＜出典＞５２２　　　国定読本　５期２－２
＜Ｐ－００２＞
　もくろく　＃
一　　富士山………四　＃
二　　早鳥………六　＃
三　　海軍の　にいさん………十三　＃
四　　乘合自動車………十九　＃
五　　菊の　花………二十六　＃
六　　かけっこ………二十八　＃
七　　かぐやひめ………三十二　＃
八　　たぬきの　腹つづみ………四十二　＃
九　　金の　牛………四十四　＃
十　　滿洲の　冬………四十八　＃
十一　　鏡………五十三　＃
十二　　神だな………六十一　＃
＜Ｐ－００３＞
十三　　新年………六十三　＃
十四　　いうびん………六十五　＃
十五　　にいさんの　入營………七十二　＃
十六　　雪の　日………七十七　＃
十七　　白兎………八十　＃
十八　　たこあげ………八十八　＃
十九　　豆まき………九十四　＃
二十　　金しくんしゃう………九十八　＃
二十一　　病院の兵たいさん………百　＃
二十二　　支那の子ども………百四　＃
二十三　　おひな樣………百十　＃
二十四　　北風と南風………百十二　＃
二十五　　羽衣………百十六　＃
＜Ｐ－００４＞
　一　　富士山　＃
どこから　見ても、いつ　見ても、　　＃
富士の　お山は　美しい。　　＃
白い　あふぎを　さかさまに、　　＃
かけた　下から　雲が　わき、　　＃
すそ　引く　はての　松原に、　　＃
＜Ｐ－００５＞
太平洋の　波が　立つ。　　＃
やさしいやうで　ををしくて、　　＃
たふとい　お山、神の　山。　　＃
日本一の　この　山を、　　＃
世界の　人が　あふぎ見る。　　＃
＜Ｐ－００６＞
　二　　早鳥　＃
昔、あるところに、一本の　くすの木が　生えました。＃
たいへんな　勢で、ひるも　夜も、ぐんぐんと　のびて　い＃
きました。＃
何年か　たつ　うちに、この　くすの木は、今まで　見た　＃
ことも　聞いた　ことも　ないほど、大きな　木に　なりま＃
した。＃
とうとう　その　てっぺんは、空の　雲に　とどくやう＃
＜Ｐ－００７＞
に　なりました。大きな　枝は　四方に　ひろがって、ど＃
こから　どこまで　つづいて　ゐるのか、わからないほど＃
に　なりました。＃
毎朝　日が　出ると、この　木の　西がは　は、何十と　い＃
ふ　村々が、日かげに　なります。午後に　なると、東が＃
はの　何十と　いふ　村々が、日かげに　なります。＃
「どうも　困った　もの　だ。」＃
「お米が　半分も　できない。」＃
「なんとか　ならない　ものかなあ。」＃
＜Ｐ－００８＞
あちらの　村でも　こちらの　村でも、かう　いって、この　＃
大木を　見あげました。＃
ある　ちゑの　ある　おぢいさんが　いひました。＃
「しかたが　ない。この　木を　切る　ことに　しよう。」＃
みんなは　びっくりして、＃
「こんな　大きな　木を、切って　いい　もの　でせうか。」＃
と　いひますと、おぢいさんは、＃
「でも、この　木は、切るより　ほかに　みちが　あるまい。」＃
と　いひました。＃
＜Ｐ－００９＞
そこで、切る　ことに　なりました。＃
こんな　大きな　木の　こと　ですから、それは　それは、＃
大さわぎ　でした。何十人、何百人と　いふ　木こりが、＃
長い　間　かかって、やっと　切りたふす　ことが　できま＃
した。＃
こんどは、切りたふした　木を、どうするかと　いふこ＃
とに　なりました。すると、あの　ちゑの　ある　おぢい＃
さんが、＃
「くりぬいて、舟を　作るが　よい。」＃
＜Ｐ－０１０＞
と　いひました。＃
そこで、大勢の　大工を　集めて、＃
舟を　作る　ことに　なりました。何＃
年か　たって、とうとう　一さうの　＃
舟が　できあがりました。海に　浮＃
かべて　みると、今まで　見た　こと＃
も　聞いた　ことも　ない、大きな　舟　＃
でした。＃
大勢の　せんどうが　乘りこんで、＃
＜Ｐ－０１１＞
「えいや、えいや。」と　こぎました。＃
おどろいたのは、その　舟の　早い　＃
こと　です。かいを　そろへて　一か＃
き　水を　かくと、舟は　七つの　大波＃
を　乘りきって、鳥の　とぶやうに　＃
走ります。＃
「なんと　いふ　早い　舟　だらう。」＃
「ふしぎ　だ、ふしぎ　だ。」＃
と、せんどうたちも、見て　ゐる　人＃
＜Ｐ－０１２＞
人も　いひました。すると、あの　ちゑの　ある　おぢい＃
さんが、＃
「いや、ふしぎでも　何でも　ない。あの　勢の　よい　く＃
すの木で、作った　舟　だ、勢の　よいのが　あたりまへ＃
さ。考へて　みれば、この　すばらしい　舟に　なる　た＃
めに、あの　木は、ぐんぐん　のびたのかも　しれない。＃
鳥のやうに　早い　舟　だから、早鳥と　いふ　名を　つ＃
けよう。」＃
と　いひました。＃
＜Ｐ－０１３＞
そののち、早鳥は、たくさんの　米や、麥や、豆を　つ＃
んで、都の　方へ　たびたび　通ひました。その　おかげで、＃
日かげに　なって　困って　ゐた　村々は、だんだん　ゆ＃
たかに　なって　いったと　いふこと　です。　　＃
　三　　海軍の　にいさん　＃
ぼくが　本を　讀んで　ゐると、くつの　音が　して、だ＃
れか　うちへ　はいって　來ました。出て　見ると、海軍＃
の　にいさん　でした。＃
＜Ｐ－０１４＞
にいさんは、にこにこしながら　ざしきへ　あがって、＃
おとうさんに　ごあいさつを　しました。うらの　畠に　＃
ゐた　おかあさんも　かけて　來て、頭から　手ぬぐひを　＃
取りながら、＃
「よく　かへって　來ましたね。」＃
と　うれしさうに　おっしゃいました。＃
にいさんは、前よりも　ずっと　色が　黒く　なって、強＃
さうに　見えました。＃
おかあさんは　お茶を　入れて、＃
＜Ｐ－０１５＞
「ほんたうに　しばらく　でしたね。まあ、一つ　おあが＃
り。」＃
と　おっしゃいました。＃
ぼくは　うれしくて、にいさんの　まはりを　とび歩き＃
ました。＃
にいさんは、＃
「勇、大きく　なったね。いい　子に　なった。」＃
と　いひました。＃
「ぼくも　大きく　なったら、海軍　だよ、にいさん。」＃
＜Ｐ－０１６＞
と　いふと、＃
「それは　いい。大ぢゃう＃
ぶ　なれるよ。」＃
と、にいさんは　ぼくの　頭＃
を　なでて　くれました。＃
