＜出典＞５３２　　　国定読本　５期３－２
＜Ｐ－００２＞
　もくろく　＃
一　　神の劒………四　＃
二　　稻刈………八　＃
三　　祭に招く………十四　＃
四　　村祭………十八　＃
五　　田道間守………二十　＃
六　　みかん………二十五　＃
七　　潛水艦………二十九　＃
八　　南洋………三十五　＃
九　　映畫………四十八　＃
十　　聖徳太子………五十　＃
十一　　養老………五十四　＃
＜Ｐ－００３＞
十二　　ぼくの望遠鏡………六十一　＃
十三　　火事………六十八　＃
十四　　軍旗………七十六　＃
十五　　ゐもん袋………七十九　＃
十六　　雪合戰………八十八　＃
十七　　菅原道眞………九十八　＃
十八　　梅………百二　＃
十九　　小さな温床………百六　＃
二十　　雪舟………百十　＃
二十一　　三勇士………百十六　＃
二十二　　春の雨………百二十四　＃
二十三　　大れふ………百二十六　＃
二十四　　東京………百三十　＃
＜Ｐ－００４＞
　一　　神の劒　＃
神武天皇は、日［ひう］向［が］をおたちになって、大［やま］和［と］の方へお進＃
みになりました。＃
はるばると海を渡って、紀［き］伊［い］の熊［くま］野［の］といふ村にお着＃
きになりますと、ふいに、大きな熊［くま］が山から出て來て、＃
すぐ、またかくれてしまひました。＃
天皇は、ふしぎに、ねむくおなりになりました。お供＃
をしてゐた大勢の御［み］軍［いくさ］人［びと］たちも、ねむくなりました。＃
＜Ｐ－００５＞
いつのまにか、天皇は、おやすみになっていらっしゃい＃
ます。御軍人たちもみんな、ぐうぐうねてしまひました。＃
この村に、高［たか］倉［くら］下［じ］といふ人がゐました。夜、ふしぎな＃
ゆめを見ました。＃
天［あま］照［てらす］大［おほみ］神［かみ］が、たけみかづちの神といふ強い神樣に、か＃
う仰せになってゐます。＃
「日本の國は、今、たいそうさわがしいやうである。わ＃
がみこたちも、なんぎをしてゐられるであらう。」＃
すると、たけみかづちの神は、＃
＜Ｐ－００６＞
「この劒を、天皇にさしあげることに＃
いたしませう。熊野の村に、高倉下＃
といふ者がをりますから、その者の＃
倉［くら］を目あてに、この劒を落します。―＃
―高倉下よ。朝に＃
なったら、きっとこ＃
の劒を、天皇にさしあげるやうに。」＃
この御聲とともに、劒が天から落＃
ちて來ました。＃
＜Ｐ－００７＞
高倉下は、はっと目がさめました。朝早く起きて、倉＃
へ行って見ますと、屋根をつき拔けて、ゆめに見た神樣＃
の劒が、ちゃんとありました。＃
高倉下は、急いで、天皇のおやすみになっていらっし＃
ゃるところへ、かけつけました。＃
高倉下が、劒を天皇にさしあげると、＃
「おお、長くねたものだ。」＃
と仰せになって、天皇はお目ざめになりました。さう＃
して、劒をお受け取りになりました。＃
＜Ｐ－００８＞
すると、あの熊になって出て來たわる者たちは、この＃
劒で、みんな殺されてしまひました。＃
御軍人たちは、目をさましました。勇ましくふるひ＃
立って、大和へ進軍しました。　　＃
　二　　稻刈　＃
學校がすむと、すぐ、たんぼへ行きました。今日は、＃
うちの稻刈です。よいお天氣で、あちらでもこちらで＃
も、稻を刈ってゐます。＃
＜Ｐ－００９＞
田のあぜに、むしろを敷いてもらって遊んでゐた弟＃
が、遠くから私を見つけて、＃
「ねえさん。」＃
と喜んで呼びました。＃
「ただいま。」＃
といって、私はかばんをおろし＃
ました。＃
稻を刈ってゐられたおとうさ＃
んと、おかあさんは、腰をのばし＃
＜Ｐ－０１０＞
ながら、＃
「やあ、もう學校がすんだのか。早かったな。」＃
「そこのかごの中に、おいもがあるから、二人でおあが＃
り。」＃
といはれました。＃
ふかしたさつまいもをかごから出して、弟といっしょ＃
にたべました。＃
稻がだんだん刈られて來るせゐか、いなごが、たくさ＃
んこちらへ飛んで來ます。さうして、稻の葉や莖に止＃
＜Ｐ－０１１＞
ります。取らうとしても、なかなかつかまりません。＃
大きなのが一匹、すぐそばの稻の葉に止りました。＃
そっと近づくと、くるりと葉のうらへまはって、足の先＃
だけ見せてゐます。右の手で、すばやく、葉といっしょに＃
つかまへました。左の手で、頭のあたりをつかむと、あ＃
と足をふんばって、逃げさうにしました。あわてて、ぎゅ＃
っとつかんだら、あと足が取れてしまひました。下に＃
置くと、飛べないので、地面をはって行きます。＃
弟は、いなごを飼ふのだといって、土でかこひをこし＃
＜Ｐ－０１２＞
らへました。いなごは、せまいかこひの中から、外へは＃
ひ出さうとします。＃
「この牛は、しやうがないぞ。」＃
と、大きな聲で弟がひとりごとをいひます。弟は、牛を＃
飼ってゐるつもりなのです。私は、をかしくなってふき＃
だしました。＃
赤とんぼが、すいすいと、空を飛んでゐます。＃
ざくざくと、稻を刈る音が聞えます。私も、何か手つ＃
だはうと思って、おとうさんや、おかあさんの方へ行き＃
＜Ｐ－０１３＞
ました。刈ったあとには、くくった稻の束が、田の上に＃
並べてあります。＃
おかあさんは、刈るのをやめて、稻の束をまとめて、＃
稻かけの方へ運んでゐられます。私も、少しづつ持っ＃
て運びました。＃
一人ぼっちになって遊んでゐた弟が、たいくつして、＃
「ああん。」＃
といひました。おかあさんが、＃
「おまへ、行って遊んでおやり。」＃
＜Ｐ－０１４＞
といはれたので、私は、また弟の方へ行きました。＃
それから、夕方まで、弟といっしょに遊びました。　　＃
　三　　祭に招く　＃
うらの山で、もずが鳴いてゐます。氏神樣のお祭の＃
ころになりました。去年、あなたといっしょにお參りし＃
て、樂しかったことが思ひ出されます。＃
今年は、二十五日のお祭の日が、ちゃうど日曜日にな＃
ります。二十四日の午後から、ねえさんをさそって、ぜ＃
＜Ｐ－０１５＞
ひ來てください。＃
毎年ある花火は、今度はやめださうですが、二十四日＃
の晩は、いろいろな店が出てにぎはひます。お祭の日＃
は、おかぐらや、すまふがあります。それに今年は、五＃
年めに一度ある牛行列が通るさうです。牛にきれいな＃
着物を着せ、牛飼が、赤白のたづなを引いて通るのは、＃
まるで繪のやうださうです。＃
どうぞ、ぜひおいでください。母も、みよ子も、お待＃
ちしてゐます。　　＃
＜Ｐ－０１６＞
十月十八日　　とし子　＃
ゆり子樣　＃
お手紙、ありがたうございます。去年のお祭のこと＃
を思ひ出して、急になつかしくなりました。お手紙の＃
ことを姉に申しましたら、たいへん喜んで、ぜひ參りた＃
いといってゐます。＃
久しぶりでおあひして、みなさんといっしょに、氏神＃
樣へお參りをしたり、おかぐらや、すまふを見たりした＃
＜Ｐ－０１７＞
いと思ひます。今年は、めづらしい牛行列が見られる＃
さうですね。今から樂しみにしてゐます。＃
二十四日の午後三時ごろ、そちらへ參ります。どう＃
ぞ、おかあさんによろしくおっしゃってください。＃
みよ子さんのおみやげに、わたしの作ったお人形さ＃
んを、持って行ってあげたいと思ひます。さやうなら。　　＃
十月二十日　　ゆり子　＃
とし子樣　＃
＜Ｐ－０１８＞
　四　　村祭　＃
村のちんじゅの神樣の、　　＃
今日は、めでたいお祭日。　　＃
どんどんひゃらら、　　＃
どんひゃらら、　　＃
朝から聞える笛たいこ。　　＃
