つた數十人の水兵が、甲板をこ＃
すりながら頭を並べて進んで行く。其の樣は、まる＃
で雨後の蛙がむらがり飛んでゐるやうである。＃
甲板洗がすむと、＃
「總員顔洗へ。」「煙草ぼん出せ。」＃
の令が下る。そこで始めて乗員は顔を洗ふ。其の中＃
に上陸員が歸艦する。其所此所で、「お早う」が言ひか＃
＜Ｐ－０６６＞
はされる。火縄一本の煙草ぼんの＃
まはりには、人の山が出來て、いろ＃
いろの話が出る。笑ひ聲も＃
起る。間もなく食事用意のラツパ＃
がひゞく。一時間餘りも活動した＃
後であるから、食事のうまいこと＃
はいふまでもない。＃
午前八時になると、艦尾の旗竿に＃
軍艦旗があげられる。此の時信號＃
兵は「君が代」のラツパを吹き、衞兵＃
＜Ｐ－０６７＞
隊は捧［さゝげ］銃［つゝ］の敬禮を行ひ、艦長をはじめ乗員一同は、＃
皆姿勢を正して、軍艦旗に敬禮する。朝日にかゞや＃
く軍艦旗が、海風にひらめきながら、しづ〳〵と上＃
つて行く樣は、實におごそかなものである。＃
軍艦旗を仰いで、心の底まで清められた乗員は、こ＃
れから訓［くん］練［れん］に取掛るのである。＃
第十六　東京から青森まで　＃
午後六時、叔父さんと一所に、上野驛から青森行の＃
列車に乗つた。ずゐ分こんでゐたが、みんながゆづ＃
り合つてくれたので、二人とも腰を掛けることが＃
＜Ｐ－０６８＞
出來た。汽車が進むにつれて、關東平野はだん〳〵＃
夜の景色にかはつて、見なれた所も面白く感じた。＃
「宇［う］都［つの］宮［みや］」と驛夫の呼ぶ聲に、何時かおかあさんと日＃
光見物に來た時のことを思ひ出した。まだ日が暮＃
れたばかりのやうに思つたが、もう八時半であつ＃
た。間もなく西［にし］那［な］須［す］野［の］に着いた。叔父さんが＃
「此の邊が有名な那須野が原だ。昔は一面の荒野＃
であつたが、今は方々に町や村が出來てゐる。紅＃
葉と温泉で名高い塩［しほ］原［ばら］へ行くには、此所で下り＃
るのだ。」＃
＜Ｐ－０６９＞
とおつしやつた。僕は眠くなつたので、それから直＃
にねてしまつた。＃
目がさめると、もう夜が明けてゐて、汽車は果もな＃
く續いてゐる青田の中を走つてゐた。＃
「叔父さん、此所は何所ですか。」＃
と聞くと、＃
「仙［せん］臺［だい］はとつくに過ぎて、やがて一［いちの］關［せき］だ。よくねた＃
ね。」＃
とおつしやつた。窓から吹きこむ朝風のひやりと＃
するのは、餘程北へ進んだ爲だらう。顔を洗つて來＃
＜Ｐ－０７０＞
て、ビスケツトを食べながら、私がゆめの中に通過＃
した驛々のお話をうかゞつた。＃
「白河を通つたのは昨夜の十一時前であつた。昔＃
能［のう］因［いん］といふ人が、＃
『都をば、かすみと共に立ちしかど、＃
秋風ぞ吹く、白河の關。』＃
とよんだのは其所のことで、此の關所は濱街道＃
の勿［な］來［こそ］の關と共に、有名なものであつた。」＃
叔父さんはなほ言葉を續けて、＃
「仙臺に着いたのは午前の三時で、少しは下りた＃
＜Ｐ－０７１＞
人も乗つた人もあつた。仙臺は東北第一の都會＃
で、大學も高等學校もある。昔は竹に雀の紋所で＃
名高い仙臺樣の城下であつた。」＃
「松島は。」＃
「仙臺から三つ目の松島驛で下りるのだ。歸りに＃
見物して行かう。」＃
一關で辨當を買つた。次の平［ひら］泉［いづみ］といふ驛を出て間＃
もなく、叔父さんは近く左に見える山を指さして、＃
「あの上に名高い金［こん］色［じき］堂がある。光［ひかり］堂ともいつて、＃
昔は金光りに光りかゞやいてゐたさうだ。八百＃
＜Ｐ－０７２＞
年前の建物で、今も鞘［さや］堂の＃
中に其のまゝ保存されて＃
