＜出典＞４３１　　　国定読本　４期３－１
＜Ｐ－０００＞
もくろく　　＃
一　　天の岩屋………一　　十四　　舟の上とたゝみの上………六十五　＃
二　　參宮だより………六　　十五　　水の旅………六十八　＃
三　　おたまじやくし………十一　　十六　　大川………七十四　＃
四　　天長節………十七　　十七　　クモノス………七十六　＃
五　　八岐のをろち………十九　　十八　　夏の午後………八十　＃
六　　鯉ノボリ………二十五　　十九　　日記………八十五　＃
七　　遠足………二十六　　二十　　こほろぎ………九十二　＃
八　　青葉………三十四　　二十一　　天孫………九十四　＃
九　　動物園………三十六　　二十二　　犬のてがら………百一　＃
十　　逃げたらくだ………四十二　　二十三　　電車………百四　＃
十一　　蠶………五十三　　二十四　　水引草………百十　＃
十二　　田植………五十六　　二十五　　二つの玉………百十二　＃
十三　　少彦名のみこと………五十七　＃
＜Ｐ－００１＞
　一　　天［あめ］の岩屋　　＃
天［あま］照［てらす］大［おほみ］神［かみ］が、天の岩屋へおはいりになつて、岩＃
戸をおしめになりました。明かるかつた世＃
界が、急にまつ暗になりました。すると、今ま＃
でかくれてゐた、いろいろのわるものが出て＃
來て、らんばうをしたり、いたづらをしたりし＃
ました。＃
大ぜいの神樣が、お集りになつて、＃
＜Ｐ－００２＞
「どうしたら、よからうか。」＃
と、ごさうだんなさいました。＃
思ひかねの神といふ、大そうちゑのある神樣＃
のお考で、神樣方のなさることがきまりまし＃
た。＃
或神樣は、大きい、りつぱな鏡をお作りになり＃
ました。或神樣は、きれいな玉をたくさん作＃
つて、くびかざりのやうに、ひもにお通しにな＃
りました。また、或神樣は、山へ行つて、大きな＃
＜Ｐ－００３＞
榊［さかき］の木を根こぎにして、持つていらつしやい＃
ました。＃
この榊の木に、鏡と玉をかざつて、岩屋の前に＃
立て、また、たくさんのにはとりを集めて、岩屋＃
の前でお鳴かせになりました。＃
この時、天［あめ］のうずめのみことは、岩屋の前へ進＃
んで、舞［まひ］をなさいました。かづらをたすきに＃
かけ、さゝの葉を手に持つて、ふせたをけをだ＃
いにして、その底をとん〳〵ふみ鳴らしなが＃
＜Ｐ－００４＞
ら、こつけいな手ぶりや身ぶりをして、おもし＃
ろくお舞ひになりました。＃
大ぜいの神樣は、どつとお笑ひになりました。＃
あまりおもしろさうなので、天照大神は、少し＃
ばかり岩戸をあけて、おのぞきになりました。＃
すると、神樣方は、榊の＃
木を、ずつと前へお出＃
しになりました。＃
大［おほみ］神［かみ］のおすがたが、鏡＃
＜Ｐ－００５＞
にうつりました。大＃
神は、いよ〳〵ふしぎ＃
にお思ひになつて、少＃
し戸の外へ出ようと＃
なさいました。＃
岩戸のそばで待つて＃
いらつしやつた天［あめの］手［た］＃
力［ぢから］男［を］のみことは、この＃
時とばかり、さつと岩＃
＜Ｐ－００６＞
戸をあけて、大神のお手を取つて、外へお連出＃
し申しました。＃
世界中が、もとのやうに明かるくなりました。＃
大ぜいの神樣は、手をうつてお喜びになりま＃
した。　　＃
　二　　參［さん］宮［ぐう］だより　　＃
きのふ、午［ご］後［ゝ］、こちらへついて、外［げ］宮［くう］へ＃
おまゐりし、けふは内［ない］宮［くう］へおまゐり＃
＜Ｐ－００７＞
しました。＃
宇［う］治［ぢ］橋を渡つて、＃
神［しん］苑［ゑん］に入り、しば＃
らく行くと、千年＃
もたつたかと思＃
はれる大木が立＃
ち並んでゐて、何＃
ともいへない、あ＃
りがたい感じが＃
＜Ｐ－００８＞
しました。＃
五［い］十鈴［すゞ］川のきれ＃
いな水で手を洗＃
ひ、口をすゝいで＃
御門の前に進ん＃
でをがみました。＃
神［しん］殿［でん］は、外宮と同＃
じやうに、お屋根＃
をかやでふき、むねにかつを木を並＃
＜Ｐ－００９＞
べ、兩はしに千［ち］木［ぎ］がつけてあります。＃
一切白木づくりで、金の金［かな］具［ぐ］が、きら＃
きらとしてゐますが、その外には、何＃
のかざりもありません。まことに＃
神［かう］々［〴〵］しくて、しぜんとあたまが下り＃
ました。＃
おまゐりをすましてから、方々を見［けん］＃
物［ぶつ］して、二［ふた］見［み］に來ました。＃
今夜は、こゝでとまります。あすは、＃
＜Ｐ－０１０＞
朝早くおきて日の＃
出ををがみ、それか＃
ら京都へ立ちます。＃
おみやげに貝ざい＃
くを買つたから、た＃
のしみにして待つ＃
てお出でなさい。　　＃
　四月十日　　父より　　＃
　さち子どの　　＃
＜Ｐ－０１１＞
　三　　おたまじやくし　　＃
おたまじやくしは、毎日、大ぜいの兄弟や仲間＃
と一しよに、池の中を泳いでゐました。まる＃
で、ありの行［ぎやう］列［れつ］のやうに、後から後から、ぞろぞ＃
ろとつゞいて行きました。どれも、これも、丸＃
い頭をふり、長い尾をふつて、元氣よく泳いで＃
ゐました。＃
おたまじやくしは、手も足もなくて泳げるの＃
＜Ｐ－０１２＞
ですから、自分の親が、あの四本＃
足の蛙だらうなどとは、ゆめに＃
も思つてゐませんでした。そ＃
れよりも、時々池の中で見かけ＃
る鯉［こひ］やふなが、親ではないかと＃
考へたことがありました。ま＃
た、小さい目高を見ると、これも、＃
自分たちの仲間ではないかと＃
思つたこともありました。＃
＜Ｐ－０１３＞
しかし、おたまじやくしには、何＃
千何萬といふ、たくさんの兄弟＃
や仲間があるのですから、親が＃
そばにゐてくれなくても、ちつ＃
ともさびしくはありませんで＃
した。また、目高やどぢやうな＃
どと一しよに、あそぶ必［ひつ］要［えう］もあ＃
りませんでした。＃
春の日は、だん〳〵過ぎて行き＃
＜Ｐ－０１４＞
ました。水草が青々とのび、水の上には、時々＃
とんぼがとんで來て、かげをうつすこともあ＃
りました。＃
このころになると、おたまじやくしは、尾のつ＃
