新聞記事の動向
新聞は広く一般に読まれている媒体であり,そこには,事実の伝達,解説,投書など多様な記事が掲載されていて,その時々の社会の状況や動きの一端が反映されています。
国立国語研究所で作成している「ことばに関する新聞記事見出しデータベース」を基に,2007年の日本語をめぐる状況を,目立った動きや変化があった話題を中心に,見ていくことにします。
なお,ここで紹介した新聞記事は,それぞれの話題に関する記事を網羅しているわけではなく,主なものだけをあげています。各話題についての各新聞社の報道全体を過不足なく反映するものではないことに御留意ください。
2007年の読書状況を見ると,ケータイ小説が年間ベストセラー(トーハン調べ)「単行本・文芸」部門でベスト3を独占するなど,2006年に続いてブームになっています。読書世論調査では,10代後半の3人に1人が読んだことがあると回答し,そのうち女性では70%に上ると報じられています。
また,亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー著,光文社古典新訳文庫,全5巻)をはじめ,海外文学の名作が相次いで新訳で出版され,世界文学全集(河出書房新社)が池澤夏樹の選により18年ぶりに発行されるなど,名作の復刊・新訳ブームとなりました。
図書館をめぐっては,2007年度から文部科学省の新施策「新学校図書館図書整備5か年計画」がスタートしました。一般の図書館も様々にサービスを拡充し,利用者の確保に知恵を絞っていて,図書館の使われ方・機能も広がっているようです。7月,アメリカのグーグルが書籍検索サイトを開設しましたが,直後に慶応義塾大学図書館が連携を表明し,蔵書をデジタル化し12万冊を無料公開することになり,話題を呼びました。
辞書をめぐっては,提供・利用の両面で媒体の種類や内容が変化してきています。電子辞書は効率的に使えるとして人気が続き,ウェブ辞書は「安い・早い・便利」であると利用が進んでいます。その一方で書籍版の辞書の販売は10年で半減しました。
辞書の使用状況に関する調査では,紙の辞書を使う(使った)人が多数派という結果もありますが,文化庁が発表した「国語に関する世論調査」の結果では,書けない漢字は携帯電話で調べるという回答が10~30代では多数派となるなど,「紙の辞書」離れが特に若い世代で進んでいるようです。
電子的な辞書に押され市場が縮んだといわれる紙の辞書ですが,話題となった辞書もありました。10年ぶりの改訂版である第6版の刊行が発表された『広辞苑』(岩波書店)や,「鍋奉行(なべぶぎょう)」「秋桜(こすもす)」など日本独特の熟語をふんだんに収録した『新潮日本語漢字辞典』(新潮社)などは,各紙で取り上げられました。
活字メディアの代表格とも言える新聞についても,ウェブ版との関連で動きがありました。朝日,日経,読売の3社が共同サイト「あらたにす」を開設し(2008年1月31日),新サービスを展開することが発表されたり,諸外国の新聞もインターネットで紙面が見られるサービスを開始するなど,ウェブ版との連動が進みました。その一方で,毎日新聞が12月10日夕刊から,続いて,朝日・読売も2008年3月31日から,それぞれ文字を拡大した紙面に移行するなど,紙媒体での新たな動きも見られました。
2009年5月から裁判員制度が導入されるのをにらんで,裁判での言葉を分かりやすくする工夫に関する記事が目立ちました。朝日・毎日・読売の各紙はそれぞれ「裁判員時代」「始まる裁判員制度」「あなたも裁判員」とコーナーを設けて,いろいろな視点からの記事が掲載されましたが,言葉に関しても,専門用語の言い換えなど,様々な「工夫」が紹介されました。
2007年の世相を表す言葉を見てみると,「新語・流行語大賞」には「(宮崎を)どげんかせんといかん」と「ハニカミ王子」が,そして「今年の漢字」には「偽」が選ばれました。また,2007年に生まれた子どもの名前は,表記では男子は「大翔」,女子は「葵」がトップ,読み方では男子は「ユウト」,女子は「ユイ」「ユナ」がトップでした。