＜出典＞６４３　　　国定読本　６期４－３
＜Ｐ－００２＞
もくろく　　＃
一　　組みあわせ………四　　＃
（一）　　＃
（二）　　＃
（三）　　＃
二　　音というもの………十　　＃
三　　つばめ………十五　　＃
四　　夕やけ………二十六　　＃
＜Ｐ－００３＞
五　　先生とみなさんへ………三十一　　＃
六　　どんぐりとやまねこ………四十七　　＃
七　　貝づか………七十六　　＃
八　　なかよし………八十七　　＃
九　　山のスキー場………百四　　＃
十　　ちよ紙………百十四　　＃
十一　　泉を求めて………百十九　　＃
十二　　一ぴきのくも………百二十七　　＃
＜Ｐ－００４＞
一　　組みあわせ　　＃
（一）　　＃
白い紙に赤い色をぬりますと、明かるい感じ＃
になります。この赤い色のそばに黄色をぬりま＃
すと、赤い色だけでは感じられなかった明かる＃
さがあらわれます。＃
黄色のかわりに、みどり色をぬってみると、また、ちがっ＃
た感じがします。＃
みどり色のかわりに、むらさきをぬったら、どうなるでしょ＃
＜Ｐ－００５＞
う。＃
むらさきのかわりに、茶色をぬったら、どうなるでしょう。＃
これは二つの色の組みあわせですが、三色の組みあわせに＃
したら、二色のときよりも、もっとちがった感じがするにち＃
がいありません。四色、五色と数をましていけば、その感じ＃
はまたふかくなるでしょう。　　＃
（二）　　＃
オルガンで一つの音だけひいてきいても、その音には、あ＃
る感じがこもっているものです。＃
この音と、ほかの音とをいっしょにひいてみると、まえと＃
＜Ｐ－００６＞
はちがった感じがします。＃
三音、四音と組みあわせてみると、さら＃
にちがった氣持がします。＃
オルガンのほかに、バイオリンとか、フ＃
ルートとか、ほかの樂器を、いっしょにあ＃
わせてひいてみたらどうでしょう。音をう＃
まくあわせると、とけあった美しいひびき＃
となってきこえるにちがいありません。＃
色の組みあわせが、さまざまの感じをあ＃
らわすのと同じように、音の組みあわせも、＃
いろいろな氣持をあらわします。　　＃
＜Ｐ－００７＞
（三）　　＃
ここに、「月」という一つのことばがあります。＃
このことばを耳にしたり、文字でよんだりし＃
ますと、夜のしずかなけしきを思いだします。＃
この「月」ということばに、「水」ということばを＃
そえたら、どういうけしきを思いだしますか。「月」だけで思い＃
だした心の絵とは、いくらかちがったものがあらわれてくる＃
でしょう。＃
この「水」は、さらさらと流れる小川ともなり、ちらちらと光＃
るいけともなり、また廣い海ともなります。＃
＜Ｐ－００８＞
さらに、「虫の声」ということばを加えたらどうでしょう。＃
色の組みあわせも、音の組みあわせ＃
も、おたがいにとけあって、一つの感＃
じをつくりあげると同じように、こと＃
ばの組みあわせも、それぞれちがった＃
新しい思いをおこさせます。＃
「風」ということばに、ほかのことばを＃
つけてみましょう。＃
「風」を「朝風」として、これにいろいろな＃
ことばをつけてみましょう。＃
おしまいに、「山」「けむり」「絵はがき」「港」「友だち」など、い＃
＜Ｐ－００９＞
ろいろなことばを組みあわせてみましょう。＃
二つか、三つのことばの組みあわせだと、すぐ心にものを＃
思いうかべることができますが、あまりたくさん重ねると、＃
ごちゃごちゃになって、まとまりがつかず、心の絵がみだれ＃
てしまいます。＃
これは色のばあいでも、音のばあいでも同じことです。　　＃
＜Ｐ－０１０＞
二　　音というもの　　＃
このあいだ、ラジオで、「劇場音樂の話」をきいた。＃
その中で、たいこのたたきかたによっ＃
て、いろいろな心持をあらわすことが＃
できるし、また、さまざまな情景を写＃
しだすこともできるという話がおもし＃
ろかった。＃
その例として、まず、水の音をとり＃
あつかった。水の音をたいこであらわすことなどは、ちょっ＃
＜Ｐ－０１１＞
と考えられないが、じっさいにきいてみると、たしかに水の＃
音である。＃
はじめに、川の水の音をたたいてきかせてくれた。川波が＃
ザワザワとたちさわぐところである。つぎには、雨の降ると＃
ころであった。それから、水の中にドブンととびこんだとき＃
の音もあらわした。おしまいに、海岸で波のくだけるところ＃
をきかせてくれた。ドドンドドンとなる大だいこの音は、ほ＃
んとうにうちよせる波の音をきいているようであった。＃
つぎに、風の音をたたいた。風といえば、「そよそよ」とか、＃
「ザワザワ」とか、「ビュウビュウ」とかいうことばであらわして＃
いるが、それをたいこであらわすというのだからおもしろい。＃
＜Ｐ－０１２＞
よくきいていると、たしかに風の音になる。とうげ道にさし＃
かかったとき、さっとふいてくる風であり、竹やぶを流れて＃
くる風であり、町の通りを、電線を、はたを、せんたく物を＃
ふいている風である。＃
風の音よりも、もっとおもしろいと思ったのは、雪の降っ＃
てくるところをあらわしたひびきである。たいこを、ひくく、＃
こまかくつづけてうち鳴らすのであるが、いかにも雪がしん＃
しんと降りしきっているような氣がした。＃
ただ一つのたいこが、そのうちかたによって、水の音にも＃
なり、風の音にもなり、雪の降るようすにもなるのは、ふし＃
ぎである。＃
＜Ｐ－０１４＞
しばいで、ゆめをみていた人が、にわかに目をさます場面＃
を演ずることがある。こんなときにも、たいこをつかう。ゆ＃
めからさめるときには、音などはけっしてするものではない＃
が、やはりたいこをたたく。＃
音というものは、情景をあらわすばかりでなく、心持まで＃
あらわすことができるものらしい。＃
いい音樂をきいても、それがわからないのは、その高さを＃
受けいれるだけの心持をもっていないからであろう。もし、＃
きく人の心が高ければ、それだけ音樂のねうちが生きてくる＃
ことになろう。　　＃
＜Ｐ－０１５＞
三　　つばめ　　＃
夏の終りごろ、つばめが電線や物ほしざおに五六ぱぐらい＃
ならんでとまっているのを、よくみかけます。ときには、十＃
ぱも二十ぱも、ずらりとならんでいることがあります。この＃
中には、親つばめもいますが、ことし生まれた子つばめが、＃
たくさんまじっています。もう大きさだけは親つばめと同じ＃
＜Ｐ－０１６＞
ですが、まだ、口ばしの下の赤色が、親つばめほどこくあり＃
ません。口ばしの両わきがいくぶん黄色にみえるのさえあり＃
ます。＃
こうして、大ぜいのつばめが、ならんでいるのをみると、＃
なにかしら相談でもしているようにみえます。まもなくさっ＃
ていかなければならない日本に、なごりをおしんでいるのか＃
もしれません。これからいこうとする遠い國のことを、話し＃
あっているのかもしれません。＃
やがて、九月のなかばをすぎると、つばめは、そろそろ日＃
本をさっていき、十一月のはじめになれば、もうほとんどす＃
がたをみせなくなってしまいます。＃
＜Ｐ－０１７＞
つばめのゆくさきは、遠い南の海のかなたです。＃
とうきょうから四千キロもあるフィリピンで、ある年の十＃
月のすえ、子どもがつばめをつかまえました。すると、その＃
右の足に、日本の文字をしるした小さな金ぞくのいたがつい＃
ていました。それによると、さいたま縣のあるところで、こ＃
ころみに、しるしをつけてはなしたものだということがわか＃
りました。＃
しかし、つばめは、もっともっと南へとんでいくのです。＃
南洋の島々から、さらに海をこえて、遠いオーストラリアま＃
でいくのがあるということです。＃
日本のつばめは、こんなふうに渡っていきますが、ヨーロッ＃
＜Ｐ－０１８＞
パのつばめも同じように、ヨーロッパの北の方ではんしょく＃
したものが、秋には、南ヨーロッパを通って、遠くアフリカ＃
までもいって、冬ごしをします。＃
つばめは、鳥の中でも、たいへん早くとぶ鳥です。汽車や＃
自動車もかなわないくらいの早さですから、なん百キロの海＃
をひといきにとぶのも、けっしてふしぎではありません。し＃
かし、その中には、ことし生まれた子つばめがたくさんいま＃
す。また、ときには、あらしや、そのほかの思いがけないさ＃
いなんに、あわないともかぎりません。＃
しょうわ六年の秋、オーストリアの都ウィーンでのできご＃
＜Ｐ－０１９＞
とです。約十万ばのつばめが、きゅうに落ちてきたことがあ＃
ります。その年は氣候がわるくて、九月の中ごろ、きゅうに＃
十二月の氣候と同じ寒さになり、雨が降りつづきました。お＃
りから南へ飛行中だったつばめは、食にうえ、つめたい雨に＃
ずぶぬれになって、身動きもできなくなってしまったのです。＃
ウィーンの動物ほご協会に、近くのランネルスドルフとい＃
うところから、はじめて、電話でこのことを知らせてきまし＃
た。協会では、喜んでつばめのせわをする返事をしました。＃
それと同時に、協会ではすぐに、寒氣のために苦しんでいる＃
つばめのせわをすることを、新聞に廣告しました。＃
その廣告は、たいへんなはんきょうをまきおこしました。＃
＜Ｐ－０２０＞
「かわいそうなつばめをすくえ。」という運動に全國民が、加わっ＃
たほどです。＃
協会へは、電話が、ひっきりなしにかかって、つばめを集＃
めていることを知らせてきました。そのつばめを運ぶのに六＃
台の自動車ではまにあわず、さらに二台の自動車を加えまし＃
た。そうして自動車は、夜なかの二時、三時にも、よわりきっ＃
