はじめに

データベース構築の背景

 1990年の入管法の改正・施行以来,我が国に在留する外国人登録者数は増加の一途を辿り,家族を伴った外国人定住者の数も増えてきています。現在,多様な言語・文化背景を持った幅広い年齢層の人々が,地域社会のさまざまな場面で,日本人と多様なかかわりを持ちながら生活していますが,今後もこの状況は続くものと推測されます。こうした多様な価値観を持った人々が共存する社会を多文化共生社会とするならば,社会状況に応じた外国人受入れのための適切な方策が必要となってくるとともに,日本語の学習を必要とする住民(言語生活者)の需要に応じた言語教育の展開も,ますます期待されてくることでしょう。


データベースの目的

 このデータベースは,こうした展開の充実へ向けた基礎資料として活用されるべく,以下の1.~3.を目標として構築されるものです。

1.多文化共生社会に対応した日本語教育方法・内容の構築に向けた基礎資料を提供すること
2.多角的な観点からのデータベース作りを試み,成果を報告することによって,複合領域としての日本語会話研究や日本語教員養成の新たな展開に貢献すること
3.口頭能力テストの重要性や多義性について喚起するとともに,その評価の過程やフィードバック等を通じて得られる情報の有意義性に関する認識の深化を促すこと

 本プロジェクトでは,少数(20数名)の縦断(同一の対象者を定期的に調査した)データとともに,多数(300人以上)の横断(異なる対象者を大量に調査した)データも収集し,ウェブ上に公開しています(「日本語学習者会話データベース」)。


データベース公開の意義

 「日本語会話データベース 縦断調査編」は,ウェブサイト公開により全世界の人々が無料でアクセスできるようになっています。ユーザーが,縦断調査の対象地域(外国人分散地域と集住地域)を選んで,調査1年目と2年目における,OPIテスターと学習者の会話データを閲覧することができます。また,簡単な検索システムを使うことで,レベルや性別,職業などの位相ごとに閲覧したいデータを抽出できるようになります。また,関連する調査や分析・発表例などの資料も紹介しており,いずれも,コピーやダウンロード等が可能です。

 このように縦断調査の成果を広く公開することには,以下の3つの意義があると考えられます。

1.地域の日本語教育,言語生活の実態を広く知ってもらうことができる。
2.研究者,学生,学習者,教育関係者,地域のボランティア等の,あらゆる人が閲覧できる。

 すなわち,データの汎用性の向上,また地域日本語教育の実態を広く知ってもらうことです。従来の会話の分析・研究データは,会員登録制であったり有料であったりするために,日本語学・日本語教育学の専門家だけが自己の調査という目的のために使用できる場合が多かったものと思われます。しかしながら,ウェブで簡単にリンクを辿りながらデータを閲覧・ダウンロードできることで,他分野の視点から日本語会話を観察する研究者・学生や,地域での日本語の諸活動に携わるボランティアなど,あらゆる主体がデータを活用することが可能となるでしょう。近年叫ばれる日本語教育・言語教育の多様化や,領域横断的・協働実践的な研究の在り方を考える際に,これらの意義は大切にしたいことであるといえます。

3.調査の軌跡,分析例を示すことで,社会言語学の研究・実践の在り方を共有できる。

 すなわち,広く公開し,専門家以外の人にも使ってもらうことで,今後の研究,教育,地域活動等の在り方を考えるための叩き台にすることです。地域日本語会話の縦断調査の軌跡を,文字化資料やその分析例とともに提示することで,閲覧者が地域生活者としての日本語学習者の言語生活の実態を知ることができるようなデータベースの構築を目指します。これらの資料を,各ユーザーがそれぞれ独自のやり方で活用し,より多様な日本語・言語生活の在り方を考え,それを共有するきっかけを考えることができれば幸いです。


 これらの意義を最大限に実現するため,現段階においては,ウェブサイト及び各文字化データ,資料等を,用途を明確化せずに示しています。ユーザーがそれら資料を閲覧・ダウンロードし,共同研究や実践の課題を探求したり,各自の方法で分析したりすることが期待されます。また,今後同じような形式や機能のデータ集積が行われ公開されることが望まれます。