＜出典＞４３２　　　国定読本　４期３－２
＜Ｐ－０００＞
もくろく　　＃
一　　神武天皇………一　　十四　　千早城………七十二　＃
二　　祭に招く………十　　十五　　たこ………七十九　＃
三　　村祭………十四　　十六　　雪の夜………八十一　＃
四　　磁石………十六　　十七　　雀の宿………八十七　＃
五　　稻刈………二十　　十八　　火事………九十一　＃
六　　日本武尊………二十七　　十九　　梅………百　＃
七　　山羊………三十九　　二十　　小さい温床………百三　＃
八　　林の中………四十五　　二十一　　雪舟………百八　＃
九　　僕の望遠鏡………四十八　　二十二　　潛水艦………百十五　＃
十　　神風………五十六　　二十三　　春の雨………百二十二　＃
十一　　軍旗………六十一　　二十四　　東京………百二十四　＃
十二　　牛かへ………六十四　　二十五　　東郷元帥………百三十四　＃
十三　　笑話………六十八　＃
＜Ｐ－００１＞
　一　　神［じん］武［む］天皇　　＃
大［やま］和［と］へ御進軍になつた神武天皇は、八［や］咫［た］烏［がらす］を＃
お使として、其の地方に勢力を張つて居た兄［え］＃
うかし・弟［おと］うかし兄弟の所へ、おつかはしにな＃
りました。さうして、天皇にお仕へ申すやう＃
に、お傳へさせになりました。＃
すると、兄うかしは、物も言はず、かぶら矢を取＃
つて弓につがへ、八咫烏をめがけて、ひようと＃
＜Ｐ－００２＞
放ちました。八咫烏は、其のまゝとんでかへ＃
りました。＃
兄うかしは、すぐに手下の者を呼集めて、戰の＃
用意をしようと＃
しましたが、意外＃
にも、手下が集つ＃
て來ません。す＃
つかりあわてた兄＃
うかしは、しばらく＃
＜Ｐ－００３＞
考へて居ましたが、やがて天皇のいらつしや＃
る所へ參りました。さうして、＃
「さつきは、お使とも知らず、まことに失［しつ］禮［れい］な＃
事をいたしました。申し上げるまでもな＃
く、私ども兄弟は、まごころをもつて、＃
お仕へいたします。つきまして＃
は、新しく家を建てて、心ばかりの＃
おもてなしをいたしたいと＃
存じます。どうぞ、此のお願＃
＜Ｐ－００４＞
をお聞きとゞけ下さいませ。」＃
と、まことしやかに申しました。天皇は、御心＃
のうちに、をかしいなとお思ひにはなりまし＃
たが、其の願をお許しになりました。＃
兄うかしは、かへつて、さつそく家を建てにか＃
かりました。大勢の人を集めて、晝も夜も、働＃
かせましたので、間もなく、大きな家が出來上＃
りました。＃
弟うかしには、どうも、兄のする事がわかりま＃
＜Ｐ－００５＞
せんでした。天皇のお使に弓を引いた兄が、＃
すぐ又天皇をお招きすると言つて、新しく家＃
を建てたばかりか、よく見ると、其の家の中に＃
は、ちやうど、獸を取るのに使ふやうな、おとし＃
の大きいのがしかけてあります。＃
「はゝあ、こんな事をして、だましうちにしよ＃
うとするのか。まことに恐れ多い事だ。」＃
かう氣がついた弟うかしは、いろ〳〵と兄を＃
いさめましたが、兄はどうしても聞入れませ＃
＜Ｐ－００６＞
ん。「もう仕方がない。」と思つて、弟うかしは、急＃
いで天皇の所へ參りました。＃
「兄にゆだんなさいますな。新しく建てた＃
家には、大きなおとしがしかけてあります。＃
どうぞ、御用心下さいませ。」＃
天皇は、弟うかしのまごころが、よくおわかり＃
になりました。すぐに、二人の大將を、兄うか＃
しの所へ、おさし向けになりました。＃
二人は、兄うかしの家へ行つて、外から大聲に、＃
＜Ｐ－００７＞
「兄うかし、出て來い。」＃
と呼びました。＃
何事かと思つて出て見た兄うかしは、びつく＃
りしました。二人の強さうな大將が、目をい＃
からして立つて居ます。＃
「何の御用でございますか。」＃
と、兄うかしが申しますと、＃
「お前は、天皇をお迎へして、おもてなしをす＃
ると申した。一たい、どういふ風におもて＃
＜Ｐ－００８＞
なしをするのか、一つ、此の新しい家にはい＃
つて、やつてみろ。」＃
と言ひながら、一人は弓＃
に矢をつがへ、一人は劒＃
を拔いて、つめ寄りまし＃
た。＃
二人の樣子に、兄うかし＃
は、すつかり氣をのまれ＃
てしまひました。さて＃
＜Ｐ－００９＞
は、自分の惡だくみがあ＃
らはれたなと思つて、す＃
ごすごと、家の中へはい＃
つて行きました。＃
其の時です、どしんと大＃
きい音がしました。見＃
ると、兄うかしは、自分のしかけたおとしにか＃
かつて、あはれな最［さい］期［ご］をとげて居ました。＃
兄うかしは亡びました。弟うかしは、兄の手＃
＜Ｐ－０１０＞
下を連れて、あらためて神武天皇に降參いた＃
しました。　　＃
　二　　祭に招く　　＃
此の間、をば樣がお出でになつた時、＃
あなたは、おかぜで、二三日學校をお＃
休みになつたとの事でしたが、もう＃
すつかり、おなほりになりましたか。＃
さて、此の二十五日は、御承知の通り、＃
＜Ｐ－０１１＞
私の村の氏神樣のお祭です。ちや＃
うど日曜日ですから、二十四日の午＃
後から、ねえさんと二人でいらつし＃
やいませんか。二十四日の晩も、ず＃
ゐぶんにぎやかです。いろ〳〵の＃
店も出ますし、花火も上ります。今＃
年は、うらの畠の柿も、たくさんなり＃
ました。どうか、ぜひお出で下さい。＃
母もお待ちして居ます。　　＃
＜Ｐ－０１２＞
　十月十八日　　さよ子　　＃
　かね子樣　　＃
　返事　　＃
お手紙ありがたうございます。私＃
のかぜは、ごくかるうございました＃
から、二日學校を休んだだけで、なほ＃
りました。どうか、御安心下さい。＃
さて、二十五日のお祭には、わざ〳〵＃
お招き下さいまして、ありがたう存＃
＜Ｐ－０１３＞
じます。姉も大へん喜んで、ぜひ參＃
りたいと申します。ついては、二十＃
四日午後三時頃そちらへ着く乘合＃
自動車で參りますから、どうか、よろ＃
しくお願ひいたします。母よりも、＃
よろしくとの事でございます。さ＃
やうなら　　＃
　十月二十日　　かね子　　＃
　さよ子樣　　＃
＜Ｐ－０１４＞
　三　　村祭　　＃
村の鎭［ちん］守［じゆ］の神樣の、　　＃
今日は、めでたいお祭日。　　＃
どん〳〵ひやらゝ、　　＃
どんひやらゝ、　　＃
朝から聞える笛たいこ。　　＃
年も豐［ほう］年［ねん］滿作で、　　＃
＜Ｐ－０１５＞
村はそう出の大祭。　　＃
どん〳〵ひやらゝ、　　＃
どんひやらゝ、　　＃
夜までにぎはふ宮の森。　　＃
治る御代に、神樣の　　＃
惠あふぐや、村祭。　　＃
どん〳〵ひやらゝ、　　＃
どんひやらゝ、　　＃
＜Ｐ－０１６＞
聞いても、心が勇み立つ。　　＃
　四　　磁［ジ］石［シヤク］　　＃
エンガハデ、縫物ヲシテイラツシヤツタオバ＃
アサンガ、針ヲオ落シニナツタ。＃
見ルト、針ハ、エンガハノ板ト板トノスキ間ニ、＃
落チコンデ居ル。火バシノ先デカキ出サウ＃
トシタガ、スキ間ガセマクテ、ナカ〳〵取出セ＃
ナイ。フト、ユフベオ宮ヘ參ツテ、ニイサンニ＃
