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「場面6」について

1. 「場面6」の被調査者

 今回データを公開する調査部分(場面6)に関しては,在外日本人211人(男性88人,女性123人),国内日本人60人(男性24人,女性36人),在日外国人159人(男性82人,女性77人)を対象に調査を行った。被調査者の各種属性による内訳を次頁の表2および図1~3に示し,被調査者のグループ別に属性による内訳の概観を述べる。

【性別】
 全体に女性が多い。日本人全体では女性が約6割を占め,在仏および在米日本人グループでは約7割を占める。外国人は,全体的な男女比は半々に近いが,ブラジル人,韓国人では女性の方が,アメリカ人,ベトナム人では男性の方が多くなっている。

【年代】
 国内日本人は20代・30代・40代・50代以上という各年代がほぼ均等になっているが,在日外国人は在日フランス人を除いては各グループとも20代・30代が大部分を占める。在外日本人では,在伯日本人では50代以上が6割を占める一方,在越日本人では20代が約7割を占めるなど,グループによる差が見られる。

【現住国での滞在年数】
 在外日本人全体で見ると,滞在年数3年未満が約5割,3年~10年未満が約2割,10年以上が2割強となっている。ただし,グループによる差はあり,在伯日本人と在米日本人では滞在年数10年以上の被調査者が半数以上を占める一方,在韓日本人と在越日本人では3年未満が大部分を占める。在日外国人は,全体で見ると,滞在年数3年未満と3年~10年未満がそれぞれ4割強となっている。グループ別では,在日ベトナム人では3年未満,在日フランス人では10年以上の被調査者が,それぞれ平均よりも多くなっている。

表2.「場面6」の被調査者の属性

表2.「場面6」の被調査者の属性

図1.被調査者の男女別構成比

図1.被調査者の男女別構成比

図2.被調査者の年代別構成比

図2.被調査者の年代別構成比

図3.被調査者の現住国滞在年数別構成比

図3.被調査者の現住国滞在年数別構成比

2. 「場面6」の調査

2.1. 調査に用いた刺激材料

 言語行動場面を提示する際の刺激材料として用いた映像は,以下のテレビドラマから得た。映像の使用にあたっては,日本放送協会権利情報センターより許諾を得た。
「連続テレビ小説 青春家族」 <16秒>
(NHK 1989年2月27日放送分)

2.2. 提示場面のシナリオ

 「場面6」では,依頼した側とされた側の言語行動,すなわち,依頼した側の話のきりだし,頼まれた側の曖昧な返答(回答留保や婉曲な断り)を示している。以下が,提示場面のシナリオである。

<場面6シナリオ>
 若い男性2人が,2~3日前に中年の夫婦にある依頼をした。その返事を夫から聞くためにその家に来た。部屋に入ってすぐの場面。M1,M2は若い男性。M3は中年男性。M1・M2とM3はテーブルをはさんで向かい合って座っている。

 M1:奥さんに話していただけましたか?
 M3:(笑い)あははは。
 M2:あははは。
 M3:まあちょっと,あのー,ビールなんかちょっとつきあわない?
 M2:あっ,いただきます。(お辞儀をしながら)ええ。
 M1:(真顔になって)だめ,だったんですね?
 M3:いやいや。(立ち上がりながら)まあね。

場面6シナリオイメージイラスト

2.3. 設問のポイント

 数日前にした頼みごとの返事を聞くために相手の家を訪ね,居間に通されて挨拶もそこそこに用件をきりだすという青年の行動,そしてそれに対する中年男性の曖昧な応答態度が,質問のテーマとなっている。特に後者については,中年男性の思惑に対する推測と,人物としての印象が,ビデオ視聴の段階を追うごとにくり返し質問される。中年男性は,はっきり返事をせずにビールを勧め,単刀直入に聞かれても,まだ「いやいや。まあね」と立ち上がる。こうした曖昧な行動は,たとえば欧米人に比べた場合の一般的な日本的傾向とも言われるが,そのことについて日本人,あるいは外国人はどのように反応するかというのが関心の焦点である。質問の最後の部分では,頼みごとやその返事(およびその解釈)にまつわる異文化体験についても聞いている。

2.4. 質問のタイプ

 「場面6」の調査で行った質問は,以下の3タイプに分けられる。

  • 消音再生による提示をもとにした質問(6.1の一連の質問)

 ビデオを消音再生することによって場面提示を視覚情報のみに限定し,現在起こっている(あるいは発話されている)ことや,これから起こる(あるいは発話される)ことを推測させる。また,登場人物の発話に影響されないうちに,特定場面における被調査者自身の言語行動を尋ねる。視覚情報に含まれる様々な要素の中からどのようなものに注目し,どのような印象を形成し,推測や判断に用いているかということも併せて探る。

  • 音声付きの映像提示をもとにした質問(6.2~6.4の一連の質問)

 視覚・聴覚両方の情報をもとに,登場人物の行動についての印象や評価,同様の場面における自身の行動についての意識,現住国の人々の行動様式や価値観に対する推測や観察,あるいはそれに対する印象,母国との対比などを問う。刺激材料を映像で提示することで,発話内容だけでなく,パラ言語(イントネーション,間,発話の速度,口調など)や非言語行動(表情,身振り,姿勢など)の側面も話題にとりいれることを意図している。

  • 映像からさらに一般化したレベルでの質問(6.5の一連の質問)

 ビデオの場面よりさらに一般化し,「一般に頼みごとを断るときのやり方について」などのレベルで,母国と現住国の比較,自身の異文化体験などを問う。

2.5. 回答のタイプ

 「場面6」の調査の回答は,以下の3タイプに分けられる。

  • リストからの選択肢回答
  • 調査票にある誘導肢に基づく回答
  • 自由回答

 いずれの回答方式であっても,被調査者が何らかのコメント(選択肢を選んだ理由,質問から想起した過去の体験やエピソード,ほか)を述べていれば,調査時の録音をもとにそれらもすべて回答データとして入力した。