ているつばめたちを運んできました。＃
さいわいなことに、そのとき、あいていた家が一けんあっ＃
たので、協会では、おおいそぎで、その家をつばめたちのた＃
めにぐあいよくつくりなおしました。へやはいそいであたた＃
められ、たくさんのはりがねがはりまわされて、つばめたち＃
＜Ｐ－０２１＞
のとまるところがつくられました。＃
いく千というつばめたちは、人をおそれず、へやにはいっ＃
てくる人があると、たちまち、そのかたや、頭や、手にとま＃
りました。＃
たくさんのつばめがはじめて運ばれてきたのは、九月十七＃
日でした。その日はたいへん寒いあらしの日で、朝から晩ま＃
で、こやみなく雨が降っていました。晩の十時に、二千ばの＃
つばめが着きました。その夜半には、また一台の貨物自動車＃
が、五千ばのつばめをつんできました。＃
そこで、なるべく早く南のあたたかいところへ運ぶために、＃
飛行機をつかうことにしました。航空会社では、お金をとら＃
＜Ｐ－０２２＞
ずにつばめを運ぶことを申しでました。つばめをのせた飛行＃
機は、それから毎日のように、アルプスをこえてヴェニスへ＃
とんでいきました。それでも運びきれなくて、九月十九日の＃
晩には、ヴェニスいきの汽車に、とくべつにあたたかくした＃
貨車を一つつけて送ったほどでした。＃
汽車や飛行機で送られた数は、だいたいつぎのとおりです。＃
九月二十四日　飛行機で　二千ば　＃
二十五日　同じく　二万五千ば　＃
二十六日　汽車で　五万ば　＃
二十九日　飛行機で　一万ば　＃
十月一日　飛行機で　一千六百ぱ　＃
二日　同じく　九百九十ぱ　＃
五日　同じく　のこりの三十九わ　＃
＜Ｐ－０２３＞
この合計は、約八万九千ばです。このほかに、オーストリ＃
ア動物園の人たちがひき受けて送ったつばめを加えると、十＃
万ばあまりになります。＃
そのころ、オーストリアは第一次世界大戰のあとで、まだ＃
そのいたでがなおっていないころでした。しかし、この國の＃
人々が、あわれなこの小鳥たちにしめしたもっとも人間らし＃
いあたたかい氣持は、この國の人々が、どんなに高い教養を＃
もっているかを世界じゅうに知らせた大きなできごとでした。＃
また、飛行機という文明の利器が、このしごとにつかわれ＃
たということを、たいへんありがたいことだといわずにはい＃
られません。＃
＜Ｐ－０２４＞
むかしから、つばめは、同じ家に帰ってくるといわれてい＃
ます。つまり、ことしある家ののき下で巣をつくったつばめ＃
は、來年また、同じ巣へもどってくるというのです。近年に＃
なって、いろいろな方法でこのことをしらべてみますと、や＃
はりそうであることがわかりました。＃
日本からオーストラリアまでは、一万キロあまりもありま＃
すが、つばめは、けっして自分の國をわすれません。日本に＃
春がくると思うと、もう矢もたてもたまらず、北をさしてす＃
すむのです。その小さな胸には、わか葉のもえる日本の春の＃
美しさを思いうかべているのでしょう。あの家ののき下につ＃
＜Ｐ－０２５＞
くった古巣がなつかしいのでしょう。＃
春になると、だれもが、このめずら＃
しいお客の帰ってくるのをまちこがれ＃
ています。ちらりとつばめのすがたを＃
みた人は、きっと、＃
「きょう、はじめてつばめをみたよ。」＃
といって喜びます。わけても、自分の＃
家へいそいそと帰ってきたつばめをむ＃
かえる人の心は、どんなにうれしいこ＃
とでしょう。　　＃
＜Ｐ－０２６＞
四　　夕やけ　　＃
かあさんがぼんやりみえるかやの中　　＃
上ばきを自分でつくるわらしごと　　＃
子もりするしずかなる月なの上に　　＃
麦ふむやみだれし麦の夕日かげ　　＃
＜Ｐ－０２７＞
こがらしや子ぶたのはなもかわきけり　　＃
月の夜をわが家のありしあたりまで　　＃
すみきったボールの音や秋の風　　＃
秋風にプールの水がゆれている　　＃
草原に一本あかしはじもみじ　　＃
＜Ｐ－０２８＞
二重にじ青田の上にうすれゆく　　＃
朝つゆの中に自轉車のりいれぬ　　＃
親のまたくぐる子うしや草の花　　＃
ほし草にかげおとしとぶとんぼかな　　＃
持ちかえしせんこう花火のゆれている　　＃
大空にのびかたむける冬木かな　　＃
＜Ｐ－０２９＞
かい道をきちきちととぶばったかな　　＃
下雲へ下雲へ夕やけうつりさる　　＃
うらがれにおろされ立てる子どもかな　　＃
かやごしの電燈のたまみておりぬ　　＃
さるすべりラジオのほかに声もなし　　＃
＜Ｐ－０３０＞
くれていく巣をはるくものあお向きに　　＃
まえ向けるすずめは白し朝ぐもり　　＃
ひたいそぐいぬにあいけり木＃
のめ道　　＃
歩みくる胸のへにちょうとび＃
わかれ　　＃
＜Ｐ－０３１＞
五　　先生とみなさんへ　　＃
長らくごぶさたしています。こちらへきてから、もう四ヶ＃
月になります。こちらへきたときは夏の暑いさかりでしたが、＃
いまはもうかきの葉もすっかり落ちつくして、秋も終り近く＃
なりました。＃
ぼくは、いまでも、先生やみなさんのことを、一日もわす＃
れたことはありません。先生のことを思うと、みなさんがう＃
らやましくなります。＃
先生、おかわりありませんか。みなさんもお元氣ですか。＃
＜Ｐ－０３２＞
ぼくは、こちらへきてから、おとなといっしょに畑にでたり、＃
山へたきぎをとりにいったりす＃
るので、まえより元氣で、から＃
だもしっかりしてきました。ぼ＃
くがいまいる家は、山のふもと＃
にある森の中の小さな農家です＃
が、家のまえをちょっとでると、＃
はるか下の方に美しい湖がみえ＃
ます。＃
秋晴れのすみきった空の下に、＃
山のすがたが、さかさまに湖の中にうつって、がくにいれた＃
＜Ｐ－０３３＞
油絵のように美しくかがやいてみえます。＃
この湖へつりにいくのが、いちばんの樂しみです。ふなが＃
たくさんいます。四五十センチもあるこいもいます。いなも＃
います。それから、らいぎょもいます。らいぎょがふえてか＃
らは、ほかの魚がだんだんへってきたそうです。まえは、もっ＃
ともっといろいろな魚がいたそうです。このほかに、大きな、＃
黒くてひらたい貝がとれますので、なんども湖に近い川しも＃
の方へとりにいきました。村の子どもがきょうそうでとりに＃
いくので、たいそうにぎやかです。らいぎょは、大きなのに＃
なると、三十センチあまりもあります。三びきもとってくる＃
と、うちの家族七人が、じゅうぶんたべることができます。＃
＜Ｐ－０３４＞
ぼくは、先生やみなさんといっしょに、この湖へつりにいけ＃
たらと、いつも思っています。せめて、貝だけでもおみせし＃
たいと思っています。＃
せんだって、はじめて畑のかいこんのおてつだいをしまし＃
た。ちょまを植えた一アールあまりのところです。母と、お＃
ばと、兄と、妹と、ぼくの五人で、三日間かかりました。ちょ＃
まの根は、ふといごぼうのようで、たこの足のように一かぶ＃
から七本も八本もでていて、それが、深いのになると、一メ＃
ートルあまりも根をはっていました。また、ちょまはふえる＃
力の強い草なので、どんな小さな根っこでも、すっかりとり＃
のぞいておかないといけないといわれて、ほねをおりました。＃
＜Ｐ－０３５＞
小さなぼくたちの畑がようやくかいこんされて、三日めに＃
やっと、うねを十三本つくりま＃
した。＃
そうして、近所からわけても＃
らったさつまいものなえを、手＃
わけして植えていきました。い＃
もなえは、ぜんぶで三百五十本＃
ありました。それは、七月の二＃
十八日でしたが、村でいちばん＃
おそい植えつけでした。＃
＜Ｐ－０３６＞
たきぎをとりにいく山は、ぼくの家からは十五六分ほど登＃
るのですが、そこは、深い谷になっています。ここからは美＃
しいかこうがんがとれます。大きなかこうがんの岩と岩との＃
あいだを流れ落ちるしみずが、せかれて、たきになり流れに＃
なって、村の中を通り、田んぼに落ち、湖にまでつづいてい＃
ます。＃
夏のあいだ、たきぎをせおって山からおりるとき、この谷＃
まの流れにはいって、頭から水をあびるのが樂しみでした。＃
また山へ登るほそ道の両がわに、まっかな、かわいらしい山＃
いちごの実が、こぼれたように雜草の中にありました。手に＃
とって口へいれると、つめたくてあまい味がしました。小さ＃
＜Ｐ－０３７＞
い妹のために、くわの葉につつんで持って帰ったこともあり＃
ました。＃
ぼくははじめ、山へたきぎを＃
とりにいくのが、すきではあり＃
ませんでした。だいいち、じめ＃
じめした足もとがきみがわるく、＃
そのうえ、くまざさやいろいろ＃
な名も知らない雜草がいちめん＃
にはえていて、なにかでてきそ＃
うです。なん十メートルもある＃
高いすぎやまつのはえているところは、晝でもうすぐらく、＃
＜Ｐ－０３８＞
日があたらないので、雨の降ったあとのようにぬれています。＃
かれ枝ならば、だれの山の木の＃
枝でも、おってよいことになっ＃
ています。高くて手のとどかな＃
いかれ枝は、長い竹ざおのさき＃
にかまをくくりつけて、ひっか＃
けるようにして、下から力をい＃
れてひきおろします。ポキンと＃
いう音がして、ガサガサと落ち＃
てくると、うれしくなります。＃
母たちもぼくも、はじめ、その竹ざおにかまをつけてやる方＃
＜Ｐ－０３９＞
法を知らなかったので、枝ぶりのよいかれ枝のたくさんつい＃
ている高い木をみつけると、兄かぼくがのぼる役をひきうけ＃
ました。八九メートルもある木の上で、なたで枝をおろすの＃