ぼくは　うれしくて　たまりません。にいさんの　ばう＃
しを　かぶると、おとうさんが、＃
「かはいらしい　水兵さん　だぞ。」＃
と　いって、お笑ひに　なりました。ばうしには、金で　＃
＜Ｐ－０１７＞
字が　書いて　ありました。＃
「大日本、その　次は　何と　讀むの、にいさん。」＃
「大日本帝國。」＃
「あ、わかった、大日本帝國海軍。」＃
「さう　だ、よく　讀めたね。」＃
にいさんと　いっしょに、おふろに　はいりました。そ＃
れから、みんなで　ごはんを　いただきました。＃
にいさんは、しじゅう　にこにこしながら、軍かんや　＃
ひかうきの　おもしろい　話を、いろいろと　して　くれ＃
＜Ｐ－０１８＞
ました。にいさんの　乘って　ゐる　加賀は、かうくうぼか＃
んで、たくさんの　ひかうきが、廣い　かんぱんから　勇＃
ましく　とんで　行くさう　です。＃
「軍かんと　いっても、加賀などは、動く　ひかうぢゃ＃
うのやうな　もの　ですよ。」＃
と、にいさんは　いひました。＃
おとうさんは、「ほう、ほう。」と　いひながら、かんし＃
んして　聞いて　いらっしゃいました。＃
ねる　時には、ぼくは　にいさんと　並んで　ねました。　　＃
＜Ｐ－０１９＞
　四　　乘合自動車　＃
きのふ　乘合自動車に　乘って、ホ町の　をばさんの　＃
ところへ　行きました。松並木を　通りぬけると、たん＃
ぼでは、稻を　さかんに　かり取って　ゐました。＃
しばらく　行くと、牛の　引いて　ゐる　車を　おひこし＃
ました。サ村の　入口で、ルックサックを　せおった　中＃
學校の　生徒さんが、二人　乘りこみました。＃
道が　だんだん　のぼりに　なって、自動車は　大きな　＃
＜Ｐ－０２０＞
音を　たてて、ぐんぐん　のぼりま＃
した。兩がはから　さし出た　木＃
の　枝が、まどに　とどきさう　で＃
した。黄色や、赤い　木の　葉で、＃
車の　中が　明かるいほど　でした。＃
たうげに　來た　時、生徒さんが、＃
「海が　見える。」＃
と　大きな　こゑで　いひました。＃
山と　山との　間に、海が　光って　＃
＜Ｐ－０２１＞
ゐました。＃
たうげを　おりた　ところで、ま＃
た　止りました。そこで　女の　子＃
が　一人　乘りました。外では、そ＃
の　友だちが　四人　並んで、「さや＃
うなら、さやうなら。」と　いって、＃
手を　ふりました。＃
川へ　來ました。橋を　わたら＃
うと　すると、向かふからも　乘＃
＜Ｐ－０２２＞
合自動車が　來ました。めいめい　＃
左へ　よって、すれすれに　通りま＃
した。うんてんしゅさんが　おた＃
がひに　手を　あげて、元氣よく　あ＃
いさつを　しました。＃
ホ町に　近い　ところで、どこか＃
の　おばあさんが　乘りました。ふ＃
ろしきづつみを　さげて　ゐまし＃
たが、結びめから、小さな　日の丸＃
＜Ｐ－０２３＞
の　旗が　のぞいて　ゐました。私＃
が　わきへ　よって　席を　あける＃
と、おばあさんは　腰を　かけなが＃
ら、＃
「ありがたう、ぼっちゃんは　ど＃
こまで。」＃
と　たづねました。＃
「ホ町の　をばさんの　ところへ　＃
行くの　です。」＃
＜Ｐ－０２４＞
と　答へますと、＃
「さう　ですか、わたしも　ホ町ま＃
で　行きますよ。出征する　孫＃
が、今日　汽車で　通りますので＃
ね、見送りに　行く　ところな＃
ん　ですよ。」＃
と　いひました。＃
道の　まん中で、にはとりが　た＃
くさん　ゑさを　ひろって　ゐまし＃
＜Ｐ－０２５＞
たので、うんてんしゅさんが、「ブ＃
ウブウ。」と、ラッパを　ならしまし＃
た。にはとりは、おどろいて　右＃
と　左へ　逃げました。＃
まもなく　ホ町に　はいって、い＃
うびんきょくの　前で　止りました。＃
をばさんの　うちの　三郎さんが、＃
私の　おりるのを　見つけて、笑ひ＃
ながら　走って　來ました。　　＃
＜Ｐ－０２６＞
　五　　菊の　花　＃
秋空　高く　　＃
はれわたり、　　＃
菊の　花　咲く　　＃
明治節。　　＃
天皇陛下の　　＃
おぢいさま、　　＃
明治の　みかどを　　＃
あがめませう。　　＃
＜Ｐ－０２７＞
菊は　たふとい　　＃
ごもんしゃう、　　＃
私たちの　　＃
すきな　花。　　＃
天皇陛下の　　＃
おぢいさま、　　＃
明治の　みかどに　　＃
ささげませう。　　＃
＜Ｐ－０２８＞
　六　　かけっこ　＃
一年生の　旗取が　すんで、いよいよ　＃
ぼくたちの　かけっこに　なりました。＃
ぼくたち　七人は、白い　線に　そっ＃
て　並びました。＃
「用意。」＃
と　先生の　聲。＃
「どん。」＃
＜Ｐ－０２９＞
聞くが　早いか、かけだしました。＃
そのうちに、二人が　ぼくを　追ひこしました。＃
「負ける　ものか。」＃
ぼくは　一生けんめいに　走りました。＃
「早く、早く。」＃
「しっかり。」＃
おうゑんの　聲も、ごちゃごちゃに　なって　聞えます。＃
もう　何も　見えません。ぼくは　む中で　走りました。＃
すると、何かに　つまづいて　ころびました。＃
＜Ｐ－０３０＞
「しまった。」＃
と　思ひながら、すぐ　はね起きました。が、もう　みん＃
なから、すっかり　おくれて　ゐました。＃
「よさうか。」＃
と　思ひました。しかし、おとうさんが、「負けても　よ＃
いから、しまひまで　走れ。」と、おっしゃったのを　思ひ＃
出して、また　一生けんめいに　走りました。＃
「わあ。」＃
と　手を　たたいて、笑って　ゐる　ものも　あるやう　で＃
＜Ｐ－０３１＞
した。きまりが　わる＃
いと　思ひながら、ぼ＃
くは　おしまひまで　＃
走りつづけました。＃
すると、先生が　にこ＃
にこして、＃
「太郎君、えらいぞ。ころんでも、よく　しまひまで　走っ＃
た。かんしん、かんしん。」＃
と　いって、ほめて　くださいました。　　＃
＜Ｐ－０３２＞
　七　　かぐやひめ　＃
昔、竹取の　おきなと　いふ　おぢいさんが　ありまし＃
た。毎日　竹を　切っ＃
て　來て、ざるや　か＃
ごを　作って　ゐま＃
した。＃
ある日、根もと＃
の　たいそう　光っ＃
＜Ｐ－０３３＞
て　ゐる　竹を、一本　見つけました。その　竹を　切って、＃