け根の所が、少しふくれて來ました。最［さい］初［しよ］は、＃
それと氣もつかぬほどでしたが、後には、だん＃
だんふくれ出して、とう〳〵、それが二本のか＃
はいらしい足になりました。＃
おたまじやくしは、何だかおそろしいやうな、＃
＜Ｐ－０１５＞
うれしいやうな氣になつて、わ＃
いわいさわいでゐました。さ＃
うして、をり〳〵水の上にかほ＃
を出してみたりしました。＃
それから、また何日かたちまし＃
た。今度は、胸の兩わきが破れ＃
て、そこからも二本の足が出ま＃
した。＃
四本足になつたおたまじやく＃
＜Ｐ－０１６＞
しは、尾がだん〳〵短くなつて行きました。＃
さうして、水の中にゐるのが、いやになつて來＃
ました。水の中にゐると、何だか息がつまる＃
やうな氣がしました。水の上にかほを出す＃
と、氣がせい〳〵するやうに思ひました。＃
或日、岸の草につかまつて、とう〳〵池の外へ＃
出て見ました。もう夏［なつ］の始でした。草が青＃
青としげつてゐました。空には、お日樣がぎ＃
らぎら光つてゐました。＃
＜Ｐ－０１７＞
後足をまげて、前足をついてすわつたかつか＃
うは、これまでのおたまじやくしではありま＃
せんでした。かうして陸へ上つた、たくさん＃
の子蛙は、草のかげのあちらこちらを、うれし＃
さうにとびまはりました。　　＃
　四　　天長節　　＃
ほがらかな天長節だ。　　＃
春の日に光る若葉の、　　＃
＜Ｐ－０１８＞
しづかな森へ行くと、　　＃
小鳥のかはいゝ音［おん］樂［がく］。　　＃
「ばんざい。」と叫んでみたら、　　＃
「ばんざい。」と返すこだま。　　＃
鳥の歌、ぴつたり止んで、　　＃
しばらくは、しんとする。　　＃
小高い岡に上つて、　　＃
＜Ｐ－０１９＞
見下す町の家々。　　＃
こゝにも、あすこにも、　　＃
日の丸の旗がひら〳〵。　　＃
　五　　八［や］岐［また］のをろち　　＃
天［あま］照［てらす］大［おほみ］神［かみ］の御弟に、すさのをのみことと申し＃
て、大そう勇氣のある神樣がいらつしやいま＃
した。＃
或時、出［いづ］雲［も］の國の、ひの川の岸をお通りになる＃
＜Ｐ－０２０＞
と、川上から箸［はし］が流れて來ました。みことは、＃
この川上に人が住んでゐ＃
るなとお思ひになつて、川＃
について、だん〳〵山奧へ＃
おはいりになりました。＃
すると、おぢいさんとおば＃
あさんが、一人の娘を中に＃
置いて、泣いてゐました。＃
「なぜ泣くのか。」＃
＜Ｐ－０２１＞
と、みことがお尋ねになると、おぢいさんが、＃
「私どもには、もと娘が八人ございましたが、＃
八岐のをろちといふ大［だい］蛇［じや］に、毎年一人づつ＃
食はれて、もうこの子一人になりました。＃
今年も、ちやうどその大蛇が出て來る時分＃
になりましたので、泣いてゐるのでござい＃
ます。」＃
と申しました。＃
「一たい、どんな大蛇か。」＃
＜Ｐ－０２２＞
「長さは、八つの山、八つの谷にわたるほどで、＃
頭が八つ、尾が八つ、目はまつかで、背中には＃
こけが生えてゐます。」＃
みことは、この話をお聞きになつて、＃
「よし。その大蛇をたいぢてやらう。強い＃
酒をたくさんつくれ。さうして、八つの桶＃
に入れて、大蛇の來る所に並べて置け。」＃
とおいひつけになりました。＃
その通りに用意して待つてゐると、間もなく＃
＜Ｐ－０２３＞
大蛇が出て來＃
ました。酒を＃
見つけて、八つ＃
の頭を八つの桶＃
に入れて、がぶ〳〵＃
と飲みました。＃
そのうちに、よひがまは＃
つて、とう〳〵眠つてしま＃
ひました。＃
＜Ｐ－０２４＞
みことは、劒を拔いて、大蛇をずた〳〵にお切＃
りになりました。赤い血が、たきのやうに流＃
れました。ひの川の水が、まつかになりまし＃
た。＃
尾をお切りになつた時、かちつと音がして、劒＃
の刃がかけました。ふしぎにお思ひになつ＃
て、尾をさいてごらんになると、大そうりつぱ＃
な劒が出て來ました。「これは、たふとい劒だ。」＃
とみことはお思ひになつて、天照大神へたて＃
＜Ｐ－０２５＞
まつられました。　　＃
　六　　鯉ノボリ　　＃
ユフベノ雨ガハレテ、青葉ノ上ニ、日ガ氣持ヨ＃
ク照ツテヰマス。サ＃
ヲノ先ノ矢車ガ、ガラ＃
ガラト鳴ルト、鯉ガ、大＃
キナ口デ思フゾ＃
ンブン風ヲノン＃
＜Ｐ－０２６＞
デ、家ノムネヨリモ高ク尾ヲ上ゲマス。ソノ＃
尾ヲ下シテ來テ、サヲニツケルカト思フト、マ＃
タ腹ヲフクラマセテ、ヲドリ上リマス。ソノ＃
度ニ、鯉ノカゲガ、地ノ上ヲ泳ギマス。　　＃
　七　　遠足　　＃
午前八時、私たちは學校の門を出ました。＃
役場の前から横道へはいりますと、材［ざい］木［もく］をた＃
くさんつんだ荷［に］馬［ば］車［しや］が來ました。先頭の先＃
＜Ｐ－０２７＞
生が、＃
「よけるのですよ。」＃
とおつしやつたので、みんな、道ばたの石がき＃
にくつついてよ＃
けました。馬を＃
引いた人は、＃
「ありがたう。」＃
といつて通りま＃
した。＃
＜Ｐ－０２８＞
やがて山道になりました。一列になつて、細＃
い道を上つて行きますと、しげつた杉の林へ＃
はいりました。坂が急で、道がじめ〳〵して＃
ゐましたので、松村君が、すべつてころびまし＃
た。先生が、＃
「みんな、氣をつけなさい。」＃
とおつしやいました。＃
杉の林を拔けると、あたりが、ぱつと明かるく＃
なりました。みんな、息を切らして、はあ〳〵＃
＜Ｐ－０２９＞
いつてゐました。＃
少し平かな、ひろい所へ來ました。私たちは、＃
そこで休むことになりました。草の上に腰＃
を下したり、ねころんだりして休みました。＃
「學校が見える、學校が見える。」＃
と、だれかがいひました。その方へ行つて見＃
ますと、木の間から、私たちの學校や役場が、小＃
さく見えました。＃
「さあ、出かけませう。もう一息で頂［ちやう］上［じやう］です。」＃
＜Ｐ－０３０＞
と、先生がおつしやいました。私たちは、元氣＃
を出して、また上り始めました。＃
とう〳〵頂上へ着き＃
ました。向かふを見＃
渡すと、ひろ〴〵とた＃
