『えんぴつで奥の細道』
この本は,書家である大迫氏の書いた『奥の細道』の本文が薄く印刷された上を読者が鉛筆でなぞる,という趣旨です。各メディアもとりあげ,「パソコン全盛の時代に手書きというのが逆に新鮮だった」「心静かな自分の時間を持てるのがよかった」とヒットの理由を分析しています。また新聞記事を順に見ていくと,「主な読者は,50〜70歳代の女性」(4月6日付読売「くらし」面「家庭 彩事記」欄)→「年齢層は,20代まで,30〜40代,50代以上がそれぞれ3分の1を占める」(6月4日付朝日「読書」面「売れてる本」欄),「30,40歳代の購買者が多く,若者も少なくない」(6月8日付読売「顔」欄)→「当初,ターゲットと考えていたのは団塊世代以上の人たち」「だが予想外だったのは,20〜30歳代からの大きな反響だった」(8月16日付読売夕刊)となっており,購買層が次第に下の世代に広がっていったことがうかがえます。総合雑誌の書評(『中央公論』8月号「ベストセラー温故知新」欄)でも取り上げられました。
2002年にベストセラーとなった,斎藤孝『声に出して読みたい日本語』(2001,草思社),柴田武『常識として知っておきたい日本語』(2002,幻冬舎)は,当初は若い世代に読んでもらうことを考えて編集されたものの,予想以上に中高年層に支持され,この「見込み違い」が大ヒットにつながったといわれます。『えんぴつで〜』はその逆のパターンということになります。
関連文献情報
『えんぴつで奥の細道』
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