は氣がつかれます。下からどんなに大きな声で話しかけられ＃
ても、きこえないときがあります。上の方のかれ枝をじゅん＃
じゅんにたたき落し、足もとの枝をおろして、やっとおりて＃
くると、からだじゅうがあせです。＃
一ど、すぎの木で、根もとからかれている高さ十五メート＃
ルに近い木にのぼったことがありました。のぼるたびにぐら＃
ぐら動くので、思わず木にしがみついたりしました。＃
下では、兄や、母や、おばが、＃
＜Ｐ－０４０＞
「足もとをよくみて、氣をつけてね。氣をつけてね。」＃
とか、＃
「そんな高いところ、あぶないから、早くおりておいで。」＃
などいわれたが、ぼくはがんばっておりませんでした。木が＃
動くので、かれ枝はなかなかたたき落せませんでした。なた＃
をふりおろすたびに、すぎの木は大きくゆれました。＃
すこし氣がおちついてから、ぼくはあたりをみまわします＃
と、はるか向こうの山のはしから、美しい湖が半分ばかり顏＃
をみせていました。また、下の方の山道を、しょいこをつけ＃
たおとなの人が、男か女かわからないが、下を向いて登って＃
くるのがみえます。道もないところから、木こりのすがたが＃
＜Ｐ－０４１＞
あらわれます。思わぬところに炭やき小屋があって、ゆるい＃
けむりのあがるのがみえました。＃
秋になって、ぼくは山へいく＃
のが樂しみになりました。だん＃
だんたき木とりになれたのと、＃
山へいくたびに、めずらしい小＃
鳥がみつかるからです。ぼくた＃
ちがこの村へきたころは、湖に＃
は美しい白さぎがたくさんまい＃
おりていましたが、いつのまに＃
どこへ渡っていったのか、いまはもういなくなりました。＃
＜Ｐ－０４２＞
そのかわりまた、いつのまにかがんが渡ってきました。か＃
ももきました。山には、つぐみや、ひわがきました。そのほ＃
か、名のわからない美しい小鳥がたくさんいます。＃
かきの色づくころ、畑のいもをほりおこしました。ぼくの＃
うちでは、五日めごとにひとうねずつほりおこすことにしま＃
した。苦労してかいこんした畑のいもをほりおこすのは、樂＃
しく、うれしいことでした。いちばん小さな三つになる妹も＃
つれて、うちじゅうがみんなでいもほりをしました。＃
大きなうねのはだが地われしているのをほりおこすとき、＃
胸がどきどきしました。母やおばがくわをいれるあとから、＃
ぼくたちはむちゅうになっていもをひろいました。＃
＜Ｐ－０４３＞
こちらはかきの木の多いところで、どこの家にも、二本や＃
三本はあります。ぼくたちのか＃
りているやしきのまわりにも、＃
大きなかきの木が三本あります。＃
朝早く庭にでて、つやつやし＃
た大きなかきが、ころころと二＃
つ三つ落ちているのをみたとき＃
は、思わず手にとりあげます。＃
うちのかきはしぶがきですか＃
ら、ほしがきにするために、母＃
がかわをむいて竹ぐしにとおし、のき下につるしてくれます。＃
＜Ｐ－０４４＞
妹は、かきの葉を「きれいだ、きれいだ。」といってひろい＃
集めては、ままごとをして遊びます。母やおばまで子どもの＃
ように、かきの葉を一まい一まいならべて、この色がよいと＃
か、こちらの色がよいとかいってながめています。いつのま＃
にか葉がすっかり落ちつくしてはだかになった木の上に、まっ＃
かにじゅくした実がすずなりになっているのをみると、いま＃
にものぼってとりたくなります。＃
この夏、一ど、用事でおばがそちらにでかけるとき、ぼく＃
もついていったのでした。ぼくはみなさんにあってお話がし＃
たいと思いましたが、いそぐ用事だったので、先生にだけお＃
目にかかってすぐ帰りました。＃
＜Ｐ－０４５＞
おばに、「小公子」をよんでもらいました。おばは、「小公子」の＃
話にでてくる、セドリック少年＃
のように、子どものころから、＃
世の中のことに注意を向けるよ＃
うにといわれました。ぼくは、＃
おとうさんのやっていたパン屋＃
のしごとを、しんけんにやろう＃
と思っています。兄は、大きく＃
なって農業をするために、いま＃
知りあいの家でみならいをして＃
います。＃
＜Ｐ－０４６＞
「小公子」のセドリックは、七つ八つのころでも、せんきょの＃
ことを話していますけれども、ぼくにはまだ、セドリックほ＃
どわかりません。先生、「小公子」をみなさんにお話してあげて＃
ください。＃
ぼくは、この手紙を数日もまえから、喜んで書きだしまし＃
た。もう、遠くの山々のいただきに、白い雪のぼうしがみえ＃
ます。なつかしいそちらの山々の景色を思いだします。天氣＃
のよい日は、あの廣い学校の運動場で、先生とみなさんが、＃
ゆかいに遊んでいるだろうと思います。＃
先生、みなさん。樂しく元氣で勉強してください。＃
さようなら　　＃
＜Ｐ－０４７＞
六　　どんぐりとやまねこ　　＃
おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、いちろうのうち＃
にきました。　　＃
「かねたいちろうさま。　　九月十九日。　　＃
あなたは、ごきげんよろしいそうで、けっこうです。＃
あした、めんどうな裁判をしますから、おいでなさい。と＃
び道具を持たないでください。　　やまねこ拜」　　＃
字はへたで、すみもがさがさして指につくくらいでした。＃
けれども、いちろうはうれしくてたまりませんでした。はが＃
＜Ｐ－０４８＞
きをそっと学校のかばんにし＃
まって、うちじゅうを、とん＃
だりはねたりしました。＃
ねどこにもぐってからも、＃
やまねこのにゃあとした顏や、＃
そのめんどうだという裁判の＃
ようすなどを考えて、おそく＃
までねむれませんでした。＃
けれども、いちろうが目を＃
さましたときは、もうすっか＃
り明かるくなっていました。＃
＜Ｐ－０４９＞
おもてにでてみると、まわりの山は、みんな、たったいまで＃
きたばかりのように、きれいにもりあがって、まっさおな空＃
の下にならんでいました。いちろうは、いそいでごはんをた＃
べて、谷川にそった小道を、上の方へ登っていきました。＃
すきとおった風がザアッとふくと、くりの木はバラバラと＃
実を落しました。いちろうはくりの木をみあげて、＃
「くりの木、くりの木。やまねこがここを通らなかったかい。」＃
とききました。くりの木は、ちょっとしずかになって、＃
「やまねこなら、けさ早く馬車で、東の方へとんでいきまし＃
たよ。」＃
と答えました。＃
＜Ｐ－０５０＞
「東なら、ぼくのいく方だねえ。おかしいな。とにかく、もっ＃
といってみよう。くりの木、ありが＃
とう。」＃
くりの木は、だまってまた実をパラ＃
パラと落しました。＃
いちろうは、すこしいきますと、そ＃
こはもう、「ふえふきのたき」でした。「ふ＃
えふきのたき」は、まっ白な岩のがけの＃
中ほどに、小さなあながあいていて、＃
そこから水がふえのように鳴ってとび＃
だし、すぐたきになって、ゴウゴウと＃
＜Ｐ－０５１＞
谷に落ちていました。＃
「おいおい、ふえふき。やまねこがここを通らなかったかい。」＃
たきがピーピー答えました。＃
「やまねこなら、さっき馬車で、西の方へとんでいきましたよ。」＃
「おかしいな。西なら、ぼくのうちの方だ。けれども、まあ、＃
もうすこしいってみよう。ふえふき、ありがとう。」＃
たきは、またもとのようにふえをふきつづけました。＃
いちろうがまたすこしいきますと、一本のぶなの木の下に、＃
たくさんの白いきのこが、ドッテコドッテコと、へんな樂隊＃
をやっていました。＃
いちろうは、からだをかがめて、＃
＜Ｐ－０５２＞
「おい、きのこ。やまねこがここを通らなかったかい。」＃
とききました。すると、きのこは、＃
「やまねこなら、けさ早く馬車で、南の方＃
へとんでいきました。」＃
と答えました。＃
いちろうは、首をひねりました。＃
「南なら、あっちの山の中だ。おかしいな。＃
まあ、もうすこしいってみよう。きのこ、ありがとう。」＃
きのこはみんないそがしそうに、ドッテコドッテコと、へ＃
んな樂隊をつづけていました。＃
いちろうが、またすこしいくと、一本のくるみの木のこず＃
＜Ｐ－０５３＞
えを、りすが、ぴょんぴょんととんでいました。いちろうは、＃
すぐ手まねきして、それをよびとめて、＃
「おい、りす。やまねこがここを通らなかったかい。」＃
とたずねました。すると、りすは、木の上からひたいに手を＃
かざして、いちろうをみながら答えました。＃
「やまねこなら、けさまだくらいうちに、馬車で、南の方へ＃
とんでいきましたよ。」＃
「南へいったなんておかしいなあ。けれども、まあ、もうす＃
こしいってみよう。りす、ありがとう。」＃
りすはもういませんでした。ただ、くるみのいちばん上の＃
枝がゆれ、となりのぶなの葉がちょっと光っただけでした。＃
＜Ｐ－０５４＞
いちろうがすこしいきましたら、谷川にそった道は、もう＃
ほそくなってきえてしまいました。そうして、谷川の南の、＃
まっ黒なかやの木の森の方へ、新しい小さな道がついていま＃
した。＃
いちろうは、その道を登っていきました。＃
かやの枝は、まっ黒にかさなりあって、青＃
空は一きれもみえず、道はたいへんきゅう＃
な坂になりました。いちろうは、顏をまっ＃
かにして、あせをぼとぼと落しながら、そ＃
の坂を登りますと、にわかにぱっと明かるくなって、目がち＃
くっとしました。そこは美しいこがね色の草地で、草は風に＃
＜Ｐ－０５５＞
ザワザワ鳴り、まわりは、りっ＃
ぱなオリーブ色のかやの木の森＃
でかこまれていました。＃
その草地のまん中に、せいの＃