としも豐年滿作で、　　＃
＜Ｐ－０１９＞
村はそう出の大祭。　　＃
どんどんひゃらら、　　＃
どんひゃらら、　　＃
夜までにぎはふ宮の森。　　＃
治る御代に、神樣の　　＃
惠みたたへる村祭。　　＃
どんどんひゃらら、　　＃
どんひゃらら、　　＃
＜Ｐ－０２０＞
聞いても心が勇みたつ。　　＃
　五　　田［た］道［ぢ］間［ま］守［もり］　＃
垂［すゐ］仁［にん］天皇の仰せを受けた田道間守は、船に乘って、遠＃
い、遠い外國へ行きました。＃
遠い外國に、たちばなといって、みかんに似た、たい＃
そうかをりの高いくだものがあることを、天皇は、お聞＃
きになっていらっしゃいました。田道間守は、それをさ＃
がしに行くことになったのです。＃
＜Ｐ－０２１＞
遠い外國といふだけで、それが、どこの國であるかは、＃
わかりません。田道間守は、あ＃
の國この島と、たづねてまはり＃
ました。いつのまにか、十年と＃
いふ長い月日が、たってしまひ＃
ました。＃
やっと、あるところで、美しい＃
たちばなが生ってゐるのを見つ＃
けました。＃
＜Ｐ－０２２＞
田道間守は、大喜びでそれを船に積みました。枝に＃
ついたままで、たくさん船に積みました。さうして、大＃
急ぎで、日本をさして歸って來ました。＃
「さだめて、お待ちになっていらっしゃるであらう。」＃
さう思ふと、田道間守には、風を帆にいっぱいはらんで＃
走る船が、おそくておそくて、しかたがありませんでし＃
た。＃
日本へ歸って見ますと、思ひがけなく、その前の年に、＃
天皇は、おかくれになっていらっしゃいました。＃
＜Ｐ－０２３＞
田道間守は、持って歸ったたちば＃
なの半分を、皇后にけん上しました。＃
あとの半分を持って、天皇のみささ＃
ぎにお參りしました。枝についた＃
ままの、美しい、かをりの高いたち＃
ばなを、みささぎの前に供へて、田＃
道間守は、ひざまづきました。＃
「遠い、遠い國のたちばなを、仰せによって、持ってまゐ＃
りました。」＃
＜Ｐ－０２４＞
かう申しあげると、今まで、おさへにおさへてゐた悲し＃
さが、一度にこみあげて、胸は、はりさけるばかりにな＃
りました。田道間守は、聲をたてて泣きました。＃
田道間守は、昔、朝［てう］鮮［せん］から日本へ渡って來た人の子孫＃
でした。しかし、だれにも負けない忠義の心を持って＃
ゐました。＃
泣いて泣いて、泣きとほした田道間守は、みささぎの＃
前にひれふしたまま、いつのまにか、つめたくなってゐ＃
ました。　　＃
＜Ｐ－０２５＞
　六　　みかん　＃
寒い冬の風が吹くころは、みかんの木といふ木に、む＃
しろやこもの着物を着せて、暖くしてやります。それ＃
でみかんの木は、しもや雪をじっとこらへて、靜かに眠＃
ってゐます。＃
春になって、暖い太陽が山一面にかがやきだすと、こ＃
のみかんの木に若芽がすくすくとのびあがり、やがて、＃
まっ白な花が咲いて、何ともいへない、よいかをりがあ＃
＜Ｐ－０２６＞
たりに滿ちあふれます。その花が散ったあとには、か＃
はいらしい青い實が生ります。＃
夏が來て、海の方から、そよそよと風が吹いて來ると、＃
この實は、日に日に大きくなります。すると、いろいろ＃
な害虫が、葉や枝にとりついて、みかんの木を苦しめま＃
す。そのままにしておけば、みかんの木は、弱ってしま＃
ひますから、いろいろな藥で、害虫を何べんも除きます。＃
かうして育てたみかんの實は、秋のお祭のたいこが、村＃
村に鳴りひびくころになると、ぼつぼつ、黄色みをおび＃
＜Ｐ－０２７＞
て來ます。もうかうなったらしめたものです。＃
秋が終りに近づき、そろそろ冬が＃
始るころには、この黄色にだんだん＃
赤みが増して來て、おいしさうなみ＃
かんが、山といふ山、谷といふ谷を、＃
うづめつくしてしまひます。その＃
けしきの美しさと、みかんを作った＃
人たちの喜びとは、ことばでは、とて＃
もいひあらはすことができません。＃
＜Ｐ－０２８＞
かごを持って山へのぼる人、みかんをせおって山を＃
おりて來る人、上手にはさみを使って、みかんを取りな＃
がら、みかん取り歌を歌ふ人たちで、急に、山はにぎや＃
かになります。＃
山から取って來たみかんは、一家そう出で、いろいろ＃
な種類に分けて、きちんと、箱につめて送り出します。＃
その時は、目がまはるほどいそがしいのです。しかし、＃
長い間かはいがって育てたみかんが、日本中はもちろ＃
ん、遠い支那へも、滿洲へも、旅だつのだと思ふと、心が＃
＜Ｐ－０２９＞
勇んで、みんなにこにこしながら、せっせと働きます。＃
かうして、あたたかい心で育てられ、しんせつな手で、＃
荷作りされたみかんは、汽車や汽船にのせられて、ふる＃
さとを出發して行きます。　　＃
　七　　潛［せん］水［すゐ］艦　＃
春雄、をぢさんは、今度、潛水艦の艦長を命ぜられた。＃
今日は、潛水艦のことを話してあげよう。＃
潛水艦は、からだが小さい。だが、軍艦旗を朝風にな＃
＜Ｐ－０３０＞
びかせながら、軍港を出て行く時、＃
港内にゐる軍艦と、たがひにあいさ＃
つのラッパを吹きかはして、海の上＃
を進んで行くのは、何ともいへない＃
ゆくゎいなものだ。＃
ところで、この潛水艦が、水の中＃
へもぐるのだと聞くと、沈んだきり＃
で、浮かないことがありはしないか＃
と、思ふものもあるやうだが、今の潛水艦は、うまくで＃
＜Ｐ－０３１＞
きてゐるから、そんなしんぱいは、まったくない。もぐ＃
りたいと思へば、いつでも、潛水艦の中のたくさんのタ＃
ンクへ、水を入れて沈む。その水を押し出せば、自由に＃
海の上へ浮くことができるのだ。＃
水の中へもぐったら、海の上が見えないだらうと思＃
ふであらうが、細長い望［ばう］遠［ゑん］鏡［きやう］のやうなものがあって、海＃
の上を、すっかり見渡すことができる。また、水の中で＃
音を聞きわける機械もあって、敵艦の進んで來る音を＃
聞きわけながら、敵に近寄ることもできる。だから、潛＃
＜Ｐ－０３２＞
水艦の乘組員の中には、どんな音で＃
も聞きわけるやうな人が、ゐなくて＃
はならない。春雄も、今のうちから、＃
いろいろな音が、聞きわけられるや＃
うにしておくことがだいじだよ。＃
これらのほかに、みかたの潛水艦＃
どうしで、信號しあふ機械がある。＃
海の深さが、どのくらゐあるか、敵＃
艦までどのくらゐはなれてゐるか、自分の乘ってゐる＃
＜Ｐ－０３３＞
潛水艦が、今、何メートルの深さに沈んでゐるか、どれ＃
ほどの早さで走ってゐるか、それら＃
を一々はかる機械がある。だから、＃
潛水艦は、水の中にもぐってゐても、＃
海の上にゐるのと同じやうに、どこ＃
へでも行くことができる。＃
潛水艦には、大砲もある、機關銃＃
もある。中には、飛行機を持ってゐ＃
るものもあるが、やはり、いちばんだいじな武器は魚雷＃
＜Ｐ－０３４＞
だ。魚雷をうち出すと、生きた魚のやうに、水の中をく＃
ぐりながら、敵艦をめがけて行って、つきあたる。山の＃
やうな戰艦や、巡［じゆん］洋［やう］艦や、航［かう］空［くう］母［ぼ］艦も、この魚雷にはち＃
ぢみあがってしまふのだ。思っただけでも、ゆくゎい＃
ではないか。＃
潛水艦は、見はりをしてゐる大きな敵艦にこっそり＃
近寄ったり、遠く海を乘りこえて、敵の港の中へしのび＃
こんだりして、ふいうちをする。そのためには、乘組員＃
に、勇氣とおちつきがたいせつだ。かうした勇氣やお＃
＜Ｐ－０３５＞
ちつきは、子どもの時から、きたへるやうにしなければ＃