ゐる。義［よし］經［つね］の居た高［たか］館［だち］のあ＃
とも右手に見えたはずだ＃
が、もう通過してしまつた。＃
辨［べん］慶［けい］が立往生をしたと傳＃
へられてゐる衣［ころも］川は、すぐ此の先にある。」＃
とおつしやつた。其の中に汽車は山の間を出て、大＃
きな川の見える所に出た。＃
「あれが北上川だ。汽車は此の邊からあの川につ＃
＜Ｐ－０７３＞
いて、北へ〳〵と走るのだ。」＃
と教へて下さつた。＃
午前八時盛［もり］岡［をか］に着いた。停車場に＃
はいる手前でまた北上川を見た＃
が、此所まで來ると川幅がかなり＃
せまくなつてゐる。＃
汽車が盛岡を出て少し進むと、遠＃
く左に見えるかくかうのよい山＃
を指さして、＃
「あれは岩手山だ。南部富士とい＃
＜Ｐ－０７４＞
はれるだけあつて、ちよつと形が似てゐるね。あ＃
のふもとに有名な小岩井農場があるのだ。」＃
とおつしやつた。＃
汽車は野を過ぎ山を越えて進む。北上川はまだを＃
りをり見えるが、いよ〳〵せまくなつて、とう〳〵＃
谷川になつてしまつた。山畑に稗［ひえ］の作つてあるの＃
も珍しく、谷間に白い山ゆりの花のまばらに見え＃
るのも面白い。陸中と陸［む］奧［つ］との境にある幾つかの＃
トンネルをくゞると、廣い原野がだん〳〵に開け＃
て來る。此の邊から野［の］邊［へ］地［ぢ］あたりまでの間には、所＃
＜Ｐ－０７５＞
所に放し飼の馬の群れてゐるのが見えた。黒・白・茶＃
色、大小さま〴〵の馬が、林のかげや沼のほとりを＃
元氣よくかけ廻つてゐる樣は、實に勇ましい。＃
野邊地で始めて海が見えた。青々とした波の上に、＃
點々と白帆が浮んでゐるのは、野や山ばかり見て＃
來た目に殊さらうれしかつた。＃
「海の向ふに遠く見えるのが下北半島だ。」＃
と、叔父さんがおつしやつた。＃
淺蟲近くになると、汽車が海岸を走るので、陸奧灣＃
の風光が手に取るやうに見えた。遠くにはかすか＃
＜Ｐ－０７６＞
に津［つ］輕［がる］半島が横たはり、近くには形のよい島々な＃
どもあつて、大そう景色のよい所であつた。叔父さ＃
んのお話によると、此所は名高い温泉場で、海水浴＃
も出來るさうだ。＃
午後二時二十分、汽車は青森に着いた。北海道に渡＃
る人は、停車場に續いた乗船所から汽船に乗るの＃
である。私は叔父さんに連れられて宿に着いた。叔＃
父さんが＃
「東京から此所までは四百五十六哩もあるのだ＃
が、かうたやすく來てみると、そんなに遠い所に＃
＜Ｐ－０７７＞
來たやうな氣がしないね。」＃
とおつしやつた。＃
第十七　いもほり　＃
五時間目の授［じゆ］業がすむと、先生はにこ〳〵して、＃
「今日はこれからいもほりをしませう。皆いつも＃
のやうに、此所で支度をして、學校園へお集りな＃
さい。」＃
とおつしやつた。これこそ僕たちが、一週間も前か＃
ら、毎日々々待つてゐた命令だつたので、皆一せい＃
に小をどりして喜んだ。さうして大急ぎで學校道＃
＜Ｐ－０７８＞
具をかばんにしまひ、めい〳〵身輕になつて、校舍＃
の後の菜園に集つた。枯れかゝつて一面に黄色に＃
なつたじやがいも畑を、午後の日がかん〳〵と照＃
らしてゐる。＃
當番が農具小屋から、鍬・シヤベルなどいろ〳〵の＃
道具を出して來た。先生も大きな箱を持つて來て、＃
ほつたいもは此の中へ入れるやうにとおつしや＃
つた。皆は一せいにほりにかゝる。僕はわり合にし＃
つかりしてゐる一本の莖を握つて、ぐつと引張つ＃
た。やはらかい黒い土がむく〳〵盛上つたと思ふ＃
＜Ｐ－０７９＞
と、四方へくづれる。中からみづ〳〵しい白茶色の＃
玉が、じゆずつなぎになつてころ〳〵と出て來た。＃