ひくい、おかしなかっこうの男＃
が、ひざをまげて、手に皮のむ＃
ちを持って、だまってこっちを＃
みていたのです。＃
いちろうは、だんだんそばへ＃
いきましたが、びっくりしてた＃
ちどまってしまいました。その＃
＜Ｐ－０５６＞
男はかた目でした。そうして、みえない方の目は、白くびく＃
びくうごき、足もひどく曲がってやぎのようですし、ことに、＃
その足さきは、しゃもじのようなかたちだったのです。いち＃
ろうは、きみがわるかったのですが、なるべくおちついてた＃
ずねました。＃
「あなたはやまねこを知りませんか。」＃
すると、その男は、横目でいちろうの顏をみて、口を曲げ＃
て、にやっとわらっていいました。＃
「やまねこさまは、いますぐにここへもどっておいでになる＃
よ。きみは、いちろうさんだな。」＃
いちろうはぎょっとして、ひと足うしろにさがって、＃
＜Ｐ－０５７＞
「ええ、ぼく、いちろうです。けれども、どうしてそれを知っ＃
ていますか。」＃
といいました。すると、そのきたいな男は、＃
「それなら、はがきをみたろう。」＃
「みました。それできたんです。」＃
「あの文章は、ずいぶんへただったろう。」＃
と、男は、下を向いて、かなしそうにいいました。＃
いちろうは氣のどくになって、＃
「さあ、文章はなかなかうまいようでしたよ。」＃
といいました。男は、喜んで、息をハアハアさせて、耳のあ＃
たりまでまっかになり、着物のえりを廣げて、からだに風を＃
＜Ｐ－０５８＞
いれながら、＃
「あの字もなかなかうまいか。」＃
とききました。いちろうは、思わずわらいだしながら返事を＃
しました。＃
「うまいですね。四年生だってあんなには書けないでしょう。」＃
すると、男はまたいやな顏をしました。＃
「四年生というのは、小学校の四年生だろう。」＃
その声が、あんまり力がなく、あわれにきこえましたので、＃
いちろうはあわてていいました。＃
「いいえ、大学の四年生ですよ。」＃
すると、男は、また喜んで、顏じゅう口のようにして、に＃
＜Ｐ－０５９＞
たにたわらっていいました。＃
「あのはがきは、わしが書いたのだよ。」＃
いちろうは、おかしいのをこらえて、＃
「いったい、あなたはたれですか。」＃
とたずねますと、男は、きゅうにまじめになって、＃
「わしはやまねこさまのぎょしゃだよ。」＃
といいました。＃
そのとき、風がどうとふいてきて、草はいちめんに波だち、＃
ぎょしゃはきゅうにていねいなおじぎをしました。＃
いちろうは、おかしいと思ってふり返ってみますと、そこ＃
に、やまねこが、黄色なじんばおりのような物を着て、みど＃
＜Ｐ－０６０＞
り色の目をまんまるにして立っていました。やっぱりやまね＃
この耳は立ってとがっているな、と思いながらみていると、＃
やまねこは、ひ＃
げをぴんとひっ＃
ぱって、腹をつ＃
きだしていいま＃
した。＃
「きょうはよく＃
きてくださいました。じつは、おとといからめんどうなあ＃
らそいがおこって、ちょっと裁判に困りましたので、あな＃
たのお考えをうかがいたいと思いましたのです。まあ、ゆっ＃
＜Ｐ－０６１＞
くりお休みください。じき、どんぐりどもがまいりましょ＃
う。どうも、毎年この裁判で苦しみます。」＃
そのとき、いちろうは、足も＃
とでパチパチしおのはねるよう＃
な音をききました。びっくりし＃
てかがんでみますと、草の中に＃
あっちにもこっちにも、こがね＃
色のまるいものが、ぴかぴか光っているのでした。よくみる＃
と、これはみんな赤いズボンをはいたどんぐりで、その数と＃
いったら、三百でもきかないほどでした。ワアワアとみんな＃
なにかいっているのです。＃
＜Ｐ－０６２＞
「あ、きたな。ありのようにやって＃
くる。おい、さあ早くベルを鳴ら＃
せ。きょうは、そこが日あたりが＃
いいようだから、そこんとこの草＃
をかれ。」＃
やまねこは、大いそぎでぎょしゃ＃
にいいつけました。ぎょしゃもたい＃
へんあわてて、こしから大きなかま＃
をとりだして、ザックザックとやま＃
ねこのまえのところの草をかりまし＃
た。そこへ四方の草の中から、どん＃
＜Ｐ－０６３＞
ぐりどもがぎらぎら光ってとびだして、もうワアワアいって＃
いました。＃
ぎょしゃは、こんどは、すずをガランガラン、ガランガラ＃
ンとふりました。すずの音は、かやの森にガランガラン、ガ＃
ランガランとひびき、こがね色のどんぐりどもは、すこしず＃
つしずかになりました。みると、やまねこは、もう、いつか＃
黒い、長いしゅすの服を着て、どんぐりどものまえにすわっ＃
ていました。ぎょしゃは、こんどは、草むらをむちで二三べ＃
ん、ヒュウパチッ、ヒュウパチッと鳴らしました。＃
「裁判も、もうきょうで三日めだぞ。いいかげんになかなお＃
りをしたらどうだ。」＃
＜Ｐ－０６４＞
やまねこがすこし心配そうに、それでもむりにいばってい＃
いますと、どんぐりどもは、口々に＃
さけびました。＃
「いいえ、だめです。なんといったっ＃
て、頭のとがっているのがいちば＃
んえらいのです。そうして、わた＃
くしがいちばんとがっています。」＃
「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。いちばん＃
まるいのはわたしです。」＃
「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わた＃
しがいちばん大きいから、わたしがいちばんえらいんだよ。」＃
＜Ｐ－０６５＞
「いや、ちがうよ。わたしのほうがよっぽど大きいって、き＃
のう判事さんがおっしゃったじゃないか。」＃
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いこ＃
となんだよ。」＃
「おしあいの強いものだよ。おしあいしてきめるんだよ。」＃
もうみんなガヤガヤ、ガヤガヤいって、なにがなんだか、＃
まるではちの巣をつついたようで、わけがわからなくなりま＃
した。そこで、やまねこがさけびました。＃
「やかましい、ここをなんと心える。しずまれ、しずまれ。」＃
ぎょしゃがむちをヒュウパチッと鳴らしましたので、どん＃
ぐりどもはやっとしずまりました。やまねこはぴんとひげを＃
＜Ｐ－０６６＞
ひねっていいました。＃
「裁判も、もうきょうで三日めだぞ。いいかげんになかなお＃
りをしたらどうだ。」＃
すると、また、どんぐりどもが口々にいいました。＃
「いえいえ、だめです。なんといったって、頭のとがったも＃
のが、いちばんえらいんです。」＃
「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。」＃
「ちがうよ。大きなことだよ。」＃
ガヤガヤ、ガヤガヤ、また、なにがなんだかわからなくな＃
りました。やまねこがさけびました。＃
「だまれ、やかましい。ここをなんと心える。しずまれ、し＃
＜Ｐ－０６７＞
ずまれ。」＃
ぎょしゃが、むちをヒュウパチッと鳴らしました。やまね＃
こが、ひげをひねっていいました。＃
「裁判も、もうきょうで三日めだぞ。いいかげんになかなお＃
りをしたらどうだ。」＃
「いえいえ、だめです。頭のとがったのが――」＃
ガヤガヤ、ガヤガヤ――やまねこがさけびました。＃
「やかましい。ここをなんと心える。しずまれ、しずまれ。」＃
ぎょしゃがむちをヒュウパチッと鳴らし、どんぐりはみん＃
なしずまりました。やまねこがいちろうにそっと申しました。＃
「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」＃
＜Ｐ－０６８＞
いちろうはわらって答えました。＃
「そんなら、こういいわたし＃
たらいいでしょう。この中＃
で、いちばんばかで、めちゃ＃
くちゃで、まるでなってな＃
いのがえらいとね。」＃
やまねこは、なるほどとい＃
うようにうなずいて、それか＃
ら、いかにも氣どったようす＃
で、しゅすの着物のえりを開＃
いて、黄色のじんばおりをち＃
＜Ｐ－０６９＞
ょっとだして、どんぐりどもに申しわたしました。＃
「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。この中で、いち＃
ばんばかで、めちゃくちゃで、てんでなってなくて、頭の＃
つぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」＃
どんぐりどもは、しいんとしてしまいました。それはそれ＃
はしいんとして、だまってしまいました。＃
そこで、やまねこは、黒いしゅすの服をぬいで、ひたいの＃
あせをぬぐいながら、いちろうの手をとりました。ぎょしゃ＃
も、大喜びで、五六ぺん、むちをヒュウパチッ、ヒュウパチッ＃
と鳴らしました。やまねこは、＃
「どうもありがとうございました。これほどのひどい裁判を、＃
＜Ｐ－０７０＞
まるで一分半でかたづけてくださいました。どうかこれか＃
ら、わたしの裁判所のめいよ判事になってください。これ＃
からも、はがきがいったら、どうかきてくださいませんか。＃
そのたびにお礼はいたします。」＃
といいました。＃
「しょうちしました。お礼なんかいりませんよ。」＃
「いいえ、お礼はどうかとってください。わたしの人格にか＃
かわりますから。そうして、これからは、はがきに、かね＃
たいちろうどのと書いて、こちらを裁判所としますが、よ＃
うございますか。」＃
「ええ、かまいません。」＃