＜Ｐ－０１７＞
買ツテイタヾイタ磁＃
石ノ事ヲ思ヒ出シタ。＃
急イデ取ツテ來テ、針＃
ノ上ヘ持ツテ行ツタ。＃
スルト、針ハ、生キ物ノヤウニ、＃
ピヨントトビ上ツテ、磁石ニ＃
クツ着イタ。見テイラツシ＃
ヤツタオバアサンハ、＃
「アリガタウ、オ前ハ、ナカ〳〵チヱガアルネ。」＃
＜Ｐ－０１８＞
トホメテ下サツタ。＃
ソレカラ、磁石デ、イロ〳〵ナ物ヲ吸着ケテア＃
ソンダ。ピン、ブリキノオモチヤ、釘、何デモヨ＃
ク吸着ク。中デモ、オモシロカツタノハ、釘ダ。＃
磁石ヲソバニ持ツテ行クト、コロ〳〵トコロ＃
ガツテ來テ、ピシヤ＃
ツトクツ着ク。後＃
ニハ、磁石ヲ釘箱ノ＃
中ヘ入レテ、カキマ＃
＜Ｐ－０１９＞
ハシテミタ。スルト、小サナ釘ガ、磁石ニタク＃
サン着イタ。中ニハ、釘ノ先ニ、外ノ釘ガブラ＃
下ツテ居ルノモアル。＃
タヾ、銅ノ釘ハ、イクラ磁石ヲ持ツテ行ツテモ、＃
クツ着カナイ。ソコヘ、チヤウド、ニイサンガ＃
オ出デニナツタノデ、聞イテミタラ、＃
「磁石ハ、鐵ヤニッケルハ吸着ケルガ、銅ヤ、眞［シン］＃
鍮［チユウ］ヤ、アルミニウムハ吸着ケナイ。」＃
トオツシヤツタ。サウシテ、＃
＜Ｐ－０２０＞
「オモシロイ事ヲ教ヘテ上ゲヨウ。ソレヲ、＃
砂ノ中ヘツツコンデゴラン。」＃
トオツシヤツタ。＃
砂カラ取出シテミルト、黒イ粉ノヤウナモノ＃
ガ、磁石ニ一面ニ着イテ居タ。先ノ方ニハ、コ＃
トニ、タクサン着イテ居タ。コレハ、砂ノ中ニ＃
アル砂鐵ガ、クツ着クノダサウダ。　　＃
　五　　稻刈　　＃
＜Ｐ－０２１＞
學校がすむと、すぐ、たんぼへ行つた。今日は、＃
うちの稻刈だ。よい天氣で、あちらでもこち＃
らでも、稻を刈つて居る。＃
田のあぜに、むしろを敷いてもらつて遊んで＃
居た弟が、遠くから僕を見つけて、＃
「にいちやん。」＃
と、大喜びである。＃
「たゞ今。」＃
と言つて、僕はかばんを下す。＃
＜Ｐ－０２２＞
稻を刈つて居られたおとうさんとおかあさ＃
んは、腰をのばして、＃
「やあ、もう學校がす＃
んだか。早かつた＃
な。」＃
「そこのかごの中に、＃
おいもがあるから、＃
二人で、おあがり。」＃
と言はれた。＃
＜Ｐ－０２３＞
むしたさつまいもをかごから出して、弟と一＃
しよにたべた。＃
稻がだん〳〵刈られて來るせゐか、いなごが、＃
たくさんこちらへ飛んで來る。さうして、稻＃
の葉や莖に止る。取らうとしても、なか〳〵＃
つかまらない。＃
大きなのが一匹、すぐそばの稻の葉に止つた。＃
そつと近づくと、くるりと葉の裏へ廻つて、足＃
の先だけ見せて居る。右の手で、すばやく、葉＃
＜Ｐ－０２４＞
と一しよにつかまへた。左の手で、頭のあた＃
りをつかむと、後足をふん張つて、逃げさうに＃
した。あわてて、ぎゆつとつかんだら、後足が＃
取れてしまつた。下に置くと、飛べないので、＃
地面をはつて歩く。＃
弟は、いなごを飼つて置くのだと言つて、田の＃
土で圍をこしらへた。いなごは、せまい圍の＃
中から、外へはひ出さうとする。＃
「此の牛は、しやうがないぞ。」＃
＜Ｐ－０２５＞
と、大きな聲で、弟がひとり言を言ふ。弟は、牛＃
を飼つて居るつもりなのである。僕は、をか＃
しくなつて、ふき出した。＃
赤とんぼが、すい〳〵と、空を飛んで居る。＃
ざく〳〵と、稻を刈る音が聞える。僕も、何か＃
手傳はうと思つて、おとうさんやおかあさん＃
の方へ行つた。刈つたあとには、くゝつた稻＃
の束が、田の上に並べてある。＃
おかあさんは、刈るのをやめて、稻束をまとめ＃
＜Ｐ－０２６＞
て、稻かけの方へ運び始められた。僕も、少し＃
づつ持つて運んだ。＃
一人ぼつちになつて遊んで居た弟が、たいく＃
つして、＃
「あゝん。」＃
と言つた。おかあさんが、＃
「お前、行つて遊んでやりなさい。」＃
と言はれたので、僕は、又弟の方へ行つた。＃
それから、夕方まで、弟と一しよに遊んだ。　　＃
＜Ｐ－０２７＞
　六　　日［やま］本［と］武［たけるの］尊［みこと］　　＃
　（一）　　川上たける　　＃
熊［くま］襲［そ］のかしら、川上たけるは、力のあるにまか＃
せて、四方をうち從へ、後には朝［てう］廷［てい］の仰にも從＃
ひませんでした。＃
「西の國で、自分より強い者はない。」と思ふと、＃
たけるは、だん〳〵、ぞうちやうして來ました。＃
「一つりつぱな宮殿を建て、たくさんの兵隊に＃
＜Ｐ－０２８＞
守らせて、いばつてやらう。」と考へました。＃
いよ〳〵、家も出來上つたので、或日、お祝の酒＃
もりを開くことになりました。＃
其の日は、朝から、大勢の人が出はいりしまし＃
た。手下の者はもちろんのこと、手傳のため＃
に、たくさんの男や女が、集つて來ました。＃
其のうちに、一人の美しい少女がまじつて、か＃
ひがひしく働いて居ました。酒もりが始る＃
と、此の少女も、座敷へ出て、酒をついで廻りま＃
＜Ｐ－０２９＞
した。＃
上座にすわつて、いばつて居たたけるは、此の＃
少女を見ると、自分のそばへ呼んで、すわらせ＃
ました。さうして、酒をつがせては、しきりに＃
飲んだり、歌つたりしました。＃
だん〳〵と、夜がふけて來ました。客は、次第＃
にかへつて行きました。すつかりよつて、よ＃
いきげんになつたたけるも、もうねようとい＃
ふので、よろ〳〵しながら、奧の間へ行かうと＃
＜Ｐ－０３０＞
しました。＃
此の時でした。今まで＃
やさしくお給仕をして＃
居た少女は、すつくと立＃
上つて、＃
「たける、待て。」＃
と言ふが早いか、ふとこ＃
ろにかくして居た劒を＃
拔いて、たけるの胸を突きました。＃
＜Ｐ－０３１＞
「あつ。」と叫んで、たけるはたふれましたが、＃
「お待ち下さい。これほどに強いあなたは、＃
たゞの人ではない。一たい、どういふお方＃
ですか。」＃
と、苦しい息の下から尋ねました。＃
「われは女ではない。天皇の御子、やまとを＃
ぐなだ。汝、恐れ多くも、朝廷の仰に從ひ申＃
さぬによつて、汝をうてとの勅をかうむり、＃
こゝへ來たのだ。」＃
＜Ｐ－０３２＞
「なるほど、さういふお方でいらつしやいま＃
したか。西の國では、私より強い者はない＃
ので、たけると申して居りました。失［しつ］禮［れい］な＃
がら、今、お名をさし上げます。日本で一番＃
お強いあなたは、日［やま］本［と］武［たけるの］皇［み］子［こ］と仰せられま＃
すやうに。」＃
と言終つて、たけるは息がたえました。＃
景［けい］行［かう］天皇の御子、やまとをぐなの皇［み］子［こ］は、御年＃
十六、かうして、たゞお一人で、熊襲をお亡しに＃
＜Ｐ－０３３＞
なりました。さうして、これから後、日本武尊＃
と申し上げることになりました。　　＃
　（二）　　草［くさ］薙［なぎの］劒［つるぎ］　　＃
熊襲をうつて、都へおかへりになつた日本武＃
尊は、其の後、東の國の惡者を平げよといふ勅＃
を、お受けになりました。そこで、尊［みこと］は、わづか＃
の供人を連れ、東をさして御出發になりまし＃
た。＃