大人の握りこぶし程の大きなのもあれば、雀の卵＃
ぐらゐなかはいらしいのもあるが、どれも皆、絹の＃
やうなうすい皮がはち切れさうに、よく實がいつ＃
てゐる。となりでは、莖がくさつて引きぬけないの＃
を、星野君が根氣よくほつて、ほつたいもを一つ一＃
つていねいにならべて行く。＃
あちらでもこちらでも、驚く聲、感心する聲、うれし＃
さうな聲。＃
＜Ｐ－０８０＞
ふと氣がつくと、校長先生と山田先生が、箱のそば＃
へ來て、面白さうに僕等の仕事を見ていらつしや＃
つた。＃
第十八　石安工場　＃
一　＃
石安工場と筆太に、＃
小屋根に上げし看板が＃
往來の人の目につきて、＃
安ぢいさんを知る知らず、＃
「あゝ、あの角の石屋か。」と、＃
＜Ｐ－０８１＞
誰もうなづく工場あり。＃
二　＃
石碑［ひ］を刻む、文字をほる、＃
槌［つち］音のみ音かしましき＃
廣き工場の片すみに、＃
安ぢいさんはせぐくまり、＃
常に何をか刻みゐる、＃
めがねを掛けてはつぴ着て。＃
三　＃
店に飾れる石燈篭［ろう］、＃
＜Ｐ－０８２＞
頭の長き福祿［ろく］壽［じゆ］、＃
腹のふくれし布［ほ］袋［てい］和［を］尚［しやう］、＃
ぼたんにくるふ唐［から］獅［し］子［ゝ］も、＃
玉をふくめるこま犬も、＃
皆ぢいさんののみのあと。＃
四　＃
ぢいさん今年六十の＃
坂を越えたる足もとに、＃
大いなる石横たへて、＃
なほ怠らずこつ〳〵と、＃
＜Ｐ－０８３＞
何をか常に刻みゐる、＃
めがねを掛けてはつぴ着て。＃
五　＃
「ぢいさん、今度は何ですか。」＃
「毘［び］沙［しや］門［もん］天［てん］を刻むのだ。」＃
「何時頃までに出來ますか。」＃
「來春まではかゝるだらう。」＃
「來春までも。」と驚けば、＃
「來春までは。」とくりかへす。＃
六　＃
＜Ｐ－０８４＞
今朝遠足にとく起きて、＃
石屋の前を通りしに、＃
廣き工場にたゞ一人、＃
安ぢいさんは一心に＃
毘沙門天を刻みゐき、＃
めがねを掛けてはつぴ着て。＃
第十九　星の話　＃
信吉の家にては、夕飯後庭先に凉み臺を出して、家＃
内一同凉みゐたり。月はまだ出でざれども、空よく＃
晴れて、滿天の星は寶石をちりばめたるが如し。＃
＜Ｐ－０８５＞
信吉は夏休にて歸り居たる兄に向ひて、いろ〳〵＃
と星の説明を求めたり。＃
「にいさん、空にはあんなにたくさん星が見えま＃
すが、少しも動かないのですか。」＃
「さうだ。動かないのだ。しかし地球が廻るために、＃
我々の目には動くやうに見える。どの星かを見＃
おぼえて置いてごらん、寢る頃にはもう位置が＃
變つて見えるから。」＃
「それでも航海をする人などが、よく星を見て船＃
の位置をはかるといふではありませんか。星が＃
＜Ｐ－０８６＞
そんなに位置の變るものなら、目當にならない＃
でせう。」＃
「いや、何月何日の何時には、何所に何星が見える＃
といふ事が、學問上ではわかつてゐるから、はか＃
られない事はない。それに、たくさんの星の中に＃
一つだけ、年中ほとんど位置の變らないのがあ＃
るから、まことに都合がよいのだ。」＃
「それは何といふ星ですか。」＃
「北［ほく］極［きよく］星［せい］といふ星だ。」＃
「でも、あんなにたくさんある星ですもの、それを＃
＜Ｐ－０８７＞
見つけるのに大變でせう。」＃
「それにはまた都合のよい事がある。何かといふ＃
と、北斗［と］七星といふ一群の星があつて、何時でも＃
北極星の位置を知らせてくれるのだ。あれごら＃
ん、向ふの杉林の上の所に、ひしやくのやうな形＃
になつて、七つの星が並んでゐるのが見えるだ＃
らう。」＃
「えゝ、見えます。」＃