＜Ｐ－０７１＞
といいますと、やまねこは、まだなにかいいたそうに、しば＃
らくひげをひねって、目をぱちぱちさせていましたが、とう＃
とう決心したらしく、いいだしました。＃
「それから、はがきのもんくですが、これからは、用事これ＃
あるにつき、明日出頭すべし、と書いていいでしょうか。」＃
いちろうはわらっていいました。＃
「さあ、なんだかへんですね。それは、やめたほうがいいで＃
しょう。」＃
やまねこは、どうもいいようがまずかった、いかにもざん＃
ねんだというふうに、しばらくひげをひねったまま下を向い＃
ていましたが、やっとあきらめていいました。＃
＜Ｐ－０７２＞
「それでは、もんくはいままでのとおりにしましょう。そこ＃
できょうのお礼ですが、あなたは、こがねのどんぐり二リッ＃
トルと、しおざけの頭と、どちらがおすきですか。」＃
「こがねのどんぐりがすきです。」＃
やまねこは、さけの頭でなくてまあよかったというふうに、＃
口早にぎょしゃにいいました。＃
「どんぐりを二リットル早く持ってこい。二リットルにたり＃
なかったら、めっきのどんぐりもまぜてこい、早く。」＃
ぎょしゃは、さっきのどんぐりをますにいれて、はかって＃
さけびました。＃
「ちょうど二リットルあります。」＃
＜Ｐ－０７３＞
やまねこのじんばおりが、風にバタバタ鳴りました。そこ＃
で、やまねこは、大きくのびあがって、目をつぶって、半分＃
あくびをしながらいいました。＃
「よし、早く馬車のしたくをしろ。」＃
白い、大きなきのこでこしらえた馬車が、ひっぱりだされ＃
ました。そうして、なんだかねずみ色のおかしなかたちのう＃
まがついています。＃
「さあ、おうちへお送りいたしましょう。」＃
やまねこがいいました。ふたりは馬車に乘り、ぎょしゃは＃
どんぐりのますを馬車の中にいれました。＃
ヒュウパチッ。馬車は草地をはなれました。木ややぶが、＃
＜Ｐ－０７４＞
けむりのようにぐらぐらゆれました。＃
いちろうは、こがねのどんぐりをみ、＃
やまねこは、とぼけた顏つきで遠く＃
をみていました。＃
馬車がすすむにしたがって、どん＃
ぐりはだんだん光がうすくなって、＃
まもなく馬車がとまったときは、茶＃
色のどんぐりにかわっていました。＃
そうして、やまねこの黄色のじんば＃
おりも、ぎょしゃも、きのこの馬車＃
も、一どにみえなくなって、いちろ＃
＜Ｐ－０７５＞
うは、自分のうちのまえに、どんぐりをいれたますを持って＃
立っていました。＃
それからあと、「やまねこ拜」というはがきは、もうきません＃
でした。やっぱり、「出頭すべし。」と書いてもいいといえばよかっ＃
たと、いちろうはときどき思うのです。　　＃
＜Ｐ－０７６＞
七　　貝づか　　＃
みんなで、学校から四キロほどある貝づかへいきました。＃
先生が、町角までいって、待っているようにとおっしゃった＃
ので、めいめい、シャベルや移植ごてなどを持って、角のむ＃
きみ屋のところに集まっていました。＃
おかみさんが、店の人とふたりで、せっせと貝をこじあけ＃
て、むきみをつくっていました。みるまに、貝がらの山が家＃
のまえにできます。先生が、リヤカーに、はこやかごなどを＃
のせておいでになりました。＃
＜Ｐ－０７７＞
「ごらんなさい。いまでもこうやって、人＃
は貝をたべています。＃
むかしといっても大むかしのことだが、＃
貝などをおもにたべていたときがあった＃
らしい。その貝がらをすてたところが、＃
きょうこれからいく貝づかですよ。」＃
先生について、五十人のなかまが、おく＃
れないように歩いていきました。平らな畑＃
やたんぼの向こうに、一だん高くなったと＃
ころがみえます。＃
「むかし、このへんは、波のおだやかな海＃
＜Ｐ－０７８＞
のいりえだったのです。そう、あの向こうの小高いところ＃
に、白い物がちらちらとみえるでしょう。あれが貝づかで＃
す。」＃
もうすこしで貝づかに着くというところで、先生は一けん＃
の農家にたちよられました。しばらくして、そこの主人といっ＃
しょにでておいでになりました。＃
「きょうは、このかたの畑をすこしほらせてもらうことにし＃
ます。」＃
主人も、くわや、ふごや、かごなどを持ってきて、かして＃
くれました。＃
そこへ着くと、先生はステッキを深く土の中へお立てにな＃
＜Ｐ－０７９＞
りました。土はやわらかで、ずぶずぶと、＃
ステッキのたけいっぱいにはいります。＃
「ここが、このあいだからよくお話して＃
いた貝づかです。この土の上に白くみ＃
えているのは、むかし海の中にいたい＃
ろいろな貝のからです。＃
むかしの人は、貝がらといっしょに、＃
いらなくなったりこわれたりした道具＃
や、たべたけものの骨や、角などを、＃
ここへすてました。それで、ここをほ＃
ると、そういうものがみつかることが＃
＜Ｐ－０８０＞
あるのです。ひとつこれからほってみることにしましょう。」＃
私たちは、もう、ほってみたくてうずうずしていました。＃
「まあ、おちついて、ゆっくりしごとにかかりましょう。ま＃
ずどんなふうにほりますか。」＃
「ありそうなところをほってみます。」＃
「ありそうなところって、どんなところでしょう。」＃
「――」＃
「それはちょっとわかりませんね。もし、手あたりしだいに＃
やって、ぐあいよくなにかをほりあてたらいいが、ただ、＃
あっちこっちほってみて、なんにもみつからないと、だめ＃
だと思ってやめてしまう。これがふつうです。」＃
＜Ｐ－０８１＞
「ぼくは、どこか一つのところをきめて、廣＃
く深くほっていくのがいいと思います。」＃
「それがよさそうだね。それではまず、一メ＃
ートルぐらいのはばで、東西に四五十メー＃
トルほってみることにしよう。貝や石ころは、どれか一つ＃
のかごにいれておこう。」＃
そこでみんなは、ほりだしました。＃
「なんにもないぞ。」＃
「だめだな、ここは。」＃
「先生、ここは貝ばかりですよ。」＃
口々にこんなことをいうのを、先生は、耳にもおいれにな＃
＜Ｐ－０８２＞
らないで、ひとりでたんねんにほっておいでになります。ぼ＃
くらは、ときどき手をとめて、そこをのぞきにいってみると、＃
先生のかごの中には、いつのまにか、せきふらしい物、土器＃
らしい物、ただのわり石のような物などがたまっています。＃
「先生のところは、いろいろでるらしいぞ。」＃
「ここからも、でるかもしれないぞ。」＃
「いっしょうけんめいやってみよう。」＃
私たちは、だんだんしんけんになってほりました。＃
「そら、これはせきふらしいぞ。」＃
「そうだ、たしかにそうだ。先生のところにあるのと同じだ＃
ね。」＃
＜Ｐ－０８３＞
「おや、これはなんだろう。＃
針みたいだね。」＃
「骨で作ったものらしいよ。＃
ぼく、先生におたずねして＃
みよう。」＃
私はかけていって、先生に＃
おたずねしますと、＃
「よくみつけたね。あとでよ＃
くみてあげるから、かごに＃
いれてとっておきなさい。」＃
と、しずかにおっしゃいました。＃
＜Ｐ－０８４＞
「せともののかけらみたいなものがあるじゃないか。」＃
先生がまわっておいでになりました。＃
「これかね。これはじょうもん土器といって、貝づかからで＃
る物では、いちばん多い土器です。とって＃
おきなさい。」＃
だれもかれも、あせを流し、顏をまっかに＃
してほっています。＃
先生のふえが鳴りました。みんなはほる手をとめました。＃
「これで三十分ほりました。わたしは、なんにも説明しなかっ＃
たが、みなさん自身で、だんだんいろいろなことを知って＃
くると思います。みなさんのひろった物の中に、いのしし＃
＜Ｐ－０８５＞
やしかの角などに手を加えて、なにかの道具につかった物＃
があったでしょう。それには、こんな針や、もりなどがあ＃
ります。＃
石で作ったもの、それには石の矢じり、おもりなどいろ＃
いろあります。ここからでるのは、このとおりうちくだい＃
て作った物で、つるつるみがかれていないから、ただのわ＃
り石のようにみえる物もあります。＃
それから土器。これはじょうもん土器という種類で、こ＃
んなただのせともののかけらがと思うような物ですが、こ＃
れはたいせつな物だから、どんな小さなかけらでも、ひろっ＃
ておきなさい。さあ、あと三十分ほってみましょう。」＃
＜Ｐ－０８６＞
もう、むだ口をきく人は、ひとりもありませんでした。四＃
人が話しあってしらべ、へんだと思う物は、みなかごの中に＃
いれておきました。＃
ピリピリッとふえが鳴りました。あとの三十分は、ひじょ＃
うにみじかく思われました。＃
「かごをこのリヤカーにつみなさい。それから、道具を集め＃
て、めいめい持ってきた物があるか、おしらべなさい。い＃
ずれ学校へ帰ってから、もう一ど整りしましょう。」＃
帰りは、みんなかわるがわるリヤカーをおして歩きました。　　＃
＜Ｐ－０８７＞
八　　なかよし　　＃
とき　　ある晴れた日の＃
午後　＃
ところ　　学校の帰り道　＃
人　　たかぎ・やまだ　＃
そのほか友だち＃
大ぜい　＃
舞台の中ほどに大きな木＃
＜Ｐ－０８８＞
が一本立っている。＃
「おい、よしたまえ。」「よせったら。」「だめだよ、きみ。」――けんか＃
をとめる声がつづく。まくがあく。＃
たかぎとやまだが左右にひきわけられたところである。たか＃
ぎには友だちの一、二、三、やまだには四、五、六、そのほ＃
か数人が、それぞれにわかれてふたりをひきとめている。＃
一「よせよ、たかぎくん。」＃
四「さあ、やまだくん、これでひきわけだ。」＃
