教育の見直しと「言葉の力」への注目

すべての教科の基本に「言葉の力」を

 近年,国際的な学力調査などでも,学力低下,特に読解力の低下を示す結果が出たことを受けて,教育の見直し,「ゆとり」教育の転換が議論されてきました。2006年2月には,中央教育審議会が報告書案をまとめ,授業時数を増やし,すべての教科の基本に「言葉の力」を据えるよう提言しました。その中では,古典の音読・暗記や要約する力を促進すること,国語力の育成と関連づけた論理的思考力や表現力を身に付けることの重要性が強調されました。

 読売新聞「くらし 学び 教育ルネサンス」欄では「深める伝え合う力」と題して連載が組まれ(2月),「表現力磨く“ことば科”」「“群読”でつく基礎体力」「全校で“表現力”系統立て “話すこと・聞くこと”を学ぶ時間」「“日本語力”特区を活用」「聞き書きで学ぶ会話術」など,全国の小中学校の取り組みが紹介されました。

「教育再生会議」

 10月,安倍内閣(当時)において「教育再生会議」が閣議決定の後,設置されました。10月14日付読売新聞には「対話力育てたい」という見出しで座長の野依良治氏の抱負が掲載され,一連の審議の中では,国語力の強化,授業時数の増加なども検討されました。

「必修漏れ」と基礎学力

 教育再生会議が設置されて間もない11月,中学・高校では,受験にかかわりの少ない科目の「必修漏れ」が次々と発覚し,国語科では,毛筆や書写の未履修が明らかになりました。
 また,大学では「語彙力不足で論文が読めない」「英検3級が取れない」など,学生の基礎学力不足が深刻な問題となっており,「中高レベル」指導に力を入れたり,補習を行っている大学もあります。

 さて,2007年8月,中央教育審議会小学校部会では,授業時数の増加などを柱とした素案がまとめられ,国語,算数などを増やし,英語活動を新設する一方で,「ゆとり教育」の象徴だった「総合的な学習の時間(総合学習)」は減らすことが提言されました。

(言葉による)いじめと「対人力」

 11月には小中学生のいじめを苦にした自殺が相次ぎ,文科相あてに予告が届いたこともあり,社会の関心を集めました。携帯電話やインターネットの利用により,「軽い感覚」で匿名で大量に悪口や中傷が書き込まれたりするというように,いじめが陰湿化していることなどが指摘されました。

 読売新聞「くらし 学び 教育ルネサンス」欄では,11月,「「命」を学ぶ」というテーマを掲げ,「心遣い言葉遣いから」「ネット相談 心の闇に光」「読者の声 「あったか言葉」探したい」など,子どもを取り巻く状況や対応を取り上げました。

 学校では対話ゲームや話し合いなどが行われ,また,電話では話しにくい子どもたちのために「いのちのメール」が設置されました(2007年には「24時間いじめ相談ダイヤル」も設置されました)。

 なお,コミュニケーション能力は,社会人の基礎力としても重視されています。経済産業省が「発信力」「傾聴力」などを「社会人基礎力」として定義したり,読売新聞「くらし 家庭」欄(4月)では,「対人力を磨く」というテーマで,大学や会社でのコミュニケーシンのあり方,改善策などを紹介しました。