「あれが北斗七星だ。あの柄［え］でない方の端にある＃
二つの星を結びつけて、其の線を、ひしやくの口＃
＜Ｐ－０８８＞
の向いてゐる方へのばして行くと、今結んだ二＃
つの星のへだたりの五倍ばかりのところに、か＃
なり大きい星があるだらう。あれが今話した北＃
極星だ。北斗七星は何時も＃
あんなにひしやくの形を＃
してゐて、北極星との關係＃
も常に變らないから、あの＃
星を本にして、すぐに北極＃
星を見つける事が出來る。」＃
「あゝ、あの一番高い杉の眞＃
＜Ｐ－０８９＞
上の所にあるのが北極星でせう。」＃
「さうだ。それにあの星は何時も眞北に居るから、＃
あれを見つけさへすれば、道に迷つた時などに＃
もすぐ方角を知る事が出來る。」＃
信吉は感心して、熱心に空を仰ぎゐしが、驚けるや＃
うに聲をあげて、＃
「にいさん〳〵、あの北極星がひしやくの柄の先＃
になつて、もう一つ、小さい北斗七星のやうなも＃
のが出來てゐますね。」＃
「あゝ、よく氣がついたね。並び方が全く似てゐる＃
＜Ｐ－０９０＞
だらう。西洋では昔から、あの七つの星と其の近＃
所の星を一しよにして小熊の形を想像し、北斗＃
七星と其の近所の星を一しよにして大熊の形＃
を想像して、それ〴〵小熊座・大熊座といふ名を＃
つけてゐる。小熊座と大熊座について、面白い昔＃
話があるはずだから、ねえさんに聞いてごらん。」＃
信吉は傍なる姉に向ひて、＃
「ねえさん、どうぞ其の話を聞かせて下さい。」＃
と頼みたり。＃
「私も餘程前に讀んだのですから、くはしい事は＃
＜Ｐ－０９１＞
おぼえてゐませんがね。昔カリストといふおか＃
あさんと、アルカスといふ子供がありました。お＃
かあさんのカリストは、大そう美しい人だつた＃
ので、ジュノーといふ神樣がそれをねたんで、とう＃
とうカリストを熊にしてしまひました。其の中＃
に、子供のアルカスはだん〳〵大きくなつて、狩＃
人になりましたが、或日大熊を見つけたので、そ＃
れを射殺さうとしました。此の大熊こそは、先に＃
ジュノーに形を變へられたおかあさんのカリス＃
トだつたのですが、アルカスはそれと知りませ＃
＜Ｐ－０９２＞
んから、あぶなく親身の親を射殺すところでし＃
た。ところがめぐみ深いジュピターといふ神樣が、＃
それを見て、『あゝ、かはいさうだ。あのアルカスに＃
親殺の大罪ををかさせてはならぬ。』と、すぐに親＃
子の者を天へ連れていつて、大熊座と小熊座に＃
なさつたのださうです。」＃
「あゝ、面白かつた。おや、北斗七星が半分杉林にか＃
くれてしまつた。にいさん、やつぱりにいさんの＃
おつしやつたやうに、星の位置は變りますね。僕＃
今夜はいろ〳〵の事をおぼえて、ほんたうにう＃
＜Ｐ－０９３＞
れしかつた。」＃
信吉は兄と姉とに謝して、樂しく其の夜のゆめに＃
入れり。＃
第二十　白馬岳　＃
にいさんのお友だちの岡田さんが旅行からお歸＃
りになつたと聞いて、今日にいさんと二人で遊び＃
に行きました。ちやうど岡田さんは四五人のお友＃
だちに、白馬登山のお話をなさつていらつしやる＃
所でした。＃
白馬岳［だけ］が飛［ひ］騨［だ］山脈中の有名な山だといふ事は知＃
＜Ｐ－０９４＞
つてゐましたが、くはしい事＃
は今日始めてうかゞひまし＃
た。中でも面白かつたのは大＃
雪［せつ］溪［けい］のお話です。＃
「雪溪は谷を埋めた雪の坂＃
で、ふもとの村から三里ば＃
かり登つた所から始つて、＃
頂上近くまで續いてゐま＃
す。幅は二三町、長さは一里＃
に近く、行つても行つても＃
＜Ｐ－０９５＞
眞白です。雲や霧がわいた＃
かと思へば散じ、散じたか＃