やまだ「いやだい。」と、たかぎをにらみつける。＃
たかぎ「ぼくだっていやだ。」と、つかまれている手をふりはな＃
＜Ｐ－０８９＞
そうとする。＃
二「まだやるのか。」＃
たかぎ「やるとも。」＃
三「よせよ。どうしたんだい。あんなになかのいいふたり＃
が。」＃
五「へんだよ。ふたりとも――さあ、いいかげんにして帰＃
ろうよ。ね、やまだくん。」と、つれていこうとする。＃
やまだ「はなしてくれったら、ぼくはやるよ。」＃
たかぎ「ぼくだってやるよ。さあこい。」＃
ふたりともむきになって、友だちの手からぬけだそうともが＃
く。＃
＜Ｐ－０９０＞
みんなでそれをおしとめる。＃
一「もういいったら――。」＃
四「みっともないよ。学校の帰りじゃないか――」＃
二「たかぎくん、帰ろうよ。」やまだをかこんでいる友だち＃
に、＃
「さあ、きみたち、やまだくんをつれていけよ。」＃
六「うん。」やまだの手をひっぱって、「いこうよ、やまだく＃
ん。」＃
やまだ　ひっぱられながら、「もうきみとは遊ばないからな。」＃
たかぎ「いいとも、だれがきみなんかと遊ぶもんか――」＃
五「もういいったら――」と、やまだのせなかをおしなが＃
＜Ｐ－０９１＞
らさる。＃
そのほかの友だちが、落ちているやまだのかばんやぼうしを＃
ひろってあとにつづく。一、二も、たかぎの落した物を集め＃
る。＃
三　たかぎの服のほこりをはらいながら、「どうしてけんか＃
なんかしたのさ。」＃
一「びっくりしたよ。いっしょに歩いているうちに、きゅ＃
うにつかみあいをはじめるんだもの。」＃
二「もういいじゃないか、そんな話――たかぎくん、いこ＃
うよ。」＃
友だち、たかぎをかこみながらさる。＃
＜Ｐ－０９２＞
そのあと、学校帰りの女の子ふたり、通りすぎる。まもなく、＃
一、二年ぐらいの男の子、大きな声で、「七、八、九、十。」と＃
数えながら、大またでぴょん＃
ぴょんかけてきて、「十」でとま＃
る。うしろを向いてじゃんけ＃
んをする。こんどは負けたら＃
しくたちどまって待っている。＃
勝った子が、「一、二、三――」＃
と数えながら舞台はしまでき＃
てとまる。＃
またじゃんけんをする。こうして、ふたり、じゅんじゅんに＃
＜Ｐ－０９３＞
舞台をさる。しばらく、間――＃
やまだ、さがし物のようすで地面をみながらでてくる。なか＃
なかみつからない。そのうちに、セルロイドの三角じょうぎ＃
をひろいあげる。しかし、自分の物ではないので、それを舞＃
台のおくになげすてて、なお、あちこちさがしつづけながら＃
さる。＃
しばらくすると、たかぎもさがし物のようすででてくる。首＃
がいたいらしく、手でさすっている。そのうちに新しいすみ＃
をひろいあげるが、自分の物ではないので、なおあたりをさ＃
がしている。＃
そこへやまだが帰ってくる。両方ともあいてに氣がつくが、＃
＜Ｐ－０９４＞
わざと知らないふりをして＃
いる。＃
たかぎ　しばらくして持って＃
いるすみに氣がつき、＃
ちょっとためらった＃
のち、「これ、きみの＃
だろう。」＃
やまだ、はなれたまま、た＃
かぎの手もとをみている。＃
さがしていたすみである。＃
受けとりにくい氣持でいる＃
＜Ｐ－０９５＞
が、やがて思いきって、たかぎのそばにより、だまったまま＃
それをとりあげる。そうしてさっさといきかけるが、舞台は＃
しで足をとめる。＃
やまだ　わざとたかぎの顏をみないようにして、「きみはなにを＃
なくしたんだ。」＃
たかぎ、ちょっとやまだの方をみるが、返事をしないでさが＃
し物をつづける。＃
やまだ「じょうぎだろう。」＃
たかぎ「なんだっていいじゃないか。よけいなおせっかいさ。」＃
やまだ、おこっていきかけるが、思いなおして、さっきすて＃
たじょうぎをひろってくる。＃
＜Ｐ－０９６＞
やまだ　たかぎのまえにじょうぎをつきだして、「きみの名まえ＃
が書いてある。」＃
たかぎ「あっ、それだ。」と喜ぶが、やまだの顏をみると、きゅう＃
にまたつんとなって、だまってそれをとり、かばんにい＃
れる。そのあいだに、やまだがいきかける。そのうしろ＃
すがたをみて、「ちょっと待て。」＃
やまだ「なんだ。」と立ちどまる。＃
たかぎ　舞台のすみからボタンをひろってくる。「これきみが落＃
したボタンだろう。」＃
やまだ「落したんじゃない。きみがむしりとったんじゃないか。」＃
と、ボタンをとる。＃
＜Ｐ－０９７＞
たかぎ「首をひっかいたからさ。」＃
やまだ、ボタンをちぎれた服＃
の糸にむすびつけようとする。＃
たかぎ、それをのぞきこむ。＃
やまだ、みせまいとしてから＃
だをねじってかくす。たかぎ、＃
首をさすりながら、その場に＃
ぼんやり立っている。＃
やまだ　ちょっとたかぎをみて、＃
「おい。」＃
たかぎ「なんだ。」＃
＜Ｐ－０９８＞
やまだ「首、いたいのか。」＃
たかぎ　ぶっきらぼうに、「いたかない。」＃
ふたりだまる。たかぎ、うしろの木をひとまわりして、そっ＃
とやまだに近づく。＃
たかぎ「おい、ボタンついたか。」＃
やまだ「つかなくたって、いいよ。」＃
たかぎ「でも、あいこだ。」＃
やまだ「なにがあいこだ。」＃
たかぎ「じょうぎひろってやったじゃないか。」＃
やまだ「ぼくだって、すみをみつけてやったじゃないか。」＃
たかぎ「だから、あいこだ。」＃
＜Ｐ－０９９＞
やまだ「でも、きみはひどいよ。このボタンをみたまえ。」と＃
胸をみせる。＃
たかぎ「ぼくの首をひっかいたのはだれだ。」と、首をさする。＃
やまだ「そりゃあ――」＃
たかぎ「だから、あいこだろう。」＃
やまだ「そりゃそうさ。」＃
たかぎ「でも、ぼくは二つなぐら＃
れて、三つきみをなぐっ＃
た。」＃
やまだ「よし、じゃあ、あいこに＃
なるように、もう一つな＃
＜Ｐ－１００＞
ぐってやる。」と、げ＃
んこをかためて右手＃
をふりあげる。＃
たかぎ「もうたくさんだ。」＃
たかぎ、頭をかかえてにげ＃
るまねをする。やまだ、思＃
わずわらいだす。たかぎも＃
わらう。＃
たかぎ　しずかに、「でも、い＃
やだな、けんかした＃
あとの氣持って。」＃
＜Ｐ－１０１＞
やまだ「ぼくもそうさ。」＃
たかぎ「きみ、もうよそうよ。」＃
やまだ「かんにんするかい。」＃
たかぎ「いや、ぼくがいけなかったのさ。」＃
やまだ「ぼくもわるかったよ。」＃
たかぎ「いったい、なんでけんかをはじめたんだろう。」＃
やまだ「つまらないことさ。ぼくがあんまりじまん話をするも＃
んだから――」＃
たかぎ「あ、そうそう。それで、ぼくも負けまいと思ったんだ。＃
じまん話をはじめると、自分がいちばんりっぱだと思＃
うもんだね。なんだか、いま考えるとはずかしい氣持＃
＜Ｐ－１０２＞
さ。」＃
やまだ「友だちにまで心配させて――」＃
たかぎ「いっしょにあやまろう、あした――ねえ、きみ、うち＃
によって、ねえさんにそのボタンをつけてもらわない。」＃
やまだ「けんかの話をするのかい。」＃
たかぎ「してもいいさ。」＃
やまだ「そう、してもいいね。」＃
たかぎ「じゃあ、いこう。」＃
やまだ「首は――」＃
たかぎ「なかなおりしたら、よくなった。」＃
やまだ　たかぎの首をのぞきながら、「でも、みてあげよう。」＃
＜Ｐ－１０３＞
たかぎ「だいじょうぶだよ。さあ、いこう。」＃
やまだ「いこう。」＃
ふたり、なかよくかたを組みながらさる。＃
――まく――　　＃
＜Ｐ－１０４＞
九　　山のスキー場　　＃
ぼくたち四十人は、のだ先＃
生といしい先生につれられて、＃
山のスキー場へいった。＃
まえの日に、こな雪がたく＃
さん降ったので、スキーをす＃
るには、ちょうどよかった。＃
集合地は、村はずれの一本＃
すぎのそばであった。ぼくた＃
＜Ｐ－１０５＞
ちは、リックサックをせおって、スキーをつけ、二本のつえ＃
をつきながら、そこへ集まった。＃
「みんなそろったね。さあ、でかけよう。」＃
と、のだ先生が先頭に立たれ、いしい先生は、みんなのあと＃
からこられた。＃
はじめは二列ですすんだが、谷あいでは一列になったので、＃
ずいぶん列が長かった。だんだんのぼり坂になると、からだ＃
がほてってあせがでる。みんなだまって、あえぎながら登っ＃
ていった。スキーの雪をすべる音だけが、氣持よくきこえる。＃
きゅうな坂にかかると、まえの方で、のだ先生が、＃
「さあ、元氣をだして。」＃
＜Ｐ－１０６＞
と、大きな声をかけられる。いしい先生も、ずっとうしろの＃
方から、＃
「しっかり登れ。」＃
とさけばれた。その声に＃
はげまされて、ぼくたち＃
は、いっしょうけんめい＃
に登っていった。＃
まつ林の中を通ってい＃
くとき、だれかが、＃
「やあ、うさぎ、うさぎ。」＃
と、大声にさけんだ。みると、大きなうさぎが、ちょうど小＃
＜Ｐ－１０７＞
まつの中へとびこんだところであった。＃
「あれがスキー場だ。もうひと息。」＃
と、のだ先生がつえでさされる方を＃
みると、なるほどりっぱなスキー場＃
で、ジャンプ台もみえる。みんなは＃
喜んで、きゅうに元氣をだした。＃
いよいよ、スキー場に着いた。い＃
かにもすべりよさそうなけいしゃが、長くつづいている。＃
「先生、まだすべってはいけませんか。」＃
「先生、もうすべらしてください。」＃
と、みんながいうと、＃
＜Ｐ－１０８＞
「待て、待て、もうすこし上までいこう。」＃
と、いしい先生がうしろの方か＃
ら追いたてるようにいわれた。＃
百五十メートルほど登ったと＃
き、ぼくが、＃
「先生、もういいでしょう。」＃
