会話の実際と文字化の枠組み

 文字化データ内の記号等については,凡例をご覧ください。ここでは文字化担当者の気付き及び文字化の方針が,具体的にどのように文字化に反映されているのかを例を挙げながら示します。


1.会話データの外形的側面について

 学習者の音声・文法、あるいは丁寧体/普通体の使い分けなどといった会話データの外形的特徴については,日本語学習者としての特徴も見られるほか,当該地域の方言が反映していると考えられる箇所も見られます(例1)。とくに発話者の特徴的な音声については,読みやすさを考えて音声かな表記で表しました。文字化担当者で発話者の意図された表現が想定できるものについては[ ]でそれを示しています(例2)。なお,発話者の日本語に英語の語句が混入している(と考えられる)部分は,できるだけ発話者の特徴的な音声を聞こえた通りに(かつ読みやすく)表記するために,今回の会話データでは音声カナ表記で示しています(例3)。

(例1)
I: やっぱり,亡くなったの人に大切な思いさすれば,やっぱり,やらないのほうがいいと思うで,だけどね{笑}。

(例2)
I: サポートはね〈うん〉,やっぱり学校のほうが〈ふんふんふん〉いて,と,先生と話してから〈ふーん〉,じゅーく[塾]に入れて〈あー〉,あと,お友だちも,ね,手伝って。

(例3)
I: あのー,なんだっけ,チクンライス[チキンライス]?。
T: チキンライス?。
I: ええ,はい。


2.学習者の談話構造を見る(会話データ全体を見渡す)

 会話データの内容を見ると,短期間のうちに日本とブラジルの間を頻繁に往来しているといった学習者の背景や,子どもが通う小学校の教師とのやりとり等,生活の状況を読み取ることができます。そのような学習者の「語り」がどのように行われるのかについて,文字化の際には,特に沈黙の現れ方や非言語行動との関連を見ることができるように心がけました。沈黙については,会話のどの部分で出てくるのかを示すことに重点を置いています。文節内における2拍から3秒程度の沈黙については^で表しています(例4)。また,3秒以上の長い沈黙については 、、、で示しています(例5)。
 非言語行動についてはできるだけ拾って表記するようにしました。{笑}{ブレス}{咳払い}{舌打ち}などで示しています(例6,例7)。

(例4)
I: 一方的に自分の都合だ,が悪いから,もう,バサッと切る^ようなことは,ちょっと,何,なんでしょう,えーと,うん〈うーん〉,じゃ,うーん,弱肉強食のような〈ええ,ええ〉感じがします。

(例5)
T: えー,ポルトガル語と日本語の授業と,どっちがおもしろいですか?。
I: 日本語のほうは,も,うーん,日本の文化はお,先生たち教えるから,えー,そ,それは楽しい〈ふん〉。
   それ,ポルトガル語は,うーん,、、、,本とか〈うん〉,書いた人,なに考えたとか〈ふーん〉,そういうこと。

(例6)
T: 何か買いましたか{笑}?。
I: いや,何も買って,買ってないです。
T: え,うん?。
I: うん,何も{笑}。

(例7)
I: 街,あちこち,全部,日本語教室が〈はい〉あったけども,【地名1】はないですね〈はい〉って言ったら,そうだ〈うんうんうん〉,わがった,わかりました〈うんうん〉,今度相談して作りましょう〈はい〉って〈はい〉,言って,{ブレス},2003年か,***1〈はい〉,2002年,***。
   このとき〈うん〉,8月に頼まれて〈はい〉10月に勉強始まったのよ。