わって　見ますと、中に　小さな　女の　子が　ゐました。＃
おぢいさんは　喜んで、その　子を　手のひらに　のせ＃
て、うちへ　かへりました。小さいので、かごの　中へ　入＃
れて、おばあさんと　二人で　育てました。＃
この　子を　見つけてから、おぢいさんの　切る　竹に＃
は、たびたび　金が　はいって　ゐました。おぢいさんは、＃
だんだん　お金持に　なって　いきました。＃
この　子は、ずんずん　大きく　なりました。三月ほど　＃
＜Ｐ－０３４＞
たつと、もう　十七八ぐらゐの　むすめに　見えました。＃
光るやうに　美しいので、家の　中も　明かるいほど　で＃
した。おぢいさんは、この　子に　かぐやひめと　いふ　名＃
を　つけました。＃
世間では、光るやうに　美しい　かぐやひめの　ことを　＃
聞いて、＃
「むすこの　嫁に　したい。」＃
「いや、うちへ　もらひたい。」＃
などと　いふ　人が、たくさん　ありました。何ごとにも　＃
＜Ｐ－０３５＞
すなほな　かぐやひめ　でしたが、いつも　おぢいさんに、＃
「私は、どこへも　まゐりたう　ございません。」＃
と　いって、ことわって　もらひました。＃
かうして　ゐる　間に、何年か　たちました。ある年の　＃
春の　ころから、月の　出る　晩に　なると、かぐやひめは　＃
月を　眺めて、じっと　考へこむやうに　なりました。＃
秋に　なって、月が　だんだん　美しく　なりました。＃
八月の　十五夜も　近く　なった　ある夜、かぐやひめは　＃
聲を　たてて　泣きました。＃
＜Ｐ－０３６＞
おぢいさんや　おばあさんは、大さわぎ　です。かぐ＃
やひめは、「なぜ　泣くのか。」と　聞かれて、はじめは　だ＃
まって　ゐましたが、しまひに　悲しさうに　答へました。＃
「私は、もと、月の　世界の　もので　ございます。長い　＃
間　おせわに　なりましたが、この　十五夜には、月の　＃
世界から　迎へに　まゐりますので、かへらなければ　＃
なりません。私は、お二人に　お別れするのが、何よ＃
りも　悲しう　ございます。」＃
この　ことばを　聞いて、おぢいさんも　おばあさんも　＃
＜Ｐ－０３７＞
びっくりしました。＃
「それは　たいへんな　こと　だ。だが、迎へに　來ても　＃
けっして　わたさないから、安心して、泣く　ことは　＃
おやめ。」＃
と、おぢいさんが　いひました。＃
おぢいさんは、なんとかして　かぐやひめを　引止め＃
たいと　思ひました。＃
おぢいさんは　考へに　考へた　すゑ、この　ことを　と＃
のさまに　申しました。すると、とのさまは、＃
＜Ｐ－０３８＞
「それは　ざんねんで　あらう。よし、その　晩　けらい＃
たちを　たくさん　やって、おまへの　うちを　守らせ＃
る　ことに　しよう。」＃
と　おっしゃいました。＃
いよいよ　十五夜に　なりました。おぢいさんの　家＃
の　まはりを、弓矢を　持った　とのさまの　けらいたち＃
が、いくへにも　とりかこみました。＃
おばあさんは、しめきった　一間の　中で、しっかりと　＃
かぐやひめを　だいて　をります。おぢいさんは、その　＃
＜Ｐ－０３９＞
入口に　立って　番を　して　をります。＃
夜中ごろに　なると、急に　お月さまが　十も　出たか＃
と　思ふほど、あたりが　明かるく　なりました。＃
「さあ、來たぞ。」＃
と、とのさまの　けらいたちは、弓に　矢を　つがへまし＃
たが、ふしぎに　手足の　力が　なくなって、どうする　こ＃
とも　できません　でした。＃
その時、大勢の　天人が、雲に　乘って　おりて　來まし＃
た。すると、しめきった　一間の　戸が、ひとりでに　あ＃
＜Ｐ－０４０＞
きました。おばあさんの　手＃
に、しっかりと　すがりつい＃
て　ゐた　かぐやひめの　から＃
だは、ひとりでに　外へ　出て　＃
行きました。もう、だれの　＃
力でも、なんとも　すること＃
が　できません　でした。か＃
ぐやひめは、おぢいさんと　＃
おばあさんに、＃
＜Ｐ－０４１＞
「とうとう　お別れしなければ　ならない　時が　まゐり＃
ました。お二人の　ご恩は　けっして　忘れません。＃
どうぞ、月の　夜には、私の　ことを　思ひ出して　くだ＃
さい。私も、あの　月の　世界から、お二人を　拜んで　＃
をりませう。」＃
と　いって、天人の　用意して　來た　車に　乘りました。＃
かぐやひめを　乘せた　車は、大勢の　天人に　かこま＃
れながら、しづかに　天へ　のぼって　行きました。　　＃
＜Ｐ－０４２＞
　八　　たぬきの　腹つづみ　＃
「さあ　さあ、集れ、月が　出た。　　＃
みんなで　つづみの　打ちくら　だ。」　＃
お山の　上では　親だぬき、　　＃
ぽんぽこ　あひづの　腹つづみ。　　＃
やぶの　かげから　木かげから、　　＃
ぬっくり　ぬっくり、子だぬきが、　　＃
＜Ｐ－０４３＞
出て　來て　お山へ　集って、　　＃
ずらりと　並んで　わ　に　なった。　　＃
空には　まるい　お月さま、　　＃
ぽっかり　浮かんだ　白い　雲。　　＃
月に　うかれて　腹つづみ、　　＃
ぽんぽこ　ぽんぽこ　打ちだした。　　＃
＜Ｐ－０４４＞
　九　　金の　牛　＃
これは　滿洲の　話　です。＃
海の　中に、小さな　島が　ありました。その　島に、一＃
匹の　金の　牛が　ゐました。＃
おなかが　すいたので、草を　たべようと　思って、あ＃
ちら　こちら　歩きましたが、この　島には、一本の　草も　＃
生えて　ゐません　でした。＃
金の　牛は、小高い　岩の　上に　あがって、四方を　見＃
＜Ｐ－０４５＞
わたしました。海の　向かふに、もう　一つ　島が　見え＃
ました。その　島には、みどりの　草が　一めんに　生え＃
て　ゐました。＃
「なんと　おいしさうな　草　だらう。一口　たべたいな＃
あ。」＃
と、金の　牛は、ひとりごとを　いひました。すると、ふ＃
しぎに　今まで　すいて　ゐた　おなかが、急に　いっぱい＃
に　なりました。＃
次の　日も、金の　牛は、岩の　上に　あがって、みどり＃
＜Ｐ－０４６＞
の　島を　眺めました。やはり、おなかが　いっぱいに　＃
なって、よい　氣持に　なりました。＃
かうして、金の　牛は、おなかが　すくと、みどりの　島＃