ならない。＃
どうだ春雄、大きくなったら、をぢさんのやうに、潛＃
水艦に乘って、お國のために、働きたくはないかね。　　＃
　八　　南洋　＃
今日は日曜日で、子ども常會の日です。勇さんのう＃
ちで、げんとう會がありました。＃
正男さんも、太郎さんも、次郎さんも、花子さんも、春＃
＜Ｐ－０３６＞
枝さんも、ゆり子さんも、みんな集りました。＃
勇さんのおとうさんは、にこにこして、＃
「今日は、おもしろい南洋の寫眞を、うつしてあげませ＃
う。」＃
といはれました。＃
黒い紙をはって、部屋を暗くしました。かべには、白＃
い布がはってあって、それに、南洋のけしきが、次から＃
次へとうつって行きました。＃
いちばん初めに、美しい日の丸の旗のひらめいてゐ＃
＜Ｐ－０３７＞
る昭南島のけしきがうつりました。＃
「どんなことがあっても落ち＃
ないと、イギリスがいばって＃
ゐたシンガポールも、わが陸＃
海軍の勇ましい兵隊さんた＃
ちによって、攻め落されてし＃
まひました。名も、昭南島と＃
あらためられて、このやうに＃
日の丸の旗が、南の空にひる＃
＜Ｐ－０３８＞
がへってゐるのです。」＃
と、勇さんのおとうさんが説明＃
されたので、みんなはうれしく＃
てたまりませんでした。＃
青い海に、靜かにかげをうつ＃
してゐるやしの木の寫眞がう＃
つりました。＃
「南洋の海は、明かるくてまっ＃
さをですから、着物でもひた＃
＜Ｐ－０３９＞
してそめたいと思ふほどの美しさです。その海面に＃
かげをうつすのがやしの木で、こ＃
んなけしきは、南洋のどこへ行っ＃
ても見ることができます。」＃
寫眞がかはりました。あたり一＃
面に、ぱっと白い花をまき散らした＃
やうです。＃
「あっ、らくかさん部隊だ。」＃
「まあ、きれいだこと。」＃
＜Ｐ－０４０＞
と、勇さんと、花子さんがいっしょにいひました。＃
「勇ましい日本のらくかさん部隊が、スマトラの空か＃
ら、地上へおりて行くところです。」＃
かういって、勇さんのおとうさんは、スマトラを始め、＃
南洋からたくさんのせきゆが出ること、せきゆは飛行＃
機を飛ばしたり、自動車や船を走らせたりするのに、な＃
くてはならないものであることを、お話しになりまし＃
た。＃
「をぢさん、ゴムも南洋から出るのでせう。」＃
＜Ｐ－０４１＞
と、正男さんがたづねました。＃
「さうです。世界中のゴムの大部分は、南洋から出る＃
のです。では、ゴムの＃
木をうつしませう。――＃
木の幹にすぢがつけて＃
あるでせう。そのみぞ＃
をつたはって、ぽたり＃
ぽたりと落ちる木の汁＃
を、茶わんのやうな器で受けます。それを集めて、か＃
＜Ｐ－０４２＞
ためると、ゴムができるのです。＃
あなたがたが使ふ消しゴムや、ゴ＃
ムまりも、はるばる南洋から海を＃
渡って來たゴムで作ったもので＃
す。」＃
また、ちがった寫眞が出ました。＃
「何だらう。まるで、大きなおぼん＃
が浮いてゐるやうだなあ。」＃
と、太郎さんが、大きな聲でいひました。＃
＜Ｐ－０４３＞
「めづらしいでせう。これは、ジャワの植物園にある＃
鬼ばすといふ大きなはすです。葉のさしわたしが一＃
メートルもあって、南洋の小さな子どもが、よく葉の＃
上に乘って遊びます。」＃
「をぢさん、鬼ごっこはできませんか。」＃
と、次郎さんがいったので、みんなが笑ひました。＃
「まさか、鬼ごっこはできないでせう。」＃
と、勇さんのおとうさんも笑ひながら、＃
「さあ、次には、あなたがたのすきな動物をうつしませ＃
＜Ｐ－０４４＞
う。何がうつるか、あててごらんなさい。」＃
といはれました。＃
「わにかな。」＃
と、まっ先にいったのは勇さんでした。＃
「くじゃくかしら。」＃
と、春枝さんがいひました。＃
「あっ、象［ざう］が出た。」＃
次郎さんは、うれしさうな聲でさけびました。＃
「これはおまけですが、タイ國の寫眞です。よくなれ＃
＜Ｐ－０４５＞
た象が、大きな材木を、運んでゐ＃
るところです。」＃
正男さんがいひました。＃
「南洋って、かはってゐて、おもし＃
ろいところですね。ぼく、行っ＃
てみたくなりました。」＃
みんなもさう思ひました。＃
すると、その時、寫眞がかはって、＃
田植をしてゐるところがうつりま＃
＜Ｐ－０４６＞
した。＃
「日本の寫眞ね。」＃
と、ゆり子さんがいひました。＃
勇さんのおとうさんは、＃
「なるほど、日本によく似てゐます＃
ね。しかし、これも南洋の田植で＃
す。日本と同じやうに、南洋でも＃
お米を作ってゐるのは、おもしろ＃
いことではありませんか。これ＃
＜Ｐ－０４７＞
から、しっかりと手をつないで行く日本も南洋も、み＃
んなお米のできる國なのです。＃
それでは、今日のげんとう會は、これでおしまひにし＃
ませう。」＃
といはれました。＃
黒い紙を取りのけると、今まで暗かった部屋が、ぱっ＃
と明かるくなりました。空は、今、寫眞で見た南洋の海＃
のやうに、青々とすみきってゐました。　　＃
＜Ｐ－０４８＞
　九　　映畫　＃
映畫の幕は、　　＃
たったあれだけなのに、　　＃
山がうつる、川がうつる。　　＃
映畫の幕は、　　＃
たったあれだけなのに、　　＃
五階、六階、家が出て來る。　　＃
＜Ｐ－０４９＞
映畫の幕は、　　＃
たったあれだけなのに、　　＃
何十臺の戰車が通る。　　＃
映畫の幕は、　　＃
たったあれだけなのに、　　＃
何萬トンの、ほら、軍艦だ。　　＃
＜Ｐ－０５０＞
　十　　聖［しやう］徳［とく］太子　＃
聖徳太子は、お生まれつき、たいそう賢いお方であり＃
ました。＃
ある日、太子は、御兄弟のかたがたと、お庭で遊んで＃
いらっしゃいました。みんな、お小さいかたがたのこと＃
ですから、初めは、仲よくしていらっしゃいましたが、そ＃
のうちに、何か、ちょっとしたことで、つい、けんくゎが始＃
りました。＃
＜Ｐ－０５１＞
太子の御父君を、橘［たちばなの］豐［とよ］日［ひの］尊［みこと］と申しあげました。のち＃
に、御位におつきになって、用明天皇と申しあげるお方＃
であります。尊は、お子樣たちが、何か大きな聲をし＃
て、さわいでいらっしゃるのをお聞きになって、お庭へ＃
出てごらんになりました。＃
すると、お子樣たちは、＃
「きっと、おとう樣にしかられるにちがひない。」＃
とお思ひになって、みんな逃げておしまひになりまし＃
た。＃
＜Ｐ－０５２＞
しかし、聖徳太子だけは、お逃げになりませんでした。＃
お逃げにならないばかりか、＃
つつしんで御父君の前へお＃
進みになりました。＃
尊は、＃
「なぜ、あなたは逃げない＃
のですか。」＃
とおたづねになりました。＃
太子は、＃
＜Ｐ－０５３＞
「おとう樣のお心にそむいて、けんくゎをいたしまし＃
た私たちでございます。橋をかけて、天へ逃げるこ＃
ともできません。穴をほって、地にかくれることも＃
できません。不孝のおとがめを、つつしんでお受け＃
いたすばかりでございます。」＃
とおっしゃいました。＃
橘豐日尊は、太子のこのおことばを、お聞きになって、＃
たいそうお喜びになりました。＃
これは、聖徳太子が、四歳の御時のことであったと申＃
＜Ｐ－０５４＞
します。　　＃
　十一　　養［やう］老［らう］　＃
村の人が、二人で話をしてゐる。＃
村の人一「もみぢが、きれいになりましたね。」＃
村の人二「たきのあたりは、ずゐぶんみごとでせう。」＃
村の人一「ときに、あなたは、あの感心な子どものうはさを、＃
