敬語に関する本
文化審議会国語分科会敬語小委員会の答申『敬語の指針』が2月に出されました。これは「敬語の内容や使い方について基本的な解説を行うとともに,疑問や議論の対象となりやすい事項について具体的に説明することによって,敬語の指針として活用されることを意図している」(「はじめに」より)ものです。その中で大きな話題となったのは,これまで尊敬語・謙譲語・丁寧語の3分類が「常識」のように言われてきたものを,尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語に5分類するということでした。この分類案は2006年10月にすでに発表されていた(『日本語ブックレット2006』「新聞記事の動向」のトピック「敬語」参照)ため,2007年の敬語関連の本には『その敬語では恥をかく!』のようにこの5分類案を踏まえたものも見られます。一方『これが正しい敬語です』のように依然3分類案を踏襲するもの,さらには分類はさておきとにかく「こういう場面ではどう言えばいいか」という実践用テキストに徹している図書も見られます。
なお『敬語の指針』は5分類案ばかりがメディアで取り上げられた観がありますが,今まで多く使われてきた「敬う」「へりくだる」に対し,「言葉の上で高く位置付けて述べる」という意味で「立てる」という表現を使っているのも特徴です。また,「第3章 敬語の具体的な使い方」では,多くの本が「誤り」だとしている「とんでもございません」という言い方について,論拠を示した上で「相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり,現在では,こうした状況で使うことは問題がないと考えられる」としている点も注目されます。
敬語関連の本が例年多いのは,言うまでもなく敬語を使いこなすのが難しいからです。かつて「カウンターのお席でよろしかったでしょうか」「ご注文のほうはお決まりですか」「こちらカレーになります」「千円からお預かりします」といった「マニュアル敬語」がしばしば槍玉に挙がりました。しかし,2003年,『国語に関する世論調査』で「~のほう」「~から」について「気になる」人が多いという調査結果が出たこと(2003年6月20日付各紙),大手ファミリーレストランがこれらの撲滅キャンペーンを開始したこと(同年6月23日付朝日夕刊「窓」欄)が報道され,この頃から企業側が従業員に指導を徹底するようになってきたと思われます。その結果今日はこれらの「マニュアル敬語」を耳にする機会は相当少なくなりました。その一方で「お飲み物はだいじょうぶですか」(注文なさらなくてもいいんですか,の意),「ご注文の品は以上でおそろいですか」といった別の「マニュアル敬語」が頻繁に使われるようになっています。
関連文献情報
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