を　眺めては、おなかを　いっぱいに　しました。おかげ＃
で、金の　牛は、おなかが　すいて　困ると　いふことは　＃
ありません　でした。＃
ところで、ある日の　こと、金の　牛は、ふと　こんな　＃
ことを　考へました。＃
「ここから　見るだけでも、おなかが　いっぱいに　なる＃
＜Ｐ－０４７＞
の　だから、あの　島の　草を　ほんたうに　たべたら、＃
どんなに　おいしい　だらう。」＃
金の　牛は、もう、じっとして　ゐられなく　なりまし＃
た。＃
いきなり　海を　めがけて、どぶんと　とびこみました。＃
金の　牛は、自分の　からだが　金で　あった　ことを、＃
すっかり　忘れて　ゐたの　です。そのまま　海に　沈ん＃
で　しまひました。　　＃
＜Ｐ－０４８＞
　十　　滿洲の　冬　＃
寒さの　ために、まどガラス　一めん、まっ白に　こほっ＃
たのは　きれいな　もの　です。この　氷の　もやうは、＃
どれ　一つとして　同じ　ものが　ありません。人が　か＃
いても、こんなに　きれいには　かけない　でせう。＃
白い　菊の　花が、咲きそろっ＃
たやうなのも　あります。＃
白くじゃくが、羽を　いっぱ＃
＜Ｐ－０４９＞
いに　ひろげたやうなのも　あります。＃
星が　並んで、光って　ゐるやうなのも　あります。＃
子どもたちは、この　氷の　上に、指で　字を　書いたり、＃
人の　顏を　かいたりして　遊びます。＃
晝に　なると、いつのまにか、ガラスの　氷も　すっか＃
り　消えますが、次の　朝には、また　新しい　ちがった　＃
もやうが、美しく　あらはれます。＃
ガラスの　氷も　きれい　ですが、じゅ氷と　いふのは　＃
もっと　きれい　です。これは、木の　枝と　いふ　枝が、＃
＜Ｐ－０５０＞
すっかり　氷に　包まれて　＃
しまふの　です。ちゃうど　＃
水しゃうで　作った　木の＃
やう　です。＃
この　じゅ氷に　朝日が　＃
さすと、きらきらと　光っ＃
て、みごとな　もの　です。＃
風が　吹いて　來ると、木の　枝が　ふれあって、からから＃
と　かはいらしい　音を　たてます。＃
＜Ｐ－０５１＞
滿洲に　住んで　ゐる　日本の　＃
子どもたちは、いくら　寒くて＃
も、元氣よく　スケートを　しま＃
す。＃
さいしょは、スケートを　つ＃
けて　氷の　上に　立つ　ことも、＃
なかなか　むづかしいの　です＃
が、そのうちに　一メートル、五＃
メートル、二十メートルと、だんだん　うまく　すべれる＃
＜Ｐ－０５２＞
やうに　なるの　です。のちには、すべりながら　まがっ＃
たり、後向きに　すべったり、友だちと　手を　つなぎあっ＃
たりして、思ふままに　すべります。かう　なると、おも＃
しろくて　おもしろくて　たまりません。＃
寒ければ　寒いほど、子どもたちは　喜びます。それ＃
は、寒いほど、スケート場の　氷が　かちかちに　なって、＃
すべりよく　なるから　です。＃
滿洲人の　子どもは、木で　こしらへた　こまを、氷の　＃
上で　まはして　遊びます。細い　棒の　先に　ひもを　つ＃
＜Ｐ－０５３＞
けて、その　ひもで　こまの　腹を　たたきます。すると、＃
こまは　勢よく　ぐんぐん　まはります。ほっぺたを　つ＃
めたい　風に　赤くしながら、む中に　なって　まはしま＃
す。　　＃
　十一　　鏡　＃
　ねえさん　＃
花子さんは、日の　あたる　ところへ、小さな　鏡を　持＃
って　出ました。＃
＜Ｐ－０５４＞
鏡で　日の　光を　受けると、きらきら　光ります。花＃
子さんは、その　光を、二かいの　窓の　しゃうじに　あて＃
て　みました。すると、その　しゃうじを　あけて、中か＃
ら　ねえさんが　のぞきました。花子さんは、ねえさん＃
の　顏へ　光を　あてました。ねえさんは、＃
「おお、まぶしい。」＃
と　いって、手で　顏を　かくしました。さうして、＃
「いたづらな　花子さんね。」＃
と　いって、笑ひました。　　＃
＜Ｐ－０５５＞
　をんどり　＃
勇さんが、えんがはで、鏡を　持って　遊んで　ゐまし＃
た。そこへ、勇さんに　よく　なれた　をんどりが、ゑさ＃
でも　もらへるのかと　思って、やって　來ました。＃
勇さんは、をんどりに　鏡を　見せました。＃
をんどりは、ちょっと　おどろいて、逃げださうと　し＃
ましたが、急に　ひきかへして、鏡の　方へ　よって　來ま＃
した。＃
をんどりは、首の　毛を　さか立てて、鏡に　うつる　自＃
＜Ｐ－０５６＞
分の　かげを　めがけて、とびついて　來ます。鏡の　中＃
の　をんどりも、首の　毛を　さか立てて　ゐます。＃
「おや、自分の　かげ＃
を、ほかの　をんど＃
りと　思って　ゐる＃
の　だな。」＃
と、勇さんは　思ひま＃
した。＃
をんどりは、力いっぱい　鏡を　くちばしで　つつきま＃
＜Ｐ－０５７＞
す。＃
たいへんな　けんくゎに　なりました。＃
勇さんは、かはいさうに　なって、鏡を　ひっこめまし＃
た。すると、をんどりは、元氣よく　羽ばたきを　しなが＃
ら、＃
「こけこっこう。」＃
と　聲高く　歌ひました。　　＃
　おかあさん　＃
昔、孝行な　娘が　ありました。おかあさんが、長い　＃
＜Ｐ－０５８＞
間　病氣で　ねて　ゐましたので、晝も　夜も、一心に　か＃
いはうしましたが、病氣は　わるく　なるばかり　でし＃
た。＃
ある日、おかあさんは　娘を　そばへ　呼んで、何か　包＃
んだ　物を　わたしました。＃
「これを　おまへに　あげるから、だいじに　しまって　＃
おおきなさい。もし　おかあさんに　あひたかった＃
ら、これを　あけて　ごらんなさい。」＃
と　いって、おかあさんは、まもなく　なくなって　しま＃
＜Ｐ－０５９＞
ひました。＃
娘は　泣いて　悲しみましたが、しかたが　ありませ＃
ん。それからは、おとうさんと　二人で、さびしく　くら＃
して　ゐました。＃
娘は、ふと、おかあさんの　くださった　物の　ことを　＃
思ひ出しました。そっと　一間へ　はいって、包を　あけ＃
て　見ますと、中から　出たのは、一枚の　鏡　でした。＃
まだ、鏡と　いふ　ものが、めったに　ない　ころの　こ＃
と　でしたから、娘には、それが　何で　あるか　わかりま＃
＜Ｐ－０６０＞