お聞きですか。」＃
村の人二「ああ、あのいつも、たきぎをせおって歩く子どもの＃
＜Ｐ－０５５＞
ことでせう。毎日山へ行って働いて、歸りには、年＃
取ったおとうさんのすきなものを、いろいろ買っ＃
て來るといふことですね。」＃
村の人一「さうです。その子です。その子について、このご＃
ろ、ふしぎな話があるのです。」＃
村の人二「どういふ話ですか。」＃
村の人一「なんでも、その子が、山で酒の流れてゐるところを、＃
見つけたといふのです。」＃
村の人二「なるほど、それはふしぎな話ですね。」＃
＜Ｐ－０５６＞
村の人一「きっと、子どもの孝心が、神樣にとどいたのだらう＃
と、みんながいってゐます。」＃
村の人二「それにちがひありますまい。」＃
村の人一「おや、うはさをす＃
ればかげとやら、＃
向かふから、あの＃
子がやって來まし＃
たよ。」＃
そこへ、たきぎをせおった子どもが、出て來る。＃
＜Ｐ－０５７＞
子ども「こんにちは。」＃
村の人一　　　二「こんにちは。」＃
村の人一「よくせいが出ますね。」＃
子ども「いや、まだいっかう役にたちません。」＃
村の人二「おとうさんは、元氣になられましたか。」＃
子ども「おかげさまで、どうやら、うちで仕事をしてをりま＃
す。」＃
村の人一「それは何よりです。聞けば、あなたは、山で酒を見＃
つけたといふことですが、ほんたうですか。」＃
＜Ｐ－０５８＞
子ども「はい、ほんたうでございます。この間、私が、山で＃
たきぎを拾ってゐますと、つい、足がすべってころ＃
びました。起きようとすると、そのへんに、酒の香＃
がいたします。ふしぎなことだと思って、あたり＃
を見ますと、石の間から、水が流れ出てをります。＃
それが酒でございましたので、父のみやげに持っ＃
て歸りました。」＃
村の人一「それは、めでたい話だ。あなたの孝行のせゐです＃
よ。まあ、おとうさんをだいじにしておあげなさ＃
＜Ｐ－０５９＞
い。」＃
子ども「ありがたうございます。では、ごめんください。」＃
子どもは、おじぎをして歸る。＃
村の人一「感心な子どもですね。」＃
村の人二「ほんたうに。」＃
二人の村の人は、子どもの後姿をじっと見てゐる。＃
そののち、この親孝行な子どもの話が、都にも傳は＃
りました。＃
＜Ｐ－０６０＞
おそれ多くも、時の天皇が、それをお聞きになって、＃
わざわざ、そのところへお出ましになりました。＃
さうして、子どもの孝行をおほめになって、年號を、＃
「養老」とお改めになりました。　　＃
＜Ｐ－０６１＞
　十二　　ぼくの望遠鏡　＃
机の引出しを、かたづけてゐると、いつか、おぢいさ＃
んにいただいた、古いめがねの玉と、おとうさんに買っ＃
ていただいた、小さな虫めがねが出て來た。＃
「これは、いいものが見つかった。」と思ひながら、ぼく＃
は、この二つを、重ねたり、別々にしたりして、机の上を＃
見たり、外のけしきを、のぞいたりしてゐた。＃
そのうちに、ふと、おもしろいことを發見した。＃
＜Ｐ－０６２＞
左の手に、めがねの玉を持って、目から遠くはなした。＃
すると、向かふのけしきが、小さく、さかさまに見えた。＃
そのさかさまに見えるけしきを、大きくして見ようと＃
思って、右の手に虫めがねを持って、のぞいて見た。ぼ＃
くはおどろいた。どこかの屋根が、めがねの玉いっぱい＃
にひろがって、つい、そこにあるやうに見えるではない＃
か。それは、ここから百メートルもはなれてゐる、向か＃
ふの家の屋根であった。＃
「おもしろい。これで、いつか、おとうさんのお話に聞＃
＜Ｐ－０６３＞
いた望遠鏡が、できるかもしれない。」かう思ひつくと、＃
ぼくは、もう、じっとしてゐられなくなった。＃
ぼくは、畫用紙を取り出した。さうして、その一枚を＃
ぐるぐると卷いた。ちゃうど、めがねの玉が、はまるく＃
らゐの大きさに卷いて、その一方のはしに、めがねの玉＃
をはめた。きちんとはまった時、卷いた紙を、糸できり＃
きりと卷いて、動かないやうにした。これで、一本の筒［つつ］＃
ができあがった。＃
次に、もう一枚の畫用紙を、ぐるぐると卷いた。さう＃
＜Ｐ－０６４＞
して、さっきの筒の＃
中へ、ちゃうど、する＃
するとはいるくらゐ＃
の大きさに作って、＃
そのはしに、虫めが＃
ねをとりつけた。＃
かうしてできた二本の筒は、うまくはまり合って、長＃
く延したり、ちぢめたりすることができる。＃
さあ、できたぞと思ふと、うれしくてたまらない。う＃
＜Ｐ－０６５＞
まく見えるか、どうか。＃
外をのぞいて見た。長い物が、ぼんやり見える。二＃
つの筒を、延したり、ちぢめたり、かげんしてゐるうち＃
に、はっきりした。電柱だ。針金が、六本あることまで＃
わかる。＃
もっと下を見る。屋根だ。しゃうじ＃
だ。おや、だれかが、しゃうじの間から＃
顏を出してゐる。ぼくは、もう、むちゅ＃
うだった。急いで、おかあさんのとこ＃
＜Ｐ－０６６＞
ろへ行った。＃
「おかあさん、來てごらんなさい。早く早く。」＃
おかあさんは、目をまるくして、＃
「何です。正男さん、大きな聲をして。」＃
「何でもいいから、來てください。」＃
ぼくは、おかあさんを引っぱるやうにして、つれて來た。＃
さうして、ぼくの望遠鏡をのぞいてもらった。＃
「まあ、よく見えるね。でも、すっかりさかさまぢゃな＃
いの。」＃
＜Ｐ－０６７＞
「さかさまでも、よく見えるでせう。」＃
「なるほどね。向かふの家のせんたく物が見えます。＃
あ、人がこっちを見てゐる。森の木がきれいですね。」＃
しばらく見てゐられたおかあさんは、おっしゃった。＃
「おまへはえらいね。だれに教へてもらったの。」＃
ぼくは、とくいだった。＃
「だれにも教へてもらはないのです。ぼくが、考へて＃
作ったのです。」　＃
＜Ｐ－０６８＞
　十三　　火事　＃
日がくれてまもなく、けたたま＃
しく、半［はん］鐘［しよう］が鳴りだしました。＃
窓をあけて見ると、西の方の空＃
が、まっかにそまってゐます。火事は、少しはなれた川＃
向かふの町だと、すぐわかりました。おとうさんは、夜＃
業をやめて、急いでしたくをして、家を出られました。＃
おとうさんは、警防員なのです。＃
＜Ｐ－０６９＞
おとうさんを送り出してから、おかあさんは、＃
「火事は、をぢさんのうちの方角だから、わたしは見ま＃
ひに行きます。おとうさんは、消防の役目でお働き＃
になるのだから。」＃
といって、出て行かれました。＃
をぢさんのうちの方角と聞いて、私は、恐しくなりま＃
した。おばあさんもしんぱいさうです。＃
家の前を、警防團の人たちが、ポンプを引いて、勢よ＃
くかけて行きました。遠く走るポンプ自動車のサイレ＃
＜Ｐ－０７０＞
ンの音も聞えます。＃
向かふの空に、ぱっと火の粉があ＃
がったり、また、少し暗くなったりし＃
ます。半鐘の音、サイレンの音、人の＃
聲などが入りまじって、遠くの方で＃
聞えます。＃
「だいぶ大きいらしいぞ。」＃
と、道を通る人が、話し合ってゐました。＃
火事は、なかなか消えさうに見えません。＃
＜Ｐ－０７１＞
「さよ子、おまへは、あした、學校があるのだから、しん＃
ぱいしないで、もうおやすみ。」＃
と、おばあさんにいはれて、私は、ねどこの中へはいり＃
ましたが、火事が氣になって、なかなか眠れませんでし＃
た。＃
朝、おかあさんに呼び起されて、目をさますと、をぢ＃
さんや、をばさんが、うちへ來てゐられます。私はびっ＃
くりしました。ゆうべの火事で、をぢさんのうちも、燒＃