んぼがつゞいて、あち＃
こちに、家や森が見え＃
ました。所々白く光＃
つてゐる川も見えま＃
＜Ｐ－０３１＞
した。遠くの方には、山がうね〳〵とつゞい＃
てゐました。＃
「まだ少し早いが、おべんたうにしませう。」＃
と、先生がおつしやいました。みんな、喜んで＃
たべ始めました。＃
「あ、汽車だ、汽車だ。」＃
と、山下君がいひました。見ると、向かふから、＃
汽車が白い煙をはいて、こちらへやつて來ま＃
す。先生が、＃
＜Ｐ－０３２＞
「あの汽車は、この山の下のトンネルを通り＃
ます。私たちも、かへりには汽車に乘つて、＃
この山の下を通るのです。」＃
とおつしやつたので、みんな、手をうつて喜び＃
ました。＃
下りる時は、ほんたうにらくでした。先生が、＃
「ゆつくり、ゆつくり。」とおつしやつても、しぜん＃
と走るやうになりました。＃
山を下りると、そこに神社がありました。八［はち］＃
＜Ｐ－０３３＞
幡［まん］樣ださうです。古い、大きな杉が、たくさん＃
ありました。石のとりゐをくゞつて拜［はい］殿［でん］の＃
前に並んでをがみました。＃
それから、原口町のにぎやかな通を見物しな＃
がら、停［てい］車［しや］場［ぢやう］へ行きました。＃
間もなく汽車が來ました。みんなが乘つた＃
かと思ふと、汽車は、もう動き出しました。さ＃
うして、すぐトンネルへはいりました。急に＃
暗くなつたので、みんながおもしろがつて、わ＃
＜Ｐ－０３４＞
あつとさわぎ出しました。しかし、すぐまた＃
トンネルの外へ出ました。＃
せつかく乘つたと思つたら、もう、私たちの村＃
の停車場へ着きました。＃
午後二時半、學校へかへりました。　　＃
　八　　青葉　　＃
雨が止む、　　＃
雲が散る。　　＃
＜Ｐ－０３５＞
雲のあとに、うね〳〵と、　　＃
青葉若葉の山々が、　　＃
遠く、近く殘る。　　＃
風が吹く、　　＃
木がゆれる。　　＃
木々のかげは、ゆら〳〵と、　　＃
水のおもてに、地の上に、　　＃
青く、黒くうつる。　　＃
＜Ｐ－０３６＞
　九　　動物園　　＃
きのふ、ねえさんと動物園＃
へ行きました。＃
門をはいつて少し行くと、＃
くじやくが居ました。し＃
ばらく見て居るうちに、長＃
い、美しい尾を、扇のやうにひろげました。＃
「まあ、きれいだこと。」＃
＜Ｐ－０３７＞
と、ねえさんが感心していひました。＃
次に見たのは、猿［さる］でした。大きい猿や、小さい＃
猿が「きやつ、き＃
やつ。」といひな＃
がら、さわいで＃
居ました。ぶ＃
らんこをして＃
居るのもあり＃
ました、金あみ＃
＜Ｐ－０３８＞
をつたつて、追つかけつこをして居るのもあ＃
りました。＃
一番おもしろいと思つたのは、象［ざう］でした。そ＃
のぶら〳〵した長い鼻は、よく見ると、先が蛇＃
の口のやうで、開いたり、閉ぢたりします。象＃
は、たえず鼻を動かして、何かたべる物でも落＃
ちて居ると、すぐその先ではさみ上げます。＃
さうして、鼻をぐるつと卷くやうにして、口の＃
所へ持つて行つてたべます。＃
＜Ｐ－０３９＞
耳も大きいものです。時々、ふは〳〵とそれ＃
を動かしますと、ちやうど、大きなうちはであ＃
ふぐやうです。＃
大きなからだのわりに、目は小さくて、あれで＃
も、下に落ちて居る物が、よく見えるのだらう＃
かと思はれます。私は、始め、鼻の先に目がつ＃
いて居て、物をさがすのではないかと思つた＃
ほどでした。＃
象のかこひの中には、向かふの方に、池のやう＃
＜Ｐ－０４０＞
なものがこしらへてありました。だれかが、＃
その中へせんべいを一枚投入れますと、象は、＃
のこ〳〵と歩いて行つて、長い鼻をのばして、＃
浮いて居るせんべいを拾ひ上げました。＃
それから、象は、ざぶ〳〵と水の中へはいつて＃
行きました。水は深くて、大きなからだが、半＃
分くらゐはかくれました。すると、水がさつ＃
とあふれて、外へ流れ出ました。＃
「まるで、島のやうだね。」＃
＜Ｐ－０４１＞
と、だれかがいひました。＃
象は、しばらくして、またのこ〳〵と上つて來＃
ました。さうして、今度は、水を鼻へ吸ひこん＃
で、その水で自分のか＃
らだを洗ひました。＃
ちやうど、ポンプの管＃
で水をかけるやうで＃
した。しまひには、吸＃
ひこんだ水を、ふん水＃
＜Ｐ－０４２＞
のやうに吹上げました。＃
「や、かけられたら大へんだ。」＃
といつて、見物人は逃出しました。私も、ねえ＃
さんと一しよに、そこを立つて、らくだの居る＃
方へ行きました。　　＃
　十　　逃げたらくだ　　＃
　（一）　　＃
さばくの中で、或旅人が、二人の商人に出あつ＃
＜Ｐ－０４３＞
た。＃
旅人「あなた方は、大そう心［しん］配［ぱい］ら＃
しい御樣子ですが、もしや、ら＃
くだを逃したのではありま＃
せんか。」＃
二人「さうです、さうです。」＃
旅人「そのらくだは、片目ではあ＃
りませんか。右の目がつぶ＃
れて居ませう。」＃
＜Ｐ－０４４＞
二人「よく御存じですね。まつたくその通り＃
です。」＃
旅人「さうして、左の足が一本短くて、前［まへ］齒［ば］が二＃
三本拔けて居ませう。」＃
二人「それにちがひありません。どこでごら＃
んになりましたか。」＃
旅人「さうして、つけて居た荷物は、麥でせう。」＃
二人「たしかにさうです。どこに居るか、どう＃
ぞ、早くをしへて下さい。」＃
＜Ｐ－０４５＞
旅人「いや、私はそのらくだを見たのではあり＃
ません。」＃
甲の商人、＃
「え、でも、そんなにくはしく御存じではあり＃
ませんか。」＃
乙の商人、＃
「それとも、だれかにお聞きになつたのです＃
か。」＃
旅人「いゝえ、見たのでも、聞いたのでもありま＃
＜Ｐ－０４６＞
せん。」＃
二人は、かほを見合はせて、＃
甲「をかしいね。こいつがどろぼうだぞ。」＃
乙「さうだ、さうだ。さあ、役所へ引つぱつて行＃
け。」＃
二人は、むりに旅人を役所へ引つぱつて行つ＃
た。　　＃
　（二）　　＃
役人は、三人を呼出して、＃
＜Ｐ－０４７＞
役人「一たい、どういふことか、くはしく申せ。」＃