せん　でした。＃
そっと　のぞいて　見ると、女の　顏が　うつって　ゐま＃
す。子どものやう　ですが、なく＃
なった　おかあさんに　そっくり　＃
でした。娘は　思はず、＃
「おかあさん。」＃
と　いって、鏡を　だきしめまし＃
た。　　＃
＜Ｐ－０６１＞
　十二　　神だな　＃
もう　すぐ　お正月なので、おぢいさんは、神だなを　＃
おかざりに　なりました。＃
新しい　しめなはを　はったり、さ＃
かきを　あげたり　なさいました。＃
小さい　三方に、白い　紙と　うら白＃
を　しいて、鏡餅を　のせて　お供へに　＃
なりました。おみきも　お供へに　な＃
＜Ｐ－０６２＞
りました。＃
それから、おざしきの　床の間にも、鏡餅を　おかざり＃
に　なりました。＃
おぢいさんは、＃
「さあ、これで　いつ　お正月が　來ても　いいぞ。」＃
と　おっしゃいました。＃
夕方、神だなに　あかりを　あげて、みんなで　拜みま＃
した。＃
小さい　弟が、＃
＜Ｐ－０６３＞
「神さま、お喜びね。」＃
と　いひました。＃
新しい　しめなは、白い　紙、うら白の　葉、何もかも　＃
さっぱりと　きれいに　見えて、もう　お正月に　なった＃
やうな　氣が　しました。　　＃
　十三　　新年　＃
門松　立てて、しめかざりして、　　＃
うち中　そろって、　　＃
＜Ｐ－０６４＞
新年　おめでたう　ございます。　　＃
お宮へ　まゐって、學校へ　行って、　　＃
「君が代」　歌って、　　＃
新年　おめでたう　ございます。　　＃
たこあげしたり、羽つきしたり、　　＃
みんな　にこにこ、　　＃
新年　おめでたう　ございます。　　＃
＜Ｐ－０６５＞
書きぞめの　字は　「昭和の　光」、　　＃
上手に　できて、　　＃
新年　おめでたう　ございます。　　＃
　十四　　いうびん　＃
今まで、羽を　ついて　ゐた　花子さんと　春枝さんは、＃
こんどは、いうびんごっこを　することに　しました。＃
花子さんは、弟の　一郎さんを　呼んで　來ました。一＃
＜Ｐ－０６６＞
郎さんは　喜んで、青い　紙を　小さく　＃
切って、切手を　こしらへました。＃
春枝さんは、はがきと　ふうとう＃
を　こしらへました。＃
花子さんは、おかあさんから　大＃
きな　紙の　箱を　いただいて　來て、＃
ポストを　こしらへました。＃
花子さんと　春枝さんは、えんが＃
はで、兩方に　分れて　すわりました。一郎さんは、まん＃
＜Ｐ－０６７＞
中に　ポストを　おいて、その　そばに　すわりました。＃
花子さんと　春枝さんは、だまって　何か　書きはじめ＃
ました。＃
その　間に、一郎さんは、かばんを　取りに　行きまし＃
た。一郎さんが、もとの　ところへ　かへって　來ますと、＃
ポストの　中には、もう　二枚の　はがきが　はいって　ゐ＃
ました。一郎さんは、それを　かばんに　入れて、くばり＃
に　出ました。＃
「すず木さん。」＃
＜Ｐ－０６８＞
と　いって、一枚を　花子さんに　わたしました。＃
「林さん。」＃
と　いって、一枚を　春枝さんに　わたしました。＃
花子さんは、にこにこして　讀みました。＃
「新年　おめでたう　ございます。」＃
春枝さんも、受取った　はがきを　讀んで　みますと、やっ＃
ぱり＃
「新年　おめでたう　ございます。」＃
と　書いて　ありました。＃
＜Ｐ－０６９＞
「あら、おんなじ　ですね。」＃
と　いって、二人とも　笑ひました。＃
一郎さんが　大きな　聲で、＃
「もう　ありませんか。あったら　＃
早く　出して　ください。」＃
と　いひました。＃
花子さんは、＃
「こんどは、私が　先に　書きます＃
から、春枝さん、ごへんじを　ください。」＃
＜Ｐ－０７０＞
と　いって、手紙を　書きました。さうして、一郎さんの　＃
ところへ　持って　行って、＃
「四錢の　切手を　一枚　ください。」＃
と　いひました。＃
一郎さんが　切手を　わたしますと、花子さんは　それ＃
を　はって　ポストへ　入れました。＃
一郎さんは、その　手紙を　春枝さんの　ところへ　持＃
って　行って、＃
「林さん。」＃
＜Ｐ－０７１＞
と　いって、わたしました。＃
春枝さんが　あけて　見ますと、＃
「あしたから　學校が　始りますが、また　いっしょに　＃
行きませう。朝　さそって　ください。」＃
と　書いて　ありました。＃
春枝さんは、＃
「お手紙を　くださって、ありがたう　ございます。あ＃
したの　朝　きっと　おさそひしますから、待って　ゐ＃
て　ください。」＃
＜Ｐ－０７２＞
と　書いて、切手を　はって　ポストへ　入れました。　　＃
　十五　　にいさんの　入營　＃
青年學校の　服を　着て、赤い　たす＃
きを　かけた　にいさんは、しんるゐ＃
の　人たちに　送られて、兵營の　門ま＃
で　來ました。＃
にいさんは、ここで　みんなに　あ＃
いさつを　して、門の　中へ　はいりま＃
＜Ｐ－０７３＞
した。おとうさんと　私も　はいりました。＃
門を　はいると、ゑい兵所に、兵たいさんが　七八人　＃
腰を　かけて　ゐました。＃
廣い　庭の　中ほどには、何本も　立札が　立てて　あり＃
ました。＃
にいさんは、兵たいさんに　あんないされて、そちら＃
へ　行きました。にいさんと　同じやうな　人が、たくさ＃
ん　ゐました。＃
金すぢの　えりしゃうを　つけた　兵たいさんが　來て、＃
＜Ｐ－０７４＞
名を　呼始めました。だんだん　呼んで　いって、＃
「山田　武。」＃
と、にいさんの　名を　呼びました。にいさんは　大きな　＃
聲で、＃
「はい。」＃
と　答へました。私は、なんだか、自分が　呼ばれたやう＃
に　思ひました。＃
廣い　庭の　向かふに　兵舍が　立って　ゐます。そこ＃
へ　にいさんたちは　行きました。＃
＜Ｐ－０７５＞
おとうさんと　私は、つきそひの　人たちの　休む　と＃
ころで　待って　ゐました。馬に　乘った　軍人さんが、＃
門を　はいって　來ると、ゑい兵所に　ゐる　兵たいさん＃
が、＃
「けい禮。」＃
と　元氣な　聲で　いって、立ちあがって　けい禮を　しま＃
した。＃
まもなく、新しい　軍服を　着た　一人の　兵たいさん＃
が、私たちの　ところへ　來ました。見ると、それが　に＃