関連文献情報

教育の見直しと「言葉の力」への注目

文献番号
記事標題 〔備考〕 (著者) 新聞名 朝夕刊 発行年月日 ページ
200603810
次期学習指導要領 「言葉の力」を柱に 「ゆとり」転換 思考力を育成 全面改訂へ文科省原案 〔古典の音読・暗記や要約力の促進(国語)など 国語力の育成と関連づけた論理的思考力や表現力の重要性を強調〕 朝日 朝刊 2006-2-9 p.1
200603840
第2社会 論理力強化どう道筋 次期学習指導要領 〔基本的な考え方に「言葉の力」据える〕 朝日 朝刊 2006-2-9 p.38
200603850
「国数理」小中で授業増 学力低下食い止め 中教審部会報告案 〔国語はすべての教科の基本 古典や名作に触れ、日本の言語文化に親しむ 表現力を身につける〕 読売 朝刊 2006-2-9 p.1
200604200
中教審部会 授業時数増加を検討 審議経過報告 「国語力や理数充実を」 〔小学校での英語教育も充実する必要がある〕 毎日 夕刊 2006-2-13 p.3
200604220
総合 指導要領「06年度中にも改訂」 文科次官 〔すべての教科の基本に言葉の力を据えるよう提言〕 朝日 朝刊 2006-2-14 p.3
200604300
[ぴーぷる] PRのページ 特集 「社会人基礎力」に定義 経産省 若者育成の観点から 求める「人材像」も明確化 〔コミュニケーション能力など〕 読売 朝刊 2006-2-14 p.1
200610270
くらし 教育 くらし 学び 小1「軟着陸」作戦 スター作り、紙芝居授業も 〔子どもにコミュニケーション力や適応力が育っていないことから起こる小1ギャップ問題〕 読売 朝刊 2006-4-8 p.17
200613120
くらし 教育 くらし 学び 漢検で国語力アップ 中学校の団体受検増加 文章への苦手意識薄れる 読売 朝刊 2006-5-4 p.16
200613950
総合 社会人 12の基礎力 課題発見力主体性など 政府が評価基準 〔発信力、傾聴力〕 読売 朝刊 2006-5-14 p.2
200615320
[Y&Yしごと] 人間関係を重視の傾向 今年度の新入社員 〔日本能率協会実施の「会社や社会に対する意識調査」 今後伸ばしたい能力にコミュニケーション能力、語学力〕 読売 朝刊 2006-5-29 p.3
200616380
地域 都学力テスト 中学理数で正答率上昇 小学生は国語、理科が微増 読売 朝刊 2006-6-9 p.34
200617310
オピニオンワイド 記者の目 「基礎学力充実」を掲げる大学 「最高学府」の意義どこへ 「ひらがな」学生も人材 〔日本語を学び直す大学生〕 毎日 朝刊 2006-6-21 p.6
200617380
第2社会 九九暗記・接続詞使い分け 小学校で 都、最低限の学力明示へ 〔ローマ字で自分の名前が書けない高校生も〕 朝日 朝刊 2006-6-22 p.38
200619210
第3社会 論理的な思考「苦手」 小4~中3 国・数の課題調査 「文章書く訓練を」教育研 朝日 朝刊 2006-7-15 p.29
200619240
小中学生学力テスト 学習意欲高める工夫を 学年応じ正答率上昇 同時実施のアンケート 漢字練習、年々嫌いに 毎日 朝刊 2006-7-15 p.29
200619280
解説 解説スペシャル 3万7000人学力調査に見る課題 文章書く力なお弱点 国語 記憶中心、応用きかず 算数数学 日本の子供の学力低下 国際調査に危機感 文科省 「考える力」問う流れ定着 読売 朝刊 2006-7-15 p.15
200619300
社会 小・中学生学力調査 「現場の実感と同じ」 授業時間不足 教師悲鳴も 読売 朝刊 2006-7-15 p.38
200620620
総合 次期指導要領 国語、学習の基本に 「論理的思考」を重視 〔文部科学省次期学習指導要領〕 朝日 朝刊 2006-7-29 p.3
200620720
教育 漢字「必要」でも「嫌い」? 国立教育研 児童・生徒調査 高学年ほど顕著な傾向 〔文章を書くことについても〕 朝日 朝刊 2006-7-30 p.22