と思へば又わいて來て、時＃
には一寸先も見えないやうなことがあります。＃
登山者はかんじきをはいて、石づきの付いた金［こん］＃
剛［がう］杖や鳶［とび］口を力に、此の坂を登るのです。眞夏の＃
日中でも、杖を握つてゐる手などは、何時の間に＃
かつめたくなつてしまひます。下山の時には、木＃
の枝などを橇［そり］にして、此の雪溪をすべつて下る＃
人があります。僕も其の通りにして見ましたが、＃
＜Ｐ－０９６＞
急な坂を矢のやうに早くすべる＃
のですから、實に壯快でした。」＃
お話を聞いて、僕もすべつて見たく＃
なりました。＃
それから、お花畠のお話も面白うございました。＃
「お花畠は雪溪を登りつめた所にあります。雪溪＃
が冬の世界ならば、此所は春の國でせう。いろい＃
ろの珍しい高山植物が紅・黄・紫と咲亂れて、何と＃
もいはれない美しさです。あの雷鳥といふ珍し＃
い鳥も、此のあたりから頂上へ登る途中のはひ＃
＜Ｐ－０９７＞
松の間に居るのです。」＃
と言つて、岡田さんは高山植物や雷鳥の繪葉書を、＃
たくさん出して見せて下さいまし＃
た。＃
お話が頂上のながめに＃
移ると、いよ〳〵はずん＃
で來て、岡田さんは目の＃
前に見てゐるやうな樣＃
子で説明なさるので、僕＃
等も何時の間にか、山の＃
＜Ｐ－０９８＞
上に居るやうな氣持になつて聞きました。＃
「頂上に立つて四方をながめた景色は、全く雄大＃
です。もやの底にかすかに見える越［ゑつ］中［ちゆう］の平野、日＃
本海の波の上にはるかに浮ぶ能［の］登［と］半島、眼前に＃
は杓［しやく］子［し］岳［だけ］や鑓［やりが］岳［だけ］がぬつとそびえ、遠くには槍［やりが］岳［だけ］・＃
穗高岳・乗［のり］鞍［くらが］岳［だけ］・立山・劔［つるぎ］岳［だけ］・白山など、いづれおとら＃
ぬ高山が、南から西へ連なつて、互に雄姿を競つ＃
てゐます。淺間山は煙をなびかせて、東南の空は＃
るかにそびえ、戸［と］隱［がくし］連山は東北の方に、呼べば答＃
へるばかり近くそばだつてゐます。富士山も、晴＃
＜Ｐ－０９９＞
れた日には、白雲の上にかすかに見える事があ＃
るさうです。」＃
面白いお話がまだたくさんありさうでしたが、も＃
う夕方になつたので、僕等はおいとまごひをして＃
歸りました。＃
第二十一　初秋　＃
日本晴のよい天氣。＃
おかあさんと茄［な］子［す］をもぎに出たついでに、かぼち＃
や畠を見廻ると、此の前まだ少し早いと言つて殘＃
して置いたのが、今日はもう熟しきつたやうな顔＃
＜Ｐ－１００＞
をして、へそを日にさらしてゐる。＃
向ふの畠には、たうのいもが作つてある。黒みがか＃
つた紫色の莖が見事に延びて、大きな葉をゆらゆ＃
らと風に動かしてゐる姿は、誠に氣持がよい。其の＃
隣の畠にしやうがが、根ぎはの赤い所を少し土か＃
らあらはして、ぎやうぎよく並んでゐるのも美し＃
い。＃
昨夜雨が降つたせゐか、空がきれいにすんで、向ふ＃
の天神山が近く見える。山のすその方があちらこ＃
ちら白いのは、蕎［そ］麥［ば］の花であらう。二百十日を無事＃
＜Ｐ－１０１＞
に越した田には稻の穗先がもう大分重みを見せ＃
てゐる。＃
たんぼの中程を流れてゐる小川は、いつもより水＃
が多い。蛙がぽかん〳〵と飛込んではすうつと泳＃
いで行く。やがておもだかの莖や芹［せり］の葉などにつ＃
かまつて、後足を長く延ばし、眞青な空をじつとな＃
がめてゐる。ざるを持つた子供が、川下の方に集つ＃
てさわいでゐるのは鮒［ふな］やどぢやうを取るのであ＃
らう。空には赤とんぼが幾つともなく飛んでゐる。＃
うちの方をふりかへると、井戸端の柿の木に柿が＃
