新訳ブーム

 海外文学の名作の新訳がブームとなり,各出版社が次々と新訳本を発売しています。

 『星の王子さま』の独占的翻訳出版権が2005年に切れたことに伴って,さまざまな翻訳者による新しい訳が登場したことなどがそのさきがけともいわれていますが,ドストエフスキー著・亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』全5巻(2006~2007年),レイモンド・チャンドラー著・村上春樹訳『ロング・グッドバイ』(2007年3月),池澤夏樹編「世界文学全集」(2007年~)が刊行されるなど,2007年には非常に大きなブームとなりました。

 総合雑誌では,『論座』148(2007年9月)で,特集「深化する『翻訳』」が組まれました。中島美奈氏は,新訳ブームの要因について,2003年に村上春樹訳によるサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が新しい読者を獲得したことで弾みがついたという見方があること,また,「作者の死後50年」と定められた多くの著名作家の著作権が切れたことの影響もあることを述べています。(「特集;深化する『翻訳』 なぜいま新訳なのか」中島美奈 論座 148 2007年9月)

 新訳ブームが今後も続くのかは現時点では判断できませんが,2007年の新訳ブームによって,読者は様々な訳文の中から好みのものを選べるようになったことになります。


関連文献情報

新訳ブーム

文献番号
記事標題 (著者) 誌名 巻号 発行年月 ページ 発行所
2007622
特集;21世紀 ドストエフスキーがやってくる 『カラキョウ』超局所的読み比べ (斎藤美奈子) すばる 29-4 2007-4 pp.270-281 集英社
2007625
村上春樹訳『ロング・グッドバイ』考 (新元良一) 文学界 61-5 2007-5 pp.226-233 文芸春秋
2007627
連載;私の古典,私と古典(35) ケインズの名人芸 (間宮陽介) 学鐙 104-2 2007-6 pp.22-25 丸善
2007628
村上春樹の知られざる顔 外国語版インタビューを読む (都甲幸治) 文学界 61-7 2007-7 pp.118-137 文芸春秋
2007632
連載;カーヴの隅の本棚(17) ファンタスティックな侵入 (鴻巣友季子) 文学界 61-8 2007-8 pp.262-263 文芸春秋
2007634
特集;深化する「翻訳」 なぜいま新訳なのか (中島美奈) 論座 148 2007-9 pp.184-185 朝日新聞社
2007635
特集;深化する「翻訳」 村上春樹訳の繊細さと過剰さ (中条省平) 論座 148 2007-9 pp.186-191 朝日新聞社
2007636
特集;深化する「翻訳」 <インタビュー1> 言葉の裏にある概念を伝えたい 『国富論』『自由論』の新訳にあたって (山岡洋一@中島美奈/聞き手) 論座 148 2007-9 pp.192-193 朝日新聞社
2007637
特集;深化する「翻訳」 翻訳とは忠実さの芸術である (加藤晴久) 論座 148 2007-9 pp.194-199 朝日新聞社
2007643
連載;カーヴの隅の本棚(18) おいしい新訳 (鴻巣友季子) 文学界 61-9 2007-9 pp.210-211 文芸春秋
2007648
連載;カーヴの隅の本棚(19) コリダ・デ・エスカラ 熟成の階段 (鴻巣友季子) 文学界 61-10 2007-10 pp.218-219 文芸春秋
2007652
連載;カーヴの隅の本棚(20) 異邦の眼 (鴻巣友季子) 文学界 61-11 2007-11 pp.200-201 文芸春秋
2007653
ジョン・ロックとの旅 『統治二論』を訳し終えて (加藤節) 図書 704 2007-11 pp.18-21 岩波書店
2007786
<読まずにすませるベストセラー> S・フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー』 村上春樹新訳と旧訳二作を読み比べてみたら (紀田伊輔) 新潮45 26-2 2007-2 pp.143-144 新潮社
2007790
連載;ベストセラー温故知新 <Chuko Book Review> レイモンド・チャンドラー著・村上春樹訳『ロング・グッドバイ』;リチャード・バック著・五木寛之訳『かもめのジョナサン』 (岡崎武志) 中央公論 122-6 2007-6 pp.288-289 中央公論新社



国立国語研究所 日本語ブックレット2007