200623280
社会 小中学生 計算「文章題」は苦手 〔総合初等教育研究所「「計算の力」の習得に関する調査」〕 読売 朝刊 2006-9-2 p.38
200624240
第2社会 つかめぬ暴力の原因 公立小学生 衝動的に刺す・殴る 小学校にもカウンセラー 〔会話をしたり、言語化されない相手の気持ちを察したりする力弱い今の子ども〕 朝日 朝刊 2006-9-14 p.34
200624270
くらし 教育 くらし 学び 入学前に復習 大学「中高レベル」指導に力 〔リメディアル(再履修)教育 論文が書けない学生が多いため、日本語表現を最重点に挙げる大学も多い〕 読売 朝刊 2006-9-14 p.16
200626020
教育 あんてな ホッとする会話 学校で外で 〔子どものコミュニケーション能力の衰え 指導要領では国語を中心に「話す」「聞く」が大きな柱に〕 朝日 朝刊 2006-10-1 p.29
200626830
「いのちのメール」16日から 若者の電話離れに対応 朝日 夕刊 2006-10-11 p.3
200626960
政治 教育再生会議座長 野依良治氏 「対話力育てたい」 読売 朝刊 2006-10-14 p.4
200627550
週刊KODOMO新聞 青春リサーチ 上手な勉強法わからない科目は 「解法」ない国語が1位 〔中学生対象読売新聞社調査 英語に男女差〕 読売 夕刊 2006-10-21 p.8
200629150
中学毛筆「必修逃れ」 大阪・枚方 14校「通常の国語確保」 読売 夕刊 2006-11-4 p.18
200629870
死なないで いじめ 救いの手どこに ネットで悪口、中傷 「軽い感覚」匿名で大量に 学校、教委対応後手 毎日 夕刊 2006-11-14 p.8
200629950
無視や悪口など精神的いじめ 「被害も加害も経験」4割 高校生6400人調査 〔京都大大学院木原雅子助教授と全国高等学校PTA連合会調査 携帯電話やインターネットの利用でいじめが陰湿化〕 読売 朝刊 2006-11-15 p.1
200630530
オピニオン 時流自論 いじめという集団の自傷行為 〔携帯電話所持は年齢により線引きをすべき〕 (藤原新也) 朝日 朝刊 2006-11-20 p.9
200630590
投書 気流 書写で必修逃れ 良さを見直して 読売 朝刊 2006-11-20 p.11
200630920
第2東京 いのち 自殺予防メール手応え 開始1カ月 東京いのちの電話 新たな試み 若者からの相談4割 「最初と最後の1行難しい」 4年目の相談員 書く行為に抑止効果 田村毅・東京学芸大助教授 朝日 朝刊 2006-11-23 p.34
200630940
投書 気流 書写を学ぶには時間が足りない 〔11月20日付投書「書写で必修逃れ良さを見直して」に対して〕 読売 朝刊 2006-11-23 p.10
200631220
第2社会 「Ijime(イジメ)」ドイツ注目 連日報道 自国の暴力問題と絡め 朝日 朝刊 2006-11-25 p.38
200632450
第2社会 対話ゲームでいじめ防げ さいたま市の全小中学校 「嫌と言えるように」 朝日 朝刊 2006-12-4 p.38
200633100
授業時間30年ぶり増加? 教育再生集中審議 歓迎派「詳しく教えられる」 不安派「子の帰宅遅くなる」 教師複雑 〔国語の授業時間数 音読のための時間ほしい〕 読売 夕刊 2006-12-9 p.14
200633250
解説 緩話急題 いじめ緊急アピール 心に届かない言葉 読売 朝刊 2006-12-12 p.15
200633410
地域 都民版 いじめ根絶へ小中学生提言 港区でふれあいトーク 見ぬふりしない 汚い言葉使わない 読売 朝刊 2006-12-13 p.35
200633740
教育 「ゆとり」原因学力不足深刻 大学の2割で補習 「せめて必修は学んで」 必修漏れ多い肯定意見 大阪の大学生68人アンケート「機会奪われた」の声も 〔語彙力不足で論文が読めない、英検3級が取れないなど〕 朝日 朝刊 2006-12-17 p.18

