インターネットと文学
2007年にはケータイ小説がベストセラーとなりました。
一般の小説とは文体や内容の面で異なる特徴を持つケータイ小説がなぜ読まれ,流行しているのかについて,総合雑誌記事でも関心が持たれていました。
ケータイ小説の文体が書籍体の小説と異なっているのは,ケータイ小説が,携帯電話の画面を通して読むことを前提としていることが一つの要因となっています。
『群像』62‐6(2007年6月)では,ケータイ小説の特徴について,一文を短くして改行を多用すること,☆や♪などの記号を多く用いること,会話と独白がほとんどであることなどをあげています。また,ケータイ小説は,「日記や友だちあてのメールそのままといった感じだが,だからこそ女子中高生を中心とする読者にダイレクトに響くのだ」とも分析しています。(「連載;侃侃諤諤」 群像 62‐6,2007年6月)
中西新太郎氏は,ケータイ小説について,作者の体験と地続きで,ブログ日記の延長のようでもあるといいます。そして,「マジでごめん」「俺,やばいかも」「バリバリ恋してるよ」「そっかぁ」「てか,それって逆だしぃ」といった,「ケータイ・メールを駆使した会話は,どれほど語彙不足にみえようと,少年少女の実際の会話そのもの」であって,小説作品が持つリアリティとは別の意味,つまり現実の反映という意味で,この上なくリアルである,とも述べています。(「批評 自己責任時代の<一途>を映すケータイ小説」 中西新太郎 世界772 2007年12月)
ケータイ小説に限らず,インターネットの発達は,プロの作家以外の人々の文章の執筆・発表を容易にしました。また,メールマガジンの連載小説などが広まったことによって,必ずしも文学=書籍とはいえなくなったり,募集から発表まで全てをインターネットで行う「Yahoo!JAPAN文学賞」(2005年より)のような賞が生まれたりもしました。さらに,これまで縦書きが主流だった日本文学で,横書きの文章が力をもつようになるなど,インターネットの発達は,文学に影響をもたらしているようです。
尾崎真理子氏は,よしもとばなな氏へのインタビューで,活字が横に組まれた小説が芥川賞の候補になったのが1990年代の半ば頃だが,いまやメールマガジンの連載小説,短歌や和歌のサイト等,全てが横書きになっており,縦書きで文章を考えてきた日本語の文学にとって大変な変革が起きている,と発言しています。それに対し,よしもと氏は,横書きということで文章の本質が変わるわけではないと答え,それよりも大きなこととして,「自分の文章が別の国の言葉で,まるで別の言葉に代わる長所と短所を体験」したことをあげます。そして,文章の,「どこの国の言葉になっても変わらない,強い本質の必要性」について話しています。(「ネット文学で人を癒す 縦になるか横になるかぐらいで私の文章は変わらない」 よしもとばなな・尾崎真理子/聞き手 Voice351 2007年3月)
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