甲「この男が、私どものらくだをぬすんだので＃
ございます。私どもは、麥をつけたらくだ＃
を引いて、さばくの中を通つて居ましたが、＃
とちゆうで一休して居るうちに、つい眠つ＃
てしまひました。」＃
乙「目がさめて見ると、らくだが居ませんので、＃
おどろいて方々さがして歩きました。そ＃
のとちゆうで、この男に出あひますと、向か＃
＜Ｐ－０４８＞
ふから、『らくだを逃した＃
のではないか。』と尋ねる＃
のでございます。」＃
甲「さうして、そのらくだは、＃
片目だらうの、びつこだ＃
らうの、齒が拔けて居る＃
だらうのと、一々見たや＃
うに申すのでございま＃
す。」＃
＜Ｐ－０４９＞
乙「その上、つけて居た荷物の品までいひあて＃
ました。」＃
二人「らくだをぬすんだのは、どうしても、この＃
男にちがひありません。」＃
役人「こりや、旅人、その方にも、いひ分があるな＃
らば申せ。」＃
旅人「私をぬす人などとは、とんでもないこと＃
でございます。私がさばくを歩いて居ま＃
すと、らくだの足あとがつゞいて居るのに、＃
＜Ｐ－０５０＞
人の足あとが見えません。それで、らくだ＃
が逃げたのではないかと思つたのでござ＃
います。」＃
役人「そのらくだが片目だといふことは、どう＃
してわかつたか。」＃
旅人「道の片がはの草ばかりが、食つてあつた＃
からでございます。」＃
役人「それでは、びつこといふことは、どうして＃
知つて居るか。」＃
＜Ｐ－０５１＞
旅人「片方の足あとが、一つ置きに淺くなつて＃
居るのでわかりました。」＃
役人「齒の拔けて居るといふことは、どうして＃
わかつたか。」＃
旅人「草を食取つたあとを見ますと、かみ切れ＃
ないで殘つて居る葉があるので、さう考へ＃
ました。」＃
役人「なるほど、聞いて見れば、一々もつともで＃
ある。」＃
＜Ｐ－０５２＞
二人「もし〳〵、お役人樣、それなら、荷物の品を＃
どうして知つて居るのでございませうか。」＃
旅人「それは何でもありません。道に、麥がこ＃
ぼれて居たからです。」＃
役人「よし〳〵、よくわかつた。たしかに、お前＃
がぬすんだのではない。もう、かへつてよ＃
ろしい。二人がうたがつたのも、むりでは＃
ないが、今聞いた通りである。早く行つて、＃
らくだをさがすがよい。」　　＃
＜Ｐ－０５３＞
　十一　　蠶　　＃
キノフカラ、ウチノ蠶ガ上リ始メマシタ。上＃
ル頃ニハ、蠶ノカラダガ、スキ通ルヤウニナリ＃
マス。モウ桑ノ葉ヲタベナイデ、頭ヲ上ゲテ、＃
繭［マユ］ヲカケル所ヲサガシマス。ソレヲ拾ツテ、＃
マブシヘ移スノデスガ、少シデモオクレルト、＃
カゴノマハリヤ棚ノスミナドデ、繭ヲカケ始＃
メマスカラ、チツトモユダンガ出來マセン。＃
＜Ｐ－０５４＞
ケフノオ晝頃ハ、ウチ中、目＃
ガマハルホド、イソガシウ＃
ゴザイマシタ。＃
マブシノ中デハ、カサ〳〵＃
トイフ音ガシテ居マスガ、＃
コレハ、蠶ガ動クカラデス。＃
早イノハ、モウ繭ヲ作リ上＃
ゲテ居マス。又、作リカケ＃
ノウスイ繭ノ中デ、キユウ＃
＜Ｐ－０５５＞
クツサウニ、カラダヲマゲテ、一生ケンメイニ＃
ハタライテ居ルノモアリマス。マダ、繭ヲカ＃
ケル場所ヲサガシテ居ルノモアリマス。今＃
桑ヲタベテ居ル蠶モ、アシタノ朝マデニハ、大＃
テイ上ツテシマフサウデス。＃
サツキ、オカアサンガ、＃
「イヨ〳〵今夜一晩ニナツタ。」＃
ト、ネエサンニオツシヤイマシタ。オカアサ＃
ンモ、ネエサンモ、コノ五六日ハ、夜モロク〳〵＃
＜Ｐ－０５６＞
オヤスミニナラナイノデス。　　＃
　十二　　田植　　＃
朝からたんぼのにぎはしさ。　　＃
村中そう出で、田植だ、田植だ。　　＃
すげ笠［がさ］・あみ笠・赤だすき、　　＃
笑ひ聲やら、歌の聲。　　＃
晩までたんぼのにぎはしさ。　　＃
＜Ｐ－０５７＞
となり近所や、しんるゐ仲間、　　＃
手つだひしあつて、植ゑるはしから、　　＃
早も、つばめのちう返り。　　＃
　十三　　少［すくな］彦［ひこ］名［な］のみこと　　＃
大國主のみことが、出［いづ］雲［も］の海岸を歩いていら＃
＜Ｐ－０５８＞
つしやいますと、波の上に、何＃
か小さい物が浮かんで、こつ＃
ちへ近寄つて來ました。＃
「何だらう、あれは。」＃
と、みことは、お供の者におつしやいましたが、＃
お供の者にもわかりませんでした。＃
だん〳〵近寄つて來るのをよく見ると、豆の＃
さやのやうな物を舟にして、それに何か乘つ＃
て居ました。＃
＜Ｐ－０５９＞
「豆のさやに、蟲が乘つて居ます。」＃
と、お供の者が申しました。＃
しかし、蟲ではありませんでした。蟲の皮を＃
着物にして着て居る、小さい神樣でした。み＃
ことは、＃
「小さい神樣だなあ。一たい、何といふお方＃
だらう。」＃
とおつしやいますと、お供の者は、＃
「こんな小さい神樣を、私は、見たことも、聞い＃
＜Ｐ－０６０＞
たこともありません。」＃
と申しました。＃
「あなたは、どなたですか。」＃
と、みことは、その神樣にお尋ねになりました＃
が、返［へん］事［じ］をなさいません。＃
その時、ひよつこり出て來たのは、ひきがへる＃
でした。みことは、＃
「おゝ、ひきがへる、よい所へ來た。お前は、方＃
方へ出歩いて、何でもよく知つて居るが、こ＃
＜Ｐ－０６１＞
の小さいお方の名を知らないか。」＃
ひきがへるは、目をぱちくりさせながら、＃
「いや、存じません。きつと、あの物知りのか＃
かしが知つて居るでせう。」＃
と申しました。＃
かゝしは、田の中に立つて四方を見て居るの＃
で、何でもよく知つて居ました。大國主のみ＃
ことは、かゝしに向かつて、＃
「おうい、お前は、この小さいお方を知つて居＃
＜Ｐ－０６２＞
るか。」＃
すると、かゝしは、＃
「それは、少彦名のみ＃
ことといふ神樣で＃
す。からだは小さ＃
いが、大そうちゑ＃
のあるお方です。」＃
と答へました。＃
大國主のみことは、大そ＃
＜Ｐ－０６３＞
うお喜びになつて、少彦名のみことを、おうち＃
へお連れになりました。＃
二人は、兄弟のやうに仲よくなさいました。＃