＜Ｐ－１０２＞
すゞなりになつてゐるのが目につく。今年はなり＃
年なのだ。まだ青いが早く甘くなるたちだから、も＃
う直に食べられる。＃
午後には弟と天神山へきのこ取りに行くのだ。＃
第二十二　北風號　＃
北風はたけが五尺二寸もある黒馬で、毛はうるし＃
のやうにつや〳〵しく、見るからに強さうな軍馬＃
である。北風の主人は若い騎兵中尉［ゐ］で、たいそう北＃
風をかはいがつて、まるで我が子のやうに大事に＃
してゐた。或年戰爭が始つたので、北風も外の軍馬＃
＜Ｐ－１０３＞
と同じやうに、主人にしたがつて戰地へ向つた。＃
戰地ではいろ〳〵つらい事もあつたが、戰場をか＃
け廻るのは、北風にとつて愉［ゆ］快な事であつた。ラツ＃
パのひゞきや大砲の音に、北風の心は先づ勇みた＃
つ。やがて「進め」の號令がかゝると、たゞ愉快にたゞ＃
一生けんめいにかけ出す。戰場の光景は實に恐し＃
いものであつたが、北風は自分の信じてゐる中尉＃
が乗つてゐてくれるので、砲彈の雨の中でも、銃劔＃
の林の中でも、びくともせずに勇ましく活動した。＃
しかしとう〳〵恐しい日が來た。或朝の事であつ＃
＜Ｐ－１０４＞
た。東の空がほんのりと白む頃、北風は外の軍馬と＃
一所に、露營のテントの前に、列を正して並んだ。兵＃
士たちはめい〳〵馬のそばに立つて、今か〳〵と＃
命令の下るのを待つてゐた。月が西の空にうす白＃
く殘り、野には朝つゆがしつとりと置いてゐた。＃
だん〳〵明るくなつて來た。中尉の固く結んだ口＃
もと、するどい目の光、其の樣子がどうも一通りで＃
ない。利口な北風はすぐそれに氣がついた。やがて＃
あたりの靜かさを破つて、大砲の音がとゞろき始＃
めた。中尉はひらりと北風にまたがつて、亂れてゐ＃
＜Ｐ－１０５＞
たたてがみをそろへ、くびすぢを輕くたゝきなが＃
ら、＃
「おい北風、今日は大分手ごたへがあるぞ。しつか＃
り頼むよ。」＃
と、まるで人間に言ふやうに言つた。北風は、主人の＃
手がかうしてくびすぢにさはるのが何より好き＃
だつたから、うれしくて、得意さうに頭を高くあげ＃
た。やがて中尉はちよつと腕時計を見て、いつもの＃
やうにすんだ聲で號令をかけた。＃
「乗馬。」＃
＜Ｐ－１０６＞
兵士たちは一せいに馬上の人となつた。馬はどれ＃
も皆張りきつて、くつわをかんだり、前がきをした＃
り、頭をふり上げたりしながら、乗手のあひづが下＃
るのを待ちかまへてゐた。＃
數分の後には、北風はもう列＃
の先頭に立つて進んでゐた。＃
其の日の戰は果して今まで＃
になくはげしかつた。中でも＃
一番目ざましかつたのは最＃
後の襲［しふ］撃［げき］。谷一つへだてた向＃
＜Ｐ－１０７＞
ふの岡に、敵の砲兵が放［はう］列を＃
しいてゐる。味方は其の正面＃
から眞一文字に進んで行く。＃
敵彈は前後左右へ雨のやう＃
に落ちて來る。それでも誰一＃
人敵に後を見せる者はない。＃
やがてもう〳〵と上る白煙＃
の間から、怪［くわい］獸のやうな大砲＃
と、其のまはりにむらがる人＃
かげが見えて來る。砲口はか＃
＜Ｐ－１０８＞
はるがはるいなづまのやうな砲火をはいては、耳＃
もつぶれさうにほえ立ててゐる。人はいよ〳〵勇＃
み、馬はます〳〵はやる。＃
中尉は始終先頭に立つて進んでゐたが、敵陣が間＃
近になつたのを見て、一だん高く軍刀をふりかざ＃
し、いつものはれ〴〵とした聲で、＃
「そら、もう一息だぞ。襲［おそ］へ〳〵。」＃
と叫んだ。ちやうど其の時、敵の砲彈が近くで破れ＃
つして、其の破片［へん］がぴゆつと北風のたてがみをか＃
すめた。北風は、主人の體がくらの上でぐらつとゆ＃