＜Ｐ－０７６＞
いさん　でした。見＃
ちがへるほど　りっ＃
ぱな　兵たいさんに　＃
なって　ゐたので、＃
私は　びっくりしま＃
した。にいさんは、＃
「おとうさん、お待たせしました。國男、これは　にい＃
さんが　着て　ゐた　服　だ。おまへ　持って　かへっ＃
て　おくれ。」＃
＜Ｐ－０７７＞
と　いって、ふろしき包を　わたしました。＃
にいさんの　赤い　えりしゃうには、星が　一つ　つい＃
て　ゐました。おとうさんは　にこにこして、＃
「りっぱな　兵たいさん　だな。これなら、ごほうこう＃
も　できよう。しっかり　たのむよ。」＃
と　おっしゃいました。　　＃
　十六　　雪の　日　＃
ちら　ちら　ちらと　　＃
＜Ｐ－０７８＞
雪が　ふる。　　＃
すずめ　親子の　　＃
ものがたり。　　＃
「山は　大雪、　　＃
日は　くれる。　　＃
烏が　急いで　　＃
かへったよ。　　＃
＜Ｐ－０７９＞
烏の　かん太は　　＃
寒からう。　　＃
さ、やすまうよ。」と　　＃
親すずめ。　　＃
「やすみませう。」と　　＃
子すずめが、　　＃
「今夜は　だいぶ　　＃
つもる　でせう。」　＃
＜Ｐ－０８０＞
すずめ　親子の　　＃
ねた　あとは、　　＃
さら　さら　さらと　　＃
雪の　音。　　＃
　十七　　白兎　＃
白兎が、島から　向かふの　陸へ　行って　みたいと　思＃
ひました。＃
＜Ｐ－０８１＞
ある日、はまべへ　出て　見ると、わにざめが　ゐまし＃
たので、これは　よいと　思って、＃
「君の　仲間と　ぼくの　仲間と、どっちが　多いか、くら＃
べて　みようでは　ないか。」＃
と　いひました。わにざめは、＃
「それは　おもしろからう。」＃
と　いって、すぐに　仲間を　大勢　つれて　來ました。白＃
兎は　それを　見て、＃
「君の　仲間は　ずゐぶん　多いな。ぼくらの　方が　負＃
＜Ｐ－０８２＞
けるかも　しれない。＃
ぼくが、君らの　せ＃
なかの　上を、かぞ＃
へながら　とんで　＃
行くから、向かふの　＃
陸まで　並んで　み＃
たまへ。」＃
と　いひました。＃
わにざめは、白兎の　＃
＜Ｐ－０８３＞
いふ　とほりに　並び＃
ました。白兎は、「一＃
つ、二つ、三つ、四つ。」＃
と　かぞへながら、渡＃
って　行きました。も＃
う　一足で　陸へ　あ＃
がらうと　いふ　時、白兎は、＃
「君らは　うまく　だまされたな。ぼくは　ここへ　渡っ＃
て　來たかったの　だ。あははは。」＃
＜Ｐ－０８４＞
と　いって、笑ひました。＃
わにざめは　それを　聞くと、たいそう　おこりました。＃
一番　しまひに　ゐた　わにざめが、白兎を　つかまへて、＃
からだの　毛を　みんな　むしり取って　しまひました。＃
白兎は　痛くて　たまりません、はまべで　しくしく　＃
泣いて　ゐました。その時、大勢の　神樣が　お通りに　＃
なって、＃
「おまへ、なぜ　泣いて　ゐるのか。」＃
と　おたづねに　なりました。白兎が　今までの　ことを　＃
＜Ｐ－０８５＞
申しますと、神樣は、＃
「それなら、海の　水を　あびて、ねて　ゐるが　よい。」＃
と　おっしゃいました。＃
白兎は　すぐ　海の　水を　あびました。すると、痛み＃
が　いっそう　ひどく　なって、どうにも　たまらなく　な＃
りました。＃
そこへ、大國主のみこと　と　いふ　神樣が　おいでに　＃
なりました。この　かたは、さきほど　お通りに　なった　＃
神樣がたの　弟さん　です。兄樣がたの　重い　ふくろを　＃
＜Ｐ－０８６＞
せおって　いらっしゃったので、おそく　おなりに　なった＃
の　です。＃
この　大國主のみことも、＃
「おまへ、なぜ　泣いて　ゐ＃
るのか。」＃
と　おたづねに　なりました。＃
白兎は　泣きながら、また　＃
今までの　ことを　申しまし＃
た。大國主のみことは、＃
＜Ｐ－０８７＞
「かはいさうに。早く　川の　水で　からだを　洗って、＃
がまの　ほ　を　しいて、その　上に　ころがるが　よい。」＃
と　おっしゃいました。＃
白兎が　その　とほりに　しますと、からだは、すぐ　も＃
とのやうに　なりました。喜んで　大國主のみことに、＃
「おかげで　すっかり　なほりました。あなたは、おな＃
さけ深い　おかた　ですから、今は　重い　ふくろを　せ＃
おって　いらっしゃっても、のちには　きっと　おしあ＃
はせに　おなり　でせう。」＃
＜Ｐ－０８８＞
と　申しました。　　＃
　十八　　たこあげ　＃
をぢさん、この間　作って　いただいた　たこを、今日　＃
あげて　みました。ほんたうに　よく　あがりました。＃
あの　日から、毎日　雪が　降ったり　雨が　降ったりし＃
て、あげられなかったの　ですが、今日は　よい　お天氣　＃
でした。それに　日曜なので、朝から　あげて　遊びま＃
した。＃
＜Ｐ－０８９＞
あの　たこを、次郎と　二人で　外へ　持って　出た　時＃
は、みんなが、「へんな　たこ　だ。」と　い＃
って、笑ひました。こんな　たこは、今＃
まで　だれも　見た　ことが　ないの　で＃
せう。口わるの　三ちゃんは、＃
「なん　だ、骨が　二本しか　ないぢゃ　＃
ないか。こんな　ものが　あがる　も＃
のか。」＃
と　いひました。ぼくは　だまって　ゐ＃
＜Ｐ－０９０＞
ました。＃
みんな、めいめいの　たこを　あげて　ゐます。＃
次郎に　たこを　持たせ、ぼくは　糸を　少し　のばして、＃
風に　向かって　走りました。たこは　すっと　あがりま＃
した。けれども、空で　二三べん　まはって、落ちて　し＃
まひました。＃
「やあい。」＃
と　いったのは、やはり　三ちゃん　だったやう　です。＃
をぢさんに　教へて　いただいたやうに、たこの　糸め＃
＜Ｐ－０９１＞
を　なほして、下糸を　少し　つめました。今度は　あがり＃
ました。十メートルばかり　糸を　出して、かげんを　見＃
て　ゐますと、たこは　左の　方へ　かたむきます。それ＃
で　また　おろして、たこの　右の　かたへ、紙の　テープ＃
を　つけました。＃
三度めに　あげた　時は、たこは　まっすぐに　あがり＃
ました。ちゃうど　よい　風が　吹いて　來て、糸を　のば＃
すと　ぐんぐん　あがります。四五十メートル　のばし＃