心を合はせて、野や山を開いて田や畠にした＃
り、道をつけたり、川に橋をかけたりなさいま＃
した。人間や家［か］畜［ちく］の病氣も、おなほしになり＃
ました。＃
或日、少彦名のみことは、おつしやいました。＃
「私は、いつまでも、こゝに居るわけには行き＃
＜Ｐ－０６４＞
ません。これで、おいと＃
まいたします。」＃
大國主のみことは、おどろ＃
いて、＃
「どうして。どこへお出でになるのですか。」＃
「遠い所へ行きます。」＃
「何しに行くのです。」＃
「新しい國を開きに。」＃
かういひながら、少彦名のみ＃
＜Ｐ－０６５＞
ことは、粟の莖につかまつて、する〳〵とお上＃
りになりました。すると、一度しなつた粟の＃
莖が、はね返るひやうしに、小さい神樣のおか＃
らだは、ぽんと空へとび上りました。＃
「さやうなら。」＃
と、一聲おつしやつたまゝ、少彦名のみことは、＃
もう、お姿が見えなくなつてしまひました。　　＃
　十四　　舟の上とたゝみの上　　＃
＜Ｐ－０６６＞
或人が、始めて舟に乘つた時、海が荒れたので、＃
大そう弱つて居ました。そこへ、一人の水夫＃
が、おもしろさうに、歌を歌ひながら來ました。＃
その客は、水夫に向かつて、＃
「こんなに海が荒れるのに、あなた方は、よく＃
平氣で居られますね。」＃
といふと、水夫は、＃
「平氣ですとも、舟は私どもの家ですもの。＃
舟で暮すほど、おもしろいことはありませ＃
＜Ｐ－０６７＞
ん。ぢゝいも、父も、皆、舟の上で死んだので＃
す。」＃
といひました。＃
「そんなに代々舟の上で死んでも、舟がこは＃
くはないのですか。」＃
と、客がふしぎがると、水夫は、＃
「あなたのおとうさんは、どこでおなくなり＃
になりましたか。」＃
と尋ねました。＃
＜Ｐ－０６８＞
「父も、ぢゝいも、たゝみの上で死にました。」＃
水夫は、＃
「それでは、あなたも、たゝみの上がこはいで＃
せう。」＃
といつて、笑ひました。　　＃
　十五　　水の旅　　＃
私は、もと雨の一しづくで、空から落ちて來た＃
のです。山の木の葉の上に休んで居ました＃
＜Ｐ－０６９＞
が、風にゆり落されて、大ぜいの友だちと一し＃
よに、谷川の中へはいりました。＃
谷川を下りながら、みんなは、うれしさうに歌＃
つたり、さわいだりしました。そのうちに、高＃
いがけの上に來＃
ました。一思ひ＃
にとび下りまし＃
たが、目がくらん＃
で、しばらくは何＃
＜Ｐ－０７０＞
もわかりませんでした。＃
みんなが重なり合つて落＃
ちる音、さわぐ聲に、ふと氣＃
がついて、あたりを見まは＃
しますと、二三人の人が居＃
て、「みごとな瀧［たき］だ。」といつて、＃
眺めて居ました。＃
谷を出ると、あたりが少し＃
廣くなつて來ました。あ＃
＜Ｐ－０７１＞
ちこちに、村の家が見えま＃
した。右からも、左からも、＃
おひ〳〵仲間が集つて來＃
て、いよ〳〵にぎやかにな＃
りました。＃
廣い〳〵野原に出ました。＃
美しい畠や、田や、靜かな村＃
が續いて居ました。その＃
間を、私たちは、晝は暖な日＃
＜Ｐ－０７２＞
に照らされ、夜はきれいな＃
月を浮かべながら、ゆつく＃
り歩きました。そばを通＃
る人は、「きれいな川だ。」とい＃
つて、ほめてくれました。＃
とつぜん、上の方でさわが＃
しい音がしました。見上＃
げると、大きい橋があつて、＃
人や、車や、馬が通つて居ま＃
＜Ｐ－０７３＞
した。間もなく、町の中へはいりました。兩＃
がはには、たくさんの家が並んで居ました。＃
高いえんとつも見えました。＃
ふと、大きな重い物が、私たちの上に來ました。＃
荷物を積んだ舟が通つたのでした。それか＃
らも、いろ〳〵の舟が通りました。かうして＃
居る間に、私たちは、とう〳〵海へ出ました。＃
海は、はてもないほど廣くて、どちらを見ても、＃
私たちの仲間ばかりでした。私たちは、手に＃
＜Ｐ－０７４＞
手を取つて、歌つたり、をどつたりして喜びま＃
した。　　＃
　十六　　大川　　＃
大川の水の上、　　＃
川ばたの工場の　　＃
えんとつの長いかげ、　　＃
ゆら〳〵、ゆら〳〵。　　＃
＜Ｐ－０７５＞
川舟が靜かに通る。　　＃
舟のかげ、人のかげ、　　＃
人の持つさをのかげ、　　＃
ゆら〳〵、ゆら〳〵。　　＃
ごう〳〵と音たてて、　　＃
汽車が行く鐵橋の　　＃
かげも、また水の上、　　＃
ゆら〳〵、ゆら〳〵。　　＃
＜Ｐ－０７６＞
　十七　　クモノス　　＃
二階ノマドカラ眺メテ居ルト、大キナ鬼グモ＃
ガ一匹、スウツト、私ノ目ノ前ニブラ下ツテ來＃
マシタ。私ハ、ビツクリシマシタ。＃
見ルト、クモハ、雨ドヒノ所カラ、＃
絲ヲ引イテ下リテ來タノデス。＃
サウシテ、ソノマヽジツトシテ、＃
動カウトモシマセン。コレカラ、一タイ、何ヲ＃
＜Ｐ－０７７＞
シヨウトスルノカト思フト、私ハ、急ニオモシ＃
ロクナツテ來マシタ。＃
クモハ、ヤガテ、後ノ＃
方ノ足ヲ動カシテ、＃
オシリノ所カラ、タ＃
クサンノ細イ絲ヲ＃
引出シ始メマシタ。＃
絲ハ、一糎、二糎ト、見＃
ル間ニノビテ、二米＃
＜Ｐ－０７８＞
グラヰニモナリマシタ。何十本トモ知レナ＃
イ、細イ、白イ絲ガ、夕風ニユラレナガラ、フハフ＃
ハト空中ニタヾヨツテ居ルノハ、ホンタウニ＃
キレイデシタ。＃
ソノウチニ、コノタクサンノ絲ノ中ノ一本ガ、＃
向カフノ柿ノ木ノ枝ニクツツキマシタ。ク＃
モニハ、ソレガ、スグワカルモノト見エテ、シキ＃
リニ、コノ絲ヲ引ツパツタリ、動カシタリシテ＃
居マシタガ、ヤガテ、ソレヲ傳ハツテ向カフヘ＃
＜Ｐ－０７９＞
渡リ始メマシタ。サウシテ、風ニユラレナガ＃
ラ、ヤツト柿ノ木ニタドリ着キマシタ。クモ＃
ハ、ホツト一安心シタヤウデシタ。＃
今度ハ、前ノ方ノ足ヲシキリニ動カシテ、コノ＃
絲ヲ自分ノ方ヘタグリ始メマシタ。スルト、＃
今マデタルンデ居タ絲ガ、ダン〳〵ニ、マツス＃
グニナリマシタ。カウシテ、雨ドヒト柿ノ木＃
トノ間ニ、一スヂノ絲ガ、空中ニピントハリ渡＃
サレマシタ。＃
＜Ｐ－０８０＞
クモハ、コノ上ヲ　イソガシサウニ行ツタリ來＃