＜Ｐ－１０９＞
れるのを感じた。と、たづなが急にゆるんで、中尉は＃
後方にころげ落ちた。北風は驚いてすぐに立止ら＃
うとしたが、後からかけて來る味方に追はれて、思＃
はず其の場から數十間も進んでしまつた。しかし＃
主人をうしなつたと思ふと、今まで張りつめてゐ＃
た勇氣もくじけて、ゆめからさめたやうにあたり＃
を見廻した。大空には、午後の日が大砲の煙や砂ぼ＃
こりにさへぎられて、どんよりとかゝり、地上には、＃
人馬の死がいがあちらにもこちらにも重り合つ＃
てゐる。北風は俄におぢけがついた。さうして主人＃
＜Ｐ－１１０＞
がこひしくなつて、今來た方へ一散にかけもどつ＃
た。＃
主人の姿を見つけると、靜かに其のそばに立止つ＃
た。中尉はあをのけになつて倒れてゐる。北風は、も＃
う一度鼻先をなでてもらひたくなつて、そつと顔＃
を主人の肩のあたりへすりよせた。中尉の手はじ＃
つとして動かない。北風はもう一度あの勇ましい＃
號令が聞きたいと思つて、訴へるやうな目付で主＃
人の顔を見下し、左右の耳をそばだててみた。しか＃
し聞えるのはかすかな息づかひばかりであつた。＃
＜Ｐ－１１１＞
ちやうど其の時、はるか遠方で味方の萬歳の聲が＃
わき起つた。戰爭なれた北風は、此の聲の意味をよ＃
く知つてゐた。さうして之に合はせるやうに、又自＃
分の最愛の主人に味方の勝利を語るやうに、一聲＃
高く天に向つていなゝいた。中尉の顔には滿足ら＃
しいゑみが浮んだ。＃
第二十三　手紙　＃
一　＃
昨日は美しきお話の本御送り下され、誠＃
に有難く存じ候。あの中にて一番面白き＃
＜Ｐ－１１２＞
話をよくおぼえ置き、來週學校にて話し＃
方の時間に話し、同級の人々を驚かさん＃
と樂しみ居り候。＃
九月二十日　正男　＃
伯父上樣　＃
二　＃
先日遊びに上り候節御約束致し候三毛＃
の子猫、もはや大きくなり候事と存じ候。＃
近き中に頂きに上りたく候に付き、何日＃
頃がよろしく候や、御知らせ下されたく、＃
＜Ｐ－１１３＞
御願ひ申し上げ候。＃
九月二十日　みよ子　＃
伯母上樣　＃
三　＃
拜啓。昨年僕の學校より、君の學校へ御轉＃
任なされ候佐野先生、先頃より御病氣の＃
由承り候。早速御見舞に參上致したく存＃
じ候へども、御住所不明にて困り居り候。＃
若し御承知に候はば、御手數ながら至急＃
御報知下されたく、願ひ上げ候。草々。＃
＜Ｐ－１１４＞
九月二十日　下田英太郎　＃
吉野萬吉君　＃
第二十四　水兵の母　＃
明治二十七八年戰役の時であつた。或日我が軍艦＃
高千穗の一水兵が、女手の手紙を讀みながら泣い＃
てゐた。ふと通りかゝつた某大尉［ゐ］が之を見て、餘り＃
にめゝしいふるまひと思つて、＃
「こら、どうした。命が惜しくなつたか、妻子がこひ＃
しくなつたか。軍人となつて、いくさに出たのを＃
男子の面目とも思はず、其の有樣は何事だ。兵士＃
＜Ｐ－１１５＞
の恥は艦の恥、艦の恥は帝＃
國の恥だぞ。」＃
と、言葉鋭くしかつた。＃
水兵は驚いて立上つて、しば＃
らく大尉の顔を見つめてゐ＃
たが、やがて頭を下げて、＃
「それは餘りな御言葉です。＃
私には妻も子も有りませ＃
ん。私も日本男子です。何で命を惜しみませう。ど＃
うぞ之を御覽下さい。」＃
＜Ｐ－１１６＞
と言つて、其の手紙を差出した。＃
大尉はそれを取つて見ると、次のやうな事が書い＃
てあつた。＃
「聞けば、そなたは豐島沖の海戰にも出ず、又八月＃
十日の威海衞攻撃とやらにも、かく別の働なか＃
りきとのこと。母は如何にも殘念に思ひ候。何の＃
爲にいくさには御出でなされ候ぞ。一命を捨て＃
て君の御恩に報ゆる爲には候はずや。村の方々＃
