本調査は,平成6~10年度文部省科学研究費(創成的基礎研究費)「国際社会における日本語についての総合的研究」(研究代表者:水谷修)における研究班2「言語事象を中心とした我が国をとりまく文化摩擦の研究」(代表:平野健一郎)の国立国語研究所チーム(リーダー:西原鈴子)によって企画・遂行されたものである。
本調査の主要な目的は,母国以外の言語文化社会で現在生活している人々から,母国と現住国における自身の言語行動,現住国の人々の言語行動についての意識,予測,あるいは観察を収集することによって,以下の点に関する所見を得ることにある。
- 同じ個人が母国と現住国で言語行動,およびその基底にあるものの考え方をどのように変えているか(あるいは,変えていないか)。
- 現住国における言語行動の仕方が,現住国の人々の言語行動様式に関する意識とどのように関係しているか。
- 日本人被調査者の回答にみられる言語行動の傾向と,在日外国人がみる日本人の言語行動様式とは,どの程度重なるか。すなわち,日本人の意識する「日本人の言語行動様式」と在日外国人の目に映る「日本人の言語行動様式」は,どの程度一致し,またどの程度ずれがあるのか。また,他の各国についても,各々の国を母国とする在日外国人の回答する「母国における言語行動」と,その国在住の日本人のみる「この国の人々の言語行動」は,どの程度一致し,あるいはずれているのか。
- 言語行動を行う際に配慮する要素,言語行動を判断・評価する際に着目する要素は,言語文化によってどのような部分が共通し,またどのような部分に差異が見出されるのか。
これらは,異文化接触における誤解や摩擦の発生を予測したり,その原因や対処方法を考える上での,貴重な手がかりと考えられる。本研究では,これら諸点に関する知見を得るために,特定の言語行動場面を視聴覚刺激(ビデオ映像)によって提示し,それに対する被調査者のさまざまな言語行動意識を収集した。