新聞は広く一般に読まれている媒体であり,そこには,事実の伝達,解説,投書など多様な記事が掲載されていて,その時々の社会の状況や動きの一端が反映されています。国立国語研究所で作成している「ことばに関する新聞記事見出しデータベース」を資料として,2004年の日本語をめぐる状況を見てみます。
なお,ここでは,「日本語をめぐる状況」の中でも,目立った動きや変化があった話題を中心に取り上げました。また,ここで紹介した新聞記事は,それぞれの話題に関する記事を網羅しているわけではなく,主なものだけをあげています。各話題についての各新聞社の報道全体を過不足なく反映するものではないことに御留意ください。
「平成の大合併」に伴い,新しい自治体名が続々と誕生し,特に,ひらがなの自治体名が急増しました。一方で,住居表示法が施行されてから消えた「由緒ある」旧町名を復活させる動きも出てきました。
人の名前についても新しい動きがありました。子どもの名前に用いることのできる漢字(人名用漢字)の範囲の拡大について,法制審議会人名用漢字部会が見直した結果,488字が追加され,人名用漢字は計983字になりました。
外来語をめぐっては,国立国語研究所「外来語」委員会が2002年の設置以来,言い換え提案を行ってきましたが,2004年はその第3回提案がありました。
言葉の言い換えは外来語以外についても行われ,厚生労働省が検討会を設置し見直しを行った結果,「痴呆」は「認知症」へと名称変更されました。
医師と患者のコミュニケーションに関する記事も多くなり,診察で「心通う対話」を実現するため大学で指導が行われたり,難しい専門用語を患者に分かりやすく工夫したりすることが紹介されました。
子どものコミュニケーションについても大きな出来事が2つありました。6月,長崎・佐世保で小6女児が同級生の女児に切りつけられ死亡するという事件が起き,チャットや掲示板への書き込みが事件の引き金になった可能性があると報じられると,子どものインターネット利用やネット教育などに関する記事が目立つようになりました。また,日本小児科学会が,テレビを長時間見る子どもは言葉の発達に遅れが見られると発表したことを受けて,不安を訴えたり,対処法を求める声が上がりました。
文部科学省の教育課程実施状況調査(学力テスト),及び,経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査の結果が発表になり,学力,特に読解力を中心に,低下傾向にあるとの調査結果が示されました。
文化審議会の答申では,国語教育の重要性や学校での読書教育の充実の必要性などが指摘されました。また,新しい小学教科書の検定結果では,学習指導要領の範囲を超えるものを「発展的な学習内容」として掲載できるようになり,「学力低下」への不安の声が高まったことに対応したものとなりました。
読書推進運動も活発化し,新聞社が活字推進プロジェクトを作り,フォーラムや講演会を開いたり,学校に著者が出向いて生徒に話をするなどの読書推進運動が展開されました。また,超党派の活字文化議員連盟が基本法制定に向けた活動を計画しました(これを受けて,2005年7月29日,「文字・活字文化振興法」が公布・施行されました)。
英語の教育・学習についての関心もより一層高まりました。特に,小学校の早期英語教育については,中央教育審議会が必修化についての検討を始め,英語教育関係者や識者をはじめとして,様々な意見が新聞紙上で交わされました。
2004年の世相を現す言葉を見てみると,「流行語大賞」には「チョー気持ちいい」が,そして「今年の漢字」には「災」が選ばれました。また,2004年に生まれた子どもの名前は,男子は「蓮」,女子は「さくら」「美咲」がトップでした。