けたさうです。火もとからは、だいぶはなれてゐまし＃
＜Ｐ－０７２＞
たが、風しもになってゐたので、一度運び出した荷物ま＃
で燒けてしまったのださうです。＃
私は、＃
「をばさん、猫はどうしました。」＃
と聞きました。をばさんは、＃
「どうしたかわかりません。荷物をかたづける時、どこ＃
にもゐませんでした、何べんも呼んでみたけれど。＃
燒け死んだのかも知れません。」＃
「かはいさうに。」＃
＜Ｐ－０７３＞
と、私はいひました。＃
やがて、おとうさんが、歸って來られました。＃
おとうさんは、をぢさんやをばさんに、＃
「ほんたうにきのどくだったが、けがのないのが、ま＃
あ、何よりのしあはせだ。わたしは、消防にばかり働＃
いてゐて、手傳ひもできず、まことにすまなかった。」＃
といはれました。すると、をぢさんは、＃
「いや、手傳ひは、ねえさんに十分してもらひました。＃
それよりも、あの風に、四つつじで、火事を消しとめ＃
＜Ｐ－０７４＞
たのは、えらいてがらです。町のめぬきの場所が助＃
ったのは、まったく警防團のかたがたのおかげです。」＃
みんな、つかれきってゐます。平生＃
は元氣なをばさんが、今日は、いちば＃
んしょんぼりとして、さびしさうに＃
見えます。＃
「をばさん、これから、ずっと私のう＃
ちにいらっしゃいね。」＃
といひますと、をばさんは、＃
＜Ｐ－０７５＞
「ああ、たうぶん、やっかいになりますよ。」＃
といって涙をこぼされました。＃
あとで聞けば、この火事には、燒け死んだ人もあった＃
さうです。さうして、こんな大火事の起ったのも、ある＃
家の子どもが、マッチをすって、そのもえがらを捨てた＃
のが、もとだといふことです。＃
「子どもの火あそびが、いちばんいけない。やめるこ＃
とだ、やめることだ。」＃
おとうさんは、ひとりごとのやうに、かういはれました。　　＃
＜Ｐ－０７６＞
　十四　　軍旗　＃
軍旗、軍旗、　　＃
天皇陛下の　　＃
みてづから、　　＃
お授けくださる尊い軍旗、　　＃
わが陸軍のしるしの軍旗。　　＃
軍旗、軍旗、　　＃
＜Ｐ－０７７＞
天皇陛下の　　＃
おことばを、　　＃
心にきざんでみ國を守る、　　＃
わが陸軍のいのちの軍旗。　　＃
軍旗、軍旗、　　＃
天皇陛下の　　＃
御前に、　　＃
死ぬるかくごで敵地に進む、　　＃
＜Ｐ－０７８＞
わが陸軍のひかりの軍旗。　　＃
軍旗、軍旗、　　＃
天皇陛下の　　＃
みいくさに、　　＃
いつでも勝っててがらをたてる、　　＃
わが陸軍のほまれの軍旗。　　＃
＜Ｐ－０７９＞
　十五　　ゐもん袋　＃
　寒い夜　＃
外では、寒い風が吹いてゐます。＃
夕飯のあとで、火ばちにあたってみかんをたべなが＃
ら、みんなで、戰地の兵隊さんの話をしました。＃
「めっきり寒くなって、兵隊さんたちも、さぞ、お困りだ＃
らう。」＃
と、おぢいさんがいはれました。＃
＜Ｐ－０８０＞
「兵隊さんに、このみかんをあげたいなあ。」＃
といって、弟が、たべかけてゐたみかんを見せました。＃
「おかあさん、うち中で、ゐもん袋を作って送ってあげ＃
ませうよ。」＃
と、私がいふと、＃
「それはいいね。では、これから、こしらへることにし＃
ませう。」＃
と、おかあさんがいはれました。＃
「さあ、どんな品物を送ってあげるかな。ひとつ、めい＃
＜Ｐ－０８１＞
めいで考へてみよう。」＃
と、おとうさんがいはれました。＃
私は、何にしようかと思ってゐると、弟は、自分の机＃
の前へ行って、何かさがし始めました。さっきから、せ＃
っせと、くつ下をあんでゐたねえさんがいひました。＃
「おとうさん、このくつ下は、おとうさんのにと思って、＃
あんでゐたのですけれど、これを送ってはいけない＃
でせうか。」＃
「いいとも、送っておあげ。」＃
＜Ｐ－０８２＞
おかあさんは、＃
「別にこれといって、送ってあげ＃
るやうなものもないが、うち＃
中でついたかき餅と、あなた＃
たちが手傳って作った干柿と、＃
それに、栗もあるから、それを＃
入れることにしませう。」＃
といはれました。＃
「ぼくは、これを入れよう。」＃
＜Ｐ－０８３＞
さういひながら、弟が持って來た圖畫を見ますと、子ど＃
もが、手をあげてけい禮をしてゐる繪でした。＃
そのそばに、＃
「ヘイタイサン、サムイデセウ。ゲンキデ、ハタライテ＃
クダサイ。シッケイ。タダシ。」＃
と、クレヨンで書いてありました。＃
「あら、いやだ、しっけいなんて。」＃
と、私がいひますと、＃
「いやいや、兵隊さんは、きっと喜ばれるだらう。なか＃
＜Ｐ－０８４＞
なかいい思ひつきだ。」＃
と、おとうさんにほめられたので、弟はとくいになりま＃
した。＃
私は、私のだいすきな、かはいい人形と、ゐもん文を＃
入れました。　　＃
　兵隊さんからの手紙　＃
ある日のこと、知らない兵隊さんから、手紙が來まし＃
た。急いであけて見ますと、いつか送ったゐもん袋の＃
お禮の手紙でした。＃
＜Ｐ－０８５＞
私は、それを、みんなの前で讀みました。＃
支那の廣い野原は、今、白い雪で一面におほはれてゐ＃
ます。川の水も、堅い氷の下で眠ってゐます。外は、＃
零［れい］下［か］二十度といふ寒さです。＃
午後の演習をすまして、兵舍へ歸って來ると、ゐもん＃
袋が來てゐました。私は、とびあがって喜びました。＃
開いてみると、あなたのゐもん文といっしょに、いろ＃
いろな品物が出て來ました。＃
「おい、かき餅が來たぞ。干柿もある。栗もある。みん＃
＜Ｐ－０８６＞
な集れ。」＃
と、私は思はず大聲でいひました。友だちの兵隊は、＃
「何だ、何だ。」といひながら、まはりに、大勢集って來ま＃
した。＃
だんろの火で、かき餅を燒きました。＃
「久しぶりで、内地のにほひをかいだ。」＃
「干柿はうまいなあ。郷土の味がする。」＃
などといひながら、みんなで、おいしくいただきまし＃
た。＃
＜Ｐ－０８７＞
ただしくんの圖畫は、ぼくた＃
ちの室のかべにはりました。＃
その前に立って、「タダシクン、＃
シッケイ。」といったりします。＃
あたたかい毛糸のくつ下を見＃
て、みんなは、＃
「ぼくに、ちょっと、はかしてくれ。」＃
「ぼくにも。」＃
といって、かはるがはる、はきました。＃
＜Ｐ－０８８＞
あなたのお人形は、私のポケットにしまってあります。＃
戰爭する時も、お人形さんは、私といっしょです。＃
いろいろとありがたうございました。ときどき、お＃
うちのことや、學校のことを知らせてください。私＃
も、戰地のやうすを知らせてあげませう。みなさん＃
に、よろしくお禮を申しあげてください。さやうなら。　　＃
　十六　　雪合戰　＃
雪が降った。あたりが明かるくなって、氣がはればれ＃
＜Ｐ－０８９＞
とする。＃
學校へ行く時、雪の上を歩いて行った。ふり返って、＃
足あとを見ると、くねくねと、曲ってついてゐた。向か＃
ふから、友田くんと小野くんがやっ＃
て來た。＃
「おはやう。」＃
「おはやう。」＃
三人が、並んでまた雪の上を歩いたら、足あとも、並ん＃
でついた。學校の窓も、廊［らう］下［か］も、雪で明かるい。＃
＜Ｐ－０９０＞
體操の時間になった。外に集るやうにと、先生がいは＃
れた。きっと、雪合戰をするのだらうといって、みんな＃
は喜んだ。＃
「集れ。」＃
先生の大きな聲がする。みんなは、雪の上に集って並ん＃
だ。＃
「今日は、雪合戰をする。前列は赤、後列は白。」＃
兩方に分れて、それぞれ陣地についた。＃
「築城始め。」＃
