課題と今後の展望
本ウェブサイトについて,当面の課題として,以下の3点が挙げられます。
1.さらなるデータの充実化
縦断調査として,各学習者の3年目以降の会話データも追加・更新していく予定です。また,学習者の言語生活,形成的評価の過程等の情報を中心に,よりデータを充実させていくことも課題となります。
また,上記に関連して,文字化の枠組みの再考や関連情報の内容の吟味等,学習者会話データベース一般として,どこまで現実に即したデータ提供が可能かという課題もあります。現在のところ実現はできていませんが,文字化データや関連情報を,学術研究向けと一般(実践者・教育者)向けとの2通りで作成・公開するなどの方法も考えられるでしょう。用途に応じて複数の様式で作成することは,データベースの多様な活用の実現につながります。
2.個人情報等の問題
現在,「日本語会話データベース 縦断調査編」ウェブサイトには,認証システムは設けていませんが,データの整備・公開の状況によっては,今後データベースの使用を会員制・許可制にすることも考えられます。地域日本語教育の担い手は,談話において身の回りのことを語ることもしばしばです。また,地域日本語教育で重要な位置を占める方言等の手掛かりとなる,音声データの扱いについても課題です。実践・研究の倫理の在り方とともに,今後議論していきたい課題です。
3.より有意義な活用例の提示
ユーザーが日々の研究,実践,地域活動において,より建設的な効果を生み出せるようなデータを提供できることが,本データベースの一つの願いです。本研究所では,縦断調査編に加え,より横断的に大量のデータを公開する日本語学習者会話データベースも提供しています(「日本語学習者会話データベース」)。これまでの学習者会話コーパスには見られないような,データベースの意義や用途を考えていくためにも,ウェブサイト上に活用例を提示することは不可欠でしょう。
情報量と利便性を兼ね備え,また量的分析と質的分析の両方を可能にするような,より包括的なデータ集積と公開は,福祉言語学の観点からみても大きな課題と展望になるでしょう。
今後の展望
本調査を通して得られる情報が有意義なものとなるために,国立国語研究所の本中期計画(2005~2009年度)の間に,留学生・就学生をはじめ,地域で生活する外国人住民の日本語会話能力の状況について,できる限りその実態を探るべく,ACTFL-OPIを活用して,調査を試みていきます。
この研究において,「日本語(で行う)コミュニケーション」を,仮に「ヒト,モノ,コトなどとの間に何らかの関係性を作るために,日本語(ことば・音声)そのものや,身体表現等を活用して,ある方向に働きかけをすること」と定義するならば,OPIという限られた会話場面ではあるにしても,日本語を用いた自然会話(に限りなく近い)場面でのコミュニケーションの実態を把握することができるものと考えます。