1. 調査組織
調査の方法は,以下のとおりである。
調査方式
面接形式(短いビデオの場面を提示しては質問し,回答を得ることをくり返す形)
- 調査でとりあげた場面とそこに含まれる言語行動
- 場面1:人にぶつかった時(ぶつかられた側の抗議,ぶつかった側の謝罪)
場面2:職場でのお茶出し(お茶の出し方,出された側の感謝,感謝に対する応答)
場面3:家庭の食卓での小さな失敗(謝罪,言い訳/責任転嫁,家族への注意喚起)
場面4:パスポートの再発行依頼(依頼行動のくみたて,ミスの謝罪,事情説明)
場面5:窓口での割り込み(割る込み,割り込まれた側の反応,窓口の対応)
場面6:頼みごとへの返事(頼んだ側の用件のきりだし,頼まれた側の曖昧な返答)
- 所要時間
- ビデオ視聴やフェイスシート記入なども含めて1回につき約2時間。1回につき基本的に2~3場面の調査を行った。「場面6」についての所要時間は平均30分程度。
- 場所
- 被調査者の自宅や,教会,地元の国際交流協会,国立国語研究所,公的機関・企業等の事務所,大学,日本語学校など。ビデオ視聴の必要があるため,原則としてビデオ設備のあることが条件であった。どうしてもビデオ設備が得られない場合は,調査者が携帯用のビデオカメラとプロジェクタを持参して,映写した。
- 質問方法
- 調査者が手元の調査票の質問を読みあげ,被調査者から口頭で回答を得た。被調査者は,各設問の回答選択肢リスト を手元に持ち,調査者からのリスト番号の指示に従って,該当の質問時に参照した。外国人被調査者用には,母語による翻訳を日本語に併記した選択肢リストを用いた。調査では,質問・回答ともに日本語が原則ではあったが,外国人被調査者の日本語能力に応じて,質問・回答を部分的に被調査者の母語で行うこともあった。
- 調査の人数
- 日本人調査では,被調査者1~3人に対して調査者1人という組合せが多かった(注3)。外国人の場合,外国語である日本語での調査で進行速度が遅くなるため,調査者は2人1組で臨み,1人は質問に専念し,もう1人がビデオ操作や回答のメモをした。ブラジル人,ベトナム人調査では,調査者が通訳を伴って臨むこともあった。
- (注3) 面接における被調査者数の多少は,一長一短と言える。複数の場合,自分の意見で場をリードしてしまうような被調査者が中にいると,(特に日本人の場合)ほかの被調査者は遠慮してあまり積極的に回答しなくなることがある。その一方で,ほかの被調査者の発言に誘発された方が活発にコメントが出る場合もある。個人の性格や組合せにもよるが,今回の調査では,緊張や遠慮によって回答が影響されるのを最小限に防ぐため,複数の被調査者で行う場合は必ず気のおけない友人どうしなどの組合せとした。
- 回答の記録
- 調査時に調査者が回答やコメント類のメモをとると同時に,被調査者の許可を得て録音も行った。調査後,調査者のメモと録音の文字化を併せて回答を入力し,データベース化した。外国人被調査者の回答入力に関しては,日本語に混じって母語でもコメントしている部分を訳したり,質問の通訳の正確さやそれに対する回答の適切さを確認するために,当該言語に堪能な調査者あるいは補助作業者が必ずチェックを行った。