とちゆう、先づ伊［い］勢［せ］の皇［くわう］大［だい］神［じん］宮［ぐう］に參つて、御武＃
＜Ｐ－０３４＞
運をおいのりになりました。皇大神宮に仕＃
へて居られた尊の御をば、倭［やまと］姫［ひめの］命［みこと］は、尊が二度＃
の大任をお受けになつたのを、勇ましくも、又＃
いたはしくお思ひになつたのでせう、特に、大＃
切な天［あめの］叢［むら］雲［くもの］劒［つるぎ］を尊にお授けになり、又一つの＃
小さい袋をお渡しになつて、＃
「もしもの事があつたら、忘れずに、此の袋の＃
口をおあけなさい。」＃
とおつしやいました。＃
＜Ｐ－０３５＞
尊は、東へ〳〵と進んで、駿［する］河［が］の國にお着きに＃
なりました。此の國に居た惡者のかしらは、＃
かねて、尊の御勇武を、聞傳へて知つて居まし＃
たので、一通りではとても勝てない、だましう＃
ちにする外はないと思ひました。＃
そこで、尊をうや〳〵しく迎へて、いろ〳〵お＃
もてなしをしながら、申しました。＃
「此の國の野原には、大きな鹿［しか］がたくさん居＃
ります。おなぐさみに、狩をなさつてはい＃
＜Ｐ－０３６＞
かがでございます。」＃
尊は、「それはおもしろからう。」とおつしやつて、＃
野原へお出でになりました。さうして、身の＃
丈にもあまる草を分けて、だん〳〵奧へはい＃
つていらつしやいました。すると、かねてか＃
ら、此の野原を圍んで待ちかまへて居た惡者＃
どもは、一度に、草に火をつけました。火は、も＃
のすごい勢でもえて來ます。＃
「さては、だましたのか。」＃
＜Ｐ－０３７＞
と、尊はしばらく考へていらつしやいました＃
が、ふと御心に浮かんだのは、御をば、倭姫命の＃
お言葉です。急いで袋の口をおあけになる＃
と、中に火打石がありました。尊は、すぐに、お＃
さとりになりました。天叢雲劒を拔いて、手＃
早くあたりの草をなぎはらひ、火打石で火を＃
きつて、其の草におつけになりました。する＃
と、ふしぎにも、今までもえせまつて來た火は、＃
急に方向をかへて、向かふへ、向かふへと、もえ＃
＜Ｐ－０３８＞
移つて行きました。＃
あわてたのは、惡者ども＃
です。火に追はれて、逃＃
げようとする間もなく、＃
片はしから、やき立てら＃
れ、やき殺されてしまひ＃
ました。＃
あやふい御命をお助り＃
になつた尊は、生殘つた＃
＜Ｐ－０３９＞
惡者どもを平げて、なほも東へお進みになり＃
ました。此の時から、此の御劒を、草薙劒と申＃
し上げることになりました。　　＃
　七　　山［や］羊［ぎ］　　＃
草を刈つていらつしやるおとうさんの所へ、＃
お手傳ひに行きました。＃
刈集めてある草を、山羊にやらうと思つて、私＃
は、兩手で持てるだけ持つて、山羊小屋の方へ＃
＜Ｐ－０４０＞
かけて行きました。＃
「どうして靜かなのだらう。」と思つて、のぞいて＃
見ると、山羊は一匹も居ません。＃
「あゝ、さうだつた。」＃
私は、大きな聲でひとり言を言つて、裏へ廻り＃
ました。稻が刈られたので、きのふ、たんぼに＃
柵［さく］を作つて、山羊の運動場をこしらへてやつ＃
たのでした。＃
親山羊は、柵のきはに、秋の日をあびてすわつ＃
＜Ｐ－０４１＞
て居ましたが、私の足音を聞きつけて、すつく＃
と立上りました。向かふの方で遊んで居た＃
二匹の子山羊は、鳴き聲を立てながら、こつち＃
へかけて來ました。さうして、三匹とも、前足＃
を柵にかけて、立上りました。＃
草をどさりと投げてやると、三匹が頭をくつ＃
つけて、おいしさうにたべ始めました。＃
親山羊は、去年のちやうど今頃、遠い〳〵山國＃
から、汽車に乘つて來たのです。月夜の晩に、＃
＜Ｐ－０４２＞
此の村の停車場に下＃
された時は、どん＃
な心持がしたで＃
せう。其の時、お＃
とうさんと私と、停車場＃
まで迎へに出てやりま＃
した。＃
今年の春、此の二匹の子山＃
羊が生まれました。今で＃
＜Ｐ－０４３＞
は、もうお乳を飲まなくなりましたが、生まれ＃
た頃は、乳房をくはへて、うまさうに、すつぱす＃
つぱと吸つて居ました。さうして、子山羊が＃
飲んだ後で、おとうさんは、お乳をしぼつて、私＃
たちにも飲ませて下さいました。夏休過ぎ＃
から、子山羊に乳がいらなくなつたので、私た＃
ちは、毎日、たくさん飲むことが出來るやうに＃
なりました。＃
ぼんやり、こんな事を考へて居ると、＃
＜Ｐ－０４４＞
「道子は、ほんたうに山羊が好きだね。」＃
といふおとうさんのお聲。ふり向くと、私の＃
後に、おとうさんが、にこ〳〵しながら、立つて＃
いらつしやいました。＃
すつかり草をたべてしまつた山羊は、やさし＃
い目をしながら、又寄つて來ました。親山羊＃
の白いひげの下を、一匹の子山羊がくゞり拔＃
けて、柵に前足をかけながら、私たちをじつと＃
見ました。　　＃
＜Ｐ－０４５＞
　八　　林の中　　＃
葉は落ちて　　＃
明かるいこずゑ、　　＃
林の中の　　＃
小道を行くと、　　＃
一足一足、　　＃
かさ〳〵と鳴る落葉。　　＃
＜Ｐ－０４６＞
切株に　　＃
腰かけて聞く、　　＃
林の中の　　＃
秋の靜かさ。　　＃
どこで鳴くのか、　　＃
ちゝ、ちゝと、鳥の聲。　　＃
見上げると、　　＃
高いこずゑは、　　＃
＜Ｐ－０４７＞
小枝小枝が　　＃
ふるへるやうに、　　＃
まつさをな空に、　　＃
くつきりと浮いて居る。　　＃
＜Ｐ－０４８＞
　九　　僕の望［ばう］遠［ゑん］鏡［きやう］　　＃
机の引出をかたづけて居ると、いつか、おぢい＃
さんにいたゞいた目がねの玉と、おとうさん＃
に買つていたゞいた小さい蟲目がねが出て＃
來た。＃
「これは、いゝ物が見つかつた。」と思ひながら、僕＃
は、此の二つを、重ねたり別々にしたりして、机＃
の上を見たり、外の景［け］色［しき］をのぞいたりして居＃
＜Ｐ－０４９＞
た。＃
其のうちに、ふと、おもしろい事を發見した。＃
左の手に目がねの玉を持つて、目から遠くへ＃
はなした。すると、向かふの景色が、小さく、さ＃
かさまに見えた。其のさかさまに見える景＃
色を、大きくして見ようと思つて、右の手に蟲＃
目がねを持つて、のぞいて見た。僕は驚いた、＃
どこかの屋根が、目がねの玉一ぱいに廣がつ＃
て、つい四五米ぐらゐの所にあるやうに見え＃
＜Ｐ－０５０＞
るではないか。それは、こゝから百米もはな＃
れて居る、向かふの家の屋根であつた。＃
「おもしろい。これで、いつか、おとうさんのお＃
話に聞いた望遠鏡が、出來るかも知れない。」か＃
う思ひつくと、僕は、もうじつとして居られな＃
くなつた。＃
僕は畫用紙を取出した。さうして、其の一枚＃
を、ぐる〳〵と卷いた。ちやうど、目がねの玉＃
がはまるくらゐの大きさに卷いて、其の一方＃
＜Ｐ－０５１＞
のはしに、目がねの玉をはめた。きちんとは＃
まつた時、卷いた紙を、輪［わ］ゴムできり〳〵と卷＃
いて、動かぬやうにした。これで、一本の筒が＃
出來上つた。＃
次に、もう一枚の畫用紙を、ぐる〳〵と卷いた。＃
さうして、さつきの筒の中へ、ちやうど、それが＃
