田中章夫先生 東京山の手空襲の話[後]

【凡例】
田中
田中章夫先生
聞き手(個人を区別していない)

言い直し,言いよどみなどは表示していないものがある。
聞き手の発話は主な発話のみ。あいづちや嘆声などは表示していないものが多い。

田中
すごかったよ。
だからそのときはね、ぱっつってからね、んー、消えちゃった。
ばらばらんなって落っこっちゃったのね。
んー。
田中
うん。
それで、それでその次に入り口、玄関の方におばさんと母と私と3人でいたら、シュルシュルシュルーって音がしたんで、ね、戻。
入り口にね、あの、家があって、裏の庭に、あの、大きな防空壕を造ってあったのね。
だけど玄関の方に全然なかった。
僕がね、あの、ん、1回ね、あ、造った方がいいって言われて、造ったんだよ。
自分で掘った防空壕だからね。
うーん。
田中
うん、だから全部分かってたの。
広さから深さからね、ね、ね。
〈笑〉
田中
それこそそれ、それをね、待避壕だよね。
あの、このくらいで、こう、階段造って、こう1人が入れるぐらいのね。
1人か2人が入れるね。
造ったんだよ。
そしたら、シュルシュルって。
で、ドーンってさ。
それがシューっていったときに、ぽんて入ったんだよ。
で、そひたら、ドーンつったらね、ばらばらばらって土がね、ん、落ちて、それではっと気が付いたのね。
そしたらね、母とね、おばさんはね、抱き合ってくるくるって回ってたの。〈笑〉
で、だいたい250メートルぐらい先のね,あの、町にね、五百木何とかって有名なね、あの、実業家の家らしいんだ、そこのね、庭に落ちたらしいんだな。
で、奥さんが気絶したんだってさ。〈笑〉
で気が付いたら、家はもう、家ごと燃えてたんだって。
そうですよね。
田中
え、それで逃げてきちゃったと。
もう。
それからもうだめだってんで、ま、逃げてさ。
僕は、あの、あすこへ、あの、最初、5月の、お、4月にね、あの、今のあれ、三河台公園って、あ、俳優座知ってる?
俳優座の下ね。
俳優座の坂あんだろう。
あの下にずっとね、かなりね、広いね、焼け跡があったの。
そこへ逃げてったのね。
そうしたら、あの、あの、あれ、ええ、NHKの野瀬アナウンサーのおやじ、あの、さっき言った野瀬園っていうね、大きなお茶屋さんね、あれの、あの息子が、あー、NHKに野瀬アナウンサーっていたんだよね。
で、まだ僕より6つぐらい下だったかな。
あ。
そんときはもう疎開して、いなかったけどね。
おやじさんが来てさ。
で、ここへやっぱりこんな火の粉が落っこってくんだよね。
延々と両方、ん、全部燃えてくるからね。
やあ逃げようっつってね、あの、そこに荷物、ばんと置いて。
で、あの、三井、今の三井邸っていう う-、ところね、あー、あの、有名なあそこ。
あ、南部坂雪の別れの南部坂って知ってる?
あの、あの、ひ,氷川神社のこっちね、こう上がってくとね、で、こっちが三井邸ね。
で、三井邸はね、高射砲陣地になってるんだよね。
で、そこへ逃げ込んだやつはね、兵隊に追い落とされんの。
こ、崖。
えー。
〈笑〉
田中
崖になっていて、がけになっていて、石垣なんだよ。
石垣がちょうどね、1メートル50ぐらいある。
そのうち上へぐうっと植え込みになってるわけ。
松がちょちょっと生えてるけどね。
そこをね、人が落っこってくんだよ。
転がって。
えー。
田中
で、上を見たらね、兵隊が首出してんだよ。
ひどい。
田中
だから逃げてきた、逃げてきた避難民を。
民間人を。
田中
うん、民間人を外へ、外へ放り出すわけ。
ああらもう。
それで落っこってくんだよね。
本当に人がね。
おー。
田中