＜Ｐ－０９１＞
の號令で、兩軍は、一生けんめい、雪のかたまりをこし＃
らへては、それを積み重ねた。高さ一メートル半ばか＃
りの山を作って、その上に、旗を立てるのである。山は、＃
たちまちできあがった。先生は、兩方の山の高さをはか＃
られた。＃
みかたの城には、赤い旗がひるがへり、敵の城には、＃
白い旗がなびいた。＃
友田くんも、小野くんも、今日は敵だ。にこにこして＃
こちらを見てゐる。＃
＜Ｐ－０９２＞
「たまを作れ。」＃
みんなは、雪のたまを、いくつもいくつもこしらへた。＃
やがて先生が、＃
「笛を鳴らしたら、たまを投げ＃
る。次に進めの號令を掛けた＃
ら、攻撃を始める。」＃
といはれたので、みんなは、雪の＃
たまをかかへた。＃
「ピリー。」と、笛が鳴つた。「わ＃
＜Ｐ－０９３＞
あ。」といひながら、たまを投げ始＃
めたが、とどかない。少しづつ前＃
進する。ぼくは、友田くんをめが＃
けて投げた。うまく頭のところ＃
へ飛んで行ったが、友田くんが、＃
ひょいとしゃがんだので、それて＃
しまった。友田くんも、ぼくをね＃
らふ。今度こそうまくあててやらうと、力いっぱい投げ＃
てやった。そこへ、どこからかたまが飛んで來て、ぼく＃
＜Ｐ－０９４＞
の胸にあたった。「ようし。」といひながら、たまをつかん＃
だ時、「進め。」の號令が掛った。＃
兩軍は、「わあ。」といって、かけて進んだ。敵の城の旗＃
を取れば、勝つのだ。しかし、城を守ってゐる隊もゐる＃
から、すぐには取れない。白い旗は、つい、目の前にひ＃
らひらしてゐるが、手がとどかない。守る隊も、必死だ。＃
ぼくが、山をのぼりかけると、兩足をしっかりとつかま＃
へて、引っぱる者がある。見ると、小野くんだ。ぼくが＃
ころぶと、二三人が、ばたばたと倒れかかって來た。や＃
＜Ｐ－０９５＞
っと起きあがる。まだ、白い旗がひらひらしてゐる。み＃
かたはと思って、ちょっとふり返ると、赤い旗も、まだ立＃
ってゐる。＃
「今のうちだ。」＃
と元氣を出して、みかた三人が、しっかり腕を組んで進＃
んだ。三人のうち、だれか一人＃
が、雪の山にのぼって、旗を取＃
るのだ。ぼくは、まっ先にのぼ＃
りかけた。むちゅうになって＃
＜Ｐ－０９６＞
よぢのぼった。とうとう、旗に手がとどいた。ぼくは、＃
山の上に立ちあがって、その旗をふった。＃
「萬歳。」＃
と、みんなが、喜びの聲をあげた。＃
笛が鳴ったので、兩軍は、もとの位置に並んだ。先生＃
はいはれた。＃
「今日は赤の勝ち。しかし、どちらもよく戰った。こ＃
の次に雪が降ったら、またやることにする。わかれ。」＃
どやどやと、みんなが、ぼくのところへ寄って來た。＃
＜Ｐ－０９７＞
「うまくやったなあ。」＃
といって、ぼくの肩をたたく者がある。友田くんだ。＃
「今度は、ぼくが取ってみせるぞ。」＃
と、小野くんがいふ。＃
いつのまにか、空がくもって、雪がさかんに降りだし＃
て來た。＃
小野くんと、友田くんと、ぼくと、三人仲よく教室へ＃
歸って行った。　　＃
＜Ｐ－０９８＞
　十七　　菅［すが］原［はらの］道［みち］眞［ざね］　＃
天神樣にまつられてゐる菅原道眞といふかたは、生＃
まれつき賢い人でありました。その上、小さい時から、＃
よく勉強しましたので、のちには、すぐれた、りっぱな＃
人になりました。學問では、道眞の上へ出る人はない＃
と思はれてゐました。＃
ある時、都［みやこの］良［よし］香［か］といふ人の家で、弓の會がありました。＃
若い人たちが、大勢その家に集って、かはるがはる、的＃
＜Ｐ－０９９＞
をめがけて弓を引いてゐるところへ、道眞もやって來＃
ました。すると、人々は、＃
「あの人は學問はできるが、弓はどうだらう。」＃
「さあ、どうだらうな。」＃
「だめ、だめ。机の上の勉強ばかりで、腕は線香より細＃
いんだ。」＃
などと、小さな聲で、ささやき合ひました。＃
平生から、學問では、とてもかなはない道眞を、今日＃
はひとつ、弓でいぢめてやらうと思ったのでせう、一人＃
＜Ｐ－１００＞
の若い男が、つかつかと進み出て、＃
「どうです。あなたも、弓を＃
おやりになりませんか。」＃
といひながら、弓と矢を、道＃
眞につきつけました。＃
おそらく、しりごみするだ＃
らうと思はれた道眞は、その＃
弓矢を靜かに受け取り、前へ＃
進んで、きっと身がまへました。すると、今まで、やさし＃
＜Ｐ－１０１＞
さうに見えた道眞が、急にがっしりと二王樣か何かの＃
やうに、強さうに見えだしました。＃
あたりはしんとして、せき一つするものもありませ＃
ん。＃
「ひゅう。」と、音高くつるからはな＃
れた矢は、「ぽん。」と、的のまん中の＃
星を、射拔いて立ちました。＃
道眞は、つづいて、第二の矢を引＃
きしぼりました。＃
＜Ｐ－１０２＞
これも、みごとに、ちゃうど第一の矢とすれすれに並＃
んで、まん中を射拔きました。＃
第三、第四、第五と、道眞は、目にもとまらぬ手早さで、＃
矢をつがへ、矢を放ちました。的をはづれる矢は、一本＃
もありませんでした。＃
みんなは、ただ、よったやうになって、大きなため息を＃
つくばかりでありました。　　＃
　十八　　梅　＃
＜Ｐ－１０３＞
「あ、梅だ。＃
梅が咲いてゐる。」と、＃
勇さんがいひました。＃
「まあ、うれしい。＃
＜Ｐ－１０４＞
春が來たのね。」と、＃
花子さんがいひました。＃
「まだ、寒いのに、＃
感心な花だこと。」と、＃
ゆり子さんがいひました。＃
「花もきれいだけれど、＃
にほひがいいのね。」と、＃
＜Ｐ－１０５＞
春枝さんがいひました。＃
「梅は、花よりも＃
にほひが咲くのです。」と、＃
正男さんがいひました。＃
みんなは、＃
正男さんのいったことが、＃
おもしろいと思ひました。　　＃
＜Ｐ－１０６＞
　十九　　小さな温床　＃
「春子、チューリップが咲いたよ。來てごらん。」＃
と、にいさんが、外から窓ごしにいったので、私は、急い＃
で庭へ出ました。＃
いつか、にいさんが作った小さな温床に、今日も、お＃
だやかな冬の日が、いっぱいにさしこんでゐます。見＃
ると、まん中の鉢に、美しいチューリップの花が一つ、＃
にっこり笑ったやうに咲いてゐます。＃
＜Ｐ－１０７＞
「まあ、きれいね。」＃
と、私は思はずいひました。ふっくらとした花びらがだ＃
きあって、まだ十分咲ききらない花は、ちゃうど、おひな＃
樣のぼんぼりのやうなかっかうです。下の方は白で、花＃
の口もとのところに、こい紅［べに］をさしてゐます。ほんた＃
うに、手に取って、さはってみたいやうな氣がします。＃
すみれも、一週間ばかり前から咲きだしました。そ＃
れこそ、ほんたうのすみれ色をした花が、暖い日を受け＃
て、びろうどのやうに、つやつやしてゐます。すゐせん＃
＜Ｐ－１０８＞
の花が四つ、かはいらしいさくらさうや、ひなぎくも、＃
咲いてゐます。きうりの芽生えも、＃
目だって大きくなりました。＃
たった一メートル四方ぐらゐの＃
廣さですが、ここばかりは、寒い冬＃
も知らないやうに、みどりの葉が＃
生き生きして、赤や、白や、むらさ＃
きの花が、美しく咲いてゐます。＃
「わたしのお人形さんを、ここへ入れてやりたいなあ。」＃
＜Ｐ－１０９＞
と、ひとりごとのやうに、私はいひました。＃
「どうして。」＃
「中は暖い春ですもの。」＃
にいさんは笑って、＃
「お人形さんが、汗をかくだらう。このガラスのふた＃
をすると、少しすかしておいても、日中は、二十四五＃
