図書の動向

 2007年は,前年に続き,社会を沸かせるような日本語関係の大きなブームやベストセラーは生まれませんでした。

 その中でも注目すべき動きがありました。まず,前年に刊行された,話題の達人倶楽部編『大人の「国語力」が面白いほど身につく!』(青春出版社)が年間ベストセラー(トーハン調べ)「単行本・ノンフィクション他」部門で7位にはいりました。この本は500円玉1枚でしかもコンビニでも買えるという手軽さが売り物の「ワンコイン本」の1冊です。

 また,2006年から2007年にかけて刊行されたドストエフスキー著;亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』(光文社古典新訳文庫)が西洋文学としては異例の売り上げを記録しました。各メディアも注目し,平易で斬新な新訳文が大きく貢献しているとしました。その影響もあってか,硬軟さまざまな内容の翻訳に関する本が出ています。

 2006年10月に死去した白川静氏の業績の影響もあり,漢字の成り立ちに関する本が相次いで刊行されました。

 そして2月には,敬語の5分類案が大きな話題を呼んだ文化審議会国語分科会敬語小委員会の答申『敬語の指針』が出されました。その背景には敬語の使用に困難を感じている人が多いという現実があり,敬語の使い方に関する本が多く出ています。

 電子辞書の普及などにより,紙の辞書の売上げ低下が続いていることは『日本語ブックレット2006』でもお伝えしましたが,毎年末新版が刊行されてきた新語・時事用語辞典3種のうち,最古参の『現代用語の基礎知識』(自由国民社)を除く『imidas』(集英社)『知恵蔵』(朝日新聞社)の2種がウェブの影響による部数減のため書籍体での刊行をとりやめました。その一方,内容のユニークさから注目された書籍体の辞書として,新潮社編刊『新潮日本語漢字辞典』(9月),小野正弘編『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』(小学館・10月)があります。そして10月に『広辞苑』第6版(岩波書店)の2008年1月の刊行が発表されると,新設項目などの話題が一般向けメディアをも大いににぎわせ,代表的国語辞典であることを改めて印象付けました。

 社会一般での話題との関連でいえば,2008年の1月から3月ごろにかけ,一部マスコミが「これはしたり」「手元不如意」「恐悦至極」といった「侍言葉」が若い世代の間で流行していると報じ,その火付け役の一つとして野火迅『使ってみたい武士の日本語』(草思社・9月)が紹介されました。

 そして,ある検索語を含む図書のタイトルと主要書誌情報をウェブ上で一覧でき,さらに所在ページの画像まで見ることができるサービス「Googleブック検索」が7月にスタートし,直後に慶応義塾大学図書館が協力を表明して話題になりました。

 各トピックで引用した雑誌記事・新聞記事は,特に断わらない限り2007年のものです。また新聞の朝夕刊の別は,夕刊の場合のみそう示しました。



国立国語研究所 日本語ブックレット2007