タリシテ、スヲ作ル仕［シ］事［ゴト］ヲ續ケマシタ。＃
私ハ、クモノチヱノアルノニ、スツカリ感心シ＃
テシマヒマシタ。＃
晩ニナツテ又行ツテ見マスト、ソコニハ、モウ、＃
リツパナクモノアミガ出來テ居マシタ。　　＃
　十八　　夏の午後　　＃
「じいつ。」と、せみが鳴き出した。＃
＜Ｐ－０８１＞
僕は、はだしで庭へ出た。せみは、桐の木で鳴＃
いて居る。そつと行つて見ると、二米ぐらゐ＃
の高さの所に、あぶらぜみが一匹止つて居る。＃
背のびして、手をのばしてみたが、だめだ。僕＃
の手先よ＃
りは、四十＃
糎も高い。＃
取れない＃
と思ふと＃
＜Ｐ－０８２＞
くやしくなつて、木のみきをとんとたゝく。＃
せみは、びつくりしたやうに、「じゝ。」と聲をたて＃
て、とんで行つた。＃
井戸ばたへ行つて、足を洗つた。ざあつと、つ＃
めたい水をかけると、いゝ氣持だ。下［げ］駄［た］をは＃
いて、うらの畠へ行つてみる。＃
なすも、きうりも、みんな暑さうにぐつたりし＃
て居る。きうりにそへて立ててある竹に、と＃
んぼが止つたり、はなれたりして居る。せみ＃
＜Ｐ－０８３＞
の代りに、あれを取らうか。いや、とんぼは益＃
蟲だから、取らない方がよいと、先生がおつし＃
やつた。＃
畠のすみの日まは＃
りは、暑い日を一ぱ＃
い受けて、夏はおれ＃
の世界だといふや＃
うな顏をして、三つ咲いて居る。今では、僕よ＃
りもずつと背が高いが、これも僕が植ゑたの＃
＜Ｐ－０８４＞
だと思ふと、何だかかはいゝ氣がする。＃
暑い、暑い。うちへかへつて、えんがはに腰を＃
かけて居ると、川で、誰かあそんで居るらしい。＃
たのしさうな聲が聞えて來る。さうだ、僕も＃
行つてみよう。＃
「おかあさん、川へ行つてもようございます＃
か。」＃
と、大きな聲で聞いてみると、＃
「行つてもいゝが、あぶないから、よく氣をつ＃
＜Ｐ－０８５＞
けなさいよ。」＃
と、あちらの部［へ］屋［や］で、おかあさんの聲がした。＃
僕は、帽子をかぶつて、一もくさんに走つて行＃
つた。　　＃
　十九　　日記　　＃
　八月一日　　水曜　　晴　　＃
けふから夏休だ。ラヂオ體［たい］操［さう］に行くので、朝＃
は五時半に起きた。まだ早いつもりで學校＃
＜Ｐ－０８６＞
へ行つたら、もう大ぜい＃
來て居た。あしたから＃
は、もつと早く來ようと＃
思つた。＃
朝［あさ］御［ご］飯［はん］がすんでから、少＃
し勉強をした。休中は、＃
毎朝、涼しいうちに勉強＃
するつもりだ。　　＃
　八月二日　　木曜　　晴　　＃
＜Ｐ－０８７＞
けさは、五時に起きて、ラヂオ體操に行つた。＃
僕が三番目だつた。＃
勉強がすんで＃
から、草むしり＃
のお手傳をし＃
た。＃
午後、中村君が＃
來た。二人で、水鐵砲をこしらへてあそんだ。　　＃
　八月三日　　金曜　　晴、夕立　　＃
＜Ｐ－０８８＞
東京のをばさんが、春子ちやんを連れて、お出＃
でになつた。おみやげに、おもしろい本をも＃
らつた。＃
午後二時頃、ひどい夕立が降つて來た。おざ＃
しきでねて居た春子ちやんが、雷の音で目を＃
さまして、わつと泣出した。　　＃
　八月四日　　土曜　　晴、後くもり　　＃
一郎さんから、はがきが來た。＃
暑いことですね。皆さん、おかはりはあり＃
＜Ｐ－０８９＞
ませんか。こちらは、皆、丈夫です。私は、に＃
いさんと、毎日、川へ泳ぎに行きます。この＃
頃、少し泳げるやうになつて、うれしくてた＃
まりません。どうか、をぢさんや、をばさん＃
によろしく。＃
と書いてあつた。＃
このはがきを、おとうさんがごらんになつて、＃
「一郎は、なか〳〵字がうまくなつた。お前＃
も、負けないやうにしなければいけないね。」＃
＜Ｐ－０９０＞
とおつしやつた。＃
けふも、午後、夕立が來さうになつたが、とうと＃
う降らなかつた。　　＃
　八月五日　　日曜　　晴　　＃
一郎さんに返［へん］事［じ］を出した。＃
おはがきありがたう。皆さん、御丈夫ださ＃
うで、けつこうです。こちらも、みんな元氣＃
です。君は、泳げるやうになつたさうです＃
ね。僕も、來年から、泳を始めようと思つて＃
＜Ｐ－０９１＞
居ます。をとゝひから、東京のをばさんが、＃
春子ちやんを連れて、來て居ます。皆さん＃
によろしく。＃
夕方、ねえさんと二人で、庭＃
に水をまいた。　　＃
　八月六日　　月曜　　晴　　＃
午後、おぢいさんが、さかな＃
釣りに行かれるので、僕も＃
ついて行つた。廣田川を＃
＜Ｐ－０９２＞
だん〳〵とさかのぼつて、朝日橋のそばまで＃
行つた。ずゐぶん、たくさん釣れた。かぞへ＃
て見たら、三十二匹あつた。　　＃
　二十　　こほろぎ　　＃
かべのわれ目で、　　＃
こほろぎが、　　＃
ころ、ころ、ころ、ころ、　　＃
鳴いて居る。　　＃
＜Ｐ－０９３＞
靜かな、靜かな家の中、　　＃
ころ、ころ、ころ、ころ、ひゞく聲。　　＃
そつとあかりを　　＃
近寄せて、　　＃
のぞいて見れば、　　＃
長いひげ、　　＃
黒い頭と目が光る。　　＃
ちよろりと中にかくれこむ。　　＃
＜Ｐ－０９４＞
まぶしかつたか、　　＃
こほろぎよ。　　＃
おどろいたのか、　　＃
こほろぎよ。　　＃
ふつと、あかりを消したれば、　　＃
外は明かるい月のかげ。　　＃
　二十一　　天孫　　＃
＜Ｐ－０９５＞
天［あま］照［てらす］大［おほみ］神［かみ］は、天孫にゝぎのみことをお呼びに＃
なつて、＃
「日本の國は、わが子孫が治むべき國である。＃
汝、行つて治めよ。天皇の御位は、天地の續＃
くかぎり、いつまでもさかえるぞ。」＃
とおつしやいました。さうして、御鏡に、御玉＃
と御劒をおそへになつて、みことにお渡しに＃
なりながら、＃
「この鏡は、われと思つて大切にせよ。」＃
＜Ｐ－０９６＞
とおつしやいました。にゝぎのみことは、つ＃
つしんでお受けになりました。＃
大ぜいの神樣が、お供をなさることになりま＃
した。いよ〳〵お立ちといふ時、先［せん］發［ぱつ］の者が、＃
急いでかへつて來て、＃
「下界へ行くとちゆうに、おそろしい男が、道＃