する〳〵とはいるくらゐの大きさに作つて、＃
それをのりづけにした。さうして、其のはし＃
に、蟲目がねを取りつけた。少しむづかしか＃
＜Ｐ－０５２＞
つたが、のりで、どうにかはりつけることが出＃
來た。＃
かうして出來た二本の筒は、うまくくひ合つ＃
て、長くのばしたり、ちゞめたりすることが出＃
來る。＃
さあ出來たぞ＃
と思ふと、うれ＃
しくもある。＃
胸もどき〳〵する。＃
＜Ｐ－０５３＞
うまく見えるかどうか。＃
景色をのぞいて見た。長い物が、ぼんやり見＃
える。二つの筒を、のばしたり、ちゞめたり、か＃
げんして居るうちに、はつきりした。電柱だ。＃
針金が六本あることまでわかる。＃
もつと下を見る。屋根だ。し＃
やうじだ。おや、誰かが、しやう＃
じの間から顏を出して居る。＃
僕は、もう、むちゆうだつた。急＃
＜Ｐ－０５４＞
いでおかあさんの所へ行つた。＃
「おかあさん、來てごらんなさい。早く〳〵。」＃
おかあさんは、目を丸くして、＃
「何です。大きな聲をして。」＃
「何でもいゝから、來て下さい。」＃
僕は、おかあさんを引張るやうにして、連れて＃
來た。さうして、僕の望遠鏡をのぞいてもら＃
つた。＃
「まあ、よく見えるね。でも、すつかりさかさ＃
＜Ｐ－０５５＞
まぢやないの。」＃
僕は言つた。＃
「さかさまでも、よく見えるでせう。」＃
「なるほどね。向かふの家の、おせんたく物＃
が見えます。あ、人がこつちを見て居る。＃
森の木がきれいですね。」＃
しばらく見て居られたおかあさんは、おつし＃
やつた。＃
「お前はえらいね。誰に教へてもらつたの。」＃
＜Ｐ－０５６＞
僕は、すつかりとくいだつた。＃
「誰にも教へてもらはないのです。僕が考＃
へて作つたのです。」　　＃
　十　　神風　　＃
博［はか］多［た］の沖は、見渡すかぎり、元から押寄せた船＃
でおほはれた。十何萬といふ大軍である。＃
四國・九［きう］州［しう］の武士は、博多の濱に集つた。元の＃
兵は、一人も上陸させぬといふ意氣ごみで、濱＃
＜Ｐ－０５７＞
べに石垣をきづいて守つた。＃
我が軍は、敵の攻寄せるのを待ちきれず、こつ＃
ちから押寄せた。敵は、高いやぐらのある大＃
船、こつちは、釣舟のやうな小舟であつた。け＃
れども、我が武士は、船の大小などは、少しも氣＃
にしなかつた。草野次郎の如きは、夜、敵の船＃
に押寄せて、首を二十一取つて、敵の船に火を＃
かけて引上げた。敵は、此の勢に恐れて、鐵の＃
くさりで船をつなぎ合はせた。まるで、大き＃
＜Ｐ－０５８＞
な島が出來たやうな＃
ものである。＃
河［かう］野［の］通［みち］有［あり］は、たつた小＃
舟二そうで向かつた。＃
敵は、はげしく射立て＃
た。味［み］方［かた］は、ばた〳〵＃
とたふれた。通有も＃
左の肩を射られたが、＃
少しも屈せず、刀をふ＃
＜Ｐ－０５９＞
るつて進んだ。いよ＃
いよ敵の船に押寄せ＃
たが、高くて、上ること＃
が出來ない。通有は、＃
帆柱をたふして、これ＃
をはしごにして、敵の＃
船へをどりこんだ。＃
味方は、後から後から＃
と續いた。さん〴〵＃
＜Ｐ－０６０＞
に切りまくつて、其の船の大將を、生けどりに＃
して引上げた。＃
其の後も、攻寄せる者がたえないので、敵は、一＃
先づ沖の方へ退いたが、又押寄せて來るのは＃
明らかである。實に、我が國にとつては、これ＃
までにない大難であつた。＃
恐れ多くも、龜［かめ］山［やま］上［じやう］皇［くわう］は、御身をもつて國難に＃
代らうと、おいのりになつた。武士といふ武＃
士は、必［ひつ］死［し］のかくごで防いだ。百［ひやく］姓［しやう］も、一生け＃
＜Ｐ－０６１＞
んめいで、ひやうらうを運んだ。全く、上下の＃
者が心を一にして、國難に當つたのである。＃
此のまごころが、神のおぼしめしにかなつた＃
のであらう、一夜、大風が起つて、海はわき返つ＃
た。敵の船は、こつぱみぢんにくだけて、敵兵＃
は、海の底にしづんでしまつた。生きてかへ＃
つた者は、數へるほどしかなかつたといふ。　　＃
　十一　　軍旗　　＃
＜Ｐ－０６２＞
かしこくも、　　＃
天皇陛下、　　＃
御手づから、授け給うた　　＃
尊い軍旗、尊い軍旗。　　＃
身をすてて、　　＃
皇［み］國［くに］のために、　　＃
まつしくら、進む兵士の　　＃
しるしの軍旗、しるしの軍旗。　　＃
＜Ｐ－０６３＞
みだれ飛ぶ　　＃
たまに破れて、　　＃
戰のてがらをかたる　　＃
ほまれの軍旗、ほまれの軍旗。　　＃
おごそかな　　＃
ラツパのひゞき、　　＃
目の前を今過ぎて行く　　＃
＜Ｐ－０６４＞
尊い軍旗。拜せよ、軍旗。　　＃
　十二　　牛かへ　　＃
これまでうちに居た牛は、體がまつ黒で、後足＃
の足先と尾の房の所だけが白い、まことに美＃
しい牡牛でした。買つた時は子牛で、私も、時＃
時引出して、草をたべさせに連れて行つたこ＃
ともありましたが、近頃では、あまり大きくな＃
つて、私などの手にをへないやうになりまし＃
＜Ｐ－０６５＞
た。それで、父は、子供にあぶなくもあるから、＃
牝牛にかへたいと言つて居ました。＃
きのふ、ばくらうが、若い牝牛を連れて來まし＃
た。角の形といひ、體のかつかうといひ、申分＃
のない良い牛です。＃
大そうみんなの氣に入りましたが、かへると＃
なると、大分金を出さねばなりませんでした。＃
父が、「まあ、考へてみよう。」と言ひますと、ばくら＃
うは一たん歸りました。私どもがあまりほ＃
＜Ｐ－０６６＞
しがつたので、父も、＃
「米二俵賣ればよい。＃
今年は、思つたより＃
豐年だつたから、思＃
ひ切つて、向かふの＃
言ふ通りに金を出さう。」＃
と言ひました。＃
今日、又ばくらうが來まし＃
た。さうして、とう〳〵取＃
＜Ｐ－０６７＞
りかへることになりました。＃
牛小屋から、これまで飼つて居た牛を引出し＃
た時には、急にかはいさうになりました。父＃
や兄は、牛の體をきれいにして、新しいくつを＃
はかせてやりました。母は、わざ〳〵麥を煮＃
て、たくさん食はせました。＃
母は、ばくらうに向かつて、＃
「私のうちでは、此の牛を、うちの＃
者同樣にして、かはいがつて居＃
＜Ｐ－０６８＞
たのですから、どうぞ、よい所へやつて下さ＃
い。」＃
と、幾度も幾度も、たのみました。＃
ばくらうが牛を連れて歸りかけると、うち中＃
の者は、みんな、門口に立つて見送りました。＃
「もう。」と一聲鳴いた時には、母も姉も、涙ぐんで＃
居ました。　　＃
　十三　　笑話　　＃
＜Ｐ－０６９＞
　（一）　　＃
或男が、友だちに向かつて、＃
「鹿のやうに足の早い獸は、大てい、ひづめが＃
二つにわれて居るやうだ。」＃
と言ひました。友だちは、＃
「そんな事はあるまい。馬は、ひづめが一つ＃
だけれども、早く走るではないか。」＃
前の男、＃
「馬は、一つでさへ、あれだけ早いから、二つあ＃
＜Ｐ－０７０＞
つたら、早くて仕方があるまい。」＃
友だちは、又、＃
「そんなら、牛はどうだ。」＃
