図書の動向
2006年は,日本語に関する話題が絶えなかった2005年に比べると,この点については「静かな年」であったといえます。図書にもそれが現れています。
まず,前年には年間ベストセラー総合部門(トーハン調べ。以下も同)ベスト20の中に言葉を扱った本が3タイトル入っていましたが,2006年は言葉そのものについて論じたベストセラーは生まれませんでした。ただ,それに関連・隣接するテーマを扱ったものとして,まず第1位の藤原正彦『国家の品格』(2005年11月,新潮社)があります。この本はところどころで国語教育の重要性にふれています。「品格」で「2005ユーキャン新語・流行語大賞」の大賞も受賞した藤原氏は,他の著書に加え総合雑誌や新聞でも国語教育に関する持論を展開しました。また第4位の,大迫閑歩書・伊藤洋監修『えんぴつで奥の細道』(1月,ポプラ社)は「手書き」という行為を再評価させました。さらに第7位の,竹内一郎『人は見た目が9割』(2005年10月,新潮社)は対人コミュニケーションにおける言葉以外の要素の重要さを説いています。
さて2005年夏から秋にかけては,若い世代(特に東京とその近辺の女子高生・女子大生)の間で,全国各地の方言を会話やメールに織り込む「方言ブーム」が起きていると各メディアが報じました。また同年10月には,テレビで日本語に関するクイズ番組が一斉に始まり,「日本語クイズ番組ブーム」が話題になりました。しかし,この二つのブームはいずれも2006年前半には沈静化してしまいました。それでも方言に関する図書や,テレビ番組関連の図書は2006年も刊行されています。
また2006年は辞書をめぐっていくつかの新しい動きが見られました。電子辞書の普及などにより,書籍体―すなわち紙の辞書の売上げ低下が続いている中,出版各社では書籍体の辞書とウェブを連動させる動きが進んでいます。辞書の項目選定や意味記述・例文についての情報をウェブ上などで一般から募集するという,辞書への一般参加の動きも注目されます。さらにウェブ上の一般参加型百科事典『ウィキペディア』も大きな注目を集めるようになりました。
各トピックで引用した新聞記事は,特に断わらない限り2006年のものです。また朝夕刊の別は,夕刊の場合のみそう示しました。