といった。すると、のだ先生が、＃
「ようし、ここからすべりたい＃
ものはすべってよろしい。」＃
といわれた。＃
ぼくたち三四人は、列をはなれて、ま一文字にすべりおり＃
＜Ｐ－１０９＞
た。すばらしい早さに、からだもスキーも一つになって、ビュ＃
ウとうなる。まるで、空中かっそうをしているようだ。ふも＃
とへきて、急停止すると、ぱっと雪けむりが立ち、あせばん＃
だ顏に、雪のこなが降りかかる。＃
やがて、十人、二十人、つぎつぎにすべりはじめた。思い＃
思いに、スキーのあとを雪の上にえがきながら、小鳥のよう＃
におりてくる。とちゅうでころんで、雪だるまになっておき＃
あがるものもある。にこにこわらいながらおりてくるもの、＃
まじめな顏でやってくるものなどさまざまである。みんなが＃
急停止をすると、雪けむりが一どにあがった。＃
先生は、ふたりとも、まだ上へ上へと登っていかれたが、＃
＜Ｐ－１１０＞
三百五十メートルも登ったところで、つえをあげて、「さあ、＃
おりるよ。」というあいずをされた。ぼくたちも、みんなつえ＃
をふって、それに答えた。＃
のだ先生がさきに、すぐつづいていしい先生がすべられる。＃
そのみごとなすべりぶりにみとれていると、先生たちは、も＃
う目のまえにこられた。はげしい制動をかけられると、もう＃
もうと雪けむりが立つ。雪けむりがきえて、先生のえ顏がう＃
かぶ。＃
それから、ぼくたちは、登っていってはすべり、おりては＃
また登った。＃
ジャンプ台では、じょうずな人たちが、かわるがわるジャ＃
＜Ｐ－１１１＞
ンプをしている。＃
「おうい。先生がジャンプを＃
なさるそうだ。」＃
と、だれかがさけんだ。みん＃
なそこへいくと、いま、いし＃
い先生がすべられるところで＃
ある。たちまち先生のからだ＃
は、ちゅうにうかんだ。両手＃
をひろげて高くとばれるすが＃
たは、なんという勇ましさで＃
あろう。みんなは思わず手を＃
＜Ｐ－１１２＞
たたいた。＃
こんどは、のだ先生がとばれるばんである。先生は、はち＃
まきをして、すべりだされた。すばらしい早さだ。＃
「すごい。」＃
先生のからだは、美しくちゅうをとんでいく。＃
「ばんざい。」＃
と、だれかがさけんだ。＃
「のだ先生。」＃
と、だれかがさけんだ。＃
四十メートルも空中をとんで、先生は地上の人となられた。＃
お晝になったので、雪の上で樂しくおべんとうをたべた。＃
＜Ｐ－１１３＞
午後は、＃
先生につい＃
て、ひとり＃
ひとり、正し＃
いすべりか＃
たを教えて＃
いただいた。＃
帰りは、＃
村までくだ＃
りの坂道だ。林をぬって長いきょりをすべるのは、ほんとう＃
にゆかいであった。　　＃
＜Ｐ－１１４＞
十　　ちよ紙　　＃
いもうとの小さき歩みいそがせてちよ紙かいにゆ＃
く月夜かな　　＃
水ぐるま近きひびきにすこしゆれすこしゆれいる＃
こでまりの花　　＃
＜Ｐ－１１５＞
いまの鳥はこの木にいるにちがいなしひそかに枝＃
葉の中をみあぐる　　＃
着ぶくれて歩かされいし女の子ぱたんとたおれそ＃
のままなくも　　＃
赤いぬの一ぴきゆけばこの町のそこここよりぞい＃
＜Ｐ－１１６＞
ぬのあらわる　　＃
階上のわが電燈のきえにけりみわたす家々みなま＃
くらなり　　＃
屋根の雪かきおとしいる少年の顏の明かるさ日の＃
てる中に　　＃
ちろちろと岩つたう水にはい遊ぶ赤きかにいてす＃
ぎの山しずか　　＃
＜Ｐ－１１７＞
青ざさをいれやりたればいけのふなはや青き葉の＃
かげにきておる　　＃
たべのこしの＃
めしつぶまけばうちつどう＃
すずめの子らと日なたぼこする　　＃
ふくじゅそうのはちをおきかうるおさな子やえん＃
がわの上にうつる日を追いて　　＃
＜Ｐ－１１８＞
ふくじゅそうの＃
つぼみいとおしむおさな子や＃
夜はいろりの火にあてており　　＃
金色の小さき鳥のかたちしていちょうちるなり丘＃
の夕日に　　＃
ほおずきを口にふくみて鳴らすごとかわずは鳴く＃
も夏のあさ夜を　　＃
＜Ｐ－１１９＞
十一　　泉を求めて　　＃
十のころであった。私は父につれられて、近くの高い山に＃
登った。その帰りに、近道をして谷をおりてくると、そこに＃
小石でかこまれた美しい泉があった。＃
父は、その泉の水を手ですくって、いくどもうまそうに飲＃
んでから、私にいった。＃
「どうだ。この水を飲んでごらん。これは、名高い泉なんだ＃
よ。」＃
水は大きなごろごろした石ころのあいだから、ブツブツと＃
＜Ｐ－１２０＞
音をたててわきだして、一方のかけたところから、さらさら＃
と流れだしていた。＃
私は手をいれて、それをすくお＃
うとすると、おく山の雪がとけて＃
そのまましみてきたかと思われる＃
ようにつめたかった。ちょっと歯＃
にしみたが、うまかった。あまい＃
ような、すずしいような、氣の晴＃
れ晴れするような味だった。＃
「そこに流れているのがまつ川だ。私たちの村の用水も、こ＃
のまつ川からひいてあるのだ。」＃
＜Ｐ－１２１＞
泉をあふれでた水は、さらさらと走って、やがて、すぐ下＃
のすこし大きな川に流れこんでいた。＃
帰り道で、父は次のような話をしてくれた。＃
むかし、ひとりの茶人があった。茶のうまさは、お茶その＃
もののうまさにもよるが、たてる湯のうまさがだいいちであ＃
る。なんとかしてうまい水のわきでる泉をさがしだしたいも＃
のと思った。＃
茶人は、日本じゅうを歩きまわって、うまそうな水や名高＃
いいど水をためしてみたけれども、どうも氣にいらなかった。＃
ところが、てんりゅう川の中流の水をくんで、それで茶を＃
たててみると、いままで味わったこともないような、ふしぎ＃
＜Ｐ－１２２＞
な味が感じられた。茶人は、この上流にいい泉があるのでは＃
ないかと氣がついた。舟をやとってこぎのぼりながら、とこ＃
ろどころでその水でお茶をたてる。すると、いい味は、もっ＃
と遠いところで感じられる。右岸や左岸では、その味がきえ＃
てしまうことがあっても、中ほどでは、いい味はたえなかっ＃
た。それで、茶人は、泉はどうしても支流のほうにはなくて、＃
遠い上流にあるのだとさとった。＃
けれども、流れは急流だし、雨の日も風の日もある。さか＃
のぼるのもたやすくなかった。つれの人は、この茶人ほど熱＃
心ではないから、やめて帰ろうといった。しかし茶人は、い＃
ろいろな困難をしのいで、みんなをはげましては上流へたどっ＃
＜Ｐ－１２３＞
ていった。＃
大きな支流が流れこむところへくると、ときどきあまい水＃
の味がわからなくなってしまう。あともどりして飲んでみた＃
り、ずっと上流へいってためしてみたり、深いところの水を＃
とって飲んでみたりしなくてはならなかった。＃
茶人はすこしもくっせず、求め求めて、いつか、いまのし＃
ずおか縣のさかいもすぎ、ながの縣にはいった。そうして、＃
てんりゅうきょうという景色で名高いところもすぎて、四十＃
キロあまりもきてしまった。＃
ここまでくると、てんりゅう川もよほど水かさがへってい＃
た。ここで茶人のしたには、まぎれもないいい味がはっきり＃
＜Ｐ－１２４＞
と感じられるようになった。＃
「きっと、泉はこの近くにある。」＃
茶人はつれの人にいった。まつ川がてんりゅう川に流れこ＃
んでいるところの近くまでくると、いい味の水は、左の岸の＃
ほとりを流れていた。ためしにまつ川の水をにて飲んでみる＃
と、たいへんうまかった。念のため、＃
もっと上流の本流の水を飲んでみる＃
と、もうそれはただの水であった。＃
「泉はまつ川の上流にある。」＃
茶人は、長い探求の旅が終りに近＃
づいたことを知って喜んだ。茶人た＃
＜Ｐ－１２５＞
ちは、ここで船をすてて、岸にそって上流に向かって歩きな＃
がら、ときどき水をふくんで＃
は泉をさがしていった。＃
はじめの八キロほど＃
は、村ざとがあって川べ＃
りに道もあったが、いまは＃
それもなくなって、大きな＃
岩がごろごろとゆくてをふ＃
さぎ、まつ林におおわれた道＃
もない谷まになった。＃
そこからさらに、すこしさかのぼって水を飲んでみると、＃
＜Ｐ－１２６＞
いい味は、すこしもなかった。＃
そこで氣をつけてみると、右岸からさらさらと流れ落ちる＃
小さな谷川がある。そこをくんで飲んでみると、それこそま＃
ぎれもないうまい水であった。＃
そこで、谷川をさらにさかのぼると、岩まからちょろちょ＃
ろとわきでる泉があって、それでもう終りであった。茶人は、＃
そこをほりくぼめ、小石でどてをつくり、泉をくんでつれの＃
茶人と茶をたてて、心から樂しんだということである。　　＃
＜Ｐ－１２７＞
十二　　一ぴきのくも　　＃
一ぴきのくもがいました。黄色と＃
黒のしまもようのついた大きなくも＃
でした。＃
ある日の夕がた、このくもは、木＃
と木のあいだに、巣をかけました。＃
「今晩はうまいえさがかかるかな。＃
この二三日というものは、ちっと＃
もかからなかったから、おなかが＃
＜Ｐ－１２８＞
すいてしまった。」＃
ここ四五日は大風がふくし、雨は降るしで、あみもはるこ＃
とはできませんでした。＃
＜Ｐ－１２９＞
星が光りだしました。どこかであかちゃんのなき声がして＃
います。子もり歌もきこえてきます。くもは、その子もり歌＃
を耳にしながら、光る星をみあげていました。＃
そのとき、あみがにわかにゆれました。くもは、きっとなっ＃
てその方をみつめました。あぶが、足をひっかけて、ブンブ＃
ンいっているところです。＃
くもが、いきなりとびかかっていくと、あぶは、力いっぱ＃