度ぐらゐになるから、春といふよりは夏だよ。」＃
「でも、夜は寒いでせうね。」＃
「地の下には、枯れた葉などが入れてあるから、夜もぽ＃
＜Ｐ－１１０＞
かぽか暖いよ。」＃
と、にいさんはいひました。　　＃
　二十　　雪舟　＃
雪舟が、子どもの時の話です。＃
お寺の小僧になってまもないころ、ある日、和［を］尚［しやう］さん＃
にたいそうしかられました。＃
「おまへは、また繪をかいてゐるのか。いくらいっても、＃
繪ばかりかいて、ちっともお經をおぼえない。おまへ＃
＜Ｐ－１１１＞
は、口でいって聞かせるだけでは、だめだ。」＃
かういひながら、和尚さんは、雪舟を引っぱって、本堂へ＃
行きました。＃
ぶるぶる、ふるへてゐた雪舟は、大きな柱にくくりつ＃
けられました。＃
初めは、ただ恐しさでいっぱいでしたが、さびしい本＃
堂の柱にくくりつけられて、じっとしてゐる間に、雪舟＃
は、いろいろと考へつづけました。＃
「いつも、お經を讀まうと思ふのだけれど、机に向かふ＃
＜Ｐ－１１２＞
と、つい、繪がかきたくてたまらなくなる。あすから＃
は、きっと、一生けんめいにお經を習はう。わたしが、＃
ここで、こんなにしかられてゐようなどとは、おとう＃
さんも、おかあさんも、ゆめにもお知りにならないだ＃
らう。」＃
こんなことを考へてゐると、雪舟は、何だか悲しくなっ＃
て、とうとう、しくしく泣きだしました。＃
涙が、とめどなくこぼれました。ぽたり、ぽたりと落＃
ちて、本堂の板の間をぬらしました。＃
＜Ｐ－１１３＞
少し泣きつかれて、ぼんやり、足もとを見てゐた雪舟＃
は、何氣なく、足の親指で、板の間に落ちた涙をいぢっ＃
てみました。＃
すると、今まで悲しさうだった雪舟の顏は、急に明か＃
るくなって來ました。雪舟は、足の親指を使ひながら、＃
涙で、板の間に繪をかき始めたのでした。＃
自分の部屋へ歸ってゐた和尚さんは、しばらくする＃
と、雪舟がかはいさうになりました。もう許してやら＃
うと思って、また本堂へ行きました。＃
＜Ｐ－１１４＞
夕方に近い本堂は、少し暗くなってゐました。和尚さ＃
んは、どんなに、さびしかったらうと思って、急いで行っ＃
て見ると、びっくりしました。大きなねずみが一匹、雪＃
舟の足もとにゐて、今にもとびつきさうなやうすです。＃
かまれては、かはいさうだと思って、和尚さんは、「しっ、＃
しっ。」と追ひましたが、ふしぎに、ねずみは、じっとして＃
動きません。近づいて見ると、それは、生きたねずみで＃
はありませんでした。雪舟が、板の間に、涙でかいたね＃
ずみでした。＃
＜Ｐ－１１５＞
和尚さんはおどろきました。急いでなはを解いてや＃
りながら、＃
「わたしがわるかった。おまへは、繪かきになるがよ＃
い。これほど、おまへが上手だとは、今まで知らなか＃
った。」＃
といひました。雪舟は、にっこりしました。＃
そののち、雪舟は、一心に繪を習ひました。學問もし＃
ました。＃
雪舟は、とうとう、日本一の繪かきになりました。　　＃
＜Ｐ－１１６＞
　二十一　　三勇士　＃
「ダーン、ダーン。」＃
ものすごい大砲の音とともに、あたりの土が、高くはね＃
あがります。機關銃の彈が、雨あられのやうに飛んで＃
來ます。＃
昭和七年二月二十二日の午前五時、廟［べう］巷［かう］の敵前、わづ＃
か五十メートルといふ地點です。＃
今、わが工兵は、三人づつ組になって、長い破［は］壞［くわい］筒［とう］を＃
＜Ｐ－１１７＞
かかへながら、敵の陣地を、にらんでゐます。＃
見れば、敵の陣地には、ぎっしりと、鐵條網が張りめ＃
ぐらされてゐます。この鐵條網に破壞筒を投げこんで、＃
わが歩兵のために、突撃の道を作らうといふのです。＃
しかもその突撃まで、時間は、あと三十分といふせっぱ＃
つまった場合でありました。＃
工兵は、今か今かと、命令のくだるのを待ってゐます。＃
しかし、この時とばかり撃ち出す敵の彈には、ほとんど、＃
顏を向けることができません。すると、わが歩兵も、さ＃
＜Ｐ－１１８＞
かんに機關銃を撃ち出しました。さうして、敵前一面＃
に、もうもうと、煙幕を張りました。＃
「前進。」＃
の命令がくだりました。待ちに待った第一班の工兵は、＃
勇んで鐵條網へ突進しました。＃
十メートル進みました。二十メートル進みました。＃
あと十四五メートルで鐵條網といふ時、頼みにする煙＃
幕が、だんだんうすくなって來ました。＃
一人倒れ、二人倒れ、三人、四人、五人と、次々に倒れ＃
＜Ｐ－１１９＞
て行きます。第一班は、殘念にも、とうとう成功しない＃
で終りました。＃
第二班に、命令がくだりました。＃
敵の彈は、ますますはげしく、突撃の時間は、いよい＃
よせまって來ました。今となっては、破壞筒を持って行＃
って、鐵條網にさし入れてから、火をつけるといったや＃
り方では、とてもまにあひません。そこで班長は、まづ＃
破壞筒の火なはに、火をつけることを命じました。＃
作［さく］江［え］伊［い］之［の］助［すけ］、江下武［たけ］二［じ］、北川丞［じよう］、三人の工兵は、火をつ＃
＜Ｐ－１２０＞
けた破壞筒をしっかりとかかへ、鐵條＃
網めがけて突進しました。＃
北川が先頭に立ち、江下、作江が、こ＃
れにつづいて走ってゐます。＃
すると、どうしたはずみか、北川が、＃
はたと倒れました。つづく二人も、そ＃
れにつれてよろめきましたが、二人は、＃
ぐっとふみこたへました。もちろん、＃
三人のうち、だれ一人、破壞筒をはなし＃
＜Ｐ－１２１＞
たものはありません。ただその間にも、無心の火は、火＃
なはを傳はって、ずんずんもえて行きました。＃
北川は、決死の勇氣をふるって、すっくと立ちあがり＃
ました。江下、作江は、北川をはげますやうに、破壞筒＃
に力を入れて、進めとばかり、あとから押して行きまし＃
た。＃
三人の心は、持った一本の破壞筒を通じて、一つにな＃
ってゐました。しかも、數秒ののちには、その破壞筒が、＃
恐しい勢で爆發するのです。＃
＜Ｐ－１２２＞
もう、死も生もありませんでした。三人は、一つの爆＃
彈となって、まっしぐらに突進しました。＃
めざす鐵條網に、破壞筒を投げこみました。爆音は、＃
天をゆすり地をゆすって、ものすごくとどろき渡りま＃
した。＃
すかさず、わが歩兵の一隊は、突撃に移りました。＃
班長も、部下を指圖しながら進みました。そこに、作＃
江が倒れてゐました。＃
「作江、よくやったな。いひ殘すことはないか。」＃
＜Ｐ－１２３＞
作江は答へました。＃
「何もありません。成功しましたか。」＃
班長は、撃ち破られた鐵條網の方へ、作江を向かせな＃
がら、＃
「そら、大隊は、おまへたちの破ったところから、突撃＃
して行ってゐるぞ。」＃
とさけびました。＃
「天皇陛下萬歳。」＃
作江はかういって、靜かに目をつぶりました。　　＃
＜Ｐ－１２４＞
　二十二　　春の雨　＃
もえて明かるい若草に、　　＃
しとしと、細い雨が降る。　　＃
雨はこぬかか、糸のやう。　　＃
ここは川ばた、やなぎの芽、　　＃
ぬれて、しづくが落ちるたび、　　＃
ひろがる波のわがまるい。　　＃
＜Ｐ－１２５＞
春は春でも、まだはじめ、　　＃
村から町へゆるやかに、　　＃
少しにごって行く水よ。　　＃
卵のからを浮かべたり、　　＃
わらの切れはし浮かべたり、　　＃
えびやめだかも、泳がせて。　　＃
＜Ｐ－１２６＞
　二十三　　大れふ　＃
ぼくらは、はしけに乘って、ぐんぐん沖へ出ました。＃