をふさいで立つて居ます。背も高いが、鼻＃
がおそろしく高く、目は鏡のやうでござい＃
ます。おまけに、からだ中から光を出して、＃
＜Ｐ－０９７＞
天も、地も明かるいほどでございます。」＃
と申しました。＃
天照大神は、この事をお聞きになつて、＃
「それは何者であるか、尋ねてまゐれ。天［あめ］の＃
うずめ、お前行け。」＃
とおつしやいました。＃
天のうずめのみことは、しつかりした氣［き］性［しやう］で、＃
しかも、へうきんなお方でした。行つてごら＃
んになると、なるほど、相手は、おそろしさうな＃
＜Ｐ－０９８＞
男です。うずめのみことは、わ＃
ざと、こつけいな樣子をして、お＃
笑ひになりました。すると、そのおそろしい男がいひました。＃
「お前は誰だ。どうして、そん＃
なに笑ふのか。」＃
「おそれ多くも、天孫にゝぎの＃
みことの、お通りになる道を＃
ふさいで立つて居るあなた＃
＜Ｐ－０９９＞
こそ誰です。」＃
と、うずめのみこ＃
とはお問返しに＃
なりました。＃
相手は、急に樣子＃
をかへて、＃
「いや、私は、天孫＃
がお出でになると承つて、こゝへおむかへ＃
に出て居るのです。私が御案［あん］内［ない］いたしま＃
＜Ｐ－１００＞
す。私の名は、猿［さる］田［た］彦［ひこ］と申します。」＃
といひました。＃
うずめのみことは、かへつてこの事を申し上＃
げました。＃
にゝぎのみことは、天照大神においとまごひ＃
をなさつて、大空の雲をかきわけながら、勇ま＃
しくお降りになりました。猿田彦のみこと＃
が、先に立つて、御案内申し上げました。＃
天孫は、日［ひ］向［うが］の高［たか］千［ち］穗［ほ］の峯にお降りになりま＃
＜Ｐ－１０１＞
した。さうして、天照大神のおことば通りに、＃
日本の國をお治めになりました。　　＃
　二十二　　犬のてがら　　＃
滿［まん］洲［しう］事［じ］變［へん］の最［さい］初［しよ］の夜の事でした。＃
我が軍にしたがつて、傳［でん］令［れい］の役をして居た軍＃
犬金［こん］剛［がう］・那［な］智［ち］は、いよ〳〵とつげきとなると、我＃
が軍のまつ先につき進んで、敵軍の中にとび＃
こみ、死物ぐるひで、かみつきまはりました。＃
＜Ｐ－１０２＞
はげしい戰の後、＃
敵は、とう〳〵陣＃
地をすてて逃げ＃
ました。＃
をりから上る＃
朝日の光に、高＃
くかゝげた日の丸の旗は、勇まし＃
くかゞやきました。萬［ばん］歳［ざい］の聲は、＃
天地にとゞろきました。しかし、＃
＜Ｐ－１０３＞
あの金剛・那智は、どこへ行つたのでせう、いく＃
ら呼んでも、かへつて來ませんでした。＃
犬のかゝりの兵士は、一生けんめいになつて＃
さがしました。＃
とう〳〵見つけました。けれども、それは、を＃
り重なつて死んで居る敵の死がいの間でし＃
た。＃
二匹は、身に幾つものたまをうけて、血にまみ＃
れて死んで居ました。よく見ると、二匹とも、＃
＜Ｐ－１０４＞
口には、敵兵の軍服の切れはしを、＃
しつかりとくはへて居ました。＃
これを見た兵士は、思はず涙ぐみ＃
ました。＃
軍犬の金［きん］鵄［し］勳［くん］章［しやう］ともいふべき甲［かふ］＃
號［がう］功［こう］章［しやう］を、始めていたゞいたのは、＃
實にこの金剛・那智でありました。　　＃
　二十三　　電車　　＃
＜Ｐ－１０５＞
ニイサント電車ニ乘リマシタ。＃
人ガ一パイ乘ツテ居テ、アイテ居ル席ハ、一ツ＃
モアリマセンデシタ。私ガ、ニ＃
イサント並ンデ立ツテ居マス＃
ト、スグ前ニカケテ居タヨソノ＃
ヲヂサンガ、私ノ顏ヲ見ナガラ、＃
「ボツチヤン、コヽヘオカケナ＃
サイ。」＃
ト言ツテ、立ツテ下サイマシタ。＃
＜Ｐ－１０６＞
私ハ、少シアワテタヤウニ、＃
「イヽノデス。僕、立ツテ居マスカラ。」＃
ト言ヒマシタガ、ヲヂサンハ、＃
「イヤ、ワタシハ、モウヂキ下リルノダカラ、カ＃
マハズ、オカケナサイ。」＃
ト言ヒナガラ、アツチヘ行キカケマシタ。＃
「ドウモ、アリガタウ。」＃
ト、ニイサンガ言ヒマシタ。＃
「アリガタウ。」＃
＜Ｐ－１０７＞
ト、私モ言ヒマシタ。＃
「セツカク、アケテ下サツタノダ。オ前、オカ＃
ケ。」＃
ト、ニイサンガ言ヒマシタカラ、私ハカケマシ＃
タ。＃
次ノ停［テイ］留［リウ］場［ヂヤウ］ヘ來タ時、ヲヂサンハソコデ下リ＃
ルノカト思ツタラ、下リマセンデシタ。＃
ソレカラ二ツ三ツ停留場ヲ過ギテ、表町マデ＃
來マスト、人ガタクサン下リテ、席ガアキマシ＃
＜Ｐ－１０８＞
タ。ヲヂサンモ、コヽデ下リマシタ。ニイサ＃
ンハ、私ノトナリヘカケマシタ。＃
シカシ、入レ代リニ、大ゼイノ人ガ、ドヤ〳〵ト＃
ハイツテ來マシタ。席ハミンナフサガツタ＃
上ニ、立ツテ居ル人モ、タクサンアリマシタ。＃
一番後カラハイツテ來タノハ、七十グラヰノ＃
オバアサント、赤チヤンヲオブツタヲバサン＃
トデシタ。スルト、ニイサンガ、小サイ聲デ、＃
「立タウ。」＃
＜Ｐ－１０９＞
ト言ヒマシタ。私ハウナヅキ＃
マシタ。＃
オバアサントヲバ＃
サンガ、チヤウド私＃
タチノ前ヘ來タ時、＃
私タチハ、スグ立ツ＃
テ、席ヲユヅリマシ＃
タ。二人ハ、喜ンデ、＃
「ドウモ、アリガタ＃
＜Ｐ－１１０＞
ウゴザイマス。」＃
ト言ヒナガラ、テイネイニオジギヲシテ、カケ＃
マシタ。＃
電車ハ、又動キ出シマシタ。　　＃
　二十四　　水引草　　＃
＜Ｐ－１１１＞
やつでのかげで、　　＃
ふつと見つけた赤い花。　　＃
細長い、　　＃
こよりのやうな赤い花。　　＃
三本並んで、　　＃
さびしいけれど、かはいゝ花よ、　　＃
花の名は、　　＃
何と言ふのか知らないが。　　＃
＜Ｐ－１１２＞
水引草と、　　＃
名を聞いてから來て見たら、　　＃
いつの間にやら、　　＃
色がすつかりさめて居た。　　＃
　二十五　　二つの玉　　＃
昔、火［ほ］照［でりの］命［みこと］と火［ほ］遠［を］理［りの］命［みこと］といふ兄弟の神樣があ＃
りました。兄の火照命は、毎日、海へ出て魚を＃
＜Ｐ－１１３＞
取り、火遠理命は、山へ行つて、鳥や獸を取つて＃
いらつしやいました。＃