前の男、いよ〳〵負けぬ氣になつて、＃
「牛は、ひづめがわれて居てさへ、あの通りお＃
そい。一つなら、とても動けまい。」　　＃
　（二）　　＃
おばあさんが鍋を買ひに行きました。五十＃
錢のでは小さ過ぎるし、一圓のでは大き過ぎ＃
＜Ｐ－０７１＞
る、どちらにしようかと迷ひましたが、「五十錢＃
のでよからう。」と、小さい方を買つて歸りまし＃
た。＃
歸つてから、よく考へてみると、どうも小さ過＃
ぎる。「大は小をかねるといふから、やつぱり＃
大きい方にしよう。」と、もう一度金物屋へ行き＃
ました。＃
小さい鍋を返し、大きい鍋を受取つて、おばあ＃
さんが、もう五十錢拂はうとしますと、金物屋＃
＜Ｐ－０７２＞
の主人、＃
「お金は、もういたゞかなくてもよいのです。」＃
と言ひました。＃
「どうしてですか。」＃
「さつき五十錢いたゞいて、今五十錢の鍋を＃
返していたゞきました。兩方で、ちやうど＃
一圓になります。」　　＃
　十四　　千早城　　＃
＜Ｐ－０７３＞
楠［くすの］木［き］正［まさ］成［しげ］がたてこもつた千早城は、けはしい＃
金［こん］剛［がう］山にあるが、まことに小さい城で、軍勢も＃
わづか千人ばかり。これを圍んだ賊は、百萬＃
といふ大軍で、城の附近一たいは、すつかり人＃
や馬でうづまつた。＃
こんな山城一つ、何ほどの事があるものかと、＃
賊が城の門まで攻上ると、城のやぐらから大＃
きな石を投落して、賊のさわぐ所を、さん〴〵＃
に射た。賊は、坂からころげ落ちて、たちまち＃
＜Ｐ－０７４＞
五六千人も死んだ。＃
これにこりて、賊は、城の水をたやして苦しめ＃
ようとはかつた。＃
先づ、谷川のほとりに、三千人の番兵を置いて、＃
城兵が汲みに來られないやうにした。城中＃
には、十分水の用意がしてあつた。二日たつ＃
ても、三日たつても汲みに來ない。番兵がゆ＃
だんをして居ると、城兵が切りこんで來て、旗＃
をうばつて引上げた。＃
＜Ｐ－０７５＞
正成は、此の旗を城門に立てて、さん〴〵に賊＃
の惡口を言はせた。賊が、これを聞いて、くや＃
しがつて攻寄せると、正成は、高いがけの上か＃
ら大木を落させた。さうして、これをよけよ＃
うとして賊のさわぐ所を射させて、又々五千＃
人餘りも殺した。＃
此の上は、ひやうらう攻めにしようと思つて、＃
賊は、攻寄せないことにした。＃
或朝、まだ暗いうちに、城中から討つて出て、ど＃
＜Ｐ－０７６＞
つとときの聲をあ＃
げた。賊は、「それ、敵＃
が出た。一人もの＃
がすな。」と押寄せた。＃
城兵はさつさと引上＃
げたが、二三十人だ＃
けはふみとゞまつ＃
た。賊が、四方から＃
これを目がけて押＃
＜Ｐ－０７７＞
寄せると、城から大きな石を四五十、一度に落＃
したので、又何百人か殺された。ふみとゞま＃
つて居たのは、みんなわ＃
ら人形であつた。＃
もう此の上は、何でもか＃
でも攻落してしまへと＃
いふので、賊は、大きなは＃
しごを作り、これを、城の＃
前の谷に渡して橋にし＃
＜Ｐ－０７８＞
た。幅が五米、長さが五六十米、其の上を、賊が＃
我先にと渡つた。今度こそは、千早城も危く＃
見えた。すると、正成は、いつの間に用意して＃
置いたものか、たくさんのたいまつを出して、＃
これに火をつけて、橋の上に投げさせた。さ＃
うして、其の上へ油を注がせた。橋は、まん中＃
からもえ切れて、谷底へどうと落ちた。又賊＃
は何千人か死傷した。＃
賊が、千早城一つをもてあまして居ると、方々＃
＜Ｐ－０７９＞
で、官軍が、賊のひやうらうの道をふさいだの＃
で、賊はすつかり弱つた。百人逃げ、二百人逃＃
げして、始め百萬といつた賊も、しまひには十＃
萬ばかりになつた。それが、又前後から官軍＃
に討たれて、ちり〴〵に逃げてしまつた。　　＃
　十五　　たこ　　＃
空は青空、　　＃
うなりをたてて、　　＃
＜Ｐ－０８０＞
あがる字だこに　　＃
きれいなゑだこ。　　＃
一つ二つと　　＃
かぞへて居れば、　　＃
とびも出てまふ、　　＃
大空高く。　　＃
＜Ｐ－０８１＞
風は寒いが、　　＃
港は晴れて、　　＃
鳴るよ、汽笛が、　　＃
もう、ひる近く。　　＃
　十六　　雪の夜　　＃
＜Ｐ－０８２＞
おとうさんは、火鉢にあたりながら、新聞を讀＃
んで居られる。おかあさんは、ねて居る赤ん＃
ばうのそばで、着物を縫つて居られる。＃
誰もだまつて居るので、聞えるものは、かちか＃
ちといふ時［と］計［けい］の音と、鐵びんの、しゆんしゆん＃
といふ音だけである。＃
しばらくすると、おとうさんが、新聞を置いて、＃
「靜かな晩だなあ。」＃
と言はれる。＃
＜Ｐ－０８３＞
おかあさんが、＃
「さうですねえ。」＃
と言はれる。＃
ほんたうに靜かな晩である。外は、もう、人通＃
りがないと見えて、ひつそりとして居る。＃
「今夜は、大分積るかも知れないぞ。」＃
と、おとうさんが言はれた。夕方から、雪が降＃
出して居るのである。＃
「あしたは、雪合戰が出來るでせうか。」＃
＜Ｐ－０８４＞
と、私が言ふと、おとうさんが、＃
「大丈夫出來る。さつきのやうなちやうし＃
で降續くと、朝までには、ずゐぶん積るよ。＃
けれども、春雄、あんまり積つたら困るだら＃
う、學校へ行くのに。」＃
「いゝえ、大丈夫です。どんなに積つても、僕＃
は平氣です。」＃
「春雄は元氣だからね。」＃
と、おかあさんが笑はれた。＃
＜Ｐ－０８５＞
「おとうさん、もう、どのくらゐ積つたでせう。」＃
「さあ、二階へ上つて、見て來るかな。どうだ、＃
春雄。」＃
と言ひながら、おとうさんが立上られた。私＃
も立上つた。＃
部［へ］屋［や］を出ると、急に寒い。＃
二階へ上つて、ガラス戸から外を見ると、全體＃
が、何だか、ぼんやりと明かるい氣がする。さ＃
うして、屋根も、木も、道も、皆まつ白になつて居＃
＜Ｐ－０８６＞
る。窓の前の電燈＃
線が、白い、太いひも＃
のやうになつて居＃
る。＃
もう十糎も積つた＃
らうか。雪は、まだ、ひつきりなしに降續いて＃
居る。＃
向かふの門燈の光の前だけ、降る雪が、黒く流＃
れるやうに見えるのもおもしろい。　　＃
＜Ｐ－０８７＞
　十七　　雀の宿　　＃
きのふから降積つた雪に朝日がさして、どこ＃
を見ても、きら〳〵と銀色にかゞやいて居ま＃
す。じつと空を見て居ると、小鳥が、幾群も幾＃
群も、悲しさうな聲で鳴きながら、飛んで行き＃
ます。あれは、雪のためにたべものが見つか＃
らないので、遠くへさがしに行くのでせう。＃
早く、うちの雀の宿に來ればよいのにと思つ＃
＜Ｐ－０８８＞
て、裏庭へ行つて見ると、もう、數へきれないほ＃
ど雀が集つて、ちゆうちゆう鳴きながら、うれ＃
しさうに朝御飯をたべて居ます。＃
うちの雀の宿＃
といふのは、横＃
に穴をあけた＃
大きなへうた＃
んや、古いつり＃
どうろうなど＃
＜Ｐ－０８９＞
で、それが、日當りのよいのき先に、幾つもつる＃
してあるのです。其の中へ、御飯の殘りやお＃
米などを入れて置くと、雀がたくさん寄つて＃