おだやかな海です。文治と、へさきにすわって、船が＃
あがると、からだを浮かすやうに、船がさがると、から＃
だを沈めるやうにしてゐました。＃
「にいさん、はま屋の船だよ。」＃
文治が指さしたので、見ると、船が一さう走ってゐます。＃
屋號を染めぬいた小旗も見えます。子どもが、船のま＃
＜Ｐ－１２７＞
ん中にゐます。＃
「あれは、きっとはま屋の正治くん＃
だよ。正治くん、正治くん。」＃
と大聲に呼びながら、文治が立ちあ＃
がりかけると、ともにゐた船方が、＃
「あぶない。」＃
といひました。＃
あとをふり返ると、もう矢島の岬［みさき］＃
も見えません。目のとどくかぎりは＃
＜Ｐ－１２８＞
まっさをな水です。＃
やがて網場へ來ました。何十さうといふ船が、今、思＃
ひ思ひに網を張ってゐるところです。白波を立てなが＃
ら、行ったり來たりして、まるで戰場のやうです。ぼく＃
らの網船は、もう網をたぐり始めました。＃
「さあ、のう。」＃
と、一人がおんどを取ると、大勢の船方が、みんなこれ＃
に合はせて、＃
「やっさ、やっさ。」＃
＜Ｐ－１２９＞
と網をたぐります。だれもかれも、日に燒けたからだ＃
から、玉の汗を流してゐます。＃
網が、せばまって來た時、網船は、ぼくらの乘ってゐ＃
る船を呼びました。＃
網船二さうの間へ、まっすぐに＃
乘り入れました。大きなたもで、＃
網から、いわしをどんどんぼくら＃
の船へあげます。見るまに、船の＃
中には、いわしの山が築かれます。＃
＜Ｐ－１３０＞
いわしの重みで、船がぐっと傾くほどです。＃
ぼくらの船は、左右の網船から、竿で押されながら、＃
しだいに網の外へ出ます。出ると、機械をいっぱいに＃
掛けて、もとの海岸へ急ぎました。＃
いつのまに立てたのか、へさきには、大れふを知らせ＃
るまっかな吹流しが二本、威勢よく風にひるがへってゐ＃
ました。　　＃
　二十四　　東京　＃
＜Ｐ－１３１＞
今日、東京といふ映畫を見せてもらひました。＃
初めに、廣い野原がうつりました。ところどころに＃
林があって、どこかで、小鳥の鳴く聲が＃
してゐました。＃
「ここは、むさし野です。東京の近く＃
には、かうした靜かな野原が、ひろが＃
ってゐます。」＃
といふ説明の聲がしました。＃
むさし野が、うすくなって消えると、船の汽笛が「ボ＃
＜Ｐ－１３２＞
ー。」とひびきました。さうして、大きな＃
貨物船が、目の前にあらはれました。＃
汽船から、たくさんの荷物がおろされ＃
ます。＃
「あれは、臺［たい］灣［わん］からのバナナです。」＃
水の流れが見えて、隅［すみ］田［だ］川のけしき＃
になりました。川をさかのぼって行く＃
と、りっぱな橋が、次から次へとかかっ＃
てゐました。橋の下をくぐって通る時、＃
＜Ｐ－１３３＞
「ゴー。」といふ電車のひびきがして、寫＃
眞がかはりました。＃
たくさんのレールが光って、何臺も＃
つづいた大きな電車が來る、汽車が來＃
る。＃
「東京、東京。」＃
と呼ぶ聲がして來ました。＃
東京驛の前にある大きな建物が、じ＃
ゅんじゅんにあらはれ、馬場先門の廣場＃
＜Ｐ－１３４＞
があらはれました。＃
正面に、松の木が茂ってゐて、白いやぐらが見えまし＃
た。私は、すぐ宮城だといふことがわ＃
かりました。＃
二重橋がうつりました。＃
目の前にをがむ二重橋、＃
けだかい、美しい二重橋。＃
二年生の時に習った詩が、思ひ出されました。「君が代」＃
の音樂が始りました。私たちは、きちんとすわりなほ＃
＜Ｐ－１３５＞
して、おじぎをしました。＃
ときは木の茂った清らかな道がうつりました。＃
「ここは、明治神宮の參道です。」＃
お參りの人が、たくさん通ります。そ＃
の中に、子どももまじってゐました。あ＃
の子どもたちのやうに、お參りしたいも＃
のだと思ひました。＃
さくらの花が、いっぱいに咲いてゐるところがあら＃
はれました。風が吹いてゐるらしく、さくらの枝がゆ＃
＜Ｐ－１３６＞
れてゐます。花と花との間から、大き＃
な鳥居が見えました。それから、ま正＃
面に、靖［やす］國［くに］神社がうつりました。「海ゆ＃
かば」の音樂が、おごそかにひびき始め＃
ました。菊の御紋のついたまん幕が、＃
風にゆれてゐました。＃
たくさんの菊の鉢が並んでゐます。＃
目のさめるやうな菊の花です。日［ひ］比［び］谷［や］＃
公園の菊のてんらん會でした。＃
＜Ｐ－１３７＞
ふんすゐが、勢よくあがってゐます。＃
その後に、りっぱな建物があらはれま＃
した。＃
「これは、上野の帝室博物館です。」＃
大きな木が立ってゐて、その根もと＃
に、金網の張ってある池が出ました。水＃
鳥が、たくさん泳いでゐました。猿［さる］が、＃
上手にぶらんこをしてゐました。白［しろ］熊［くま］＃
が、頭をふってゐました。きりんが、せ＃
＜Ｐ－１３８＞
いのびをしたやうなかっかうをしてゐ＃
ました。ライオンが、大きな聲を出しま＃
した。＃
「ここは、みなさんに喜ばれる上野の＃
動物園です。」＃
象［ざう］が、のそりのそりと歩いてゐます。＃
虎［とら］が、じっとこちらを向いてすわってゐ＃
ます。＃
鳩［はと］が、何十羽となく集って來て、ゑさ＃
＜Ｐ－１３９＞
を拾ってゐるところが出ました。小さ＃
な女の子が、豆をまいてやりました。＃
「ゴーン。」と、かねがひびいて、淺草の＃
大きなお寺があらはれました。＃
にぎやかな銀［ぎん］座［ざ］通が、うつりました。＃
兩側には店が並んでゐて、人が、すれあ＃
ふほどたくさん歩いてゐます。電車や、＃
自動車が、ひっきりなしに通ります。＃
やなぎの並木が、にぎやかな通をきれ＃
＜Ｐ－１４０＞
いにかざってゐました。＃
にはかに、笛とたいこの音がひびい＃
て來て、ずらりと並んだお祭のちゃう＃
ちんが、うつりました。「わっしょい、わ＃
っしょい。」といふ元氣な子どもの聲が＃
して、みこしをかついだ子どもたちが、＃
もみあひもみあひ出て來ました。＃
そのにぎやかな元氣な聲が、急にか＃
はって、「ザー。」といふ機械の動く音に＃
＜Ｐ－１４１＞
なりました。印［いん］刷［さつ］の工場です。山のやうに積まれた紙＃
が、機械の間を流れるうちに、字がすられ、繪がすられ、＃
たちまち本になって出て來ます。＃
次から次へ、大勢の生徒さんたちが、＃
足並みをそろへて行進して來ます。そ＃
れが美しいわになったかと思ふと、體＃
操をしたり、いうぎをしたりします。＃
「これは、明治神宮の競技場です。」＃
空には、白い雲がぽっかり浮かんで、日の丸の旗がひる＃
＜Ｐ－１４２＞
がへってゐます。＃
勇ましい音樂が始りました。大勢の人が、並んで演＃
奏してゐます。＃
「今、音樂を放送してゐるところです。」＃
放送局のアンテナが、空高くうつり＃
ました。よく晴れた空を、鳥がむらが＃
って飛んでゐましたが、今度は、遠い空＃
から飛行機がやって來て、やがて着陸しました。＃
「ここは、空のげんくゎん東京飛行場です。」＃
＜Ｐ－１４３＞
今、飛び出さうとする飛行機に、乘客＃
が乘ってしまふと、いきなり爆音がし＃
て、みるみる、鳥のやうに小さくなりま＃
す。＃
ここで、いちばん初めに出たむさし＃
野がまたうつりました。ずっと野原の＃
向かふに、富士山が光って見えます。　　＃
「夕やけ小やけ、　　＃
あした天氣になあれ。」　　＃
＜Ｐ－１４４＞
こんな子どもの歌が、聞えて來ました。＃
そのうちに、空も消え、野原も消え、みんな消えてし＃
まひました。　　＃