おお、だから軍隊っていうのは非情だ。〈笑〉
お。
へー。
田中
ん。
で、「大丈夫か」なんて言ってるよ、兵隊。〈笑〉
〈笑〉大丈夫なわけない。
〈笑〉そんな言い方。
田中
だってさ、こんなに、上だわね、あの、うん、う、と、えー、出てさ、最初は、こう、こ、何、ぱぱっとこう、足でこうやってるけど、無理だ。
無理なんだよね。
で転ぶと、ずうっと行って、最後はこの、このぐらいのところを、道を落っこちる〈笑〉、落っこちるわけ。
んでそこを通ってさ、あの、九条邸と一条邸ね、今の氷川小学校の前に、あの、まあ、ああ、そこに、ああ、あの、TBSのちょっとこっちね、あの、んー、そこに広いね、あの、九条邸と一条邸があって、ちょうど、あの、まだ赤坂はね、あっちこっちにそういうね、まだ、家が建ってないね、
んー。
田中
〈笑〉僕らは野原、野原つってたけど、
〈笑〉
ふうん。
田中
ね、たくさんあったんだよ、ね、うん。
んー。
田中
そこに、まあ逃げたわけね。
で、宅地造成してるんで、途中で放ったらかしたもんだから、こう、こういうふうに、道だけこういうふうになっていて、ね。
そういう宅地造成して、石垣がちょっと造ってあるけども、まだ、ね、草がぼうぼうっていう、ね、そういうとこね、そこへ逃げたのね。
そうしたら、つらかったのがね、こっちが一条邸、こっちが九条邸ね。
それが燃え上がったの。
わあ。
田中
同時にね。
はあ。
田中
両方の火の粉が、上で、こう。
はあ。
田中
ね。
そのときはちょっとね、あれって思ったのね、うん。
ん、だけど、ほら、もののね、火がついてからね、ああ、九条邸ってのはね、10分間だね。
完全に燃えちゃうまでね。
えー。
田中
その10分間は、10分間はね、火の粉が落ちてくるんだよ。
あっちへ、そっち落ちたり、こっち落ちたりってこう。
したらそのうち、あの、兵隊が2人来てさ、で、「ここで動かないでください、ここは我々が守ります」とか何とか〈笑〉言ってくれたけど、守るったって、何にもしてない。〈笑〉
〈笑〉
田中
それで結局、赤坂はもう完全に、あ、焼けたね、うん。
んー。
田中
それで最初に逃げたとこへ行ったら、もう、ふうっと近づいていくと、ね、あの、みんな寝てるんだよね。
ね。
寝てると思ったんだよ。
な。
で、全部死体なんだよ。
んー。
田中
煙、ね。
で、やっぱりきれいだよ。
あの、あの、ちょっと顔はね、赤くなっててね、きれいだよ。
ね。
こう、あ、夫婦が子供真ん中に置いて寝てるのね。
で、あっちこっちへね、こう、寝てる人がいるわけだよ。
で、僕らが最初に荷物を置いたとこまで行ったのね。
そしたら、トタン、そえも、焼け跡だからトタンがいっぱいあるわけ。
トタンを置いて、石を置いて逃げてったんだよ。
んー。
田中
ね。
まあ、火の粉が来ても、ね、燃えないようにっつんで、僕と近所の人とね。
そしたら、ん、そんなもんみんなすっ飛んじゃってて、さらに防空壕へ逃げた人が、あの、おー、出てきて死んでんだよね。
んー。
田中
もう本当、こんくらいだよ。
大人がね。
まあ〈笑〉、枯れ木みたいな感じでね、うん。
で、道路へ行ったら、消防自動車が見事にね、焼け落ちちゃった。〈笑〉
はあ。
田中
んま、だから赤坂見附あたりへ逃げた人とね、あの、あー、神宮の、あー、参道へ逃げた人はずいぶん死んだ。
はあそうですか。
田中
どうしてだかあのあたりはね、んー。
赤坂見附はずいぶん死んだらしい。
僕の弟の友達がちょうど疎開から帰ってきた晩だったんで、死んじゃったね。
ああ。
田中
それがいた。
うん。
じゃあ、おうちはそのとき焼けてしまって?
田中
ああ、もうもうもうもう。