田中章夫先生 東京山の手空襲の話[前]

【凡例】
田中
田中章夫先生
聞き手(個人を区別していない)
◇……◇
不確定箇所

言い直し,言いよどみなどは表示していないものがある。
聞き手の発話は主な発話のみ。あいづちや嘆声などは表示していないものが多い。

東京大空襲のときは。
田中
大空襲のときは、僕は赤坂を逃げ回ってた、うん。
ああ。
田中
逃げ回ってた、んー。
ああ、あの、ああ、あれはね、え、25日ね。
はい。
田中
ああ。
で、あそこへ、あの。
うーんとね、250キロの爆弾というのはすごいよ。
で、僕も〈笑〉、あのね、ん、近所の人が入ってたの、防空壕へね。
で、僕らはね、もう、あの、おー、いつも防空壕入ったことないんだよね。
町ではね。
どっか、あの、あれにいたり何かしてさ。
で、最後は入る場所だけは決めてあるんだよね。
まあ、だけど、あの、何か町を守るっていうんでさ。
ね、ああ、ああ。
へえ。
田中
まあ、町会長とかね、こう。
で、あの、最後には入るんだよ。
もちろんね。
あ、だけど、ちょうど、んー、あの日はね、野元さんね。
野元さんがね、あの、あそこにいたんだってさ。
芝公園の高射砲陣地にいたんだって。〈笑〉
はー。
ええ。
田中
んー、ね、一兵卒で。
うわっ。
へえ。
田中
お父さんは海軍少将なのにな〈笑〉。
〈笑〉
田中
で、それでね、あの、あの、それまでのね、あのう、空襲っていうのはさ、きれいだね、とかね、
〈笑〉
田中
あー、あやなんかやってたのね。
本当にきれいなんだから、何か花火みたいにぱーっときてね、それが途中でぱっと消えるのね。
で、あの、全部、だいたいこのぐらいだよね。
このぐらいのね、油脂みたいに火付いたやつがざーっとなんのね。
えー。
田中
んな、消せるもんじゃないよ。
あー。
田中
うん。
ばーってきたら、こんな部屋中ぐらいばっと火になっちゃうんだからね。
それをむしろ旗でさ、むしろを、ぬれむしろでこうやってなんてね。〈笑〉
むしろ、むしろ。〈笑〉
田中
で、もう赤坂の空襲のころには、逃げようって。
みんなもう誰もね、火消すっていう意識はなかった。
こうやってもう、うん、下町でみんなね、経験、んで、みんな知ってるからね。
ん、防空演習は全部ご破算。
うん。
それで、えー、落ちてきたのがさ、うちの僕とね、母と隣のおばさんとね、3人でね、こう、あの、あれしててね、そうしたら爆弾がすぐ近くを、こう。
最初ね、その5月24日の夜のはね、真っすぐね、東京湾から入ってくんだよね。
ふうん。
田中
真っすぐ、こう。
で、うちのちょうど赤坂の上を通るんだよ。
次々に通ってくわけね。
んー。
田中
で、「今日はえれえコースが悪いね」っておやじと話したのね。
コースが、コースが。〈笑〉
田中
コースが悪いって。
もうきれいだよ。
うん。
低空で来たからね。
あー。
田中
真っ白の。 それをさ、あの、日本軍のさ、サーチライトがさ、こう、ね、ばーって、こうさ。
あー。
田中
そうするとそこへね、あの、あ、ま、あれだ、高射機関砲がどんどん上がってくんだよね。
で、もちろん、あの、高射砲はだいたいドーンってやつだろ、ね。
だけど高射機関砲っていうのは、こう、パパパパパってね、8発に1発ね、曳光弾が付いてんの。
だからあれが分かるのよ。
ぱーっと、きれいだよ。
タタタタタタってさ、あれ。
◇……◇ってやつですね。
田中
え? ん、ん。
すごくきれいだよ。
ん、それで、それで次々にやるのね。
そうしたらそのうちにさ、バーンと。
もう本当に、もびっくりしたよね。
で、ん、そうしたらね、B29がすっ飛んじゃったの。
火の塊になって。
ばーんとなってさ。
うん。
で、落っこったんだろうけど、でもとにかくね、ばらばらになっちゃったのね。
真っ暗になっちゃったの、それまでは。