新聞記事の動向
新聞は広く一般に読まれている媒体であり,そこには,事実の伝達,解説,投書など多様な記事が掲載されていて,その時々の社会の状況や動きの一端が反映されています。
国立国語研究所で作成している「ことばに関する新聞記事見出しデータベース」を基に,2006年の日本語をめぐる状況を,目立った動きや変化があった話題を中心に,見ていくことにします。
なお,ここで紹介した新聞記事は,それぞれの話題に関する記事を網羅しているわけではなく,主なものだけをあげています。各話題についての各新聞社の報道全体を過不足なく反映するものではないことに御留意ください。
近年,小学校からの英語教育に関する話題が目立っていましたが,2006年3月には,中央教育審議会外国語専門部会で,小学5年生から週1時間程度を必修化する必要があるとの提言がまとめられました。また,大学入試センター試験では,「外国語」科目の英語に初めてリスニングが導入されました。
→英語教育をめぐる状況
近年,国際的な学力調査などでも,学力低下,特に読解力の低下を示す結果が出たことを受けて,教育の見直し,「ゆとり」教育の転換が議論されてきましたが,2006年2月には,中央教育審議会が報告書案をまとめ,授業時数を増やし,すべての教科の基本に「言葉の力」を据えるよう提言しました。
10月,安倍内閣(当時)において「教育再生会議」が設置されましたが,11月には,中学・高校で,受験にかかわりの少ない科目の「必修漏れ」が次々と発覚し,国語科では,毛筆や書写の未履修が明らかになりました。また,同じころ,小中学生の(言葉による)いじめを苦にした自殺が相次ぎ,文科相あてに予告が届いたこともあり,社会の関心を集め,携帯電話やインターネットの利用の影響などが指摘されました。
→教育の見直しと「言葉の力」への注目
2006年の出版・読書状況を見てみると,藤原正彦著『国家の品格』(新潮新書,2005年11月刊)や,『えんぴつで奥の細道』(書・大迫閑歩,監修・伊藤洋,ポプラ社,2006年1月刊)をはじめとする「なぞり書き本」が相次いで刊行されベストセラーになりました。
また,近年の「日本語ブーム」や「脳トレ」ブームを受け,『脳を鍛える大人の書写ドリル』(川島隆太著,くもん出版)や,「日本語を鍛えよう」とうたったゲームやパソコンソフトが発売されました。
ブロードバンドや無線LANなどの普及,携帯電話の機能向上により,電子書籍の市場は大きく成長し,中でも携帯電話で閲覧・執筆する「ケータイ小説」は急成長し,本の形で出版されベストセラーとなるものもありました。
読書推進運動は,2005年7月の「文字・活字文化振興法」成立を受け,2006年10月,読書環境を整備するための国の施策を具体化するために文字・活字文化推進機構設立準備会が発足し,11月25日には同会がシンポジウム「言葉の力と日本の未来」を開催しました。
→出版・読書状況
日本語教育をめぐる状況はといえば,6月に発表された文部科学省の調査結果により,日本語の指導が必要な外国人児童生徒の数は,2005年9月1日時点で2万692人と,2001年度の調査開始以来初めて2万人を超えたことが分かりました。教育環境は十分なものとは言えず,「不就学」が深刻な問題となっており,企業や自治体の中には,基金を設けたり,通訳サポーターを活用するなど,独自の教育支援に取り組むところもあります。
また,4月の経済財政諮問会議で,当時の小泉首相と安倍官房長官が,外国人の生活環境整備の必要性を指摘し,「生活者としての外国人」について検討が進められました。
→日本語教育をめぐる状況
国際放送では,CNN,BBCなど米英メディアの独占状態が続いていますが,フランスが国際ニュース放送局「FRANCE 24」を開局し,90か国で放送を開始したり,衛星テレビ局アルジャジーラが世界に向け英語放送を開始するなど,新しい動きもありました。
日本は,国際放送では遅れをとっていましたが,2月,小泉首相(当時)が,「NHKで外国人向け放送を」と国際放送強化の方針を示したことを受けて,2007年度から,米国などの地元ケーブルテレビ局と契約し,ニュース等の海外配信を強化することとなりました。
活字メディアの代表格とも言える新聞についても大きな動きがありました。経営基盤にかかわる「特殊指定」について,公正取引委員会が廃止の方針を発表しましたが,新聞社をはじめ,識者,議員らからも大きな反対運動が起こり,新聞の特殊指定は当面維持されることとなりました。また,市民が記者として参加する韓国最大のインターネット新聞「オーマイニュース」が日本に進出し,8月,「オーマイニュース日本版」が創刊されました。
→マスメディア
敬語は,新聞にしばしば取り上げられる話題であり,人々が高い関心を寄せていることがうかがわれます。文化庁が7月に結果を発表した「国語に関する世論調査」は,敬語に関する意識を中心に調べていますが,社会生活を送るうえで敬語は「必要だから使いたい」「使わざるを得ない」という人が9割を超える一方で,「敬語が難しい」と感じている人が6割を超え,敬語の使用については悩みも多いようです。
文化審議会では,敬語に関する指針作りについて検討を行ってきましたが,2006年10月,現在は一般に尊敬・謙譲・丁寧の三つに分類されている敬語を,五つに分類する「敬語の指針(報告案)」をまとめました。文化庁が一般から募集した意見,及び社説や識者の意見記事の中でも,「理解の助けになる」という意見と,「かえって分かりにくい」「混乱の元」といった意見とがあり,議論が高まりました。新聞では,三種類が五種類にというところが特に注目されましたが,この答申は,「報告案の性格」にも述べられているように,「敬語使用の「よりどころ」の基盤,すなわち,<よりどころのよりどころ>として,敬語の基本的な考え方や具体的な使い方を示」したものと言えます。
→敬語
2006年の世相を表す言葉を見てみると,「流行語大賞」には「イナバウアー」と「品格」が,そして「今年の漢字」には「命」が選ばれました。また,2006年に生まれた子どもの名前は,男子は「陸」,女子は「陽菜」がトップでした。
→世相を表す言葉