來て、喜んでたべます。夜は、へうたんの中に＃
ねるのもあります。いつの昔から、かうして＃
あるのか、うちのおぢいさんの子供の時から、＃
もう、これがあつたといふことです。一度こ＃
こへ來た雀は、次から次と友だちを連れて來＃
て、時には、何百羽ともわからないほど集るこ＃
＜Ｐ－０９０＞
とがあります。こんな雪の朝などは、いつも＃
よりたくさん來るので、いくら餌をやつても、＃
すぐになくなつてしまひます。＃
けさやつた餌も、もう、なくなつたものと見え＃
て、集つて居る雀は、皆さびしさうにして居ま＃
す。私は、なるたけ、此のかはいらしいお客樣＃
を驚かさないやうに氣をつけて、お米を入れ＃
てやりました。一度はぱつと飛立ちました＃
が、よくなれて居るので、すぐに又寄つて來ま＃
＜Ｐ－０９１＞
した。さうして、思ひ〳〵に、こつちのへうた＃
んにはいつたり、あつちのとうろうに飛移つ＃
たりして、お米をたべます。中には、向かふの＃
木の枝に、並んで止つて居るのもあります。＃
おなかが一ぱいになつたので、仲よく日なた＃
ぼつこをして居るのでせう。＃
　十八　火事　＃
日が暮れて間もなく、けたゝましく半［はん］鐘［しよう］が鳴＃
＜Ｐ－０９２＞
り出した。＃
窓をあけて見ると、西の方の空が、まつかにそ＃
まつて居る。火事は、少しはなれた川向かふ＃
の町だと、すぐわかつた。おとうさんは、夜業＃
をやめて、すばやく身支度をとゝのへ、大急ぎ＃
で家を出られた。おとうさんは、村の消防手＃
である。＃
おとうさんを送り出してから、おかあさんは、＃
「火事は、をぢさんのうちの方角だから、わた＃
＜Ｐ－０９３＞
しは見まひに行きます。おとうさんは、消＃
防で働かねばならぬから。」＃
と言つて、出て行かれた。＃
をぢさんのうちの方角と聞いて、僕は恐しく＃
なつた。おばあさんも心配さうである。＃
家の前を、村の消防隊が、ポンプを引いて、勢よ＃
くかけて行つた。遠く走るポンプ自動車の＃
サイレンの音も聞える。＃
窓をあけて見ると、向かふの空には、ぱつと火＃
＜Ｐ－０９４＞
の粉が上つたり、又少し＃
暗くなつたりする。半＃
鐘の音、サイレンの音、人＃
の聲などが入りまじつ＃
て、遠くの方で聞える。＃
「大分大きいらしいぞ。」＃
と、道を通る人が語り合＃
つて居た。＃
火事は、なか〳〵消えさ＃
＜Ｐ－０９５＞
うもない。＃
「お前は、あした、學校があるのだから、心配し＃
ないで、もうおやすみ。」＃
と、おばあさんに言はれて、僕は、寢床の中にも＃
ぐりこんだが、火事が氣になつて、なか〳〵眠＃
られなかつた。＃
翌朝、おかあさんに呼起されて目をさますと、＃
をぢさんやをばさんが、うちに來て居られる。＃
僕はびつくりした。ゆふべの火事で、をぢさ＃
＜Ｐ－０９６＞
んのうちも燒けてしまつたのださうだ。火＃
元からは大分はなれて居たが、風下になつて＃
居たので、一度運び出した荷物も燒いてしま＃
ひ、着のみ着のまゝで、逃げて來られたのださ＃
うだ。＃
僕は、だしぬけに、＃
「をばさん、猫はどうしました。」＃
と聞いた。をばさんは、＃
「どうしたかわかりません。荷物を片附け＃
＜Ｐ－０９７＞
る時、どこにも居ませんでした、何べんも呼＃
んで見たけれど。燒け死んだのかも知れ＃
ません。」＃
「かはいさうに。」＃
と、僕は言つた。＃
やがて、おとうさんが歸つて來られた。＃
おとうさんは、をぢさんやをばさんに、＃
「ほんたうに氣のどくだつたが、けががない＃
のが、まあ、何よりのしあはせだ。わたしは、＃
＜Ｐ－０９８＞
消防にばかり働いて居て、手傳も出來ず、ま＃
ことにすまなかつた。」＃
と言はれた。すると、をぢさんは、＃
「いや、手傳は、ねえさんに十分してもらひま＃
した。それよりも、あの風に、四辻で火事を＃
消し止めたのは、えらいてがらです。町の＃
目拔の場所が助つたのは、全く消防の方々＃
のおかげです。」＃
みんな、つかれきつて居る。平生元氣なをば＃
＜Ｐ－０９９＞
さんも、今日は、一番しよんぼりとして、さびし＃
さうに見えた。＃
「をばさん、これから、ずつと僕のうちにいら＃
つしやいね。」＃
と僕が言ふと、をばさんは、＃
「あゝ、當分やつかいになりますよ。」＃
と言つて、涙をこぼされた。＃
後で聞けば、此の火事には、燒け死んだ人もあ＃
つたさうだ。さうして、こんな大火事の起つ＃
＜Ｐ－１００＞
たのも、或家の子供が、マッチをすつて、其のも＃
えがらを土間に捨てたのが、もとだといふこ＃
とだ。＃
「子供の火遊びが、一番いけない。やめるこ＃
とだ、やめることだ。」＃
おとうさんは、ひとり言のやうに、かう言はれ＃
た。　　＃
　十九　　梅　　＃
＜Ｐ－１０１＞
何となく　　＃
春らしい日の夕暮に、　　＃
どこからか、よいかをり、　　＃
ほんのりとよいかをり。　　＃
おゝ、それよ、　　＃
それ、そこの家の垣根の　　＃
暗がりに梅の花、　　＃
まつ白な梅の花。　　＃
＜Ｐ－１０２＞
梅の花、　　＃
ほんのりと空もかすんで、　　＃
三日月は岡の上、　　＃
うつすらと岡の上。　　＃
＜Ｐ－１０３＞
　二十　　小さい温床　　＃
「時子ちやん、チューリップが咲いたよ。來て＃
ごらん。」＃
と、にいさんが、外から窓ごしにおつしやつた＃
ので、私は、急いで庭へ出ました。＃
いつか、にいさんのお作りになつた小さい温＃
床に、今日も、おだやかな冬の日が、一ぱいにさ＃
しこんで居ます。見ると、まん中の鉢に、美し＃
＜Ｐ－１０４＞
いチューリップの花が一つ、につこり笑つたや＃
うに咲いて居ます。＃
「まあ、きれいね。」＃
と、私は思はず言ひました。ふつくらとした＃
花びらが抱合つて、まだ十分咲ききらぬ花は、＃
ちやうど、おひな樣のぼんぼりのやうなかつ＃
かうです。下の方は白で、花の口もとの所に、＃
こい紅をさして居ます。ほんたうに、手に取＃
つて、さはつてみたいやうな氣がします。＃
＜Ｐ－１０５＞
「チューリップは、＃
此の温床の王＃
樣ね。」＃
と、私が言ふと、に＃
いさんは、＃
「さうだね。でも、すみれ＃
もきれいだらう。」＃
すみれは、一週間ばかり前＃
から咲出しました。それこそ、ほんたうのす＃
＜Ｐ－１０６＞
みれ色をした花が、暖い日を受けて、びろうど＃
のやうに、つや〳〵して居ます。水仙の花が＃
四つ、かはいらしい櫻草やひなぎくも、咲いて＃
居ます。きうりの芽生も、目立つて大きくな＃
りました。＃
たつた一米四方ぐらゐの廣さですが、こゝば＃
かりは、寒い冬も知らないやうに、緑や、赤や、白＃
や、紫に、美しく照りはえて居ます。＃
「わたしのお人形さんを、こゝへ入れてやり＃
＜Ｐ－１０７＞
たいな。」＃
と、ひとり言のやうに、私は言ひました。＃
「どうして。」＃
「でも、中は暖い春ですもの。」＃
にいさんは笑つて、＃
「お人形さんが汗をかくだらう。これで、此＃
のガラスのふたをすると、少しすかして置＃
いても、日中は二十四五度ぐらゐになるか＃
