西洋文学の新訳と翻訳に関する本
西洋文学の新訳をめぐっては,2005年,岩波書店の有していたサン・テグジュペリ『星の王子さま』の翻訳出版権が切れたのに伴い,新訳が次々に出版され話題になりました。『憂い顔の『星の王子さま』 続出誤訳のケーススタディと翻訳者のメチエ』は岩波版の「誤訳」とそれらの箇所が新訳14種ではどうなっているかをまとめたものです。
そして2007年には,2006年9月~2007年7月に全5巻で刊行されたドストエフスキー著;亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』(光文社古典新訳文庫)が売り上げを伸ばし,大きな話題を呼びました。文芸誌では『すばる』4月号が「21世紀 ドストエフスキーがやってくる」という特集を組み,その中で大正4年の森田草平訳から亀山訳までの新旧の訳文を比較する記事が掲載されました(斎藤美奈子「『カラキョウ』超局所的読み比べ」)。新聞でも朝日は5月6日付「売れてる本」欄,9月1日付「文化」面,毎日は7月29日付「今週の本棚」欄,読売は7月24日付「文化」面「記者ノート」欄,9月5日付「解説」欄,11月21日付夕刊「書評」欄など,各紙が繰り返し取り上げています。同書は毎日出版文化賞特別賞を受賞しました。亀山氏の訳文の平易さ・斬新さに加え,各巻に「読書ガイド」を付けたり,ページの組み方にも配慮したりと読みやすさを重視したのが成功の理由のようです。
このような翻訳文学の図書自体は本ブックレットの採集対象にはなっていませんが,そのヒットの影響もあってか,翻訳そのものについて図書が多く出ています。思想・哲学関係の翻訳書の難解さの背景に迫った『輸入学問の功罪 この翻訳わかりますか?』,現在定着している翻訳語・表現には実は多くの誤訳が含まれるとする『翻訳者はウソをつく!』,翻訳の技術を解説する『達人に挑戦 実況翻訳教室』『ドイツ語おもしろ翻訳教室』『翻訳の作法』,翻訳以外の話題にもふれるエッセイ『やみくも 翻訳家,穴に落ちる』,映画字幕翻訳者の苦労話が中心の『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』など,硬軟とりまぜ多彩な顔ぶれになっています。
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