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資料紹介

米国議会図書館アジア部日本課が所蔵する『源氏物語』(全54冊、 LC Control No.:2008427768)は、塗り箱入りの非常に美しい姿で伝わってきた古写本である。 室町時代から江戸時代にかけて制作された写本としておく。

写本の表紙は濃青色。 しかし、後に装丁し直したものである。 1冊ずつの写本は、列帖装と呼ばれる装丁となっている。 大きさは、縦約25センチ、横約17センチである。 鳥の子という和紙に、変体仮名と言われる筆文字で、紙面に丁寧に書写されている。 五辻諸仲(1487~1540)が筆写したかとされるが、詳細は不明である。

書写されている本文は、今後さまざまな分野から検討が加えられるはずである。 今は、伊藤鉄也の本文分別試案によって〈乙類〉とする。従来の〈別本群〉に近いものである。

この本の一番の特徴は、全54冊のうち13の巻で和歌が2行書きの「散らし書き」風に書写されていることであろう。 また、1頁の書写されている行数が一定しないことも興味深い。 8行から12行と、さまざまである。 書写した用紙にも、さまざまな痕跡が残されている。 これらが意味するものは、この本を制作した人物と共に、今後の研究課題となる。

米国議会図書館本『源氏物語』は、平安時代の物語を書写したものである。 日本を代表する古典文学が書かれていることに留まらず、物語本文を書写することで、書物としての形を整えるまでの過程も教えてくれる、文化史の資料ともなっている。

伊藤鉄也(国文学研究資料館)