ら、春といふよりも夏だよ。」＃
＜Ｐ－１０８＞
「でも、夜は寒いでせうね。」＃
「夜寒いやうで、今頃、チューリップやすみれが＃
咲くものか。地の下には、馬ふんや枯葉が＃
入れてあるから、夜もぽか〳〵暖いよ。」＃
と、にいさんはおつしやいました。　　＃
　二十一　　雪舟　　＃
雪舟が子供の時の話です。＃
お寺の小僧になつて間もない頃、或日、和［を］尚［しやう］さ＃
＜Ｐ－１０９＞
んに大そう叱られました。＃
「お前は、又畫をかいて居るのか。いくら言＃
つても、畫ばかりかいて、ちつともお經をお＃
ぼえない。お前は、口で言つて聞かせるだ＃
けでは、だめだ。」＃
かう言ひながら、和尚さんは、雪舟を引つぱつ＃
て本堂へ行きました。＃
ぶる〳〵ふるへて居た雪舟は、大きな柱にく＃
くり附けられました。＃
＜Ｐ－１１０＞
始は、たゞ恐しさで一ぱいでしたが、さびしい＃
本堂の柱にくゝり附けられて、じつとして居＃
る間に、雪舟は、いろ〳〵と考へ續けました。＃
「わたしは、いつもお經を讀まうと思ふのだ＃
が、机に向かふと、つい畫がかきたくてかき＃
たくて、たまらなくなつてしまふ。明日か＃
らは、きつと、一生けんめいにお經を習つて、＃
早くえらいばうさんにならう。わたしが、＃
こゝで、こんなに叱られて居ようとは、おと＃
＜Ｐ－１１１＞
うさんもおかあさんも、ゆめにも思つてい＃
らつしやらないだらう。」＃
こんなことを考へて居ると、雪舟は、何だか悲＃
しくなつて、とう〳〵、しく〳〵泣出しました。＃
涙が、止めどなくこぼれました。ぽたり、ぽた＃
りと落ちて、本堂の板の間をぬらしました。＃
少し泣きつかれて、ぼんやり足もとを見て居＃
た雪舟は、何氣なく、足の親指で、板の間に落ち＃
た涙をいぢつてみました。＃
＜Ｐ－１１２＞
すると、今まで悲しさうだつた雪舟の顏は、だ＃
んだん晴れやかになつて來ました。雪舟は、＃
足の親指を使ひながら、涙で、板の間に畫をか＃
き始めたのでした。＃
自分の部［へ］屋［や］へ歸つて居た和尚さんは、しばら＃
くすると、雪舟がかはいさうになりました。＃
もう許してやらうと思つて、又本堂へ來まし＃
た。＃
夕方近い本堂は、少し暗くなつて居ました。＃
＜Ｐ－１１３＞
どんなに、さびしかつたらうと思つて、ふと見＃
ると、びつくりしました。大きなねずみが一＃
匹、雪舟の足もとに居て、今にも飛びつきさう＃
な樣子です。かまれては、かはいさうだと思＃
つて、和尚さんは、「しつ、しつ。」と追ひましたが、ふ＃
しぎに、ねずみは、じつとして動きません。近＃
づいて見ると、それは、生きたねずみではあり＃
ませんでした。雪舟が、板の間に、涙でかいた＃
ねずみでした。＃
＜Ｐ－１１４＞
和尚さんは驚きました。急いで、なはをとい＃
てやりながら、＃
「わたしが惡かつた。お前は、畫かきになる＃
がよい。これほどお前が上手だとは、わた＃
しは、今まで知らなかつた。」＃
と言ひました。雪舟は、につこりしました。＃
其の後、雪舟は、一心に畫を習ひました。學問＃
も勉強しました。＃
雪舟は、とう〳〵、日本一の畫かきになりまし＃
＜Ｐ－１１５＞
た。　　＃
　二十二　　潛［セン］水［スヰ］艦［カン］　　＃
昔カラ、船トイヘバ、皆水ノ上ヲ走ルモノトキ＃
マツテ居タガ、僕等ガ生マレテ來テ、海ノ中ヲ＃
モグツテ敵ヲ攻撃シ始メタノデ、世界ノ人ハ、＃
皆驚イタ。＃
モツトモ、僕等ダツテ、水ノ中ニバカリ居ルノ＃
デハナイ。ドウシテモ、時々、新シイ空氣ヲ吸＃
＜Ｐ－１１６＞
ハナケレバナラナイシ、又＃
水面ニ浮カンデ走ル方ガ＃
早ク走レルカラ、フダンハ、＃
ナルタケ水ノ上ニ出テ居＃
ル。サウシテ、敵ガ近イ時＃
ニハ、水ノ中ヘモグツテ、氣＃
ヅカレナイヤウニスル。＃
僕等ノ仲間ハ、皆クヂラノ＃
ヤウナ形ヲシテ居テ、大小イロ〳〵アルガ、一＃
＜Ｐ－１１７＞
番小サイノデモ、大キナクヂラヨリハ、ズツト＃
大キイ。何千粁モアル大洋ヲ、ヒトリデ乘リ＃
キルコトモ出來ルシ、又、一日中、ジツト海底ニ＃
モグツテ居ルコトモ出來ル。＃
水ニモグルト、ドコモ見エナイデ、サゾ困ルダ＃
ラウト思フデアラウガ、ソレニハ、ウマイシカ＃
ケガシテアル。＃
僕等ノ背中ニハ、潛［セン］望［バウ］鏡［キヤウ］トイフ長イ管ガ立ツ＃
テ居テ、其ノ先ニ目ガ附イテ居ルカラ、ソレサ＃
＜Ｐ－１１８＞
ヘ水ノ上ヘ出シテ置ケバ、四方八方ヲ自由ニ＃
見ルコトガ出來ル。魚［ギヨ］雷［ライ］ヲ打出ス時ニモ、此＃
ノ目デ、ネラヒヲ定メルノデアル。ケレドモ、＃
潛望鏡ヲタエズ水ノ上ヘ出シテ居ルト、敵ニ＃
見ツケラレヤスイカラ、不用ノ時ハ、コレヲ引＃
ツコメタリ、又ハ深クモグツテシマツタリス＃
ル。＃
僕等ハ、敵ノ軍［グン］艦［カン］ガ近ヅイテ來ルトコロヲ、モ＃
グリナガラ進ンデ行ツテ、魚雷デ打沈メテシ＃
＜Ｐ－１１９＞
マフノデアルガ、時ニハ、敵ノ港＃
ノ内ヘシノンデ行ツテ、不意ニ＃
敵ノ軍艦ヲオソフコトモアル。＃
又、弱イ敵ニ對シテハ、水上ニ浮＃
カンダマヽデ、大砲ヤ魚雷デ打＃
沈メルコトモアル。＃
一體、僕等ノ仲間ニハ、魚雷デ敵＃
ヲ攻撃スルコトヲ務トシテ居＃
ル者ガ多イガ、中ニハ、魚雷ノ外ニ、機［キ］雷［ライ］ヲタク＃
＜Ｐ－１２０＞
サン持ツテ居テ、モグリナガラ、コレヲ海ノ中＃
ヘ敷設スルコトノ出來ル者モアル。又、無線＃
電信ハ誰モ持ツテ居ルガ、中ニハ飛［ヒ］行［カウ］機［キ］ヲ持＃
ツテ居ル者モアル。＃
僕等ハ、大砲ノタマガイクラ飛ンデ來テモ、水＃
ニモグツテ居レバ、平氣ナモノデアル。シカ＃
シ、飛行機ニ見ツケラレテ、爆［バク］彈［ダン］ヲ落サレタリ、＃
足ノ早イ驅［ク］逐［チク］艦［カン］ニ、打當テラレタリ、爆［バク］雷［ライ］トイ＃
フモノヲ投ゲコマレタリスルト、ハナハダケ＃
＜Ｐ－１２１＞
ンノンデアル。又、敵ガ、海ノ中ニ、太イ針金ノ＃
アミヲ張ルコトガアル。ウツカリソレニ引＃
ツカヽルト、魚ノヤウニ、生ケドリニサレテシ＃
マフ。＃
ソレデアルカラ、敵ノ軍艦ヲ打沈メルマデノ＃
苦心ハ、ナカ〳〵一通リデハナイ。ケレドモ、＃
大砲ヲ何十門モスヱツケテ、海上ノ城ダトイ＃
ツテイバツテ居ル軍艦ヲ、一打チニ沈メタ時＃
ノユクワイハ、何トモ言フコトガ出來ナイ。　　＃
＜Ｐ－１２２＞
　二十三　　春の雨　　＃
萌［も］えて明かるい若草に、　　＃
しと〳〵、細い雨が降る。　　＃
雨はこぬかか、絲のやう。　　＃
こゝは川ばた、やなぎの芽、　　＃
ぬれて、しづくが落ちるたび、　　＃
廣がる波の輪が圓い。　　＃
＜Ｐ－１２３＞
春は春でも、まだ始、　　＃
村から町へ、ゆるやかに、　　＃
少しにごつて行く水よ。　　＃
卵のからを浮かべたり、　　＃
わらの切れはし浮かべたり、　　＃
えびや目高も、泳がせて。　　＃
＜Ｐ－１２４＞
　二十四　　東京　　＃
一郎「をぢさん、きのふは、おみやげ＃
をありがたうございました。」＃
つぎ子「ありがたうございました。」＃