た　時は、だれの　たこよりも　高く　あがって　ゐまし＃
＜Ｐ－０９２＞
た。次郎は　喜んで、＃
「ばんざい。」＃
と　いひました。＃
ぼくは　糸を　どんどん　＃
くり出しました。みんな＃
が、＃
「わあっ。」＃
と　いひました。＃
とうとう、百五十メートルの　糸を　みんな　出しまし＃
＜Ｐ－０９３＞
た。だれの　たこ　だって、ぼくの　た＃
この　足もとにも　よりつけません。＃
ほかの　たこは、下の　方で　あがった＃
り　落ちたりして　ゐますが、ぼくの　＃
たこは、高い　空に　小さく　見えて、すわったやうに　動＃
きません。＃
みんなが　ぼくらの　そばへ　來て、＃
「よく　あがって　ゐるな。」＃
「ちょっと　糸を　持たせて　くれたまへ。」＃
＜Ｐ－０９４＞
「よく　引っぱって　ゐるな。」＃
などと　いひます。＃
ぼくも　次郎も、うれしくて　うれしくて　たまりませ＃
ん。この　よく　あがった　ところを、をぢさんに　見せ＃
て　あげたいと　思ひました。　　＃
　十九　　豆まき　＃
今日は　節分で、豆まきの　日　です。＃
「太郎、今年から　おまへが　まくの　だ。」＃
＜Ｐ－０９５＞
と、おとうさんが　おっしゃいました。＃
おかあさんは、豆を　たくさん　いって　ますに　入れ、＃
神だなに　お供へに　なりました。ぼくは、早く　晩に　＃
なれば　よいと　思ひました。＃
だんだん　うすぐらく　なると、あちらでも　こちらで＃
も、豆まきの　聲が　聞えます。おとうさんが、＃
「うちでも　そろそろ　始めるかね。」＃
と　おっしゃって、神だなから、ますを　おろして　くだ＃
さいました。＃
＜Ｐ－０９６＞
ぼくは、少し　きまりが　わるかったが、思ひきって、＃
「福は　内、鬼は　外。」＃
と　聲を　はりあげて、豆を　まきました。方々の　へや＃
を　まいて　歩くと、妹や　＃
弟が　後から　ついて　＃
來て、「きゃっ、きゃっ。」＃
と　大さわぎを　＃
して、豆を　拾ひ＃
ました。＃
＜Ｐ－０９７＞
ぼくも　おもし＃
ろく　なって、だん＃
だん　大きな　聲を　＃
出しながら、豆を　＃
まきました。そのう＃
ちに　うっかりして、「鬼＃
は　内、福は　外。」と　いった＃
ので、みんなが　笑ひました。＃
しまひに　えんがはへ　出て、「鬼は　外、鬼は　外。」と　＃
＜Ｐ－０９８＞
いひながら、豆を　庭へ　向かって　元氣よく　まきます＃
と、おかあさんが　雨戸を　ぴしゃりと　おしめに　なり＃
ました。＃
それから、みんなで　豆を　年の　數だけ　たべました。　　＃
　二十　　金しくんしゃう　＃
軍人さんの胸は、＃
くんしゃうでいっぱいです。＃
花のやうなくんしゃう、＃
＜Ｐ－０９９＞
日の丸のやうなくんしゃう、＃
金のとびの金しくんしゃう。＃
昔、神武天皇のお弓に止った＃
あの金のとびが、＃
今、軍人さんの胸にかがやいて、＃
りっぱなてがらを＃
あらはしてゐるのです。　　＃
＜Ｐ－１００＞
　二十一　　病院の兵たいさん　＃
この前の日曜日に、兵たいさんの病院へ、ゐもんに行＃
きました。戰爭できずを受けたり、病氣になったりし＃
た兵たいさんが、大勢いらっしゃいました。そのかた＃
がたへ、花をさしあげました。それから、學校のことや、＃
うちのことなど、いろいろお話しました。＃
兵たいさんたちは、たいそう喜んでくださいました。＃
私は、また、きっとお見まひにまゐりますといって、＃
＜Ｐ－１０１＞
かへりました。＃
四五日たって、兵たい＃
さんから、お手紙がまゐ＃
りました。＃
この間は、お見まひく＃
ださってありがたう。＃
あなたがたのやうな＃
子どもさんが、ゐもん＃
に來てくださると、私＃
＜Ｐ－１０２＞
たちは、ほんたうにうれしいのです。あなたのいらっ＃
しゃった時は、少しきずが痛んでゐましたが、あなた＃
のお話がおもしろかったので、痛みも忘れるほどで＃
した。＃
きれいな花を、わざわざ持って來てくださって、あり＃
がたう。あの花が、私の枕もとで、今もまだ咲いてゐ＃
ます。枯らしてはたいへんだと思って、毎朝、水をと＃
りかへてゐます。＃
この次には、何か、ゐもんひんを持って來てくださる＃
＜Ｐ－１０３＞
とのことでしたが、そんなしんぱいをしないでくだ＃
さい。あなたがたが來て、お話をしてくださるのが、＃
何よりもうれしいのです。その代り、今度は、この前＃
のやうに、はづかしがらないで、ぜひ、いうぎをして＃
見せてください。＃
あれから、きずもだんだん痛まなくなりました。こ＃
の次におあひする時には、戰爭のことや、支那の子ど＃
ものお話をしてあげませう。　　＃
＜Ｐ－１０４＞
　二十二　　支那の子ども　＃
ここは、支那のある町です。＃
せまい通には、赤いらふそくや、＃
にはとりの卵や、あひるの卵や、に＃
んにくや、はすの實などを、戸口に＃
並べてゐる店があります。のき先＃
に、大きなぶたの肉をぶらさげ、大＃
きなはうちゃうで、一きれ一きれ＃
＜Ｐ－１０５＞
切取って、賣ってゐる店もあります。＃
今、日本の兵たいさんが、車にいっぱい荷物をつんで、＃
この通にさしかかりました。町の男や女たちが、この＃
兵たいさんに、ていねいにあいさつします。何かわか＃
らぬことを、がやがや話したり、にこにこ笑ったりしな＃
がら、立止って、兵たいさんを見てゐるものもあります。＃
このせまい通には、買物をする人たちがたくさんゐ＃
るので、兵たいさんは、車を引きながら、ときどき、＃
「ちょっとごめんよ。」＃
＜Ｐ－１０６＞
といひます。すると、みんなは、すぐよけて兵たいさん＃
を通らせます。＃
通をぬけて、町の入口の門のところまで來ますと、そ＃
こには、日本の兵たいさんが、銃を持って番をしてゐま＃
す。車を引いてゐる兵たいさんが、けい禮をします。＃
番をしてゐる兵たいさんも、けい禮をします。口には＃
いひませんが、おたがひに、＃
「ごくらうさま。」＃
「ごくらうさま。」＃
＜Ｐ－１０７＞
と、心の中でいってゐるにちがひありません。＃
門を過ぎると、廣場があります。そこで遊んでゐる支＃
那の子どもたちが、車を引いてゐる兵たいさんを見ると、＃