い羽ばたきをして、すいとにげていきました。おまけに、あ＃
みに大きなあなをあけてしまいました。＃
「しまった。」ぶつぶつひとりごとをいいながら、くもは、や＃
ぶれたところをつくろいかけました。＃
＜Ｐ－１３０＞
「こんどこそは、にがさないぞ。」と、くもは、足をふんばっ＃
て身がまえをしました。＃
星はだんだんきれいに光って＃
きました。あかちゃんのなき声＃
も、子もり歌もきこえませんで＃
した。風が思いだしたようにふ＃
いてくるので、あみがゆれ、く＃
ももいっしょにゆれました。＃
ブンブンブン、ブンブンブー＃
ンと、遠いところで羽音がしま＃
した。＃
＜Ｐ－１３１＞
それは、みつばちであることが、くもにはすぐわかりまし＃
た。＃
ブンブンブーン、羽音がだんだん近づいてきます。＃
「あれが、うまくひっかかるといいな。」＃
くもが、じいっと息をころして待っていると、みつばちは、＃
くものあみを知らないで、まっすぐにとんできました。＃
ブブブブ――＃
「そら、ひっかかった。」＃
くもはみつばちにとびかかりました。みつばちも、くもに＃
向かいました。＃
くもは、ふといつなをとりだして、みつばちのからだをし＃
＜Ｐ－１３２＞
ばりつけようとしました。みつばちは、そのつなをさけてに＃
げようとしましたが、どうしても手足がうまく動きません。＃
そのうちにみつばちのからだも、つなにまかれそうになり＃
ました。ぐずぐずしていると、そのままたべられるので、み＃
つばちはだいじな針をだして、くもをねらって、ちくりとつ＃
きさしました。それにはさすがの大きなくもも、びっくりし＃
ました。＃
「あいた、あいたたたた。」＃
くもが、手でさすっているあいだに、みつばちは、つなを＃
ほどいて、あみをくい切って、にげていってしまいました。＃
ゆうゆうととんで、にげていくみつばちのうしろすがたを＃
＜Ｐ－１３３＞
みていましたが、くもはどうすることもできません。それよ＃
り、自分のからだがはれてくるし、いたいし、苦しくてどう＃
にもなりませんでした。＃
しばらく、目をつぶってしずかにしていると、また、パタ＃
パタという羽音がきこえてきました。＃
「あ、こうもりだな。」＃
思わずそちらをみると、こうもりは、ひょうきんなかっこう＃
をして、こちらにとんできます。あみにつきあたってはたい＃
へんと、くもが思ったとたんに、ばさりとこうもりの羽にた＃
たかれました。あみは、すっかりやぶれて、くもはそのまま＃
地面に落ちました。＃
＜Ｐ－１３４＞
「あ、びっくりした。」＃
くもが氣がついてみると、あたりにいいにおいがします。＃
まっ白なばらが、たくさんさいていたのです。＃
いいにおいをかいでいると、いつのまにか、いままで苦し＃
かったからだのいたみもきえていきました。＃
目のまえのばらの花が動いています。おかしいなと、ふし＃
ぎに思ってよくみると、それは白いちょうちょでした。＃
「なんだ。ちょうちょか。ちょうどいいや。うまいごちそう＃
だ。」＃
くもは、長い手をのばして、わけなく白いちょうちょをと＃
らえました。大きな口をあいてたべようとしたとき、ちょう＃
＜Ｐ－１３６＞
ちょは、＃
「くもさん、くもさん。ちょっと待ってください。」＃
と頼みました。＃
こう頼まれると、だまってたべてしまうわけにもいきませ＃
ん。＃
「なんだい、なんの用かね。」＃
「くもさん、あんないいお月さん、みえないの。」＃
「なんだって、お月さん――」＃
くもは、首をねじって上の方をみあげました。いまのぼり＃
かけたばかりの月が、しずかに光っていました。＃
「くもさん、あのお月さんのところへいってみたいと思いま＃
＜Ｐ－１３７＞
せんか。」＃
「――」＃
「わたし一どでいいから、お月さんのところへいきたいと思＃
います。」＃
「どうして。」＃
「おかあさんをさがしてくるのです。」＃
「おかあさん。」＃
くもは、このおかあさんということばを、長いこと耳にし＃
たことはありませんでした。また、口にしたこともありませ＃
んでした。＃
いま、ちょうちょに、「おかあさん。」といわれて、きゅうに＃
＜Ｐ－１３８＞
なつかしくなりました。くもの小さなとき＃
のことが、ゆめでもみるように思いだされ＃
てきました。＃
「そうか、おかあさんをさがしにいきたい＃
のか、ちょうちょさん。」＃
「――」＃
「なんだか、わたしも、おかあさんをみた＃
くなったよ。」＃
「くもさん、今夜は助けてください。」＃
「ああ、いいとも。」＃
くもは、ちょうちょを手ばなしました。＃
＜Ｐ－１３９＞
「ありがとう、くもさん。」＃
「あなたが、この四五日、なんにもたべないことをちゃんと＃
知っています。いましがた、みつばちにさされて、苦しん＃
だことも知っています。だから、わたしをたべてもいいと＃
思っているんだけど。」＃
「いや、もう、おまえさんをたべやしないよ。」＃
「わたし、おかあさんにひと目あったら、もう、命はほしい＃
とは思いません。」＃
「――」＃
「それまで、命を助けておいてください。」＃
「わかった、わかった。さあ、早くとんでいくがいい。」＃
＜Ｐ－１４０＞
ちょうちょは、うれしそうに羽をととのえ＃
ました。それから、まっ白な羽をひろげたか＃
と思うと、ひらりひらりと舞いあがりました。＃
ちょうど白ばらの花がとんでいくように。＃
くもは、とんでいくちょうちょをみ送りな＃
がら、＃
「ちょうちょさんは、羽があるからいいな。」＃
と、ひとりごとをいいました。＃
くもは、おなかがすいているのに氣がつき、また、あみを＃
かけようと考えました。くもはのそのそと歩きました。けれ＃
ども、なんだか氣がすすみません。それで、そのまま手足を＃
＜Ｐ－１４１＞
ちぢめて、じっとすわっていました。あたりには、やはりば＃
らの花のにおいがしていました。＃
くもは、うつらうつらとねむく＃
なってきました。＃
「今夜は、ばらのかげでねむるこ＃
とにしようかな。」＃
くもはからだを小さくまるめて、＃
ころっと横になりました。目をつ＃
むると、だれかが、くもの頭をなでています。上をみると、＃
わらっているではありませんか。くもは、ふしぎな顏をしな＃
がら、しげしげとみつめました。＃
＜Ｐ－１４２＞
「わたしの顏ばかりみて、おかしいこと。」＃
「――」＃
「まあ、おまえは、わたしをわすれたのかい。」＃
「――」＃
「わたしは、おまえのおかあさんじゃないかね。」＃
おかあさんときいて、くもは、手をうんとのばして、とり＃
すがろうとしました。そのひょうしに、くもは、目がさめま＃
した。＃
「なんとみじかいゆめだろう。」＃
と、くもは、いまみたばかりのゆめを、なんどもなんども思＃
い返しました。＃
＜Ｐ－１４３＞
月はもう頭の上まできていました。つゆが木の葉にたまり＃
ました。たまったつゆが、しずくになって、ポタリポタリと＃
落ちてきました。＃
くもは、目がさえてなかなかねむれません。＃
「くもさん、くもさん。どうしてねむらないの。」＃
こう話しかけたのは、ばらの花でした。＃
「もう夜ふけですよ。おやすみなさいな。」＃
「――」＃
くもは、なんといって返事をしていいかわからないので、＃
そのままだまっていました。＃
自分は、こうもりのために、高いところからたたき落され＃
＜Ｐ－１４４＞
たが、たまたま、あの白いちょうちょにあうことができた。＃
それから、いいゆめをみることもできた。いままた、ばらの＃
花のやさしいことばをきくこともできた。＃
くもは、これらのことを一つ一つ思いだしているうちに、＃
心持が、しだいにかわってきました。＃
ちょうちょにしても、ばらの花にしても、なんとしずかな＃
くらしをしているのだろう。なんとおだやかなくらしをして＃
いるのだろう。それにくらべて、自分は、なんとあらっぽい＃
くらしをしていることだろう。＃
あみをはり、かくれていて、ほかの虫がひっかかると、い＃
きなりとびついてかみころすなんて、なんとひどいことをし＃
＜Ｐ－１４５＞
てきたものだろう。＃
くもは、そっと自分の手をのばし足をのばしてみました。＃
ふしくれた手、とがった足、うすきみのわるいかたち、いま＃
までにこの手で、この足で――くもは、自分ながら自分のか＃
らだが、そらおそろしく思われてきました。＃
白ばらの花は、もう話しかけなくなりました。ぐっすりね＃
むってしまったのでしょう。＃
くもが、月の光にちらりちらりと光りながら落ちてくる夜＃
つゆをみていると、風がふいてきました。風と思ったのは、＃
そうではなくて、つばめがすいととんできたのでした。＃
くもは、このつばめにひろわれました。くもは、つばめの＃
＜Ｐ－１４７＞
口ばしにはさまれたまま、空をとんでいきました。＃
くもは、力いっぱいもがけば、あるいは、つばめのくちば＃
しからころげ落ちることができたかもしれません。＃
けれども、べつににげだそうとはしませんでした。つばめ＃
は、麦畑らしい土地の上をとびました。湖の岸べをとびまし＃
た。深い森のそばをとびました。＃
夜明けが近づいて、東の空が、ほんのりとしらみかけてき＃
ました。＃
「自分の命は、つばめさんにあげよう。」＃
こう決心がつくと、くもは、すっかりらくな氣持になりま＃
した。いまのいままで、みにくいと思っていた自分のからだ＃
＜Ｐ－１４８＞
も、もうみにくいとは思えなくなりました。＃
「お月さんのところへとんでいったあの白いちょうちょは、＃
どうしたろう。うまくおかあさんにあえたかしら。」＃
そんなことをくもは思いました。　　＃