をぢ「おゝ、よく來たね。もつと、い＃
ろいろな物を買つて歸ればよ＃
かつたのだが、どうもいそがし＃
くてね。」＃
＜Ｐ－１２５＞
一郎「をぢさん、東京のお話をして＃
下さい。」＃
をぢ「少し話して聞かせようかな。＃
まあ、お菓子でもおあがり。＃
東京驛で汽車を下りると、をぢ＃
さんは、先づ第一に宮城を拜み＃
に行つた。宮城の前には廣い＃
廣い廣場があつて、そこの芝［しば］生［ふ］＃
には松が生えて居る。其の廣＃
＜Ｐ－１２６＞
場の中を通つて行くと、お堀をへだてて二＃
重橋が見え、其の右の方には、木の間から御＃
所のお屋根も拜される。＃
きのふ上げたゑはがきの中にある楠［くすの］木［き］正［まさ］＃
成［しげ］の銅像は、此の廣場のうちにあるのだ。」＃
一郎「明治神宮にも、お參＃
りでしたか。」＃
をぢ「あゝ、お參りしたよ。＃
明治神宮は、境［けい］内［だい］が大＃
＜Ｐ－１２７＞
そう廣くて、一の鳥居をくゞつてから、拜殿＃
までずゐぶんある。毎日、＃
たくさんの人が、たえずお＃
參りして居るが、長い參道＃
には、ちり一つ落ちて居ら＃
ず、まことに神［かう］々［〴〵］しい氣が＃
する。＃
それから、をぢさんは、靖［やす］國［くに］神社へもお參り＃
して來た。靖國神社の青銅の鳥居は、實に＃
＜Ｐ－１２８＞
大きいものだ。恐らく、青銅の鳥居では日＃
本一だらう。」＃
つぎ子「滿［まん］洲［しう］事［じ］變［へん］でなくなつた、＃
國子さんのおとうさんが＃
おまつりしてあるのは、そ＃
こなのですね。」＃
をぢ「さうだ。國のために戰＃
死した人は、皆おまつりしてあるのだ。そ＃
れから、此の境内にある遊［いう］就［しう］館［くわん］には、昔から＃
＜Ｐ－１２９＞
の武器や、戰爭に關［くわん］係［けい］のあるいろ〳〵の物＃
が、陳列してある。」＃
つぎ子「をぢさん、東京で一番に＃
ぎやかなのは、何といふ所＃
ですか。」＃
をぢ「一番にぎやかな所かね。＃
まあ、町では、銀座か新宿だ＃
らう。夕方は大［たい］變［へん］な人出＃
で、兩がはの歩道は、ちよつと歩けないくら＃
＜Ｐ－１３０＞
ゐだ。」＃
一郎「何ですか、其の歩道といふのは。」＃
をぢ「あ、なるほど、それはわかるまい。大都會＃
では、廣い通は、中央が車道＃
といつて、電車や自動車が＃
通る所になつて居り、其の＃
兩がはに、歩道といつて、人＃
の通る所があるのだ。＃
自動車の多いことは、驚く＃
＜Ｐ－１３１＞
ほどだよ。それから、地面の上ばかりでな＃
く、地面の下にも、地下鐵道といつて、電車が＃
通つて居る。＃
にぎやかな所には、まだ淺＃
草の觀［くわん］音［のん］樣がある。こゝ＃
は、毎日お祭のやうな人出＃
だ。此の觀音樣のそばに＃
は、映［えい］畫［ぐわ］館［くわん］などもたくさん＃
あつて、にぎやかな事から＃
＜Ｐ－１３２＞
いへば、或は東京一かも知れない。」＃
一郎「あのゑはがきにあつた西［さい］郷［がう］さんの銅像＃
は、どこにあるのですか。」＃
をぢ「あれは上野公園にある。＃
そこには、博［はく］物［ぶつ］館［くわん］や動物園＃
もある。春は、又櫻の名所＃
としても名高い。」＃
つぎ子「公園は幾つありますか。」＃
をぢ「さうだな。小さいもの＃
＜Ｐ－１３３＞
まで入れると、ずゐぶんたくさ＃
んあるが、大きいのは、上野公園・＃
日［ひ］比［ゞ］谷［や］公園・芝［しば］公園、それから、關［くわん］＃
東［とう］大［だい］震［しん］災［さい］後に出來た隅［すみ］田［だ］公園、＃
まあ、こんなものだらう。」＃
つぎ子「ゑはがきにあつた、あのりつ＃
ぱな橋は、何といふ橋ですか。」＃
をぢ「あれは、清［きよ］洲［す］橋といつて、隅田＃
川にかゝつて居る。此の川に＃
＜Ｐ－１３４＞
は、其の外にも、りつぱな橋がたくさんかゝ＃
つて居る。今言つた隅田公園は、此の川の＃
岸にあるのだ。」＃
一郎「僕も、見物に行きたくなつたなあ。」＃
をぢ「さうだね。大きくなつたら、をぢさんが＃
一度連れて行つて上げよう。」　　＃
　二十五　　東［とう］郷［がう］元［げん］帥［すゐ］　　＃
關［くわん］東［とう］大震災の時であつた。＃
＜Ｐ－１３５＞
「どゝつ。」といふ、ものすごい地ひゞきと共に、東＃
京の何十萬の家は、一度に震動した。瓦が落＃
ちる、窓ガラスが飛ぶ、石垣＃
がくづれる。かたむく家、＃
めちやめちやにつぶれる＃
家も、ずゐぶん多かつた。＃
市民は、全く生きた心地もなかつた。命から＃
がら逃出した者も、しばらくは、續いて起る餘＃
震に驚いて、たゞ「あれよ、あれよ。」と言ふばかり。＃
＜Ｐ－１３６＞
まして、けがをした者や、つぶれた家の下敷き＃
になつた者は、どんな氣持であつたらう。＃
東郷元帥の家は、質［しつ］素［そ］な、古い木造建であつた。＃
はげしい震動に、此の家も、たちまち壁はくづ＃
れ、屋根瓦は大てい落ちてしまつた。＃
ちやうど、お晝の食事中であつた元帥は、家の＃
人々と一しよに庭へ出たが、はげしい震動が＃
一先づ過ぎると、すぐに居間へとつて返した。＃
たんすをあけて、自ら軍服を取出し、手早く着＃
＜Ｐ－１３７＞
かへた。さうして、胸には、うや〳〵しく勳［くん］章［しやう］＃
を着けた。＃
「どうなさるのでございますか。」＃
といふ家人の問に對して、元帥は、おごそかに、＃
「赤坂離［り］宮［きゆう］へ。」＃
と答へた。＃
引續き起る餘震に、家は震ひ、地はゆれ、市民が＃
あわてふためいて居る中を、七十七歳の老元＃
帥は、赤坂離宮へと急いだ。＃
＜Ｐ－１３８＞
當時、大正天皇は、日光へおいでになつて居た。＃
元帥は、赤坂離宮に、攝［せつ］政［しやう］殿下をお見まひ申し＃
上げたのである。＃
攝政殿下の御無事でいらつしやるのを拜し＃
た元帥は、さすがに胸をなでおろしながら、三＃
時頃おいとまを申し上げて、自宅へ歸つた。＃
其の頃、東京市中は、いたるところに火災が起＃
つて居た。＃
歸るとすぐ、元帥は、家の人に、＃
＜Ｐ－１３９＞
「御眞［しん］影［えい］を、庭へお移し申せ。」＃
と命じた。＃
御眞影は、庭の中央に安置された。＃
やがて、火は近くの家に起つた。元帥の家の＃
人々は、手傳ひに、其の方へと走つた。＃
ところが、火は、たちまち元帥の家をおそつた。＃
先づ、自動車小屋が、見る間に燒けた。＃
元帥は、家に殘つて居た人々をさしづしなが＃
ら、自ら防火につとめた。＃
＜Ｐ－１４０＞
「あぶなうございます。ど＃
うぞ、お立ちのき下さい。」＃
と、人がすゝめても、元帥は、＃
「なに、大丈夫。もう少し。」＃
と言つて、聞入れなかつた。＃
自分の家を燒くのは、近所の＃
家々へ、めいわくをかけるこ＃
とになる。守られるだけは、守らねばならな＃
いといふのが元帥の心であつた。＃
＜Ｐ－１４１＞
火は前後二回おそつたが、元帥のさしづと、集＃
つて來た人々の働によつて、消し止められた。＃
かうして、家は最［さい］後［ご］まで無事であつた。＃
＜Ｐ－１４３＞
終　　＃