は、朝に夕にいろ〳〵とやさしく御世話下され、＃
『一人の子が御國の爲いくさに出でし事なれば、＃
＜Ｐ－１１７＞
定めて不自由なる事もあらん。何にてもゑんり＃
よなく言へ。』と、親切におほせ下され候。母は其の＃
方々の顔を見る毎に、そなたのふがひなき事が＃
思ひ出されて、此の胸は張りさくるばかりにて＃
候。八幡［まん］樣に日參致し候も、そなたがあつぱれな＃
るてがらを立て候やうとの心願に候。母も人間＃
なれば、我が子にくしとはつゆ思ひ申さず。如何＃
ばかりの思にて此の手紙をしたゝめしか、よく＃
よく御察し下されたく候。」＃
大尉は之を讀んで、思はずも涙を落し、水兵の手を＃
＜Ｐ－１１８＞
握つて、＃
「わたしが惡かつた。おかあさんの精神は感心の＃
外はない。お前の殘念がるのももつともだ。しか＃
し今の戰爭は昔と違つて、一人で進んで功を立＃
てるやうなことは出來ない。將校も兵士も皆一＃
つになつて働かなければならない。總べて上官＃
の命令を守つて、自分の職務に精を出すのが第＃
一だ。おかあさんは、『一命を捨てて君恩に報いよ。』＃
と言つてゐられるが、まだ其の折に出會はない＃
のだ。豐島沖の海戰に出なかつたことは、艦中一＃
＜Ｐ－１１９＞
同殘念に思つてゐる。しかしこれも仕方がない。＃
其のうちには花々しい戰爭もあるだらう。其の＃
時にはお互に目ざましい働をして、我が高千穗＃
艦の名をあげよう。此のわけをよくおかあさん＃
に言つてあげて、安心なさるやうにするがよい。」＃
と言聞かせた。＃
水兵は頭を下げて聞いてゐたが、やがて手をあげ＃
て敬禮して、につこりと笑つて立去つた。＃
第二十五　選擧ノ日　＃
道雄ガ今朝起キテミルト、商用デ四國ノ方ヘ旅行＃
＜Ｐ－１２０＞
シテヰタ父ガ、夜汽車デ歸ツタトコロデアツタ。一＃
月モカヽルヤウナオ話ダツタノニ、ドウシテコン＃
ナニ早クオ歸リニナツタノダラウト思ツテ聞イ＃
テミタ。＃
「オトウサン、御用ハモウスンダノデスカ。」＃
「イヤ、マダスマナイ。今日午後四時ノ汽車デ又出＃
カケルノダ。」＃
「ドウシテオ歸リニナツタノデスカ。」＃
「今日ハ衆議院議員ノ總選擧ダカラ、投［トウ］票［ヘウ］ノ爲ニ＃
歸ツテ來タノダ。」＃
＜Ｐ－１２１＞
「オトウサンハ誰ニ投票ナサルノデス。」＃
「ソレハ誰ニモ言フベキ事デハナイ。シカシ今度＃
ノ候補者ノ中ニ、實ニリツパナ考ヲ持ツテヰテ、＃
アノ人ナラバト思ハレル人ガアルカラ、オトウ＃
サンハ最初カラチヤント其ノ人ニキメテヰタ。＃
今日投票ノ爲ニ歸ツタノモ出發ノ時カラノ豫＃
定ナノダ。」＃
「ソンナエライ方ナラ、オトウサンガワザ〳〵オ＃
歸リニナラナクツテモ大丈夫デセウ。」＃
「イヤ、其ノ人ガ當選スルコトハウタガヒナイガ、＃
＜Ｐ－１２２＞
自分ノタフトイ選擧權ヲ棄テルトイフ事ハ、選＃
擧人トシテカリソメニモスベキ事デハナイカ＃
ラ、カウシテワザ〳〵歸ツテ來タノダ。＃
當選スルシナイハ別ニシテ、メイ〳〵自分ノ適＃
當ト信ジテヰル人ニ投票スルノガ、ホンタウノ＃
選擧トイフモノダ。世間ニハ、イロ〳〵ノ事情ノ＃
爲ニ、或ハ信用モシテヰナイ人ニ投票シタリ、或＃
ハ棄權シテシマツタリスル人モアルガ、ソンナ＃
事ヲスルノハ、選擧ノ趣意ニソムイテヰル。國民＃
トシテ恥ヅベキ事ダ。」＃
＜Ｐ－１２３＞
道雄ハ此ノ時、フト學校ノ級長選擧ノ事ヲ思ヒ出＃
シタ。道雄ノ學校デハ、此ノ間級長ガ轉校シタノデ、＃
近々後任ノ選擧ヲスルコトニナツテヰルノデア＃
ツタ。道雄ハ誰ガ何ト言ツテモ、自分デ一番適當ダ＃
ト信ジテヰル中村君ヲ選擧シヨウト決心シタ。＃
をはり＃