「兵たいさん。」＃
「兵たいさん。」＃
といって、やって來ました。＃
子どもたちは、ちゃんと、「兵たいさん」といふ日本語＃
を、おぼえてゐるのです。でも、その後は、がやがや何＃
かわからぬことをいひながら、三四人は、車のかぢ棒に＃
＜Ｐ－１０８＞
とりつきます。おくれて來た二三人＃
は、車の後押しをします。みんな一生＃
けんめいです。＃
かうして、たくさんの支那の子ど＃
もたちに手つだはれながら、日本の＃
兵たいさんは、にこにこして車を引＃
いて行きます。＃
すると、とつぜん一人の子どもが、＃
大きな聲で、　　＃
＜Ｐ－１０９＞
青空高く　　＃
日の丸あげて、　　＃
と歌ひだしました。それについて、子どもたちは聲を＃
そろへて歌ひました。　　＃
青空高く　　＃
日の丸あげて、　　＃
ああ、美しい、　　＃
日本の旗は。　　＃
＜Ｐ－１１０＞
　二十三　　おひな樣　＃
春が來ました、おひな樣。　　＃
さあさ、かざってあげませう。　　＃
＜Ｐ－１１１＞
まあ、お久しい、だいり樣。　　＃
あなたは一番上の段。　　＃
赤いはかまの官女さん、　　＃
三人並んで次の段。　　＃
笛やたいこでにぎやかな　　＃
五人ばやしは三の段。　　＃
＜Ｐ－１１２＞
かざればみんなにこにこと、　　＃
おうれしさうなおひな樣。　　＃
あられ、ひし餅、桃の花、　　＃
なたねの花も供へませう。　　＃
　二十四　　北風と南風　＃
北風と南風は、たいそう仲がわるいやうです。＃
冬の間は、寒い北風が、びゅうびゅうと吹きまはって、＃
＜Ｐ－１１３＞
雪やあられを降らせたり、水をこほら＃
せたりします。＃
しかし、北風が少し＃
ゆだんをしてゐると、＃
暖い南風が、そっとやって來ます。さ＃
うして、北風の作った雪の山や、氷の池＃
を、少しでもとかさうとします。する＃
と、北風は、すぐ南風を追ひはらひます。＃
こんなことを、何べんもくりかへし＃
＜Ｐ－１１４＞
てゐるうちに、冬が終に近づきます。今までは、うとう＃
と眠って、弱い光を出してゐたお日樣が、目をさまして、＃
暖い光を送るやうになります。＃
かうなって來ると、南風は、もう前のやうに負けてば＃
かりはゐません。＃
「北風、おまへは、もう北の國へかへってしまへ。」＃
と、南風がいひます。すると、北風は、＃
「なあに、まだおまへの出て來る時ではない。わたし＃
は、もう一度おまへを追ひはらって、野や山をまっ白＃
＜Ｐ－１１５＞
にしてやる。」＃
と答へます。さうして、ありったけの＃
力を出して、南風を追ひたてます。野＃
や山が、また、雪でまっ白になります。＃
しかし、南風は、すぐに元氣をとりか＃
へします。南の國か＃
ら、大勢の仲間をつれ＃
て來て、北風をどしどしと追ひまくり＃
ます。雪でも氷でも、かたはしからと＃
＜Ｐ－１１６＞
かして、野や山を暖くします。暖い雨を、何べんか降ら＃
せます。すると、草や木が、だんだんと芽をふき、花のつ＃
ぼみがふくらんで來ます。＃
南風はいひます。＃
「北風が、雪や氷で、野山をまっ白にした代りに、わた＃
しは、赤い花や、みどりの若草で、野山をかざって見＃
せよう。」　　＃
　二十五　　羽衣　＃
＜Ｐ－１１７＞
白いはまべの　　＃
松原に、　　＃
波がよったり、　　＃
かへったり。　　＃
かもめすいすい　　＃
とんで行く、　　＃
空にかすんだ　　＃
富士の山。　　＃
＜Ｐ－１１８＞
一人の漁夫が、みほの松原へ出て來ます。＃
漁夫「今日は、よいお天氣だ。なんとまあ、よいけしきだ＃
らう。」＃
けしきに見とれながら歩いてゐますと、どこからか、よい＃
にほひがして來ます。見ると、向かふの松の枝に、きれい＃
な物がかかってゐます。＃
漁夫「あれは何だらう。」＃
漁夫は、そばへよってよく見ます。＃
漁夫「着物だな。こんなきれいな着物は、見たことがない。＃
＜Ｐ－１１９＞
持ってかへって、うちのたからにしよう。」＃
漁夫は、その着物を取って、持って行かうとします。＃
松の木の後から、一人の女が出て來ます。＃
女「もし、それは私の着物でございますが、どうなさる＃
のでございますか。」＃
漁夫「いや、これは私が拾ったのです。持ってかへって、＃
うちのたからにしようと思ひます。」＃
女「それは、天人の羽衣と申しまして、あなたがたには＃
ご用のない物でございます。どうぞ、お返しくだ＃
＜Ｐ－１２０＞
さいませ。」＃
漁夫「天人の羽衣なら、なほさらお返しはできません。こ＃
の國のたからにいたします。」＃
天人「それがないと、天へかへることができません。どう＃
ぞ、お返しくださいませ。」＃
漁夫「いや、返されません。」＃
天人は、悲しさうな顏をして、じっと空を見あげます。天＃
人のしをれたやうすを見て、＃
漁夫「おきのどくですから、羽衣をお返しいたしませう。」＃
＜Ｐ－１２１＞
天人「それは、ありがたうございます。では、こちらへい＃
ただきませう。」＃
漁夫「お待ちください。天人のまひを、まって見せていた＃
だけませんか。」＃
天人「それでは、お禮にまひませう。でも、その羽衣がな＃
いと、まふことができません。」＃
漁夫「といって、羽衣をお返ししたら、あなたは、まはず＃
にかへっておしまひになるでせう。」＃
天人「天人は、うそといふものを知りません。」＃
＜Ｐ－１２２＞
漁夫「ああ、これは、はづかしいことを申しました。」＃
漁夫は羽衣を返します。天人は、それを着て、靜かにまひ＃
ます。＃
天人「月の都の天人たちは、　　＃
みんなそろってまひ上手。　　＃
黒い衣のそろひでまふと、　　＃
月はまっ黒やみの夜。　　＃
＜Ｐ－１２３＞
白い衣のそろひでまふと、　　＃
月は十五夜まんまるい。」　＃
天人は、まひながら、だんだん天へのぼって行きます。　　＃
右に、左に　　＃
ひらひらと、　　＃
ゆれるたもとが　　＃
美しい。　　＃
＜Ｐ－１２４＞
白いはまべの　　＃
松原に、　　＃
波がよったり、　　＃
かへったり。　　＃
いつのまにやら　　＃
天人は、　　＃
春のかすみに　　＃
＜Ｐ－１２５＞
つつまれて、　　＃
かもめすいすい　　＃
とんで行く、　　＃
空にほんのり　　＃
富士の山。　　＃