関連文献情報

教育の見直しと「言葉の力」への注目_連載「教育ルネサンス」

文献番号
記事標題 〔備考〕 (著者) 新聞名 朝夕刊 発行年月日 ページ
200603790
社会 教育ルネサンス No.255 深める伝え合う力2 対人関係スキルで円満 読売 朝刊 2006-2-8 p.37
200603880
社会 教育ルネサンス No.256 深める伝え合う力3 企画運営自分の言葉で 〔関西文化学術研究都市「大川センター」で「子どもたちが企画運営する子どもたちのためのワークショップ(参加型体験学習)」〕 読売 朝刊 2006-2-9 p.37
200604000
社会 教育ルネサンス No.257 深める伝え合う力4 接し方の「物差し」学ぶ 低下する「表現する力」 読売 朝刊 2006-2-10 p.37
200604110
社会 教育ルネサンス No.258 深める伝え合う力5 吉本流「ツッコミ笑学校」 〔笑いを取り入れた授業やクラブ活動〕 読売 朝刊 2006-2-11 p.37
200604280
社会 教育ルネサンス No.259 深める伝え合う力6 「話す・聞く」指導手探り 〔大津市瀬田北中学校〕 読売 朝刊 2006-2-14 p.37
200604430
社会 教育ルネサンス No.260 深める伝え合う力7 表現力磨く「ことば科」 広島県の「ことばの教育」 〔広島県立広島中学校、竹原市立忠海中学校〕 読売 朝刊 2006-2-15 p.37
200604510
社会 教育ルネサンス No.261 深める伝え合う力8 「群読」でつく基礎体力 〔島根県太田市立朝波小学校 群馬大学元教授高橋俊三さん〕 読売 朝刊 2006-2-16 p.37
200604580
社会 教育ルネサンス No.262 深める伝え合う力9 全校で「表現力」系統立て 「話すこと・聞くこと」を学ぶ時間 〔金沢市立米泉小学校〕 読売 朝刊 2006-2-17 p.37
200604650
社会 教育ルネサンス No.263 深める伝え合う力10 「日本語力」特区を活用 〔宇都宮市立清原北小学校 東京都世田谷区〕 読売 朝刊 2006-2-18 p.37
200605050
社会 教育ルネサンス No.264 深める伝え合う力11 聞き書きで学ぶ会話術 〔秋田県仙北市立角館中学校〕 読売 朝刊 2006-2-21 p.37
200605400
社会 教育ルネサンス No.267 深める伝え合う力14 ギブ&テーク気持ち培え 樋口裕一さんに聞く 〔書くことを介してコミュニケーション力をはぐくむ小論文教育〕 読売 朝刊 2006-2-24 p.37
200605490
社会 教育ルネサンス No.268 深める伝え合う力15 読者の声 大人も巻き込んで訓練 米国で学んだ方法の実践も 〔コーチングなど〕 読売 朝刊 2006-2-25 p.37
200629550
くらし 教育 くらし 学び 教育ルネサンス No.448 「命」を学ぶ8 心遣い言葉遣いから 読売 朝刊 2006-11-9 p.19
200629970
くらし 教育 教育ルネサンス No.452 「命」を学ぶ12 ネット相談 心の闇に光 〔「いのちの電話」 若者の電話離れからネット相談導入〕 読売 朝刊 2006-11-15 p.21
200630230
くらし 教育 教育ルネサンス No.454 「命」を学ぶ14 読者の声 「あったか言葉」探したい 〔子供の話に耳を傾けるのは親の務め 子供たちの最近の言葉遣いのひどさ〕 読売 朝刊 2006-11-17 p.19

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教育の見直しと「言葉の力」への注目_連載「対人力を磨く」

文献番号
記事標題 〔備考〕 (著者) 新聞名 朝夕刊 発行年月日 ページ
200609840
くらし くらし 家庭 対人力を磨く3 「あいさつを」「質問恐れず」 生活態度冊子に学ぶ 〔名古屋大学 読書量も減る傾向〕 読売 朝刊 2006-4-6 p.15
200610050
くらし くらし 家庭 対人力を磨く4 新入生キャンプで議論 意見まとめるコツつかむ 〔立教大学〕 読売 朝刊 2006-4-7 p.15
200610260
くらし くらし 家庭 対人力を磨く5 初対面に強くなる研修 社会人と会話 面接の練習 読売 朝刊 2006-4-8 p.15
200610510
くらし くらし 家庭 対人力を磨く6 社内コミュニケーション重視 味わい深い「同じ釜の飯」 読売 朝刊 2006-4-11 p.19
200610650
くらし くらし 家庭 対人力を磨く7 あいさつは「即戦力」 マナー教育に再び注目 読売 朝刊 2006-4-12 p.17
200610780
くらし くらし 家庭 対人力を磨く8 部下の話に耳を傾ける ×訊く ×聞く ○聴く 読売 朝刊 2006-4-13 p.21
200611040
くらし くらし 家庭 対人力を磨く10 会話しやすい「自由席」 メールだけに頼らない 〔企業や大学で〕 読売 朝刊 2006-4-15 p.15
200612460
くらし くらし 家庭 対人力を磨く 読者の反響 信頼とは積み上げるもの 無理せず一歩ずつ 読売 朝刊 2006-4-28 p.15



国立国語研究所 日本語ブックレット2006