或日の事でした。火遠理命は、兄神の所へお＃
出でになつて、＃
「にいさん、かうして、毎日々々、二人で同じ事＃
ばかりして居ても、おもしろくありません。＃
いかゞでせう、けふ一日だけ、あなたは山へ＃
狩りに行き、私は海へ魚を取りに行く事に＃
しては。」＃
＜Ｐ－１１４＞
とおつしやいました。＃
兄神は、なか〳〵御承知になりませんでした。＃
けれども、命［みこと］があまりお＃
すゝめになるので、＃
「それでは、けふは山へ＃
行つてみよう。お前＃
は海へ行くがよい。」＃
とおつしやつて、釣針と＃
弓矢をお取代へになりました。＃
＜Ｐ－１１５＞
命は、喜び勇んで、海へ釣りにお出かけに＃
なりました。けれども、魚は一匹も釣れ＃
ず、その上、大切な釣針ま＃
で、魚に取られておしま＃
ひになりました。＃
兄神は、弓矢を持つて、山＃
へ狩りにお出でになりましたが、＃
これも、鳥一羽、獸一匹取る事が出來ず、きげん＃
を惡くしておかへりになりました。＃
＜Ｐ－１１６＞
命は、兄神の所へお出でになつて、釣針をなく＃
した事を申し上げて、いろ〳〵おわびになり＃
ました。しかし、兄神は、どうしても、おゆるし＃
になりませんでした。＃
そこで、命は、御自分の劒をくだいて、五百本の＃
釣針をお作りになりました。さうして、＃
「これをさし上げますから、ごかんべんを願＃
ひます。」＃
とおつしやいましたが、兄神は、やはりおゆる＃
＜Ｐ－１１７＞
しになりませんでした。＃
今度は、千本の釣針を作つて、お上げになりま＃
した。しかし、兄神は、＃
「もとの針を返せ。外のは、何本持つて來て＃
もだめだ。」＃
とおつしやつて、どうしても、おゆるしになり＃
ませんでした。＃
命は、仕方なく、もとの海べへ來て、泣いていら＃
つしやいました。そこへ、一人の年とつた神＃
＜Ｐ－１１８＞
樣がお出でになつて、＃
「どうなさいました。」＃
とお尋ねになりました。＃
命は、兄神の釣針をなくして困つて居る事を＃
お話しになりました。すると、其の神樣は、＃
「それは、お困りの事でせう。私が、よい事を＃
教へて上げます。」＃
とおつしやいました。さうして、命を小舟に＃
乘せて、＃
＜Ｐ－１１９＞
「今、此の舟をおし出しますから、しばらく目＃
をつぶつていらつしやいませ。間もなく、＃
きれいな御殿へお着きになります。それ＃
は、海の神樣の御殿です。其の門のわきに＃
井戸があつて、そばに、一本の大きな木があ＃
ります。それに上つて、待つていらつしや＃
いませ。海の神樣が、きつと、あなたによい＃
事を教へて下さるでせう。」＃
とおつしやいました。＃
＜Ｐ－１２０＞
命は、間もなく、海の御殿にお着きになりまし＃
た。なるほど、門のわきに井戸があつて、そば＃
に大きな木がありました。命は、木に上つて、＃
待つていらつしやいました。＃
しばらく＃
すると、門＃
の内から、＃
一人の女＃
が出て來＃
＜Ｐ－１２１＞
ました。水を汲まうとして、ふと井戸の中を＃
のぞくと、美しい神樣のお姿が、すみきつた水＃
にうつつて居ます。女は、びつくりして見上＃
げました、命は、靜かに、＃
「水を一ぱい下さい。」＃
とおつしやいました。女は、すぐ水を汲んで、＃
命にさし上げました。さうして、此の事を海＃
の神樣に申し上げました。＃
海の神樣は、しばらく考へていらつしやいま＃
＜Ｐ－１２２＞
したが、＃
「それは、きつと、天の神樣にちがひない。」＃
とおつしやつて、急いで行つてごらんになる＃
と、はたしてさうでした。大そうお喜びにな＃
つて、命を御殿の中へ御案内なさいました。＃
それから、御殿では大さわぎでした。天の神＃
樣がお出でになつたといふので、毎日々々、海＃
の世界の珍しいをどりをしたり、おいしいご＃
ちそうをしたりして、命をおもてなしになり＃
＜Ｐ－１２３＞
ました。＃
命は、月日のたつのも忘れて、樂しくお暮しに＃
なつて居ましたが、或日、ふと兄神の事を思ひ＃
出して、思はず大きなため息をなさいました。＃
海の神樣が、それをお聞きになつて、＃
「あなたは、今ため息をなさいましたが、海の＃
世界が、おいやになつたのではありません＃
か。それとも、何か御心配でもあるのです＃
か。」＃
＜Ｐ－１２４＞
とお尋ねになりま＃
した。＃
命は、兄神の釣針を＃
なくした事を、くは＃
しくお話しになり＃
ました。すると、海＃
の神樣は、海に住ん＃
で居る魚を、殘らず呼集＃
めて、＃
＜Ｐ－１２５＞
「誰か、天の神樣の釣針を持つて居る者はな＃
いか。」＃
とお聞きになりました。魚どもは、聲をそろ＃
へて、＃
「存じません。しかし、此の間から、鯛が、何か＃
のどにさゝつて、物がたべられないで困る＃
と申して居ます。きつと、あれが取つたの＃
でございませう。」＃
と申し上げました。＃
＜Ｐ－１２６＞
さつそく鯛を呼出して、のどをさがしてごら＃
んになると、はたして釣針がひつかゝつて居＃
ました。で、すぐそれを取出し、きれいに洗つ＃
て、命にお上げになりました。命は、大そうお＃
喜びになりました。＃
命が、おれいをのべて、かへらうとなさいます＃
と、海の神樣は、二つの玉を出して、＃
「此の一つは、しほみつ玉と申して、これを水＃
につけると、たちまち海水が滿ちて來て、一＃
＜Ｐ－１２７＞
面の大水となります。今一つは、しほひる＃
玉と申して、これを水につければ、どんな大＃
水でも、たちまち引いてしまひます。此の＃
二つの玉をさしあげます。これさへあれ＃
ば、どんな惡者が來ても、少しも恐れる事は＃
ありません。」＃
とおつしやいました。＃
命は、此の玉を持ち、大きなわにざめに乘つて、＃
もとの海べへおかへりになりました。さう＃
＜Ｐ－１２８＞
して、兄神に釣針をお返しになりました。兄＃
神は、大そうお喜びになつて、＃
「どうもありがたう。ほんたうに、むりな事＃
を言つてすまなかつたね。」＃
とおつしやいました。＃
其の後、命は、二つの玉で惡者どもを平げ、よく＃
國をお治めになりました。＃
＜Ｐ－１３０＞
終　　＃
