『広辞苑』第6版

 2007年10月に,『広辞苑』第6版の刊行が発表されました。1998年の第5版刊行から10年たっており,また,新たに収録された1万語には「いけ面」「顔文字」「食玩」などの新語も含まれていて,2008年1月の刊行前から注目を集めました。

 『広辞苑』の版元である岩波書店発行のPR誌『図書』705(2007年12月)では,「『広辞苑』第六版」という特集が組まれました。

 小林恭二氏は,『広辞苑』の最大のライバルは,新しい言葉に強いウィキペディアであると考えています。しかし,ウィキペディアは権威のない現代版の百科事典であり,自分は良くも悪くも『広辞苑』の権威から外れることの怖さがあるために,必ず『広辞苑』を引くことにしているといいます。そして,この二つがあって併用できるという現在の状況を喜ばしいものととらえています。(「特集;『広辞苑』第六版 <座談会>豊かな言葉の森へ 『広辞苑』第六版刊行によせて」加賀美幸子・小林恭二・堀井令以知 図書705 2007年12月)

 便利な電子辞書やウェブ検索,ウェブ辞書が盛んに使用されるようになった今も,『広辞苑』の権威は多くの人が認めるところのようで,前出の小林恭二氏は,『広辞苑』の編集部へ“こんな言葉を入れてほしい”“載っていないのはおかしい”という趣旨の意見が多く寄せられることに対し,「面白いのは,その言葉を言ってくる人は意味も知っているわけですよね,当然。ということは,この言葉にオーソリティを与えてくれ,というふうなお願いですよね」(同上)と話しています。

 堀江敏幸氏も,『広辞苑』の思い出として,「『広辞苑によれば』と物書きが記すとき,そこに二重カギ括弧はなかった。『広辞苑』は地の文とひとつづきの固有名詞であり,括弧なしの広辞苑をさりげなく引き合いに出すことがなにかとても高尚なことのように思われた」と回想しています。(「特集;『広辞苑』第六版 「あ」の変幻」堀江敏幸 図書705 2007年12月)。


関連文献情報

『広辞苑』第6版

文献番号
記事標題 (著者) 誌名 巻号 発行年月 ページ 発行所
2007169
特集;『広辞苑』第六版 惜可夜 (黛まどか) 図書 705 2007-12 pp.22-23 岩波書店
2007682
特集;『広辞苑』第六版 <座談会> 豊かな言葉の森へ 『広辞苑』第六版刊行によせて (加賀美幸子;小林恭二;堀井令以知) 図書 705 2007-12 pp.2-13 岩波書店
2007683
特集;『広辞苑』第六版 通用門の光景 (黒井千次) 図書 705 2007-12 pp.14-15 岩波書店
2007684
特集;『広辞苑』第六版 辞書を引くことの意義 (山口二郎) 図書 705 2007-12 pp.16-17 岩波書店
2007685
特集;『広辞苑』第六版 「あ」の変幻 (堀江敏幸) 図書 705 2007-12 pp.18-19 岩波書店
2007686
特集;『広辞苑』第六版 国語辞書と役割語 (金水敏) 図書 705 2007-12 pp.20-21 岩波書店
2007687
特集;『広辞苑』第六版 日本語の<CGS単位系>のように (大橋力) 図書 705 2007-12 pp.24-25 岩波書店
2007688
特集;『広辞苑』第六版 言葉の渦の中で育った (平田オリザ) 図書 705 2007-12 pp.26-27 岩波書店
2007689
特集;『広辞苑』第六版 広辞苑の植物と挿し絵 (小野幹雄) 図書 705 2007-12 pp.28-29 岩波書店



国立国語研究所 日本語ブックレット2007